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石ノ森読切劇場 [c o m i c]



  • ■ 石森章太郎読切劇場(プレイコミック 1969-70)石森 章太郎
  • 「石森章太郎読切劇場」は読み切り11篇から成る短篇集。人魚伝説と浦島太郎を混ぜ合わせたような 「海の部屋 」、幼年・少年時代の夢から二転三転するSF 「だまし絵」 、石森本人を主人公にした私小説風の 「鋏」、ジャム+ソーセージ=シャム双生児という語呂合わせから発想したシュールな 「JAM SAUSAGE」、雪山で遭難した青年が夢を見る 「怪談雪女郎」、時代もの劇画 「旅鴉」、レイ ・ブラッドベリのSF・ファンタジーを想わせる 「灯台」、企業スパイの内幕を描いた「歯車」、野生動物たちが自然環境破壊に警鐘を鳴らした 「衛」、ホラーSFの 「カラーン・コローン」、「私」 が告白する犯罪サスペンス 「遠い日の紅」 ‥‥十八番のSF・ファンタジーからエロティックなギャグ、リアリスティックな劇画まで、幅広いジャンルに渡る作者のエッセンスが凝縮されている。青年コミック誌に連載されたものなので、変態的なセックスや残虐な殺人などの描写も厭わない。

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  • ● 海の部屋
  • 夏の炎天下、汗だくになって寝ている浪人生の下宿アパートに、ワンピース・ミニスカの美女が訪れる。受験、大学、就職、結婚、女房と子供‥‥男は煙草を喫いながら、人生の空しさを見ず知らずの女に一方的に話す。吸い殻の詰まった法螺貝の灰皿に煙草を押し消すと、女は身悶えする。助け起こそうとして躰に触ると母親に、女の発する潮の香(海の匂い)から海に遊びに行った恋人を連想すると、無言の女はミツ子に変身する。性交した後に一服しようとして火の着いた燐寸棒を灰皿に捨てると、再び女が身を震わす。女が灰皿に口づけすると、法螺貝から大量の潮が勢い良く吹き出して、下宿部屋は津波に襲われたように水没する。海水の引いた室内に溺れた男の姿はなく、人魚となった女も消えていた‥‥海辺に打ち上げられた赤子の左手に腕時計がある。男が海で拾った法螺貝は人魚の女陰だった?‥‥それとも海で溺れた男は「逆・浦島太郎」に退行してしまったのだろうか?

  • ● だまし絵
  • 森で遊ぶ幼い男の子と女の子。服を脱ぎ捨てて池に飛び込んで泳ぐ。全裸の下半身を見つめ合う2人‥‥驟雨に遭って山小屋に雨宿りした男女2人の学生。濡れた服を脱いで乾かし、暖炉で暖まる。欲情した少年が少女を犯すと、全裸の少女は稲妻の光る雨の中に消える‥‥雨上がりの廃墟を歩く青年。虹の架かった無人の街で1人の女性と出会う。山の中の洞窟で調査をしていた地質学者と地下の倉庫で在庫調べをしていた女性だった。2人が性交していると物音がして、女性彫像の首が挿げ替わり、空飛ぶ円盤が現われる‥‥「宇宙戦争ドリーム」を見ていた男は近未来の街に出て、売春婦の誘いに乗る。眠りから覚めると、そこは病室だった。男は女性恐怖症で入院して、催眠療法を施されたのだ。退院して再び街に出た男は異星人のペットにされたことに気づかない‥‥《アナタノ太陽系第三惑星カラ捕獲シテキタ "ペット用生物" ハほうむ・しっくノコウジタのいろーぜダッタノデスガ、催眠治療ヲクワエ、記憶ノ一部ヲ狂ワセテ、ココガ正常ナ世界デアルト思ワセマシタカラ‥‥》。

  • ● 鋏
  • トキワ荘に女子高生・高垣由香が友だち・八橋美子を連れて来た。由香は主人公(石森章太郎)の最初のファンで、中学生の頃からの知り合いだった。高校生になってマンガを描くことは殆どなくなったが、以前のように遊びに来ていた。部屋や喫茶店で会話(バカ話)をしたり、映画を観たり、新宿の雑踏を散歩したり、新宿御苑へ行ったり‥‥2人と過ごした楽しい時間は石森の憂鬱を吹き飛ばしてくれた。2年後、部屋を訪れた由香と美子に婚約者を紹介する。2年後の1月、子供が産まれ、現在の家に引っ越した。悩みや欲求不満などが消えた平穏な日々を送っていたある日、高垣由香から電話が来る。2年8カ月振りに喫茶店で会った大学生の由香は大人びていた。八橋美子のことを訪ねると、病院に入院しているという。新進デザイナー(石森のこと)に恋をした美子は、ある日、彼の部屋に美しい女性が一緒にいたことにショックを受けて、精神的に不安定になった。不登校を心配した由香が美子の下宿を訪ねると、鋏を左手に突き刺して自殺を謀ったと知らされる。左手首に傷痕がある美子から手渡された小箱の中には血塗れの鋏が入っていた。

