孤独‥‥僕どこ？ [p a l i n d r o m e]
大和 和紀 『忠津陽子の世界』
□ 気づき、瑛茉ジャスミン。凡ミス、矢島駅着き
瑛茉ジャスミンはＢ級グレメ番組「激辛＆大食い女王」のロケでＹ島駅に降り立った。第11回「Ｂ−１グランプリ」でゴールド・グランプリに輝いた「激辛讃岐うどん」を食べ歩くという新企画だった。屋島駅は香川県高松市高松町にある四国旅客鉄道高徳線の駅で「源平合戦ゆかりの駅」としても知られる。ところが集合場所の駅前は閑散としていた。TVクルーと思しき姿は１人も見当たらない。瑛茉ジャスミンから笑顔が消えて心配顔になる。スマホで番組スタッフ連絡を取っていた新人マネージャーの表情から血の気が引いて蒼ざめるのに時間はかからなかった。何と「屋島」を「矢島」と勘違いして、秋田県由利本荘市矢島町七日町字羽坂にある由利高原鉄道鳥海山ろく線の「矢島駅」に着いてしまったのだ。彼女たちの凡ミスだった。行き先の確認や鉄道会社、電車の進行方向や車窓から見える風景に気をつけていれば防げたケアレス・ミスのに、２人は車内で爆睡していたのだった。
□ 闇の人魚と魚の王と預金に飲み屋
『闇の人魚と魚の王』（幻書刊行会 2020）が幻想文学大賞に輝いた著者・闇尾幽子は授賞式に出席して、｢幻想文学大賞受賞記念スピーチ｣ を行なった。決して素顔を明かさない覆面作家が講演するというので、会場は文芸編集者や出版関係者だけでなく、新聞・雑誌・TVなど一般のマスコミ記者も多数集まった。壇上に立った闇尾幽子は大きな黒マスクと黒眼鏡で顔を隠しているので、年齢も性別も判然としない。羽海野チカのような着ぐるみではなかったし、少なくともトマス・ピンチョンが授賞式に出席させたような替え玉ではなさそうだ。緊急事態宣言発令中のため、立食パーティや二次会は一切なし。闇尾幽子は黒いサングラスを外して白マスクに着け替え、会場から脱け出す。近くの銀行（ATM）に立ち寄って、賞金100万円を預け入れた。登場人物の闇の人魚、魚の王と落ち合い、行き着けの飲み屋で細やかな祝杯を上げた。グラスの中の泡立つ液体はビールではなく、ノン・アルコールである。
□ 渡航酔った、旅立った日。忠津陽子と‥‥
忠津陽子は北海道・常呂郡置戸町生まれ。小学生１年の時に隣の北見市、高校入学時に札幌市へ引っ越す。小学生２年の頃から少女マンガに親しみ、｢リボンの騎士｣ ｢火の鳥｣ ｢三つの珠｣ ｢江美子ストーリー｣ ｢銀の花びら｣ ｢星のたてごと｣ など、手塚治虫、石森章太郎、水野英子の作品が大好きだった。Ｕ・マイア（赤塚不二夫・水野英子・石森章太郎）や横山光輝の ｢おてんば天使｣、ちばてつやの「紫電改のタカ」なども読んでいた。高校の１年先輩に山岸凉子、２年下に田中雅子、いがらしゆみこがいた。高校３年生の時に描いた投稿作品 ｢夏の日のコーラ｣（別冊マーガレット 1967）でデビュー。同じ時期に描いた ｢星とイモムシ｣（COM 1967）が入選して一部掲載される。 卒業後に出会った大和和紀と一緒に上京して、中野区のアパート「カトレア荘」に移り住み、隣同士となる。1974年9月、木原敏江と池田理代子の３人で１カ月間のヨーロッパ旅行へ出かけたが、エーゲ海・地中海を巡る旅客船に乗った忠津陽子とドジさまは船酔いしてしまった。
□ 田舎探した山葵トマトピザ‥‥私、傘がない
静岡県の人里離れた村で幻の山葵が栽培されているという。その直営店の看板メニュー「山葵トマトピザ」は絶品とのクチコミ情報を得た私は現地に向かった。私は１日３食ピザでも良いくらいのピザ大好き娘。スーパーの冷凍ピザや宅配ピザでは飽き足らず、全国の有名イタリアン・レストランを食べ歩いたり、自宅のオーブンでオリジナル・ピザを焼いたりするほどのピザ・ヲタクと化している。ところが１日中探し歩いても目的地のレストランどころか、幻の山葵を栽培しているという農家にさえ辿り着けない。その所在地は非公表で、旅グルメ本にも食レポ・サイトにも一切載っていない。一生に一度でも良いから禁断のピザを食べてみたいと恋い焦がれているのに叶わない。｢ポツンと一軒家｣ の捜索隊なった心境だが、私には衛星写真の地図さえない。口コミ情報と嗅覚だけが頼りなのだ。日暮れて道遠し‥‥生暖かい風が吹き、雲行きも怪しくなって、大粒の雨も降って来た。不吉なことに、井上陽水の〈傘がない〉はニール・ヤングの〈Like A Hurricane〉とコード進行が同じなのだ。
□ 砂場で午後、寝言言う。従弟「猫語」で話す
