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折々のねことば 17 [c a t 's c r a d l e]




  • 折々のねことば sknys 161

    手探りでタオルをつかみ、身内を裂いて洩れようとする猫のような叫びを押し殺すために、口にくわえるのがやっとだった。
    ガブリエル・ガルシア=マルケス


  • 『百年の孤独』の中に猫は1匹も出て来ない。アウレリャノ(大佐)やレメディオス(小町娘)たちが暮らすマコンドに猫は棲息していないのか? 蜃気楼の村らしく、猫は比喩として 「6匹」 登場する。「暗闇で猫のように目を光らせながら指をしゃぶっている」 レベ ーカ、「華やかな過去をしのばさせるのは廃墟の猫だけという古い都」 を想像したアマランタ、「仔猫のように体を丸くして、彼女のわき腹のぬくもりを求めた」 アルカディオ、「猫のような息づかいで、アマランタを思い出しながら悩ましげに歩き回った」 ホセ・アルカディオ(法王見習い)、「牝猫のような声を出してくれ」 とニグロマンタに迫ったアウレリャノ。風呂上がりのアマランタ・ウルスラもアウレリャノに抗し切れなかった。
    2024・10・11


  • 折々のねことば sknys 162

    彼らは眼を見合わせ、直接その体に触れ、両者の間にある霊気が強力な電磁場を作りだしている。バロは猫に囲まれて生活していた。
    ジャネット・A・カプラン


  • 「人間の孤独というテーマは、バロが追い続けた主題のひとつで、彼女の作品には人間が直接触れ合っている姿はめったにない」 が、彼女には人との触れ合いや友情が不可欠だ った。動物との関係は人よりも親密で、作品の中に鳥や猫など動物が描かれることも少なくなかった。「感応」 について、バロは 「この女の猫はテーブルの上で飛びはねて、錯乱状態になっている。猫好きの人なら(私のように)、そういうことに我慢しなければならない」 火花が散って複雑な電気の仕掛けが生まれる。「その火花や電気が女の頭に達して、たちまちパーマをかけてしまう」 と自作解説している。バロの姪も叔母は良く捨て猫を拾って来たと述懐している。メキシコに亡命したスペインのシュルレアリスム画家の浩瀚な伝記『レメディオス・バロ』から。
    2024・9・11


  • 折々のねことば sknys 163

    タンスは半ば開いて、雲や空といった無限の開放があることを明かし、床には穴が開いて、地下でネコが目を光らせて座った女性を見つめていることを露わにする。
    カトリーヌ・ガルシア


  • パリ第8大学でスペイン文学と絵画を学び、女性作家の作品を研究するアグレジェによるモノグラフィー『レメディオス・バロ』。訳者解説によると、「レメディオス・バロはシ ュルレアリスト画家か?」 という原題だが、著者の主眼は副題の 「女性による創造──異種混淆と変容」 にあるのではないかという。「模倣」 に描かれた《女性人物はブルジョワ風の部屋、閨房に引きこもり、裁縫道具のそばに座っている。蟄居、倦怠、暗鬱な日常性が、二系統の色彩アンサンブルによって、また窓のない部屋によって、定住性を連想させる家具や道具──椅子、肘掛け椅子、タンス、裁縫箱──の無造作な配置によって、その部屋の真ん中に座って女性が送っているらしい隠遁生活によって、表現されている》
    2024・9・11


  • 折々のねことば sknys 164

    だから己(おれ)が勝手に名乗ることにした。あいつが己を忘れてもいい。己があいつを忘れぬ為に、己はあいつの筆名ではない、本名の方を真名として頂戴することにしたのだ。 金之助、と。
    宇津木 健太郎


  • 主人公の黒猫(己)は夏目漱石に飼われていた名無し猫の生まれ変わりらしい。偏屈な性格も 「吾輩」 から引き継いでいる。最後の転生(9回目)をした仔猫は不本意ながら古書店 「北斗堂」 で暮らすことになった。先住猫たちも文豪に飼われていたことがあるという。猫と会話が出来る店主・北星恵梨香は 「魔女」 と呼ばれていて、古本を仕入れなくても自然に書架に湧く摩訶不思議な書店に囚われていた。自作原稿を北星に読んでもらっていた小説家志望の少女・神崎円が来なくなった。「己」 は後脚で立って前脚の爪でペンを挟んでチェックする夜の在庫整理の仕事を先住猫のルルから引き継ぐ。久しぶりに現われた円は耳にピアスをした女子高生に変貌していた。ファンタジー『猫と罰』から。
    2024・9・21