  • ● JAM SAUSAGE(ジャム ソーセージ)
  • 下宿で受験勉強している三浪生が英単語の 「Jam」 と 「Sausage」 から 「シャム双生児」 を連想して、妄想を肥大させる。壁に飾ってあるヌード・イラストの額の裏に隠してあるジャムとソーセージを食べると、全裸美女が現われて性交に至る。妊娠した腹から出刃包丁を突き破って双生児兄弟が産まれ、母体を切断して喰らう。紋付袴と着物の両親も刺殺して、ネグリジェ姿で現われた妹も食う。書棚の本を食い、丸めた卒業証書に火を着けて喫う。夜が明けて朝が来る。学生服を着て外出した双生児兄弟は警官を食い、躰の不自由な老人を車道に蹴飛ばす。老人を轢いたクルマをスクラップの山と化し、子供と母親を溝に投げ込む。全学連と機動隊の争いを眺め、東映仁侠映画のヤクザに扮して機動隊員の首を刎ねる。諌める大学教授の口に火炎瓶を詰めて爆発させる。その記念写真を撮るとチェ・ゲバラの肖像が写っていて、ギターを弾きながら反戦歌・平和讃歌を歌う‥‥谷岡ヤスジのギャグ・マンガを石ノ森流に解釈したようなシュールで過激な作品である。

  • ● 怪談雪女郎
  • 吹雪の夜、青年の運転するクルマが崖から転落してしまう。「野垂れ死んでたまるか!」 と毒衝く男は山小屋に辿り着く。屋内で和服美人が男の訪れを待っていた。私のことを心から愛してくれれば、一緒に生きられると告白する雪女郎(おんな)だった。売春宿だと思った男は女の話を信じようとしない。男は女を犯す。雪女郎は独白する‥‥《(‥‥あなたも "死" を生きているだけなのね。私と同じように‥‥! 私は‥‥ "死" を生きたい! 他の生命たちのように‥‥来る年も来る年も‥‥私だけは他の生命が生まれ生き生活し始めるとき死んでいるのよ。そして、みんなが死んでいるときにだけ生きている‥‥私はこんな寂しい運命から逃れたかった!── 私が雪女郎であることを知っていて心底から愛してくれる男ができたときだけ、その "鎖" は断ち切れる‥‥! 私はその時、本当の‥‥ただのおんなに変わるのよ! ── あなたがもしその鎖を切って下さる男だったら‥‥切って下さっていたら私はそのお返しに、この世で一番の愛で‥‥あなたの一生を幸福に包んであげられたのに‥‥やはりまた駄目だったのね‥‥いまの私があなたにあげられるのは‥‥冷たい "死" だけ)》。

  • ● 旅鴉
  • 渡世人が風邪で行き倒れになるところを娘に助けられた。親分の仇討ちをするために旅を続けて追って来たのだが、偶然にも仇の辰吉は娘の兄だった。兄妹の家で介抱されていた男が目を覚まし、帰宅した辰吉に斬りかかる。病み上がりの体力では勝ち目はない。「仇討ちなんて馬鹿馬鹿しいことだ!」 と辰吉に諌められる。ヤクザには一宿一飯の恩義があると言い返す男に、「俺がお前さんの親分を斬ったのも、もとはといえば、その一宿一飯の恩義てェやつからだった‥‥!」 と告白する。一宿一飯の恩義で斬ったはったをすれば、どいつもこいつも斬ねばならなくなるか、斬れなくなるかのどちらかになってしまう。昨夜、妹に救われたお前にも一宿一飯の恩義があるのではないかと諭す。どうすれば良いのかと分からず逡巡する男は仇の辰吉を斬り、その後で妹に斬られることにするが、娘に拒否される。俺たちと暮らさないかという辰吉の提案を断って、渡世人は旅立つ。

  • ● 灯台
  • 《──ぼくの父が一人で守っているU岬の灯台は勿論航海用のものだが、明治何年かに建造されたとかで、未だにアセチレンガス灯を明滅させているといったオンボロだ。今時こんな灯台はざらにない。ほとんどは電波航路標識を併設した近代的なものばかりだ。改造を要請したが一向に梨のつぶてだ──まあ、それも仕方がないのかもしれない。船自体にレーダーその他がついて灯台の重要性が減少している。ところへもってきて、このU岬は今や重要航路でもない。その昔は漁船団の無くてはならない "光" だったが、この界隈の海では魚もあまり獲れなくなって漁船もめっきり少なくなっているのだから》‥‥東京から年老いた父の守る灯台に帰って来た青年は霧笛と水音を聞く。濃霧の中からティラノサウルスが姿を現わす。巨大な恐竜、マンモス、類人猿、原始人、人類、未来人たちが年代順に並んで灯台へ歩む。「灯台の明かりは未来への指標、生命の明日への進化の道標」 ではないかと思った刹那、灯りが消えてしまう‥‥辿り着いた青年が見たのは無惨にも崩壊した灯台の姿だった。

