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スニーズ・コメンツ #63 [c o m m e n t s]



  • 若い男が歩調を緩め、私が追いつくまで待った。小走りに寄り、見上げた。細く高い鼻梁の半ばから下は、嘴型の金属のマスクに隠れていた。「鳥さん?」 私は訊いた。男の目元がやわらかくなった。内隠しから小型の板を出した。蠟引きみたいな薄い紙が板に止めつけてあった。先の尖った鉄筆で、蠟紙に文字を記した。私は読み書きを習っていなかった。読めないという意味を込めて首を振ると、困ったように紙の下端をめくって、もう一度板の上を平らにした。文字は消えていた。不思議な手品だ。大きな文字でしっかり書き直した。私は首を振るのみだ。文字を読めないと察したのだろう。男はマスクを顎の下におろした。端正な顔立ちなのに、口元は猫か兎みたいに可愛くて、私は思わず笑顔になった。好意をいっぱいにこめた笑顔であった。男は自分の胸を指し、何か声を出した。木々の間を吹きとおる風のようであった。モーリス・ウィルソンと名前を教えているのだとわかった。私が自分の胸を指し、名乗ろうとすると、君は、アシュリー、とモーリスは言った。
    皆川 博子 『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』


  • ♭ 花盛りのGWと早すぎる梅雨
  • 都電沿線の薔薇も散るのが早かったなぁ。すっかり殺風景になっちゃった。梅雨に入ると憂鬱になるのは低気圧の影響もあるらしい。図書館への道すがら、レースのカーテンの窓越しにネコと見つめ合う。マスクを外して手招きすると、玄関のキャットスルーから出て来ました。やっぱり「顔」で識別しているようです。
    by sknys (2021-06-02 22:34)

  • ♭ 一度きりの大泉の話
  • 『一度きりの大泉の話』の前に、竹宮惠子の自伝本2冊『少年の名はジルベール』(小学館 2016)と『扉はひらく いくたびも』(中央公論新社 2021)を読んでおくと、「大泉サロン」 の全体像が立体的に見えて来ます。
    父の日の 「天声人語」(朝日新聞 2021・6・20)に驚きました。筆者が男性という先入観を覆す「叙述トリック」ですね。今後は男女2人体制で交互に執筆するのもありかなと思いますが。
    by sknys (2021-06-20 13:18)

  • 〈世の娘半分は父を嫌ふとぞ猫を撫でつつ答へむとせず〉宮地伸一。老いても娘の思いが気になる父親の姿が浮かぶようである。きょうは父の日。父娘の短歌を探してみたが、意外と少ない。母の日と比べて地味な存在なのにも通じるか▼〈転勤の娘の背に春の陽は徹る良き友を得よ良き上司得よ〉。詠んだのは、昭和ひとけた生まれの男性である。高度成長期に就職し、持病で入退院を繰り返しながらも勤め上げた。定年後は短歌に打ち込んだが、65歳で逝った▼娘は最近、父の没後に家族が自費出版した歌集を21年ぶりに読み返し、初めてこの歌に気がついた。病床での心境などを詠んだ他の作品より趣には欠けるが、ずしりと心に響いた▼〔‥‥〕名もなき父が詠んだ「転勤の娘」は、実は私である。これまで10回の転勤で、上司はともかく友には恵まれた。今回、普段の筆者に代わり担当したことをお断りしておく。
    「天声人語」(朝日新聞 2021・6・20)


  • ♭ 暑中お見舞い申し上げます
  • 昔は滑りやすくするために、ロウソクの蝋を塗っていましたね。新体操個人総合で、解説者(田中琴乃)の口から「ゴン攻め」という言葉が発せられるとは!‥‥団体ウズベキスタンのボールは「セーラームーン」、優勝したブルガリアの音楽は「ブルガリアン・ヴォイス」でした。
    by sknys (2021-08-08 18:29)