  • 折々のねことば sknys 165

    制作に苦労するわたしの悲痛な叫びが相当うるさかったのか、ねこの表情も構想を練っていたときとくらべ、だいぶ険しくなりました。なお、ねこは決して作品に入り込む隙を見逃さないのです。
    MINAMI


  • スーザン・ハーバートやシュー・ヤマモトの 「猫名画」 を思い浮かべるかもしれないが、『ねこの名画案内』はカンヴァスに描かれた絵ではなく、ねこの刺繍名画である。本書では拡大されていて、実物は意外に小さい。制作に約3週間も費やしたという 「ヴィーニ ャスの誕生」 でも3.8x8.9cm、殆どの作品は5x5cm前後。ワッペンやアップリケなどのイメージに近い。2000色近くあるという刺繍糸を一針一針刺す 「一本取り」 は気の遠くなるような根気を強いる作業。これ以上大きな作品は難しいのかもしれない。刺繍の白いねこは原画の微妙な表情までは忠実に再現し切れない。細密なレアリスム絵画は不得手で、印象派や表現主義などと相性が良い。刺繍作家の〈叫びとねこ〉(2022)から。
    2024・9・28


  • 折々のねことば sknys 166

    子どもは猫と同じだね、すぐに見えなくなる。
    イタマール・ヴィエイラ・ジュニオール


  • ブラジル・バイーア州奥地のアグア・ネグラ大農場は代々白人の不在地主が所有していた。アフリカから連れて来られた奴隷の子孫キロンボーラは無報酬で働かされ、泥で造 った家で暮らす。ジャレの祭司・治癒師の父ゼッカと母サルーの娘ビビアーナとベロジ ーニア姉妹は祖母ドナーナがベッドの下の革鞄の中に隠していた象牙柄のナイフを発見した。その鋭利な切れ味を試したくなって刃先を舌に当てると、奪い合いになって互いに負傷する。1人は回復し、1人は舌を失って唖者となる。2人をジープで病院へ搬送した農場の管理人ステーリオは往きに笑って言った。《いまここにいたと思ったらもう次はほかのところだ。ほとんどいつも親の頭痛の種を企んでいる》『曲がった鋤』から。
    2024・12・14


  • 折々のねことば sknys 167

    「早くあの世に行って、にゃんこ先生に会いたい」
    赤川 学


  • 1994年、大学院生だった編者(私)は妻の友人の飼い猫が産んだ子猫を1匹を迎え入れた。都内の自宅に戻ってダンボール箱を開くと、「まるで宇宙人みたいな、小さな物体」 が飛び出して、窓際のカーテンの影に隠れてしまった。2日目の夜、寒かったのか寝ていた布団の中に入って来た。可愛いだけでなく、どこか威厳のある茶色と黒縞のメス猫を子供の頃に視たTVアニメ 「いなかっぺ大将」 の主人公・風大左衛門の師匠にあやかって 「にゃんこ先生」 と名づけた。16年間連れ添った愛猫は2011年春に膀胱炎が悪化して半年の闘病後に旅立った。「猫ロス」 に陥った社会学者は 「3年ほどのあいだ、死んだように生きていたというか、とにかく悲惨でした」 と語る。『猫社会学、はじめます』から。
    2024・9・6


  • 折々のねことば sknys 168

    きつく巻かれたイバラの棘で、フリーダの首からは血が滲み、背後の黒猫の光る目はイバラの先のハチドリを狙っている。
    堀尾 眞紀子


  • 画家フリーダ・カーロは市電とバスの事故による重い後遺症と夫ディエゴ・リベラの浮気性に生涯苦しめられたが、イサム・ノグチやトロッキーなどと浮名を流す奔放さで、シュルレアリスム絵画(彼女には過酷な現実だった)を描き続けた。「イバラとハチドリの首飾りをつけた自画像」(1940)は殉教者のような白い衣、首に絡まるイバラに吊り下がった死んだハチドリ(愛の使者)、髪に留まる2頭の白い蝶(復活のシンボル)を身に纏った超然とした表情のフリーダ(繋がったカモメ眉毛と薄らと生えた髭)の左右に猿(悪霊)と黒猫(死)がいる。「フリーダ・カーロ・デ・リベラの芸術は、爆弾のまわりに巻かれたリボンである」(アンドレ・ブルトン)『フリーダ・カーロ作品集』から。
    2024・9・6