  • ● 歯車
  • 都心に峻立する高層ビルのオフィスで1人の社員(産業スパイ)が処分される。社内スパイの原富美子に近づきすぎた結果だった。外山部長が提示した選択肢は3つ‥‥L社に送り込んだ自社スパイの存在が暴露された時の交代要員として飼い殺しになるか、L社から得ている倍の手当てで逆スパイになるか、それとも会社を辞職するか。会議を終えて帰宅した外山雄介は重要な企画書「MモーターKKの青写真」を前にして思案する。未来の自動車は電動車やエアカーではなく、100万円前後の自家用ヘリを製造することである。L社がM社のライヴ ァルとして存続するためには同じ開発をしなければならない。外山部長はM社と同額のサラリーは支払われるという条件で入社したL社のスパイだったのだ。M社から得た重要な情報と交換にL社が重役の椅子を用意するという密約が交わされていた。ところが外山はM社の最高機密をL社に洩らしたことで処分される。彼が選んだのは3番目の辞職だった。通報したのは意外にも妻(Mモーター重役の娘)だった。L社の社長から「F計画」が2社の合併による計画だったと聞かされた外山は高層ビルから投身自殺する。

  • ● 衛(まもる)
  • ジープから降りて斜面を登り、湖を一望する風光明媚な景観を眺望する5人。サル、シカ、キツネ、クマ、ウサギ、野鳥など、数多くの野生動物が棲息する森をリゾート開発して「大自然ホテル」を建設するため、現地調査に赴いた一行だった。彼らは野営用のテントを張って、測量を始める。翌朝、目覚めた1人が同僚(根図)の死体をテントの外で発見した。測量用のレンズやコンパスも破壊されていた。飛び立った野鳥に驚いて逃げ出した男が絶滅したはずのオオカミに襲われ、部長も3頭のオオカミの餌食となる。動物たちの群れに囲まれて抱き合う男女‥‥主人公の時田は悟る。《‥‥これはふくしゅうだ! 人間の侵略に対する自然の‥‥けものたちの自衛なんだ!! ここは‥‥かれらの最後のかくれ家だったんだ! 日本の‥‥あらゆる動物たちかいる! ほろびたはずのおおかみがいる!!》。

  • ● カラーン・コローン
  • 「カラーン・コローン、カラーン・コローン」という下駄の足音が聞こえる月夜。ベッドで愛人と同衾していた新三郎は窓の下から呼びかける女性の姿を見て驚く。1年前に病死した恋人・露子だった。結婚に反対する父親によって家に閉じ込められていたけれど、見合いも拒否して、やっと交際が認められたという。押入れの中に入れられた愛人はベッドで抱き合う2人を覗き見して絶叫する。新三郎が抱いていた露子が骸骨に見えたのだ。愛人の訴えを信じようとしない警官は彼女を病院へ連れて行く。夜明けの霧の中、安見寺の参道を歩く新三郎と露子‥‥愛人には骸骨(亡霊)、警官には人間に見えるが、自己催眠をかけて来た精神科医が見たのは改造人間(サイボーグ)だった。サイボーグは新三郎にキスした瞬間、彼を道連れに自爆してしまう。爆発音に驚いた坊主が刑事に誰何されて逃げ出す。寺の住職は気違い科学者(マッド・サイエンティスト)だった。死亡した露子の躰を埋葬せずに隠匿し、死体から脳を取り出してロボットに組み込んで、サイボーグを造ったのだ。

  • ● 遠い日の紅
  • 窓から見える景色は変わらないと独白する「私」が回想する。古い街並みの中でも一際目立つ大きな旧家。幼い少年の愉しみは庭先に時折、洗濯物を干しに出て来る女の人を見つけることだった。ある日、少年は父親に折檻される母親の姿を覗き見てしまう。ある夜、母親のいない寝室を脱け出して父親の部屋を覗き見すると、全裸にされた母親が縄で縛られて、父親に鞭で叩かれていた。それから間もなくして、父親が押し込み強盗に刺殺される。母親が一時疑われたが事件は迷宮入りして、2年後に母親が首吊り自殺した。法律の勉強をしている由起夫(私)は下宿していた家の娘(登茂子)をSMプレイ中に絞殺してしまう。登茂子は母親に良く似ていたから。由起夫は虐められていた母親を哀れに思って父親を刺殺し、男を引き込んで "虐められて" 歓喜する母親を殺したのは自分だと思い込んでいたから。「私」 が見ているのは監獄の鉄格子の嵌まった窓からの景色だった。

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    石森章太郎読切劇場 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 10-19

    石森章太郎読切劇場 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 10-19

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2008/05/31
    • メディア:コミック
    • 目次:海の部屋 / だまし絵 / 鋏 / JAM SAUSAGE / 怪談雪女郎 / 旅鴉 / 灯台 / 歯車 / 衛 / カラーン・コローン / 遠い日の紅 / 時間 / イラストコレクション

    タグ:comic ishinomori SF
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