シーレの生涯と章句 [a r t]
エゴン・シーレ 「コレクター、フランツ・ハウアー宛手紙」(1913・8・25)エゴン・シーレ 「ぼくは憂いを描きたいのです」
「国内30年ぶりのシーレ展」と謳っているけれど、レオポルド美術館から出品されたエゴン・シーレの作品は全93点中42点。グスタフ・クリムト、コロマン・モーザー、カール・モル、アルフレート・ロラー、アルビン・エッガ=リンツ、アントン・ファイスタウアー、リヒャルト・ゲルストル、オスカー・ココシュカ、ブロンシア・コラー=ピネルなど、半数以上はシーレと共に同時代を生きた「ウィーン分離派」の作品が展示されている。レオポルド美術館は19世紀後半から20世紀のオーストリア美術約8000点を所蔵。数多くのウィーン世紀末のコレクションの中でも、220点以上のシーレ作品を所蔵していることから「エゴン ・シーレの殿堂」と呼ばれているという。本展には約2割しか出品されていないので、肩透かしを喰らったファンも少なくないのではないか。館内に「エゴン・シーレ展」のフライヤ ー(チラシ)が見当たらなかったのは残念至極。「ヒグチユウコ展」(森アーツセンターギャラリー 2023・2・3~4・10)のフライヤーが平台に積んであるのは嬉しかったけれど。
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水沢 勉 「シーレの受容」
「エゴン・シーレ展」 は年代順に、全14章のブロックに分かれて展示されている。「第1章 エゴン・シーレ ウィーンが生んだ若き天才」 「第2章 ウィーン1900 グスタフ・クリムトとリングシュトラーセ」 「第3章 ウィーン分離派の結成」 「第4章 クリムトとウィーンの風景画」 「第5章 コロマン・モーザー 万能の芸術家」 「第6章 リヒャルト・ゲルストル 表現主義の先駆者」 「第7章 エゴン・シーレ アイデンティティーの探究」 「第8章 エゴン・シーレ 女性像」 「第9章 エゴン・シーレ 風景画」 「第10章 オスカー・ココシュカ "野生の王"」 「第11章 エゴン・シーレと新芸術集団の仲間たち」 「第12章 ウィーンのサロン文化とパトロン」 「第13章 エゴン・シーレ 裸体」 「第14章 エゴン・シーレ 新たの表現、早すぎる死」。第9章(グレーゾーン)のみ写真撮影可だった。全50点中、油彩・グワッシュは23点で、鉛筆、水彩、リトグラフ、テンペラ、黒チョークなどを含む。出口近くのスペースには 「エゴン・シーレとレオポルド美術館」(5分28秒)のヴィデオ映像が流れていた。
エゴン・シーレ(Egon Schiele 1890-1918)はオーストリア・トゥルン生まれ。学年最年少の16歳でウィーン美術アカデミーに入学した早熟の天才だったが、28歳で夭折した。第1次大戦とスペイン風邪に見舞われた約100年前の世界情勢はコロナ禍とウクライナ戦争に蹂躙された21世紀の現在と良く似ている。社会的な恐怖や不安は個人の苦悩や葛藤と相似形を成す。シーレの作品を鑑賞する今日的な意義は不可避的な宿命として「死」へ向かって行く「生」をどのようにして生き抜くのかという自己の観照にある。真に革新的なアートは同時代人の理性や感性を超えている。ゴッホの絵画は19世紀の人々には理解不能だった。20世紀前半はフリーダ・カーロよりも女癖の悪い夫・ディエゴ・リベラの壁画の方が人気も評価も高かった。草間彌生はMoMA(ニューヨーク近代美術館)が「私」の作品を認めるのに30年かかったと述懐している。シーレの描いた絵画は100年経っても色褪せることはない。
シーレが17歳で描いた〈毛皮の襟巻をした芸術家の母(マリー・シーレ)の肖像 1907〉、クリムトらしい妖艶な小品〈赤い背景の前のケープと帽子を被った婦人 1897/98〉(クリムト財団蔵)、クリムトからの影響が顕著な〈装飾的な背景の前に置かれた様式化された花 1908〉、コロマン・ローザーの〈洞窟のヴィーナス 1914〉、本展のポスターやチラシなどに使い回されている〈ほおずきの実のある自画像 1912〉、恋人ヴァリー・ノイツェルの肖像画〈悲しみの女 1912〉、暗い展示スペース(第13章)から発光するドローイング〈黄色の女 1914〉、美術愛好家のパトロン〈カール・グリュンヴァルトの肖像 1917〉(豊田市美術館蔵)、オスカー・ココシュカのポスター(カラーリトグラフ)〈ピエタ 1908〉、結婚した妻を描いた〈縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ 1915〉、未完成の絶筆画〈しゃがむ二人の女 1918〉‥‥大胆に股を開いた女性(エーディト)の裸体画〈横たわる女 1917〉は見ようによってはポルノ紛いの挑発的なポーズだが、「エロティカは人間的な状態にまつわる確かな真実への接近を可能にする」(スーザン・ソンタグ)のだ。