  • ♭ ワクチンぽてちん2
  • 実はワクチンを接種するかどうか迷っています。「フルチン」 になっても、変異株には感染しちゃうらしいし‥‥3回打ったら(ラス)プーチンになる?
    豊島区の「ワクチン担当部長」が深夜の公園でフルチンになって、逮捕されたという笑えないニュースもありました。
    by sknys (2021-08-09 20:02)

  • ♭ 新宿の猫 ── バステトは古代エジプトの猫女神 / 喫茶パステト
  • 久しぶりに新宿へ出かけたので、噂の「3D巨大三毛猫」を見て来ました。写真に撮るのはリアル・キャットよりも難しいにゃぁ。ネコの下の壁面に 「喫茶バステト」 とありますが、階下は猫カフェなのでしょうか?
    by sknys (2021-08-11 21:41:49)

    気になって調べてみたら、「バステト」 ではなく「パステト」という猿田彦珈琲プロデュースの純喫茶でした。ネコとは関係なさそうです。
    P.S. モーさまの『私の少女マンガ講義』が新潮文庫になりました。
    by sknys (2021-08-12 21:09:08)

  • ♭ iPad Air4 生活
  • 愛用のノートブックは10年前に購入したMacBook Pro(13-inch, Late 2011)。3年前に渋谷のジーニアスバーで、膨張したバッテリを無料で外してもらったので、据え置きとして使用しています。新モデルが噂される今年の秋に買い換える予定ですが、marikzioさんの記事を読んで、iPad+キーボードも悪くないなと思いました。先月、今まで有料だった 「OS X Lion(10.7.5)」「Mountain Lion(10.8.5)」 が無償提供になったので、ライオンから「最後のネコ科」にアップグレートしてみました。iCloud、メッセージ(Messages)、リマインダー(Reminders)、通知センター(Notifications)など、iPhone(iOS)と連携した新機能が強化されています。でも、どうしてAppleは10年も経ってから、旧OS Xを無料配布したのでしょうか。林檎ユーザの需要がそれほどあるとは思えないし‥‥1枚目の可愛い絵は自画像ですか?
    by sknys (2021-08-14 12:01)

  • ♭ 横溝正史■犬神家の一族●1
  • 映画 「犬神家の一族」(1976)は小太りの復員兵(あおい輝彦)に違和感あり。ダイエットしとらんのか!‥‥とツッコミを入れたくなります。
    『皆川博子随筆精華 II』(河出書房新社 2021)に『犬神家の一族』(講談社 2001)が紹介されていました。ささやななえこの『獄門島』(小学館 1978)は別コミで読んだ記憶がありますが、つのだじろうが『犬神家の一族』を描いていたとは!‥‥ミステリではなく、ホラー仕立てなのでしょうか?(註:「犬神伝説」 をテーマにしたオカルト・ミステリです)
    by sknys (2021-08-17 20:24)

  • ♭ Downhill From Everywhere
  • 200年ちょっと前に、先住民族を殺して土地を奪い、奴隷を連れてきて作った移民の国が、今度は移民を排斥するようになってしまった。一度手に入れたものは独り占めしたい。タイタニック号が沈み始め、先に乗った人が「お前は乗れないから出てけ」と告げるように。それは米国だけでなく、これまで寛容だった北欧なども含め、世界中で起こっている。
    ジャクソン・ブラウン 「人間こそウイルスかもしれない」(朝日新聞 2021・8・9)


  • バートンズ・シリーズ最終作『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』(早川書房 2021)の舞台は独立戦争でした。アルバート・ウッドに宛てた手紙の中で、「遠征隊は、俺たちの集落を、虐殺しつつ通過した。これを戦闘というのか。人間と人間の戦いとは思えない。野獣の殺しあいだって、これほどじゃない」 とクラレンス・スプナーは記しています。
    『トマト・ゲーム』(早川書房 2015)を読んでいたら、「アルカディアの夏」(1973)に頭脳警察のパンタ(パンダじゃないよ)、「獣舎のスキャット」(1973)にピンク・フロイドが出て来て、引っくり返りました。皆川博子先生はロック好きなのでしょうか。
    by sknys (2021-08-19 12:12)

