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F A V O R I T E ー B O O K S 2 1 [f a v o r i t e s]

  • 天涯図書館(講談社 2023)皆川 博子420


  • 皆川館長が蒐集した名作・稀覯本を紹介する 「辺境図書館」(2017)。「彗星図書館」(2019)に続く第三館。マルグリット・デュラス、カレル・チャペック、ピエール・ガスカールなど著名な作家、二世代下の川野芽生やシャーリイ・ジャクスンの短篇も書見台に載るが、書架の殆どは未知・未読の作家・作品で占められる。耽溺した館長の追憶だけでなく、現在進行形のコロナやウクライナ戦争も「図書館」に暗い影を落とす。巻末に短篇 「焚書類聚」 「針」 を併録。索引・蔵書目録付き。文芸誌 「群像」 の連載は終了して休館中ですが、場所を移して開館して欲しい



  • 27 クラブ(作品社 2021)ハワード・スーンズ419


  • 「27 Club」(Amy, 27 2013)とは27歳で鬼籍に入ったミュージシャンたちのリストである。著者はブライアン・ジョーンズ、ジミヘン、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン、エイミ ー ・ワインハウスの6人、特にエイミーに光を当てて、なぜ彼らが早世しなければならなかったかを解明する。6人の独立した章立てではなく、「生」 と 「死」 の二部構成。彼らの生涯を時系列順に並列することで、「死の舞踏」 へ申し合わせたように突き進んで行く展開は圧倒的。巻末に 「27クラブのリスト」(50人)、「ソースノート」 「索引」 を併録



  • ばけねこぞろぞろ(あかね書房 2015)石黒 亜矢子418


  • 飼い猫トンを苛めていた悪ガキ(おれ)は母親に 「いつかネコに仕返しされるよ」 と叱られる。広場に逃げると、88匹ものノラ猫たちに囲繞された。その夜、寝ている 「おれ」 の前に化け猫になったトンが現われて、「今夜、化け猫たちが襲いかかって来るぜ」 と警告する。外へ飛び出した 「おれ」 たちに、妖怪にゃっぺふほふ、ぶるぶるねこ、ねこぼうずが襲いかかる。誰もいない商店街に逃げ込むと、50匹以上の妖怪が徘徊していた。化け猫たちの百鬼夜行だった(この頁だけ絵巻物のような観音開きの4連綴りになっている)



  • Love! Jane Birkin(マーブルトロン 2013)安達 薫417


  • 60年代から現在(10年代)まで、英女優・歌手ジェーン・バーキンのファッションを紹介した「フォトBOOK」。ジョン・バリー、セルジュ・ゲインズブール、ジャック・ドワイヨンとの結婚・離婚。出演 ・主演した映画 「ジュ・テーム・モワ・ノン・ブリュ」(1976)や 「ワンダーウォール」(1968)など。2011年4月6日、東日本大震災のチャリティーために単身来日。バーキン(エルメスのバッグ)誕生のエピソード。3人の娘、長女ケイト・バリー、次女シャルロット・ゲインズブール、三女ルー・ドワイヨンのファッションも掲載



  • 月夜の黒猫事典(グラフィック社 2023)ナタリー・セメニーク416


  • 黒猫に魅せられた著者による再編集本。『魅惑の黒猫』(2015)は大型本で黒小口の黒ずくめだったが、小型本の小口は黒猫の金眼、「黄色い琥珀」(リルケ)のように光り輝く。中世の魔女狩りで火刑に処されたり、建設中の建物の壁に生きたまま塗り込められたり、高い塔から投げ落とされたり、ハロウィンで大量虐殺された受難の「黒歴史」や伝説や迷信などにスポットが当てられる反面、作家や芸術家たちに愛された 「セレブたちの黒猫」、ポーの 「黒猫」(1843)を全文掲載した 「文学の中の黒猫」、「映像メディアの中の黒猫」 などは割愛されている



  • (文藝春秋 2005)皆川 博子415


  • ポオル・フォル、ロオド・ダンセイニ、ハインリッヒ・ハイネ、横瀬夜雨、薄田泣菫、伊良子清白など、引用した詩句や俳句に触発された幻想短篇集。表題作はインパール戦線から復員した後に妻と情夫を撃ち、出所後に特攻帰りの玄吉を下男として雇って、北海近くの「司祭館」に住む男が映画のロケに出食わす。家屋の 「二階」 と 「離れ」 は皆川夢幻界への仄暗い入り口である。単行本の巻末に「使用した詩、句などの出典」。文庫版(2008)の解説は俳人・齋藤愼爾。「どこか黴臭い空気の中に背筋の寒くなるような幻想が立ち上がる」(川野芽生)



