□ 世のため‥‥懲りぬ敵、我が眞鍋かをりを壁生(なま)乾きで、塗り込めたのよ!
あたしは黒猫のリリィ。ココだけの秘密の話だけど、とんでもない殺人計画を女飼主が企てていることに気づいちゃったの。昨夜パソコンのキーボードと戯れていたら、ディスプレイに何やら怪しげな文字列が‥‥マル秘文書「眞鍋かをり殺人計画」って書いてある。女主人のパードルX(匿名)は「バカ娘」を売りにしていることもあって、 菊川怜とか高田万由子とかいう高学歴女性タレントをライヴァル視していた。その中でもマナベは宿敵とでも言うべき存在。お互いに敵視し合う犬猿の仲で、楽屋では殆ど口もきかない(喋ると必ずケンカになる)。Xが本気でマナベを抹殺しようと誓ったのは某クイズ番組の収録中、全問正解のマナベが、1問も答えられなかった彼女をあからさまにバカにした時だった。あたしは「マナベのブログ」にコメントしたけれど、「猫語」だったのでマナベが解読出来たかどうかは分かりません(ポール・ギャリコ先生なら読めたでしょうが)。

Xの殺人計画は、マンションの建設現場にマナベを誘い出し、基礎工事中の地下層にセメントで塗り込めてしまうというショッキングなものだった。高層マンションが建っちゃえば、その後に犯行がバレたとしても、今さら遺体(遺骨)を掘り起こすことも出来ないし、30年後に建て替えたとしても、もうとっくの昔に時効成立という算段なのだ。そう言えば「刑事コロンボ」にも同じような犯行があったわよね。結局はコロンボの巧妙な罠なんだけどさ。Xも大方その再放送をTVで視たか、レンタル・ヴィデオで学習したんでしょう。彼女にオリジナルの完全犯罪を計画する才覚がないことぐらい長年一緒に暮して来たから分かるわ。典型的なコピー・キャット(模倣犯)っていうわけ。ネコのあたしが言うんだから間違いないわよ。決行は今夜‥‥あたしはXの運転する車の後部座席に隠れて殺害現場に行き、何とか彼女の完全犯罪を阻止するつもり。飼主を殺人者にしたくないのよ。ギュスターヴ・モローのスフィンクスみたいにXの胸に跳びついて思いっきり顔を引っ掻いてやるんだ!‥‥あんたも一緒に壁に塗り込められないようにですって?

□ 鹿の意気地なし、梨喰い逃し
ここ数年、野性のクマが人間を襲うというニュースに事欠かないが、その原因の多くは襲われる人間たちの方にある。山を切り崩し、樹を切り倒し、自然を破壊する。住処や食物を失ったクマは山を下りて民家や田畑を荒らす。そこで暮している人間たちも攻撃対象になってしまう。クマにとっても死活問題なのだ。ことは野性のクマだけに限らない。日光のサルたちは観光客たちが餌付けしたことで傍若無人のギャング団と化したし(地元もサルを客寄せの観光名物とした)、都会のカラスも飽食人間たちの食べ残した残パンや生ゴミの袋を喰い破る。国貧しく食料も少なければ、無駄のゴミも出ない。ところで同じ観光名所でも奈良のシカはどうだろうか?‥‥やることだけはやって産みっぱなし、赤ちゃんポストにポイ捨て、育児放棄のダメ母人間も少なくないけれど、出来ちゃった婚する男の方もダラシない。気弱な雄鹿は周囲の女鹿にエサを奪われて、好物の梨を喰い逃す。

□ 椎茸摘みで、新種信じて見つけた医師
医師で粘菌学者のM氏は秋の紅葉美しい裏山に出掛けてキノコ狩りに勤しんでいた。目的は幻の「シイタケモドキ」を発見することである。最近は素人衆の山歩きがブームで、ハイキング気分で穫ってきた妖しげなキノコ類を食べて「笑い中毒死」という笑えない事件も多発している。見た目に派手な水商売風の原色ギラギラ女が毒キノコと思われているけれど、一見何の変哲もない地味な色のキノコの方が実は一番危ない。素人は決して山のキノコには手を出さないように‥‥。「シイタケモドキ」は食べても死に至ることは少ないが、その代わりに強烈な幻覚症状を誘発する。色と形状は椎茸に似て、その味も殆ど変わらない。CGアートの中に跳び込んだようなサイケデリックな3D空間トリップはLSD以上と言われている。「新種マジック・マッシュルーム発見!」のニュースが報道されれば、都会の若者たちが裏山に大挙して押し掛けるだろう。何しろ「合法ドラッグ」なのだから‥‥。

