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ネコ・ログ #73 [c a t a l o g]

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  • 信じがたいことに、ルイス・ウェインが描く以前は、猫はネズミ退治役の生きものと軽く見られていた。それがルイス・ウェインの絵によって、俄然、多くの人びとが猫の魅力に気づかされたというのだ。/ そのルイス・ウェインは、イギリスの上流階級に生まれ、絵を描くのが好きだったので、ロンドンの新聞社で挿絵画家として活躍。今で言うならイラストレーター。階層のきびしい時代の中で、妹の家庭教師をしていたエミリーに惹かれ、周囲が反対する中、結婚して幸せに暮らしていたのだが、やがて、エミリーは末期ガンを宣告されることに‥‥。/ そんな苦しい日々の中、二人の心を救ってくれたのが、庭に迷い込んだ子猫だった。二人はその子猫をピーターを名付け、心の支えにしていた。そして猫の絵ばかりを描くようになって、大成功をおさめることになるのだが‥‥という話。/ なるほどなあ、と思う。人々の心からの慰めの言葉もありがたいものの、無心の生きもの(猫であったり犬であったり)の姿が、何よりの励ましになったり──ということも多いのだった。
    中野 翠 『何が何だか』


  • #649│ゴト│飼い猫 ── 辰年(2024)もよろしくね
    ネコは落下する時に身を翻して見事に着地する。地上に重力があることを生まれながらに体感しているのだ。目の前に障害物があることで、身の危険が及ばないことも認知している。垂直と水平の空間認識が備わっている証左である。用心深いゴトちゃんもヒトとの一定の距離を保ち、自ら容易に近づこうとはいないけれど、両者の間に門扉や鉄柵などの障害物(ネコは入り込めてもヒトは通れない)があれば安心して対峙する。先日、女飼主と会話する機会があった。「お手をするそうですね」 と訊ねると、さも当然と言わんばかりに笑顔で頷く。相棒のサカちゃんは容貌(ツリ目のサバトラ)に反して人懐っこいが、三毛は人見知りだという。〈キティ飼い 快適〉〈ゲラだけが毛だらけ〉〈跨ぐ鳴くタマ〉〈楽ちん 新ちぐら〉など、〈竜の子乗った(回文かるた 2024)〉にはネコ関連回文も幾つか収録している。

    #650│サイ│飼い猫 ── 皆既猫食にゃんこズ
    久々にサイちゃんを撮った。パーフェクト・サークルというか、満月のような真ん丸顔に笑みが自然に零れる。その背後に茶トラが半分隠れている。皆既日食みたいに。2匹共にリードで繋がれているが、たとえ自由の身になったとしても外界へ出て行ったりする懸念は少ないかもしれない。数年前にパチンと音がして茶トラの首輪からリードが外れてしまったことがあったのに、積極的に外へ出て行こうという様子は全く感じられなかった。室内にいても足音を聞きつけるや否や素早く走り出て来る(その人特有の歩く速さや歩幅などから個人を特定しているらしい)。お尻を向ける(無防備な後ろ姿を見せる)のは気のない素振りではなく、相手を信頼しているという意思表示だという(デューク東郷も「俺の後ろに立つな」と言っていた?)。茶トラは横たわってゴロニャン状態に、サイちゃんも仰向けに引っくり返って、お腹を撫でてくれと催促するのだ。

    #651│ペタ│飼い猫 ── ボクの愛猫
    白茶ブチのペタちゃんも足音を聞きつけると、甘い声で鳴きながら走り寄って来るようにな った。子猫の頃は逃げ回っていたのに、この豹変ぶりには驚かされる。お互いの信頼関係を築くのには一定の時間を要するということなのか。お尻を軽くタップすると、長い尻尾を垂直に高く上げて、直角三角形の姿勢になる。尻尾を摩ると腰を落として横たわるので、お腹を撫でる。この動作を飽きることなく何度も繰り返すのだ。自ら毛繕いを始めるまで。ディアフーフ(Deerhoof)の19thアルバム《Miracle-Level》(Joyful Noise 2023)は全曲日本語歌詞。先行シングル〈My Lovely Cat!〉は2019年12月1日、8歳で亡くなったリル・バブ(Lil BUB)に捧げられていた。このアルバム(LP $ 22 / CD $ 12)を購入すると、レ ーベル・サイトで完売した限定250枚のシングル〈ボクの愛猫〉($ 15)が貰えるという店舗限定特典も嬉しかったにゃん。

