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気まぐれ子猫ちゃん [m u s i c]



  • ◎ Straight Up(Pearl Necklace 1992)Kitten
  • 毛糸の帽子(白と黒)とサングラス、紅いルージュ、黒い首輪をして泡風呂に入っている2匹の子猫ちゃん。Free KittenはKim Gordon(Sonic Youth)とJulie Cafritz(元Pussy Galore)の2人を中心とした女の子バンド。いわゆるライオット・ガルー(Riot Grrrl)系のグループだが、6曲入りデビュー・ミニ・アルバムでは単に「Kitten」と名乗っていた。ドラム&ベースレスの女性ギター・デュオの音楽はパンク〜エクスペリメンタルでフリーキ ー。〈胸いっぱいの愛を〉のリフをヘヴィに改変したような〈Platinumb〉、Sonic Youthのキム曲をルースに解体したような〈Falling Backwards〉など、可愛いだけじゃない、ち ょっと凶暴でクレイジーな気まぐれ子猫ちゃんの生態に魅了される。デビュー・アルバムは廃盤らしいけれど、コンピレーション・アルバムの《Unboxed》(Wiiija 1994)に再録されています。

    〈Dick〉はリチャード(Richard)姓・名の男たちを思いつくまま次々と槍玉に挙げて血祭りにして行く恐るべき「呪歌」で、著名人Rが哀れな生け贄として奈落へ葬られる。1人目はRichard Kern‥‥Sonic Youthのアルバム・ジャケットを手掛けたこともある写真家・映像作家ですが、女性の局部写真を好んで撮っていることがキム姐さんの柔肌(毛並み)を逆撫でしたのでしょうか。2人目の犠牲者はDick HellことRichard Hell(パンク・ロッカー)以下‥‥R. Marx(ロック・ミュージシャン)、R. Carpenter(拒食症で死んだ妹カレンの実兄)、Richie Sambora(Bon Joviのギタリスト)、R. Meyer(フォーク歌手)、Sir Ralph Richardson(英国俳優)、 R. Pryor(黒人コメディアン)、R. Boone(ウェスタン俳優)、Richie Cunningham(TV男優)、R. Lloyd(Televisionのギタリスト)、Little Richard、Keith Richards‥‥そして、最後に《この◯ンポ野郎! あたしたち(子猫)の方がズッとマシよ!》とタンカを切って、怒濤のノイズの渦に雪崩込む。Richard=Dick(リチャードの愛称)=Phallusという駄洒落(下ネタ)だったのね。

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  • ◎ Nice Ass(Wiiija 1994)Free Kitten
  • キム&ジュリーの女性デュオにドラムスとベース、Yoshimi(Boredoms)とMark Ibold (Pavement)が加わって4人組となったFree Kittenの1stアルバムはリズム面が強化されている。それでも旧ロック・バンドの形態に収まったわけではなく、牝ネコ2匹の初期衝動全方位開放型の威嚇と猫撫で声の入り混じったカケ合いは健在で、ヒップホップ / ラップへも急接近。Neil Youngの〈Harvest Moon〉を揶揄したタイトルの〈Harvest Spoon〉、〈Dick〉の決めゼリフを自己引用した〈Proper Band〉、準白人Michael Jacksonの性的幼児虐待疑惑を題材にした〈Call Back (Episode XXI) 〉、少女時代のファンタスティックな抒情性が溢れる〈Greener Pastures〉、1分足らずの疾走パンク・ナンバー〈Secret Sex Friend〉‥‥子猫たちの怒りや怖れ、憧れ、共感、皮肉、罵倒、嘲笑などが全15曲32分に凝縮されている。