□ 家事済んで、イカ喰いに行く回転寿司か
専業主婦Wさんの細やかな愉しみは、1日の家事が済んで家族が寝静まった後、近くの回転寿司屋に出掛けること。彼女は家事、それも炊事が大嫌いだ。亭主や子供たちにはスーパーで買って来た出来合いの惣菜や弁当類を喰わせ、自分はダイエット中と言いながらお茶を濁し、深夜にコッソリと家を抜け出す。このスリル感が堪らない‥‥。連夜の隠密くの一回転寿司通いが祟って、最近少々肥満気味なのが目下の悩みだとか。夜道を1人のオバさんが自転車を飛ばす。フンフンとハミングで鼻を鳴らす。今夜は大好物のイカを腹一杯食べよう。口の中で甘く蕩ける味と柔らく弾力ある歯応え、喉ごしのヌルヌル感が堪えられない。彼女の頭の中で巨大なモンゴイカがタコと一緒に踊っている。唐突に一句ならぬ、一回文が浮かぶ──〈寝静んで、イカ喰いに行く回転寿司ね〉。

□ 鱚、イクラ、鯛、鱈‥‥食い過ぎ!
都内でも一杯100円の店が新オープンするなど、全国的に「讃岐うどん」ブームですが、本場の香川県では讃岐独特の強いコシを出すために小麦粉を手ではなく足で捏ねるって知っていましたか。昔は素足だったらしいけれど、今は保健所の許可が下りない。仕方がないので白足袋を履いて捏ねているそうです。でも素手で捏ねているんだから同じようなもの‥‥腰に力を入れて捏ねている間に掌から汗が滲み出るだろうし、そうかと言って最近のオニギリみたいにラップや調理用手袋を嵌めて捏ねるわけにも行かない。素足で捏ねて不潔なら手で捏ねたって大同小異でしょう。それよりは江戸前にぎり鮨の方が穢くないか。讃岐うどんは熱湯で茹でるけれど鮨はシャリもネタも生のまま食べますもの。鮨が嫌いな人って「生ものアレルギー」というよりも四六時中手を洗っていたり、肌が触れるものを消毒しないと気の済まない潔癖性なのかもしれません‥‥。それにしてもWさん、食い過ぎですよ!

□ ニャンコと月見、きっと今夜に
今夜(9/27)は満月‥‥雨上がりの夜空に黄色い月がポッカリと浮かんでいる。ベランダで飼猫のショコラと月見とシャレ込みましょうか。ネコには好物の片口イワシ、飼主は「月よりダンゴ」かな?‥‥閑話休題。回文には「眞鍋かをり殺人計画」みたいな長考〜艱難辛苦して作る回文Aと、一瞬の閃きで完成してしまう上記のようなBタイプがあるようです。Aが得てして牽強付会的な内容になるのに対して、Bは日本語として意味の通った美しい回文になります。Aをシュルレアリスム風の遊戯や発明とするならば、Bは発見──徳川埋蔵金や古代遺跡発掘にも似た一獲千金の面白さがあります。Aはジグソーパズルやスクラブルのような言葉遊び、Bは運や霊感頼みのギャンブルや占いの類いでしょうか。Aを水平思考的な文化人類学や構造主義(記号論)、Bを垂直探索型の考古学や天文学に喩えられるかもしれません。

□ 口説き文句にワニ君も危篤
大抵の女性は、ヘビとかトカゲとかヌメヌメした爬虫類や両生類が大嫌い。人類には恐竜時代の恐怖が代々DNAに埋め込まれているらしくて、ホラー映画の定番もエイリアンに代表されるベタベタ、ドロドロの粘液に塗れたエログロいモンスター、いわゆる「歯のあるヴァギナ」風のバケモノと相場は決まっている。ヘビやトカゲと聞いただけで逃げ回る女たちの中で、小向美奈子のようにニシキヘビを首に巻いて嫣然と微笑む少女もいる。美人OLのSさんも例外的存在の1人で、マンションの一室で小型ワニを飼っている。今日、彼氏が初めて彼女の部屋に遊びに来た。手料理を御馳走した後の寛ぎティータイムまでは良い感じだったのだが、思わぬ「告白」に目がテンに‥‥彼氏はヘビやトカゲの類いが大の苦手だったのだ。「ペットを飼わなければ一緒に暮しても良い」って‥‥一体どういう料簡なのよ。それを聞いていたワニのラモン君がショックの余り仮死状態に!‥‥躰の代謝を止めて長い「冬眠」に入ってしまった。

