b アナザー・ナイン・ストーリーズ (books)『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる / ハプワース16、1924年』 (新潮社 2024)はサリンジャーの単行本未収録中短編集。前半の6篇は 「ライ麦畑」 の主人公に纏わる短篇で、表題作は兄ヴィンセント軍曹の言述によって、ホールデン・コールフィールドが太平洋戦線で行方不明になった(戦死した?)ことが窺われる(「他人」 ではヴィンセントがヨーロッパ戦線で戦死したことが告げられる)。ルシル・ヘンダソン家のダンス・パーティに集まった男女を描いたデビュー作 「若者たち」 。高校を卒業した娘が社会に出るまでを描いた 「ロイス・タゲットのロングデビュー」。グラース家の長男シーモア(7歳)が夏のキャンプ地ハプワースから家族へ宛てた長い手紙を次男バディがタイプしたという形式の中編 「ハプワース16、1924年」 は訳者・金原瑞人が翻訳に2カ月を費やしたというくらい訳すのも読むのも難解な作品。天才少年のバディ(5歳)は兎も角、そもそも7歳の子供が100頁もの長文を書けるのか、古今東西の作家の著作を読んで批評出来るのかという疑問が沸々と湧く。
b キム・ディール (music)「Lil BUB's Big SHOW Episode 3」 の中で、リル・バブちゃんがゲストのSteve Albiniに、「キム・ディールが次のシングルのプロデュースを依頼している噂があるにゃん」 と話題を振 ってから11年、1stソロ・アルバム
《Nobody Loves You More》 (4AD 2024)がリリースされた。最も古い曲〈Are You Mine?〉、7インチ・シングル・シリーズで既発表済みの〈Wish I Was〉(2013)。The SavagesのFay Milton(ドラム・プログラミング、ストリングス、シンセ)とAyse Hassan(ベース)がゲスト参加した〈Big Ben Beat〉。The BleedersのKelley Deal(ギター、バック・ヴ ォーカル)、Jim Macpherson(ドラムス)がサポートした〈Disobedience〉〈A Good Time Pushed〉など、全11曲・36分。Steve Albini(Recording Engineer)は8曲をキムと共同録音している。4つ折り歌詞カードには 「このレコードはスティーヴ・アルビニとの友情と指導がなければ実現出来なかったでしょう」 と銘記されている。Big Blackの曲名をペン・ネームにしたキティ・エンパイア
(Kitty Empire) は 「fuck digital」 をモジって、「クソったれ死(Fuck death)」 と追悼した。
b 心は悲哀なカフェ人 (books)ある夜、寂れた田舎町に1人の見窄らしい小男(せむし)がやって来た。雑貨商を営むミス ・アミーリアは遠戚だ主張するカズン・ライモンを意外なことに招き入れて同居するようになる。2人が開いたカフェは繁盛していた。長身で内斜視の女主人は前夫マーヴィン・メイシ ーに恋われて結婚するも、邪険な塩対応で叩き出して10日後に離婚した。元々邪悪な人間だったイケメン男はガソリン・スタンドなどを襲った強盗罪で刑務所に服役中だった。6年後、ミス・アミーリアはヘンリー・メイシーから兄マーヴィンが仮釈放されたと聞かされる。田舎町に舞い戻って来たマーヴィン・メイシーは復讐心を抱き、恨みに思っている元妻と対峙する。なぜかカズン・ライモンは彼の後をストーカーのように尾け回すようになる。元夫婦の睨み合いが臨界点に達して、2人はカフェ店内で決闘することになるのだが、その結末は救いようのない悲劇に終わるのだった。村上春樹(訳)と山本容子(銅版画)によるカーソン・マッカラーズの寓話風中編小説
『哀しいカフェのバラード』 (新潮社 2024)。
b 地上に降りた天使たち (idol)歌手の 「アタシ」 とミュージシャン(ウッドベース奏者)の 「私」 が地上の天使マイケルとジブリールになる夢物語。自宅マンションで火災(?)に遭った香音とバーでの揉め事で胸を刺された男。リボンでラッピングされた箱の中から出た人形みたいなアタシがナイフで刺された 「私」 と出会う。2人は 「私」 の住むアパートメントへ行き、アタシはココアを飲む。バスルームでシャワーを浴びるリボンで繋がった男女。一夜を過ごした男の胸は血で染まっていた。女が救急車を呼ぶが軽傷だった。男の調達したツリー(もみの木)と食事(ワインとキャビアなど)、女がダイナ・ワシントンの〈スターダスト〉を歌って、愉しいクリスマスを祝った2人をガス台の壁に空いた穴から隣室の夫婦(守護天使を守る天使)が覗き見していた。女が眠り、男がホット・ラム(レモンと蜂蜜)を飲んでいると、電話のベルが鳴る。愛娘マリアからのクリスマス・プレゼント(テディベア)の催促だった。記念写真を撮ろうとした2人はフィルムを買いに夜の街へ出る‥‥1997年初め、約1カ月の休暇中に滞在先のLAで書いたというミポリン(中山美穂)の処女小説
