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ポスト・パンク・ジェネレーション [m u s i c]



  • ◎ Viet Cong(Jagjaguwar 2015)Viet Cong
  • Viet Congはカナダ・カルガリーで結成されたポスト・パンク・バンド。悪趣味なバンド名は泥沼化したヴェトナム戦争を否が応でも思い出させる。Matt Flegel(ヴォーカル、ベース)、Mike Wallace (ドラムス)、Scott "Monty" Munro(ギター、シンセ)、Daniel Christiansen(ギター)という4人組で、トライバルなドラムスや耳障りなギター、自己嫌悪と自己陶酔の入り混じったヴォーカルなどがニュー・ウェイヴの記憶をフラッシュバックさせる。モントリオール出身のOughtがTelevisionならば、Viet Congはエコバニ(Echo & The Bunnymen)なのかもしれない。デビュー・アルバムの曲数が全7曲と少ないのはポスト・パンクにしては演奏時間が長いからで、ラストの〈Death〉に至っては11分に及ぶ。それだけに曲構成も複雑で、「迷宮的ポスト・パンク」(labyrinthine post-punk)というレヴューもある。Preoccupations(没頭・夢中)に改名して、2枚のアルバムをリリースしているけれど、Viet Cong(ヴェト・コン)というバンド名の方がインパクトあったなぁ。

  • ◎ Sun Coming Down(Constellation 2015)Ought
  • Oughtは加モントリオール・ケベックで2011年に結成されたポスト・パンク・バンド。Tim Darcy(ヴォーカル、ギター) 、Ben Stidworthy(ベース)、Matt May(キーボード)、Tim Keen(ドラムス、ヴァイオリン)の4人組で、パンク・バンドにしては1曲の演奏時間が長い。Mark E. Smith(The Fall)を髣髴させるバンドは静動、緩急を交えながら曲調も変化して行く。1stアルバム《More Than Any Other Day》(2014)には5分以上の曲が6曲、2ndアルバムにも5曲ある。Darcyの「頑固で耳障りなギター・ノイズが催眠的で詮索好きな第3の眼の至福に取って代わる」というオープニングの〈Men For Miles〉。変拍リズムから、混沌としたフィードバック・ノイズの大渦に巻き込まれる〈Sun's Coming Down〉。〈Marquee Moon〉から〈Once In A Lifetime〉に変化して行く〈Beautiful Blue Sky〉など‥‥全8曲・40分。見開き紙ジャケ仕様。チラム・ランバート(Chyrum Lambert)のアルバム・カヴァは《Remain In Light》(1980)を反映しているという。

  • ◎ Songs Of Praise(Dead Oceans 2018)Shame
  • 英サウス・ロンドンで結成された5人組のデビューアルバム。メンバー全員が20か21歳という若いポスト・パンク・バンドである。Charlie Steenのヴォーカルは怒りを爆発させる激情型のパンク・スタイルだが、Eddie GreenとSean Coyle-Smithの2本のギター(ストラトキャスター)がクリアなハイトーンを奏でて、Josh FinertyのベースとCharlie Forbesのドラムスが縦揺れでなく、横揺れのグルーヴを生み出す。意外とメロディアスでダンサブルなのだ。ハードコア化したエコバニみたいな〈Concrete〉、「肺が草臥れているのは煙が充満しているからだ」と歌う〈One Rizla〉、Happy Mondaysの〈Kinky Afro〉を髣髴させる〈Friction〉には思わず頬も緩む(The B-52'sの〈Rock Lobster〉をライヴでカヴァする茶目っ気もある)。メンバーが3匹の子ブタを抱いているアルバム・カヴァも可笑しい。豚ジャケに外れなし?‥‥3面見開き紙ジャケ仕様で、歌詞はインナーに記載されている。