  • ミュージアムの女(KADOKAWA 2017)宇佐江 みつこ414


  • 岐阜県美術館に勤務する女性監視係が描く4コマ・マンガ。公式SNSに連載した100篇、コラム「ティータイムトーク」4本、「岐阜県美術館おさんぽガイド」 を巻末に併録。表紙カヴァの絵画はオディロン・ルドンの 「目をとじて」(同館所蔵)。監視係、学芸員、来館者など全員がネコ顔というか、直立二足歩行のネコ人間(猫面を被っている?)として描かれる。「登場する主人公は作者自身のありのままではなく、共に働いている監視係を総合して形成した架空の猫主人公」 とのことだが、なぜネコなのかは謎です



  • ネコ全史(日経ナショナル ジオグラフィック 2023)キャリー・アーノルド413


  • 日本版ナショジオの猫ムック(The Secret Life of Cats 2022)。序文(Introduction)で、「私が初めてネコと同居したのは23歳のときだ」と書き始める主体が分かり難いけれど、執筆しているのは米サイエンス・ライターのキャリー・アーノルド(Carrie Arnold)。ナショジオらしいネコ写真の数々に魅惑される。「ネコの昔と今」 「人間とネコの絆」 「人類史の中のネコ」 の三部構成で、ネコの歴史から最新の研究までをアップデート。ネットで有名なグランピーキャット(不機嫌ネコ)のターダー・ソースや永遠の子猫リル・バブも紹介されている



  • 幸せは見えないけれど(早川書房 2010)グウェン・クーパー412


  • 三年間同棲していた恋人ジョージと別れたグウェンは2匹の猫、ヴァシュティとスカーレットの親権を得て、友人メリッサの家に居候することになった。マイアミのNPOのスタッフとして働いていた彼女の家計は苦しく、3匹目を飼う余裕はなかったが、動物病院の獣医パティからの電話で決心する。保護された生後四週間の黒猫は悪性の感染症のために眼球の摘出手術を受けていて、ハンディキャップに理解のある人でさえ飼おうとはしなかった。グウェンはギリシャ神話の英雄オデュッセウスと詩人ホメーロスから 「ホーマー」(Homer)と名づける



  • 仮面物語 或は鏡の王国の記(国書刊行会 2023)山尾 悠子411


  • 43年ぶりに復刊された幻の長編。当時作者(24歳)は雑誌掲載するつもりで中編 「ゴーレム」(150枚)を構想して書き始めていたが、事情により書き下ろし長編(400枚)として書き直すことになった。G、F、Kなどの登場人物名をアルファベット記号から癖の強い人工的な漢字名に、舞台も名無しの土地ではなく「鏡市」に変更。登場人物を必要以上に多く増やし、水増ししたことを後悔して、長らく封印していたという。簡易版「ゴーレム」は『山尾悠子作品集成』(2001)に書き下ろしで収録された。復刊したのは担当編集者I氏への餞らしい



  • 風配図(河出書房新社 2023)皆川 博子410


  • 1160年5月、バルト海のゴットランド島ヴィスビューで行われた婚礼の儀式。結婚した少女ヘルガ(15歳)と義妹アグネ(12歳)は機織り小屋から手を取り合って丘の中腹へ走り出す。嵐の夜、難破した帆船から流出した積荷の所有権を争って、唯一の生存者ヨハン(リューベ ック商人)と島民の間で決闘裁判が行われる。アグネの父ソルゲルの代理に母方の従兄ギースリ、足を負傷したヨハンの代わりにヘルガが戦う。ヴィスビュー、リューベック、ノヴゴロドを巡るハンザ同盟をテーマにした歴史ロマン。小説、戯曲、詩歌の引用を織り込んだ構成



  • ファット・キャット・アート(エクスナレッジ 2022)スヴェトラーナ・ペトロヴァ409


  • デブ猫が名画の中に入り込む「Fat Cat Art」の新装版。最愛の母を亡くして落ち込んでいたスヴェトラーナを心配した友人が、引き取った母の形見の茶トラ(ツァラトゥストラ)と何かやってみたら?‥‥とアドヴァイスしたことから始まったプロジェクト。古今東西の名画とネコの共演が最新テクノロジーによって実現。デジタル化した絵画とデブ猫の写真をコンピュータ上で合成加工したコラージュ・アートである。絵画に描かれた人物を愛猫に置き替えるだけでなく、名画の中に闖入させる



  • 迷い猫あずかってます(中央公論新社 2023)金井 美恵子408


  • PR誌「波」に1年間連載された「遊興一匹」を中心に編んだ 「純文学的ネコバカエッセイ」(荒川千尋)。ある日、金井姉妹の住んでいるマンションに、1匹の仔猫が迷い込んで来た。「迷い猫あずかってます。12月18日の昼ごろから、この近辺で迷子になって泣いていました」 という文面に猫のイラストを添えたポスターを近隣に張り出すが、音沙汰なし‥‥結局、金井家で飼うことになったクロトラの雄猫は 「プー横町にたった家」(A・A・ミルン)に登場するタビー柄の子猫の名前から 「トラー」 と命名。新潮文庫(1996)に3篇を加えた新増補決定版