  • 折々のねことば sknys 169

    「あら、こんなところに! 私の猫じゃないわ。シュレーディンガーの猫よ。ぱっとあらわれて、一瞬だから、しっぽの先ぐらいしか見えないけど」
    ソニア・フェルナンデス=ビダル


  • 少年ニコはベッドの中で動けなかった。「何かを変えたいのなら、いつもとちがうことをしよう」 というメッセージが天井に現われたからだ。ママに急かされて慌ただしく家から出たニコは遅刻するのにも構わず、学校への坂道とは逆の方向へ行き、荒れ果てた大きな家の前で足を止めた。今にも壊れそうなボロ屋なのに、入り口の扉だけは真新しくて頑丈そうな鍵穴が3つもあった。インターホンの赤いボタンを押すと、「待ってたわ、どうぞ入って」 という声が遠くから聞こえた。鍵がないので扉を開けられないと悩むが鍵は架かっていなかった。一歩中に入ると深い闇。ニコは足元で何かの影が動くのを見て驚いた。影の正体は大きな黒猫だった。素粒子をめぐる冒険 『3つの鍵の扉』から。
    2024・12・1


  • 折々のねことば sknys 170

    猫が住めなくなったら人間もおしまいなんだよ。
    遠藤 賢司


  • 《ジョン・レノンは猫が好きだった。いわゆる "失われた週末" のときに飼っていた2匹の猫の名は 「メジャー」 と 「マイナー」。ダコタハウスでも3匹の猫と一緒に暮らし、「サ ーシャ」 「ミーシャ」 「シャロ」 と名づけていたという。もともとはジョンの母親が猫好きで、「エルヴィス」 という名の猫を可愛がっていた》‥‥著者・佐々木美夏と写真家が日本のミュージシャンの家に出向いて、インタヴュー&撮影。ミュージシャン2人のエッセイも収録されている。邦楽には疎いので遠藤賢司以外は殆ど知らないが、音楽と猫に対する愛情の深さが伝わって来る。エンケンの歌にもなった寝図美やアルファルファ、みいこちゃんなどのプライヴェート写真も掲載されている。『ミュージシャンと猫』から。
    2012・1・21

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    〈折々のねことば〉は朝日新聞朝刊に連載中のコラム 「折々のことば」(鷲田清一)のネコ版パロディ。『百年の孤独』(新潮社 2024)で昇天するレメディオス(小町娘)がメキシコに亡命したスペインのシュルレアリスム画家レメディオス・バロへのマルケスのオマージュだったこと、彼女がネコ好きだったを知って嬉しくなりました。フーベル(Rubel)の3rdアルバム《As Palavras Vol. 1 & 2》(Mr Bongo 2024)に収録された〈Torto Arado〉という曲名がイタマール・ヴィエイラ・ジュニオールの小説『曲がった鋤』(水声社 2023)から採られていたことも新たな発見でした。〈Torto Arado〉を聴けば、フーベルが原作を読んで作詞・作曲したことが分かります。T**区・谷中分室の 「リサイクル本ワゴン」 にあ ったソニア・フェルナンデス=ビダルの『3つの鍵の扉』(晶文社 2013)を見つけたのも偶然の出合いでした。少年ニコが出遭った大きな黒猫、ビロードの厚いカーテンの向こうへ走り去ったシュレディンガーの猫のように、いつも出逢いはミステリアスでスリリングです。

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    フリーダ・カーロ作品集

    フリーダ・カーロ作品集

    • 著者:堀尾 眞紀子
    • 出版社:東京美術
    • 発売日:2024/09/30
    • メディア:大型本
    • 目次:はじめに / フリーダの眼差し / 1907–1927 誕生と事故 / 1928–1938 出会いと結婚 / 1939–1949 折れた背骨と希望の木 / 1950–1954 生命万歳 / おわりに / フリ ーダ・カーロ年譜 1907-2054 / 掲載作品リスト / 参考・引用文献

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