公園の砂場で遊ぶ子供たち。暖かい午後の陽射しを浴びて微睡んでいる幼い従弟は寝言を呟いていた。何か愉しい夢でも見ているのだろうか、｢ニャー｣ とか ｢ミャオーン｣とか人間の言葉にならない声は「猫語」のようだった。すると植込みの中から、ベンの「猫語」に呼応するかようにネコの鳴き声が聞こえた。驚いた幼児が目を覚ますと、繁みから１匹の子猫が姿を姿を現わした。ネコがベンの足許に擦り寄って小さな頭を擦りつける。｢猫語｣ で親しげに会話を交わす。叔母が高齢出産したベンは歩き出すのも、言葉を話し出すのも遅かった。生まれた時からネコ好きで、灰色猫と一緒に育ったことから、自然に ｢猫語｣ を話すようになったという。満月の夜、中庭に現われたマウンテンライオンに、長女のステファニーが散弾銃を発砲する直前、｢猫語｣ で危険を知らせたこともあるのよと、自慢げに話すのだった。
□ 出会い、繁栄出来る夜「キティ・エンパイア」で
ある夜、ゼンは広場で集会を開いたが、聴衆は１匹しかいなかった。片思いのメロディだけが熱心にゼンの演説に聴き入っていたのだ。１人集会猫を不憫に思った長老（元・重郎）が仲間に参加するように呼びかけた。｢この広場を『ニャンコ帝国』と命名する。ネコたちが自由闊達に発言出来る場所にしようではないか。我々の種族繁栄と明るい未来を願って｣ ‥‥この宣言に夜廻り猫の遠藤平蔵と重郎、見習いのワカル、ニイ、宙さん、モネ、帽子猫、モフモフ、ミーコ、雑巾野郎たちも全会一致で賛同した。｢キティ・エンパイア｣ という名称は女性音楽ライターのペンネームと同じく、パンク・バンド、ビッグ・ブラック（Big Black）の曲〈Kitty Empire〉から採られたという。必殺録音請負人スティーヴ・アルビニ（Steve Albini）も英オブザーヴァー紙でアルバムやライヴ・レヴューをしているキティ・エンパイア（Twitterの「アイコン」はジーン・シモンズ・メイクだ！）も大のネコ好きである。
□ マウンテンライオン力み、キリン追いラン、貂・馬
20XX年、東京で開催されたアニマル・オリンピック大会。400m競走の決勝に進出したのは意外にもピューマ、キリン、貂、馬の４頭だった。時速100kmを超える（最高スピード秒速25m）優勝候補のチーターが準決勝で失格（フライング）するという大番狂わせがあったのだ。チーターに代わって勝ち上がったアメリカ代表のピューマはマウンテンライオンという名前でエントリーしていた。同じネコ科動物の威厳に賭けても絶対に負けるわけにはいかない。永遠のライヴァルだったチーターの雪辱を晴らすためにも金メダルを奪取すると息巻いていた。猟銃の号砲で「400m競走決勝」がスタートした。力んだマウンテンライオンは出遅れ、キリンの後塵を拝す。レース前半はスタートダッシュに成功したキリンを先頭に、マウンテンライオン、貂、馬と続く。マウンテンライオンの巻き返しはあるのか、優勝するのは一体どの動物なのか？‥‥新国立競技場で決勝を観戦する動物たちの咆哮が轟く。
□ キツネは太鼓判、老いライオン、羽子板、羽根つき
スケートボード、自転車BMXフリースタイル、スポーツクライミングなど、東京アニマル五輪では数種目の新競技が加わった。日本の正月に行なわれて来た「羽根つき」も本大会限定競技として初採用された新種目の１つである。｢羽根つき｣ はムクロジの黒い種子に羽を付けた「羽根」を羽子板で打ち合う日本の伝統的な遊戯で、２人の競技者の間を分つネットはない。黒い玉を打ち損なって地面に落とすと負けになって、敗者の顔に黒墨でバツ印を付けたりして楽しく遊ぶ。五輪特別ルールはバトミントンに準じ、ネットを挟んで「羽根」を打ち合う。試合は男女別のシングルと男女ペアのミックスで、２ゲーム先取の３ゲーム（１ゲーム21点先取）で行なわれる。バトミントンとの唯一の違いは卓球のラケットと同じく、選手が使用する羽子板の大きさに制限がないこと。初戦に出場したキツネは通常の３倍も大きなデカ羽子板を武器にして、年長のライオンに打ち勝った。まさに「太鼓判」の勝利だった。
□ 大敵イタチ倒し、シマウマ・獅子、お立ち台来ていた