  • ◎ Sentimental Education(Wiiija 1997)Free Kitten
  • 2rdアルバムの1曲目、〈Teenie Weenie Boppie〉はFrance Gallのカヴァですが、Serge Gainsbourgの提供した曲にはアイドル・ソングらしくない辛辣で意地悪な意味が込められていた。たとえば〈夢見るシャンソン人形〉の原題は〈蝋人形、糠人形〉だったし、〈アニーとボンボン〉の棒付きキャンディ(ボンボン)には性的なシンボルが隠喩されていた(後年、France Gallは〈Les Sucettes〉の歌詞に嫌悪感を露わにする)。子猫ちゃんが仏〜英語混じりで歌っている〈Teenie Weenie Boppie〉の原詩も、「LSDを飲んでみた / 甘くて飲みよい糖衣錠 そこでほら / もう精神錯乱が始まってる」‥‥という超過激な内容で、ミック・ジャガー(原詩はMac Jaguar)もテームズ川で溺れちゃう。ティニー・ウィニー・ボッピーとは、LSDのオーヴァ・ドースで死んだ少女の名前である。

    気まぐれ子猫ちゃんは新たな進化を遂げる。アブストラクトなトリップ・ホップの〈Never Gonna Sleep〉、インダストリアル・ノイズ風の〈DJ Spooky's Spatialized Chinatown Express Mix〉、12分にも及ぶ長尺インスト・インプロヴィゼーションの〈Sentimental Education〉‥‥など長めの曲がフリーキーなFree Kittenの歌にアクセントを付けている。《Nice Ass》と同じ曲数(15曲)なのに収録時間は2倍近く延びていることが、アルバムの性格を如実に表わす。〈Strawberry Milk〉〈Played Yrself〉〈Bouwerie Boy〉といった曲はSonic Youthのキム・ナンバーと見分けが着き難い。ジャズ風味のインスト曲〈Gaa〉や〈Daddy Long Legs〉で和んでいると、ラストの〈Noise Doll〉でキム姐さんがブチ切れる。仏アイドル歌手に〈蝋人形、音人形〉は歌えても、〈ノイズ人形〉は歌えない?

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    Kim Gordonがユニクロのカタログ誌「UNIQLO PAPER」(2006 No.1)のインタヴュー記事で、Sonic Youth結成以前、ロスからNYへ出て来た頃のことを回想している。80年代初頭「No Wave」の最後のシッポ。元々はヴィジュアル・アーティスト志望だったけれど、当時のノーウェイヴ・シーンに刺戟されて「私にもプレイ(演奏)出来るかもしれない」と思う。最初に参加したバンドが女の子だけのグループだったというところも実にKimらしい。「パンク精神とDIYのアイディア」(the spirit of punk and the Do It Yourself idea)はFree Kittenの音楽にも継承されている。初来日した際に共演したBoredomsのYoshimiに会った時、彼女は「Sunday」とプリントしてある下着を1週間も頭に被っていて、とってもキュートだったというエピソードが面白い。女性用のパンティを頭に被るパフォーマンスは、なんとなくクリスタルな男だけの特技ではなかったのだ。

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  • ◎ Inherit(Ecstatic Peace! 2008)Free Kitten
  • 11年振りに気まぐれ子猫ちゃんが帰って来た。Kim、Julie、Yoshimiの女性トリオとしての復活した3rdアルバムである。Pavementの再結成で忙しいMarkは不参加で、その代わりに恐竜息子のJ Mascisがギターとドラムで2曲にゲスト参加している。淡々としたスロー・バラードの〈Erected Girl〉、J Mascisとのギター・バトルが堪能出来る〈Surf's Up〉など‥‥サウンドこそノイジーだが、キム姐さんのヴォイスは穏やかでクール、気怠い頽廃感さえ漂う。この傾向は2つの長尺曲〈Free Kitten On The Mountain〉と〈Monster Eye〉で特に顕著である。〈Help Me〉や〈Bananas〉といったJulieのパンク・ナンバーが逆に目立つくらいで、従来のパンキッシュでフリーキーな子猫のイメージは払拭されている。ライオット・ガルーというよりも、内省的な翳りを帯びた不穏なエレクトロニカ・キャットの趣きもある。この変貌にはインターヴァル中に起こった同時多発テロ〜9・11以降の音楽シーンが色濃く反映されている。いつまでも無邪気な「子猫」ではいられない?‥‥彼女たちも成猫に生長したということなのだろうか。