    #652│ケン│ノラ猫 ── 食事中なのよ
    S**川沿いの遊歩道にサバトラがいた。初めて見るネコだった。ちょうど男性が運んで来たペットフードを食べているところだった。食事の邪魔はしたくないけれど、この機会を逃すと当分撮れそうもない警戒心の強いネコだった。出来るだけネコにストレスを与えないように、往年の篠山紀信みたいに素早く撮った。先日、同じ場所に3匹のネコたちが遊歩道に出て来ていたので、これ幸いと思ってカメラを構えると、世話をしている件の男性に「食事中なので、撮影は遠慮して下さい」と釘を刺されてしまった。どうやらネコにもヒトにも快く思われていなかったらしい。嫌われてしまったら、黙って引き下がるしかない。ネコ・パパラッチやストーカーと化して、たとえ写真が撮れたとしても後味は良くない。ノラネコたちを 「CIAOちゅ~る」 などで手懐けるのも、姑息な手段に思えて躊躇われるのだった。

    #653│オン│ノラ猫? ── ニャンクロニシティ?
    コンビニ裏の路地に小さな茶白ネコがいた。民家と民家の隙間に入り込んで振り返ったところを逃さずに撮った。少し距離が離れているけれど、これが標準ズーム(3倍)の限界である。リオ新世代のSSW、Ana Frango Eletricoの3rdアルバム《Me Chama De Gato Que Eu Sou Sua》(Mr Bongo 2023)には獰猛そうな二頭の虎が描かれている。「猫と呼んで下さい、私はあなたのものです」 と言われても俄かには信じられない。『ほぼねこ』(辰巳出版 2023)は会社員が休日に日本全国5カ所の動物園に足を運んで撮った大型ネコ科動物の写真集。アルバムも写真集もタイトルは 「ねこ」 と 「Gato」(ポルトガル語で「猫」という意味)なのに、表紙カヴァは「虎」である。これを猫ジャケ・猫本と呼ぶのは躊躇われる。正しくはネコ科ジャケ・本ではないか。ほぼ同時に同じコンセプトのアルバムと写真集がブラジルと日本で出たのは「ニャンクロニシティ」なのかもしれない。それとも他人の虎似か?

    #654│モネ│ノラ猫 ── 猫とその不確かな網(ネット)
    「ぼく」 がエッセイ・コンクールのために書いた飼い猫についての作文や「わたし」が新館長として赴任した図書館の裏庭で産まれた「猫ちゃんの里親募集」など、『街とその不確かな壁』(新潮社 2023)にはネコに纏わるエピソードが少なくない。猫に譬えた比喩表現も多い。《僕はときどき今でも、静かに森の中に消えてしまった野生の雄猫ピーターのことを考える。ピーターのことを考えると、僕がまだ若くて貧乏で、恐さというものを知らず、でもいったい何をすればいいのか見当もつかなかった時代のことを思い出す。その当時出会った数多くの男女のことを思い出す。あの人たちはみんなどうしちゃったんだろうと思う》と村上春樹はエッセイに綴っている。スターリング・ノースの名作 「ラスカル」(Rascal 1963)を思い浮かべるまでもなく、野生に帰って行く動物の姿には目頭が熱くなる。野生を捨てた人間の不幸は還って行く場所がないことだろうか。野球場のバックネット越しのモネちゃんも、ゴトちゃんと同じように間合いを詰めても逃げ去ったりはしない。