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皆川 博子 『倒立する塔の殺人』
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- 記事タイトルは吉岡実の詩 「水鏡」(1977)の中の一節、《エゴン・シーレの / 生涯と章句を想い出す / 「人は夏の盛りに / 秋の樹木を感得する」 》から採りました^^;
- 「倒立する塔の殺人」 は〈皆川図書館〉からの再録(一部加筆・改稿)です。若年層の読者に配慮してか、文庫版(PHP文芸文庫 2011)は本文と区別するために、「手記」 と作中小説「倒立する塔の殺人」の字体(書体と文字の大きさ)が変更されています(引用文の中の「わたし」は阿部欣子ではなく、「手記3」 を書いた三輪小枝です)
- 「ほおずきの実のある自画像」(公式サイト)、「吹き荒れる風の中の秋の木」(館内撮影)、「EGON SCHIELE」(下エスカレータ出口のパネル)をランダム表示しました
listening wind / klimt's cats / schiele's career and chapter / sknynx 1126
- アーティスト:エゴン・シーレ(Egon Schiele)/ グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)/ コロマン・モーザー(Koloman Moser)/ カール・モル(Carl Moll)...
- 会場:東京都美術館
- 会期:2013/01/26 - 04/09
- 主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館 / 朝日新聞社 / フジテレビジョン
- 概要:19世紀末ウィーンを代表する画家エゴン・シーレ(1890-1918)は、28年という短い生涯のなかで数多くの作品を残し、独自の表現を追求しました。本展では、ウィーンのレオポルド美術館の所蔵品を中心に、シーレの初期から晩年までの絵画、素描のほか、ウィーン世紀末の芸術家たちの作品を紹介し、画家の生涯とその作品、同時代の芸術の...
レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才
- 編集:朝日新聞出版
- 出版社:朝日新聞出版
- 発売日:2023/01/10
- メディア:単行本(AERA BOOK)
- 内容:インタビュー、トリンドル・玲奈 / インタビュー、ももいろクローバZ、佐々木彩夏 / 知ったかぶりエゴン・シーレ / 10分でわかる西洋美術の流れ / 来日作品6作品徹底解説 / はじめてのエゴン・シーレ / エゴン・シーレをもっと知りたい(映画ガイド)/ キーワードで読み解くエゴン・シーレ / エゴン・シーレの説明書(ナカムラクニオ×Tak)
- 著者:水沢 勉
- 出版社:東京美術
- 発売日:2023/02/02
- メディア:単行本(ToBi selection)
- 目次:自画像 / ジャポニズムとエゴン・シーレ / 肖像写真 / 風景 / コレクターとしてのシーレ / 人物 / シーレの仲間たち / 寓意 / 版画とグラフィックデザイン / 室内 / シーレの受容 / 年譜 / 作品リスト / ブックガイド
- 著者:エゴン・シーレ(Egon Schiele)/ 伊藤 直子(訳)
- 出版社:八坂書房
- 発売日:2019/04/27
- メディア:単行本
- 目次:はじめに / 1905-09 画家になるまで / 1910-14 シーレ誕生 / 1915-18 成功と早すぎる終焉
- 著者:ハリエット・ヴァン・レーク(Harriet Van Reek)/ 野坂 悦子(訳)
- 出版社:朔北社
- 発売日:2023/01/31
- メディア:大型本
- 内容:目にするもの全てを絵にしたかった、エゴン・シーレ。はためくスカート、やわらかなブラウスに身をつつむエーディトも。オランダの美術館にある唯一のエゴン ・シーレの作品「エーディトの肖像」から紡ぎ出された物語。異彩を放ったデビュー作『レナレナ』の著者、ハリエット・ヴァン・レークが描く新たな傑作
- 著者:皆川 博子
- 出版社:理論社
- 発売日:2007/11/01
- メディア:単行本(ミステリーYA!)
- 目次:I / II / III / IV / V / VI / VII /『倒立』美術館 あとがきにかえて(エゴン・シーレ 抱き合う二人の少女たち (友達どうし)、膝を立てて座っている女、立っている黒髪の裸の女 / フランス・ハルス ジプシーの女 / レンブラント 目をつぶされるサムソン / エル・グレコ 十字架を抱くキリスト / オディロン・ルドン 大皿にのった殉教者の首 / ムンク 思春期)
2023-04-11 00:03
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