『アタシと私』( 幻冬舎 1997)。合掌。
b 芝刈りの夏 (books)『午後の最後の芝生』 (スイッチ・パブリッシング 2024)は 「宝島」(1982年9月号)に発表後、
『中国行きのスロウ・ボート』 (中央公論社 1983)に収録された短篇の単行本。PR誌 「たて組・ヨコ組」(モリサワ 1987年18号)に掲載されたカラー・モノクロ挿絵(20点)付き。世田ケ谷の芝刈りサービスでバイトをしている大学生の 「僕」 が神奈川県の丘の中腹にある家へ最後の仕事に行く。昼食休憩を挟んだ4時間ほどの作業の間に 「僕」 が飲食したのは持参した魔法瓶に入ったアイスコーヒー、女主人が用意してくれたサンドイッチ(ハムとレタスと胡瓜)とオレンジジュース、ウォッカ・トニック。仕事を終えて立ち寄ったドライブ・インで注文したコカ・コーラと不味いスパゲッティー。駐車場の車中で眩暈を起こしたのは炎天下での 「熱中症」 ではないかと思われるが、最大の謎は女主人が案内した鍵の架かった2階の部屋に棲む不在の娘。少なくとも1カ月間は留守にしている住人の行方である。夏のヴァカンスには早すぎるし、海外に留学中というのも不自然だ。学生らしい娘と、一週間前に別れたばかりの彼女の面影(思い出せない)が 「僕」 の空虚な胸中で重なる。
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このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる / ハプワース16、1924年
著者:J・D・サリンジャー(J. D. Salinger)/ 金原 瑞人(訳) 出版社:新潮社 発売日:2024/09/30 メディア:文庫(新潮文庫 サ 5-4) 目次:マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗 / ぼくはちょっとおかしい / 最後の休暇の最後の日 / フランスにて / このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる / 他人 / 若者たち / ロイス・タゲットのロングデビュー / ハプワース16、1924年 / 訳者あとがき / 対談 サリンジャーの星は出そろったのか? 金原 瑞人×佐藤 多佳子
Nobody Loves You More
Artist: Kim Deal Label: 4AD Date: 2024/11/22 Media: Audio CD Songs: Nobody Loves You More / Coast / Crystal Breath / Are You Mine? / Disobedience / Wish I Was / Big Ben Beat / Bats In The Afternoon Sky / Summerland / Come Running / A Good Time Pushed
哀しいカフェのバラード
著者:カーソン・マッカラーズ(Carson McCullers)/ 村上 春樹(訳)/山本 容子(画) 出版社:新潮社 発売日:2024/09/26 メディア:単行本 内容:さびれた南部の町で暮らすアミーリアは、言い寄る男に見向きもせず、独身で日用品店を営んでいる。ある日彼女のもとに背中の曲がった小汚い男が現われた。町中が噂するなか、どういうわけか彼女はこの小男に惚れこみ、同居してカフェを始める。そこにアミーリアの元夫が刑務所を出て帰還。奇妙な三角関係の行方は──。
アタシと私
著者:中山 美穂 出版社:幻冬舎 発売日:1997/11/01 メディア:単行本 内容:何が欲しくて何が幸せか、これを解くには自分自身を解くしかなかった。それを解くには私の泣かない心に寄り添って付き合ってくれる誰かが必要だった。いつも目覚める時にはあなたがいて欲しい…中山美穂の初めての微小説。
午後の最後の芝生
著者:村上 春樹 / 安西 水丸(絵) 出版社:スイッチ・パブリッシング 発売日:2024/09/25 メディア:単行本 内容:村上春樹が作家デビュー3年後に発表し、いまなお多くの読者から愛され続けている短篇「午後の最後の芝生」。主人公の“僕”が、大学時代の芝刈りのアルバイトとその最後の仕事について回想するこの物語には、その挿絵として描かれたものの、一度雑誌に発表されたきりとなっていた、盟友・安西水丸によるイラストレーションが存在する──
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