青い月の夜に [c o m i c]
草森 紳一 「まんが家自身の登場」
妹の夏休みの研究ノート「怪談について」を猫のミーコが咥えて外へ出てしまう。兄妹が後を追って行った家はネコたちの「おばけやしき」だった。木に縛りつけられ、火焙りにされたところで夢から醒める。サン・サースの「死の舞踏」やシューベルトの「魔王」、文豪のゲーテやシェークスピア、上田秋成、芥川龍之介など、一流の作家はスリラーを書いていると独り言つ兄は妹に今描いているスリラー「魔女オーロラ」を見せる‥‥ある村に吸血鬼の噂が流れる。喉に咬みつかれて貧血状態で倒れていた娘。夜な夜な白いネグリジェを着た女に村娘たちが襲われていた。義妹オーロラと恋人フィリップの逢瀬を妬む義兄ダニエル。ある朝オーロラが寝室で目醒めると、義母が喉を咬まれて床に倒れて気を失い、オーロラの唇に血痕が着いていた。彼女は自分が吸血鬼だったとフィリップに告白する。不審に思った恋人がオーロラの寝室に隠れていると、深夜に入って来た義母が睡眠薬で眠らせた彼女を自分の連れ込んで、自ら喉に傷を着け、オーロラの唇の周りに血を着けていた‥‥。
竹を切りに来た老夫の前に金色の髪の少女が現われる。身寄りのない少女を可哀想に思って家に連れて帰るが、恐妻に追い返される。老夫は別れ際に少女から綺麗な光る石(月の欠片)をもらう。光る石を手にした妻は態度を急変させて、少女カグヤを娘に迎える。薪を拾いに行ったカグヤは森の動物たちと寛ぐ。イノシシに襲われそうになったが、風麻呂が弓を射てカグヤを救ける。狩りに来ていた倉持皇子がカグヤに懸想する。老夫の家に大量の貢ぎ物が届く。倉持皇子の使いで訪れた風麻呂がカグヤを嫁にしたいと告げる。嫁に行きたくないカグヤは無理難題の条件を出す。竜の首に着いている五色の玉を取って来て欲しいと。十二単を着て風麻呂の無事を月に願うカグヤ姫‥‥風麻呂が持って来た竜の玉は倉持皇子が職人に作らせた贋物だった。カグヤが倉持皇子を問い詰めると、風麻呂は海で嵐に遭って死んだと告白する。悲嘆に暮れたカグヤ姫は迎えに来た雲に乗って月の世界へ飛び立つ‥‥。
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青年は町を見物したいというミミを自分の住む下宿に案内する。翌日、少し成長したミミと売れない貧乏マンガ家の水島健二は雪の降る中を散歩する。一周間後、健二の下宿を訪れたミミは大変なことが起きたと話す。「お別れに来たの。フランスに帰るの。原子戦争が始まりそうなの」 ‥‥泣き伏して机の上の原稿を濡らしてしまったミミは健二が変節したこと、生活するために売れるマンガを描いていることを知って失望する。立ち去ったミミを追って行 った健二は大使館の裏庭でタイムマシンを発見した。「今から50年後に発明されるの‥‥過去にも未来にも自由に行ける機械よ」 ‥‥ミミは50年後の未来から来ていたのだ。この世界で暮すことを決心したミミは核戦争が始まる前に、パパやママにお別れがしたいと言い残してタイムマシンに乗って消える。雪の降る夜に1人佇む青年。ミミは50年後の未来から帰って来られるのか?‥‥成長する少女ミミは「ジュン」に登場する不思議少女の原型である。
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「青い月の夜」(1960)は1年に1度だけ青い月の光を浴びると、人形や絵の中のバレリーナが一晩だけ動いたり話したり出来るようになるという設定だが、お化けや妖精たちが集うコロナ禍のハロウィンは実に46年振りの満月、しかも「ブルームーン」だった‥‥といっても青い満月が見えたわけではない。「ブルームーン」には少なくとも2つの定義がある。文字通り青く見える月と、ひと月に2度目の満月(月の満ち欠けの周期が約29.5日なので、ひと月に2度満月になることがある)‥‥今年(2020)の10月は2日と31日が満月だった。「氷の花」(1959)に「ゲーテのファウストという詩のなかにはハロウィン・デーとかいうおばけのよりあいのことがかいてある」というマンガ家(作者)の科白がある。60年前の日本人にとって、「ハロウィン」 は縁遠いイヴェントだったのではないか。人口に膾炙したのは映画 「E.T.」(1982)以降のことではないか。ハロウィンの夜、ブルームーンを眺めて想い出す‥‥エリオット少年とE.T.が乗る自転車もブルームーンを背景にして宙を飛んだことを。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 9-37・34」(角川書店 2008)と 「石森章太郎選集 2」 (虫プロ商事 1969)をテクストに使いました
- 「ブルームーンとは? きょうは10月2度目、2020‥‥」(Huffpost)を参照しました
- 意図したわけではないけれど、拙記事とブルームーンがシンクロしちゃいました^^
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- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2008/02/29
- メディア:コミック
- 目次:青い月の夜 / 雪の日に / 氷の花 / 白いばらの物語 / かげろう / 雪おんな / ガラスのマリ / イラストコレクション
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:虫プロ商事
- 発売日: 1969/11/15
- メディア:コミック
- 目次:青い月の夜 / みどりの目 / きのうはもうこない、だがあすもまた / 雪の日に / 氷の花 / 雑感・草森 紳一 / 作品メモ
- 著者:石ノ森章太郎
- 出版社:講談社
- 発売日:2014/10/31
- メディア:Kindle版
- 目次:青い月の夜 / 雪の日に / 氷の花 / 白いばらの物語 / かげろう / 雪おんな / ガラスのマリ / イラストコレクション
タグ:ishinomori comic
2020-11-01 00:06
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