  • 猫路地(日本出版社 2006)東 雅夫(編)407


  • 「猫ファンタジー競作集」 と銘打ったネコ・アンソロジー(猫路地=ネコロジー?)は全作書き下ろし。新旧日本作家20名が架空の猫熟語をタイトルにした20篇を寄稿している。編者は「猫たちによって誘われる「異界」を描いた物語と、異界への書き手の導き手である「猫」たちの玄妙なる生態を描いた物語」の2種類に大別されると解説しているが、いわゆる幻想猫小説と私猫小説に二分される。皆川博子の「蜜猫」は部屋が増殖して行く幻想掌篇。私小説風に始まって、ラストに失踪した飼い猫ヨモが幻影として顕われる森真沙子の「四方猫」など



  • 猫を描く(現代書館 2022)多胡 吉郎406


  • 古今東西の名画の中に描かれた猫を探す「猫画集」だが、その手の類書とは一線を劃す。某誌に美術エッセイを連載している筆者(私)の見解を猫に関しては博覧強記の「猫姫」と称する女性が補完する構成なのだから。絵画、エッセイ、小説(猫姫は架空人物?)が混然一体となった1冊で三度愉しめる猫本なのだ。ルーヴェンスやフェデリコ ・バロッチなど泰西名画の 「受胎告知」、猫画家ルイス・ウェイン、江戸の猫絵師・歌川国芳や歌川広重、「源氏物語」 など浮世絵の美人画、「吾輩は猫である」 の挿絵、ルノアールやボナールの猫たちも登場する



  • ルイス・ウェインのネコたち(青土社 2023)クリス・ビートルズ405


  • 英美術ディーラーが蒐集したエドワード7世時代の猫画家ルイス・ウェイン(Louis Wain 1860-1939)の大型画集。絵画、絵本、ポスター、絵葉書、陶器の動物(未来派の招福マスコット猫)などの図版約300点。擬人化した二立歩行の可愛いネコたちが意地悪く、気味悪く、怖しく、抽象化して行く過程が愉しめる。序文は映画 「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」(The Electrical Life of Louis Wain 2021)に主演したベネディクト・カンバーバッチ。帯イラストは猫画家ヒグチユウコ



  • ねこ22(ベネッセコーポレーション 2022)岩合 光昭404


  • 直販誌「ねこのきもち」に連載中の「岩合さんのネコこよみ」から厳選した写真集。ノルウェー・アルタのキアーラ、イタリア・シチリア島のドメニコ、アメリカ・ニューオリンズのスイート、ブラジル・コパカバーナのシキンニョ、アメリカ・キーウエストのキャプテン・トニー、クロアチア・ドゥブロヴニクのビリー、スペイン・シエラネバダのパパライオン、ブルガリア・プロブディフのシメオンなど、岩合さんのTVや写真展や写真集で馴染み深い世界のネコたち22匹が総登場。再録なので新鮮味は薄いけれど、短いエッセイが添えられている



  • エーディトとエゴン・シーレ(朔北社 2023)ハリエット・ヴァン・レーク403


  • ハーグ市立美術館蔵の〈エーディトの肖像〉(1915)からインスピレーションを得て描いた女性と画家の物語。アデーレとエーディト姉妹は向かいの家に住む貧乏画家のことが好きだったが、シーレが求婚したのは妹の方だった。アトリエの縞模様のカーテンで作った花嫁衣装、エーディトとシーレの結婚式、夜汽車のヨーロッパ新婚旅行、シーレの従軍、エーディトの飼い犬ロルト、シーレの帰還 、スペイン風邪などが水彩画で淡々と描かれる。オランダの美術館が唯一所蔵するエゴン・シーレの絵画から紡ぎ出された絵本である



  • ネコはここまで考えている(慶應義塾大学出版会 2022)高木 佐保402


  • 大学3年生の時にネコを飼い始めたという動物心理学者による学術論文。『知りたい!ネコごころ』(岩波書店 2020)は一般読者向けに書かれた入門編だが、本書は専門的な内容になっている。著者は言葉を介さないネコの思考能力を検証する実験を10年間行なって来た。家庭ネコとカフェネコの聴覚と視覚、記憶と推理力を調査する 「期待違反法」(予測したことと違うことが起きると、普通よりも長く見つめてしまう動物の習性を使って調べる実験方法)で、ネコの優れた認知・思考能力を解明する。週刊朝日の 「ネコ特集号」(2022・12・23)を参照



  • 失踪願望。コロナふらふら格闘編(集英社 2022)椎名 誠401


  • 目黒考二は鬼籍に入ったが、椎名誠は生還した。出版元のウェブサイトに連載している 「日記」(2021・7・7~2022・10・12)に、書き下ろし2篇を加えたエッセイ集。多くの読者の関心は2021年6月、自宅で意識を失って緊急搬送された「新型コロナ感染記」にあると思われるが、肝は「三人の兄たち」‥‥六歳上の実兄、会社の先輩・山森さん、野田知佑への鎮魂歌である。「新型コロナ感染記」 では妻・渡辺一枝の存在もクローズアップされている。池袋・芳林堂書店で薄くてペラペラの「本の雑誌」バックナンバーに魅入った日々を懐かしく思い出す


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