  • ♭ 印花のお皿 焼けました
  • 葡萄をモチーフにした緑色のお皿が綺麗に見えます。取っ手のあるマグカップは難しいのでしょうか?‥‥フリーカップも飲んだ後で、飲み口が液垂れしないか気になったりして^^;
    by sknys (2021-08-30 23:06)

                        *

    ブログ記事に付けた「外コメント」を纏めてみたら結構面白いかも?‥‥というアイディアから生まれた再録シリーズの第63集です。コメントは原則としてオリジナルのまま時系列順に転載‥‥事実誤認(誤記)や誤字・脱字、改行の無効化、句読点や記号・顔文字の有無などを精査。内容の分かり難いコメントには補足説明(註)をして、コメントした元記事にリンクしました。過去3ヵ月間(2021/06/01~08/31)に書いたものの中から、第三者がコメントだけ読んでも面白いものを中心にセレクトしています。東京五輪は招致される前から反対の立場だったが、コロナ禍、緊急事態宣言下、無観客で強行されてしまった。開会・閉会式は兎も角、中学時代に熱中していたサッカーや高校の体育で必修だった柔道などはTV観戦していたけれど、日本選手のメダル・ラッシュという浮かれ気分に付け込むかのように、新型コロナ・ウイルスの爆発的な感染拡大!‥‥変異株が猛威を奮い、ワクチンを2回接種した人もコロナ感染症で亡くなるという異常事態に。3回目のブースター接種はブレークスルー感染に効果があるのでしょうか?

                        *


    私の少女マンガ講義

    私の少女マンガ講義

    • 著者:萩尾 望都 / 矢内 裕子(聞き手・構成)
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2021/06/24
    • メディア:文庫(新潮文庫)
    • 目次:イタリアでの少女マンガ講義録『リボンの騎士』から『大奥』へ / 少女マンガの魅力を語る 読む・描く・生きる / 自作を語る『なのはな』から『春の夢』へ / 特別寄稿 ジョルジョ・アミトラーノ 萩尾望都氏との初対面


    インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー

    インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:2021/06/16
    • メディア:単行本(ハヤカワ・ミステリワールド)
    • 内容:18世紀、独立戦争中のアメリカ。記者ロディは投獄された英国兵エドワード・ターナーを訪ねた。なぜ植民地開拓者(コロニスト)と先住民族(モホーク)の息子アシュリーを殺したのか訊くために。残されたアシュリーの手記の異変に気づいた囚人エドは、追及される立場から一転、驚くべき推理を始める。それは部隊で続く不審死やスパイの存在、さ...


    皆川博子随筆精華 II 書物の森への招待

    皆川博子随筆精華 II 書物の森への招待

    • 著者:皆川 博子 / 日下 三蔵(編)
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2021/07/27
    • メディア:単行本
    • 目次:ミステリ / 時代小説 / 幕間|推薦文 / 海外文学/コミック/現代文学/ノンフィクション / 幻想/SF/ホラー / あとがき / 編者解説 日下 三蔵


    トマト・ゲーム

    トマト・ゲーム

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:2015/06/04
    • メディア:文庫(ハヤカワ文庫 JA ミ 6-6)
    • 目次:トマト・ゲーム / アルカディアの夏 / 獣舎のスキャット / 蜜の犬 / アイデースの館 / 遠い炎 / 花冠と氷の剣 / 漕げよマイケル / 解説・日下 三蔵

    OS X Mountain Lion

    OS X Mountain Lion

    • Developer: Apple Inc.
    • Date: 2012/07/25
    • Latest release: 10.8.5 (Build 12F2560)
    • Price: 19.99(¥2440)
    • Media: mac OS

    犬神家の一族

    犬神家の一族

    • 著者:つのだじろう / 横溝 正史(原作)
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2001/09/01
    • メディア:文庫(講談社漫画文庫)
    • 目次:野々宮珠世 / 犬神の血筋 / 仮面の中 / 美女への遺言 / 奉納手形 / 菊 / 芥子 / 犬神族伝説 / 斧 / 犬神魔通里 / 佐清の自白 / 逆転の結末 / 解説・皆川 博子

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