  • ◎ Alright, This Time, Just The Girls(Sympathy For The Record Industry 1999)
  • 〈気まぐれ子猫ちゃん〉は拒食症で死んだKaren Carpenterへの鎮魂歌、Sonic Youthの〈Tunic〉と〈Superstar〉のカヴァとの繋がりで書かれるはずでしたが、諸般の事情でお蔵入り。今年(2008)5月、11年振りにFree Kittenの復活アルバムがリリースされたのを期に、単独記事としてUPすることにしました。子猫ちゃん(Kitten)だけの方が150本目の記事に相応しいかなと思って‥‥。その過程で、ネットから得た幾つかの情報‥‥〈Dick〉の歌詞、Serge GainsbourgがFranceGallの曲に仕掛けた「悪戯」、Kim Gordonの姪が出演しているヴィデオ(PV)などに、原稿用紙やワープロに向かって書く行為とは違った発見がありました。ガールズ・バンド48組が大集合した2枚組コンピ・アルバムにも子猫ちゃんが乱入しています。マーク・ライデン(Mark Ryden)が描いたアルバム・カヴァの少女たちもエロ可愛いにゃん!

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    • 〈Dick〉の歌詞は「Free Kitten Lyrics」を参照しましたが、身元不明のR多し‥‥

    • 〈Teenie Weenie Boppie〉と〈Les Sucettes〉の日本語詞は国内盤《Poupee de Son》の対訳(鳥取絹子)を引用しています

    • 記事をプチ改稿しました^^;(2022・4・22 / 2013・12・15)
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    Straight Up

    Straight Up

    • Artist: Kitten
    • Label: Pearl Necklace
    • Date: 1992
    • Media: Audio CD
    • Songs: Platinumb / Smack / Falling Backwards / Oneness / Dick / Skinny Butt


    Unboxed

    Unboxed

    • Artist: Free Kitten
    • Label: Wiiija
    • Date: 2001/07/09
    • Media: Audio CD
    • Songs: Skinny Butt / Platinumb / Smack / Falling Backwards / Oneness / Dick / Yoshimi Vs. Mascis / Oh Bondage Up Yours! / 1,2,3 / Party With Me Punker / John Stark's Blues / Guilty Pleasures / Sex Boy / Cleopatra / Loose Lips / Oh Baby


    Nice Ass

    Nice Ass

    • Artist: Free Kitten
    • Label: Kill Rock Stars
    • Date: 1995/01/30
    • Media: Audio CD
    • Songs: Harvest Spoon / Rock Of Ages / Proper Band / What's Fair / Kissing Well / Call Back (Episode XXI) / Blindfold Test / Greener Pastures / Revlon Liberation Orchestra / Boasta / Scratch Tha DJ / Secret Sex Friend / Feelin' / Alan Licked Has Ruined Music For An ...


    Sentimental Education

    Sentimental Education

    • Artist: Free Kitten
    • Label: Wiiija
    • Date: 2007/07/17
    • Media: Audio CD
    • Songs: Teenie Weenie Boppie / Top 40 / Never Gonna Sleep / Strawberry Milk / Played Yrself / DJ Spooky's Spatialized Chinatown Mix / Bouwerie Boy / Records Sleep / Picabo Who? / Sentimental Education / One-Forty Five / Eat Cake / Gaa / Daddy Long Legs / Noise Doll


    Inherit

    Inherit

    • Artist: Free Kitten
    • Label: Ecstatic Peace!
    • Date: 2008/05/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Erected Girl / Surf's Up / Seasick / Free Kitten On The Mountain / Roughshod / Help Me / Poet / Billboard / Bananas / Monster Eye / Sway


    Alright, This Time, Just The Girls

    Alright, This Time, Just The Girls

    • Artist: Various Artists
    • Label: Sympathy For The Record Industry
    • Date: 1999/06/29
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: I Don't Like You / Fed Up With High School Days / Nick And Nick / Ain't Hittin' On Nothin' / Dishy / Shake / Baby Love / When I Was Your Girlfriend / The Ghost Of Elizabeth Shaw / Happy Days / Shit Finger Dick / Six Years / Put A Sock In It / Anyway You Like It / Cet ...

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