□ 立つと裸婦、照れ隠し。凛々しく彼、手ブラ脱った
高校の美術時間に「人体デッサン」という至福の実習があった。年に1度のこの日だけを目的に「美術」を選択する不遜な男子生徒もいるくらいで、実習日は野次馬や外野席も含めてクラス中が朝から異様な熱気に包まれている。敏感な女子は軽蔑するような目で、血走った「若きオスたち」を一瞥する。美術室の中央に立つヌード・モデル嬢。その彼女を円形に取り囲むように坐る男子生徒たち‥‥当初予定していたモデルが体調を崩したため急遽、素人モデル(現役美大生)が代役を務めることになった。素肌に巻いたバスローブを脱いだものの、恥ずかしそうに両手で小振りの胸を隠す(手ブラ)裸婦‥‥。見兼ねた美術教師が近づいて彼女に「手ブラ」を脱るように促す。これって、ちょっとセクハラっぽくないか。

□ 男子に勝ちたい!‥‥奈々泣いた、血が滲んだ
秋の体育祭のラストを飾る毎年恒例の10kmマラソン。全校生自由参加種目で、規定時間以内にゴールした全員に1ポイント与えられる。陸上部のナナは脚力には自身があった。短距離スピード走では負けるけれど長距離なら彼女の方に勝ち目がある。そこら辺の普段運動不足の男子なんかには負けっこない。長トレパンやハーフパンツの女子の中、独りだけ紺のブルマ姿で登場したナナ。男子を尻目に颯爽と疾走するナナ(『秘事』のパクリです)‥‥ポニーテールの髪が踊り、小麦色の長く伸びた脚が眩しい。ところがスタート直後、後続のランナーに押されて将棋倒し‥‥転んで思いっきり両ヒザを地面に打ってしまった。予期せぬハプニング‥‥傷む脚、滲む血、涙が零れる。「男子に勝ちたい!」──負傷したヒザを庇いながら、それでもナナは規定時間以内に完走することが出来たのだった。

□ すごろく婦警、南池袋越す
T区上池袋署交通課の婦警・森下千里が南池袋に引っ越した。度重なるストーカー被害のやむを得ぬ対策で、夜逃げ同然の早業だった。不法駐車を注意したことを根に持っての腹いせなのか、それとも単に千里が好みのタイプだったからなのか(いずれにしても好意は抱いていないらしいが)、相手の男の顔も名前も皆目分からない状態での無言電話、尾行(気のせい?)、騒音(深夜にドアを叩く音)に悩まされ、流石のミニスカポリスも精神的なダメージを負ってしまった。引っ越して3日目、まだ荷造りしたダンボール類の半分も片付いていない週末、親しい女友達3人が元気づけに遊びに来てくれた。愉しい夕餉、団欒、ゲーム大会‥‥千里がサイコロを振る。【2】──「ストーカーに付き纏われて引っ越し」(1マス戻る)【4】「体調を崩して入院」(2回休み)【6】──「親しい友人たちと誕生パーティを開く」(3マス進む)‥‥。「ミニスカポリス双六」の上がりは「寿結婚」か、それとも「女刑事」に昇格か?

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ついに100回文達成!‥‥「記事100」に続いて当初の目標をクリアしました。これからは肩の力を抜いて更新出来そうです。今回は「食物」と「動物」の回文が多いなぁ。ちょっと早いけれど食欲と行楽の「秋回文」ということで‥‥。〈ニャンコと月見‥‥〉でも触れているように、会心作の回文は敢えて書くことがない。むしろ苦心作の「マナベ回文」の方が長くなる(辻褄合わせ?)。スニーズ回文ルールでは「お」と「を」を同一視しないので、「眞鍋かをり」の「を」の処置が難しい。「100回文記念企画」として、お気に入りの10回文を自作解説する「傑作自選回文集」や、過去に出題した回文問題と解答を纏めた「なぞなぞ回文集」を考えています。

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  • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

  • なぞなぞ回文第8弾を出題します‥‥

    〈溶けた△▢◇◯▽み▽◯◇▢△だけど〉

    ヒント:地球温暖化、異常気象?

  • 正解回文はコメント欄にあります^^(2007/09/08)

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眞鍋かをりの ココだけの話(ココログブックス)

  • 著者:眞鍋 かをり
  • 出版社:インフォバーン
  • 発売日:2005/09/13
  • メディア:単行本