    #655│ミャウ│ノラ猫 ── 可愛いピンクの猫になる?
    『かわいいピンクの竜になる』(左右社 2023)はロリィタ服、人形愛、キャラ香水、トールキンとの出会いと再会、エルフ、ドラゴン、メイク、ヘア・スタイル、ランジェリー、トランスジェンダーなど、人間よりも人形や妖精や竜になりたいという川野芽生の初ファッシ ョン・エッセイ。トマス・ハリスの『レッド・ドラゴン』は怖いけれど、「ピンクの竜」 には「可愛い」という枕詞が相応しい。ジョージ・ハリスンの〈Simply Shady〉の中の 「The elephant turned pink」 という歌詞はアルコール飲料による酩酊やドラッグ摂取による幻覚症状の婉曲的表現である。酔っ払ったダンボも 「ピンクの象」(Pink Elephants on Parade 1941)の幻覚を見た。英SSWピンクパンサレス(PinkPantheress)は大好きな映画「ピンク・パンサー」と牝豹(Pantheress?)を合成した。ケイト・エヌヴィー(Kate NV)とエンジェル・デラドゥーリアン(Angel Deradoorian)のプロジェクト、ディサイシヴ・ピンク(Decisive Pink)はカンディンスキーの絵画(1932)から採られたという。

    #656│アン│ノラ猫 ── 綺麗なキャリコの三毛になる
    I**駅前公園の三毛は可愛いだけでなく見目麗しい。茶・黒・白のキャリコ・カラーは洗い立て毛並みのようにいつも光り輝いている。植え込みの中にいてもマスクを外して手招きすると、腰の高さまである縁まで来て、気が向けば膝の上に乗ったりするのだ。縁石の上にいるアンちゃんを撮った。普段と変わりのない元気な姿を見られてホっと安堵する。久々にサンシャイン・シティまで足を伸ばして、数年ぶりにスニーカーを購入した。メーカーはナイキ、サイズはUS9(27cm)に決めている。人気のエアマックス(Air Max)、カラーは無難な黒にした。デザイン的にはエアフォース1(Nike Air Force 1)の方が気に入っているけれど、元々はバスケット・シューズ。室内履きなので、体育館など平らな板敷(フローリング)でないと少し歩き難い。足許に纏いつくアンちゃんも気に入ってくれるかしら?

    #657│ハン│飼い猫 ── 「泣く子猫はいねが〜」
    『夜廻り猫』(講談社 2017-24)は 「泣く子はいねが〜ひとり泣く子はいねが〜」 と遠藤平蔵と懐の重郎が夜廻りして、心で泣く人の涙の匂いを嗅ぎつける8コマ・猫マンガ。家ネコ(飼い猫)や外ネコ(ノラ猫)はヒトが世話をしているのだが、夜廻り猫は心の中で泣いている人たちを見つけて、悲しみや悩みを聞く。ヒトが辛い思いを吐露することで必ずしも癒されたり、気休めになるとは限らないけれど、遠藤平蔵と重郎が寄り添うことで柔和な時間が醸し出される。現実のネコたちは彼らの都合(食事、遊び、スキンシップなど)でヒトに近寄って来ることが多い。心で泣く人の涙の匂いを嗅ぎつけて来るわけではない。しかし、そのヒトの心情に共振・共鳴するという習性があるらしい。飼主が体調を崩して元気がなか ったり、傷心して落ち込んでいると、飼い猫も主人の心中を察知してか、心的にシンクロして寄り添う。ペットが傍にいるだけで癒されるということがあるのだ。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する 「ネコ・カタログ」(cat-alog)の第73集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコの見出しをクリックするとトップに戻ります。今までに650匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していたことに驚かされます。第73集の新参ネコはケンとオンの2匹。他の7匹は顔馴染みのネコたちで、外ネコの個体数は目に見えて減っている。常連三毛のアンちゃんが相変わらず綺麗で可愛いことに安堵します。中野翠の『何が何だか』(毎日新聞出版 2023)は「サンデー毎日」の連載コラム「徒然雑記帳」が2頁から1頁に半減したことで、生煮えの消化不良状態に。俎板の包丁捌きも活気なく、往年の切れ味も鈍刀になったようで悲しい。後半を「シネマ・コラム」でお茶を濁す構成になった経緯も「あとがき」では一言も触れていない。Amazonのカスタマー・レヴューも 「ひっじょーにきびしーぃ!」 「何とかしてちょーだい」(©財津一郎)と叫んでも、天空人(タワマン住人)には届かない?