アニマル・オリンピック東京大会のレスリング・フリースタイル無差別級決勝戦が千葉県幕張メッセＡホールで行なわれた。本戦で大注目されたのは突然変異によって巨大化した大鼬野郎だった。生物の威圧・恐怖感は個体の大きさに正比例する。小さな蟻も巨大化すれば大怪獣となるし、ゴジラも縮小すればフィギュア化する。新宿のビルに現われた３Ｄ巨大三毛猫は大きくても可愛いけれど、全長２m以上もある大イタチは獰猛で怖しい。人間にとっても脅威で、山中で襲われたら勝ち目はない。準決勝で対戦したイタチとライオンは事実上の決勝戦だった。時間無制限の延長戦に縺れ込んだ死闘はライオンが辛勝した。シマウマとの決勝戦はライオンが順当に勝利して百獣の王らしく、黄金色の鬣に相応しい金メダルが架けられた。表彰式で、お立ち台に上がったのは金ライオン、銀シマウマ‥‥銅メダルは３位決定戦で雪辱したイタチ選手だった。
□ オリンピック疎い、端折りました。多分ブタ出し、マリオ氏這い盗掘品リオ
大会エンプレムの盗用疑惑、前会長の女性蔑視発言、オリ・パラ開閉会式統括責任者の女性タレントへの容姿侮辱、開会式楽曲担当が過去に告白した知的障害者への虐めなど‥‥ネガティヴな事象が次々と噴出した東京オリンピックだが、新型コロナ・ウイルス感染防止対策に伴う「緊急事態宣言発令中」にも拘わらず、無し崩し的に開催されてしまった。無観客とは雖も国民の高揚感に冷や水を浴びせるかのようにウイルス感染は爆発的に拡大した。招致活動の時から開催には反対していたし、心情的にも東京五輪からは離れていた。お祭り気分を意図的に削ぎ落としたような開会式はタレントＢが酷評した通り無惨だった。ピンクのブタを登場させて「動物農場」のパロディ劇を演じるとか、５年振りに土管から這い出したアベ＝スガ・マリオ氏がリオから持ち帰った「金貨」を大会関係者や賓客（スポンサー）に振舞う ｢お・も・て・な・し｣（IOCの金権体質を揶揄？）があっても良かったのではないか。
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- 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい＾＾;
- ｢猫語｣ はウォード・ムーアの ｢猫と話した少年｣、｢キティ・エンパイア｣ は深谷かほるの「夜廻り猫」のキャラクターを借りています
- 『忠津陽子の世界』（立東舎 2021）の２万字ロング・インタヴューを参照しました
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- Bone: 1970 Montreal, Quebec, Canada
- Occupation: Writer, Journalist
- Twitter: @kittyempire666
- Profile: Kitty Empire is the Observer's pop critic. She has written for NME and occasionally crops up on Radio 4, 5Live, BBC 6Music, and has appeared on BBC2's The Culture Show and Newsnight Review.
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- Date: 1992/10/28
- Media: Audio CD
- Songs: The Power Of Independent Trucking / The Model / Bad Penny / L Dopa / Precious Thing / Colombian Necktie / Kitty Empire / Ergot / Kasimir S. Pulaski Day / Fish Fry / Pavement Saw / Tiny, King Of The Jaws / Bombastic Intro / He's A Whore
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- Date: 2020/07/17
- Media: Audio CD
- Songs: Post Truth (Birth of a Nation) / Bastard Basket / Somethings Gotta Give / The Next Fix / Favour Your Fortune / Ouster Stew / Tunnel Vision / Angel Dust (Eternal Peace)
2021-09-21 00:31
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