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にトリミングしました

    • 「9分割ナンバー表」 の背景画像を白黒からカラー(写真の左上部分)に変更しました

    • 「701匹ニャンちゃん大行進!」 のリンク・ボタンを「肉球アイコン」に変更しました

    • 村上春樹のエッセイ集 「うずまき猫のみつけかた」(新潮社 1996)から引用しました
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    何が何だか

    何が何だか

    • 著者:中野 翠
    • 出版社:毎日新聞出版
    • 発売日:2023/12/11
    • メディア: 単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次: 徒然雑記帳(不屈の人 / 群衆雪崩 / 貧乏おばちゃん / 映画ベストテン/ルフィとミツハシ/大相撲は今 / 懐かしのGS/寒い国のラーゲリ / まんまと花粉症 / イギリス版『生きる』/ けなげなロバ /「色」と「形」/ 無理心中? / ジュリーがいた / アノニマスって / 妖しい絵 / ... // シネマ・コラム(オヤジ顔のハティツェ /「赤いやつ」の正体 / 翼が生えたら)

    My Lovely Cat!

    My Lovely Cat!

    • Artist: Deerhoof
    • Label: Joyful Noise
    • Date: 2022/09/07
    • Media: Lathe-Cut 7"(Limited edition of 250 hand-cut copies.)
    • Songs: My Lovely Cat!

    Me Chama De Gato Que Eu Sou Sua

    Me Chama De Gato Que Eu Sou Sua

    • Artist: Ana Frango Eletrico
    • Label: Mr Bongo
    • Date: 2023/10/20
    • Media: MP3 / Audio CD
    • Songs: Electric Fish / Dela / Nuvem Vermelha / Coisa Maluca / Boy Of Stranger Things / Camelo Azul / Insista Em Mim / Let's Go To Before Again / Debaixo Do Pano / Dr. Sabe Tudo


    ほぼねこ

    ほぼねこ

    • 著者:RIKU
    • 出版社:辰巳出版
    • 発売日:2023/12/20
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:ねこじゃなくライオンです / ねこじゃなくユキヒョウです / 大きなお手 / のび〜 / 肉球自慢 / こてん / 親子で爪とぎ / いい湯だな / にゃ〜!/ 棒あそび / 親子でボールあそび / 追いかけっこ / 大ジャンプ!/ 着地!100点満点 / ホワイトタイガー?/ ハロウィン / お母さん大好き / しまい忘れ / 親子でお昼寝 ...


    街とその不確かな壁

    街とその不確かな壁

    • 著者:村上 春樹
    • 出版社:新潮社
    • 発売日: 2023/04/13
    • メディア:単行本
    • 目次:第一部 / 第二部 / 第三部 / あとがき


    うずまき猫のみつけかた

    うずまき猫のみつけかた

    • 著者:村上 春樹
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2008/02/29
    • メディア:単行本(新装版)
    • 目次:不健全な魂のためのスポーツとしてのフル・マラソン / テキサス州オースティンに行く。アルマジロとニクソンの死 / 人喰いクーガーとヘンタイ映画と作家トム・ジョーンズ / この夏は中国・モンゴル旅行と、千倉旅行をしました / ダイエット、避暑地の猫 / スカムバ ッグ、オルガン・ジャズの楽しみ / 小説を書いていること、 スカッシュを始めたこと...


    夜廻り猫 10

    夜廻り猫 10

    • 著者:深谷 かほる
    • 出版社:講談社
    • 発売日: 2023/11/22
    • メディア:コミック(ワイドKC)
    • 目次:お兄さんと犬と猫 / 犠牲 / ねむの木陰 / 鮨の夜 / 昨日、今日 / 待ち人 / お小遣い / 見せたいな / 不意打ち / 見てんじゃねーよ!/ しょこが残らぬ暴力 / 自由に生きるしずや / 老後対策 / デモ / キープ / 子供の結婚 / 飲まずにいられない / 七十三の見合い / 温かな布団 / 一年後 / 冬の日差し / 大丈夫 / カチンカチン / ゴール / サンタが来ぬ家 / 財産 / ...

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