  • ◎ We Are Ill(Box 2018)ILL
  • 英マンチェスター出身の女性バンドにも40年前に冷凍保存されたThe B-52'sや90年代に核爆発したBikini KillのDNAが組み込まれているらしい。アンコーツの廃工場で18カ月以上にも渡ってレコーディングされたというデビュー・アルバムは彼女たちの禍々しいメイキャップで飾られている。ハロウィンのコスプレの域を超えた仮装も「ビョーキ」なのだから仕方がないのかもしれない。Harri Shanahan(キーボード)、Sadie Noble(ギター、テープ、パーカッション)、Whitney Bluzma (ベース、パーカッション)、Fiona Ledgard (ドラムス)、Tamsin Middleton(ヴォーカル)。ドラマーを除くメンバーも歌って(叫んで)いるので、「女三人寄れば姦しい」どころか、5人も集まれば五月蝿いのだ。NHS(国民保健サービス)を批判した〈ILL Song〉、NASA(米航空宇宙局)のセクハラ疑惑に言及した〈Space Dick〉「私のクマの餌食にしたい」 と執拗にリフレインする〈Bears〉、10分に及ぶサイケデリック・デス・ディスコの〈Slithering Lizards〉など、全9曲・41分。

  • ◎ Goat Girl(Rough Trade 2018)Goat Girl
  • 英サウス・ロンドン出身の女性4人組のデビュー・アルバム。「山羊少女」というバンド名は米コメディアン、ビル・ヒックス(Bill Hicks)の形態模写「Goat Boy」に由来するという。いわゆるポスト・パンクで、ロッティ・クリーム(Clottie Cream)の気怠いヴォーカルと隙間の多いサウンドはThe Slits、グランジ風のノイジーなギターはPJ Harveyを想わせる。火刑にして、死フォン・ケーキ(cyanide cake)を顔に喰らわせて、斬首する〈Burn The Stake〉、電車内で盗撮するスマホ男の頭を殴ってやりたいと歌う〈Creep〉など‥‥全19曲・40分という構成は2分未満の曲が8曲も入っているから。「安いサイダーを飲みながらアンドレ・ブルトンの詩集を読むような、不条理で遊び心のある体験」(Pitcfork)というレヴューもある。見開き紙ジャケ仕様。4つ折りカード入り。アルバム・カヴァにはミゲル・カサルビオス(Miguel Casarrubios)のアクリル画が使われている。

  • ◎ When I Have Fears(Human Season 2019)The Murder Capital
  • The Murder Capitalはアイルランド・ダブリン出身のポスト・パンク・バンド。James McGovern(ヴォーカル)、Damien Tuit、Cathal Roper(ギター)、Gabriel Paschal Blake(ベース)、Diarmuid Brennan(ドラムス)の5人組は10年代後半にデビューしたIdles、Shame、Fontaines D.Cなどと比較されるが、パンクの範疇に収まらない大物感がある。Floodがプロデュースしたデビュー・アルバムは先達のU2やEcho & The Bunnymenの影も見え隠れする。60秒の不気味なギター、不穏なビート、雷鳴が轟き、「私は芯から腐食された至福のない星。君が残したいと思う地下世界‥‥」という警告の後にメロディが現われる〈For Everything〉。五月雨式ドラムスと浮游するギターが織りなす(Joy Divisionの〈Heart And Soul〉みたいな?)〈Green & Blue〉。切々と歌われるバラードの〈On Twisted Ground〉。ピアノと低音ヴォイスの〈How the Streets Adore Me Now〉‥‥騒音パンクから静寂バラードという振幅・起伏の激しいアルバム構成も凝っている。全10曲・44分。見開き紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(8頁)付き。

  • ◎ Dogrel(Partisan 2019)Fontaines D.C.
  • 2017年、アイルランド・ダブリンで結成されたポスト・パンク・バンドのデビュー・アルバム。Grian Chatten(ヴォーカル)、Carlos O'Connell、Conor Curley(ギター)、Tom Coll(ドラムス)、Conor Deegan III(ベース)の5人組で、同郷のThe Murder Capitalよりもポスト・パンク度が高い。バンド名は映画「ゴッドファーザー」(The Godfather 1972)で、アル・マルティーノ(Al Martino)が演じた歌手・俳優ジョニー・フォンテーン(Johnny Fontane)に由来する。The Fontainesという同名のバンドがLAに存在していたことから、D.C.(Dublin City)というイニシャルを加えたという。アルバム・タイトルはアイルランドの古い民衆詩 「ドグレル」(Doggerel)へのオマージュである。正統派パンクの〈Big〉、The Smithsがポスト・パンク化したみたいな〈Television Screens〉、インディ・ギター・ポップの〈Liberty Belle〉、朴訥としたフォーク・ワルツの〈Dublin City Sky〉 ‥‥全11曲・40分。デジパック仕様、歌詞ブックレット(8頁)付き。7月末に2ndアルバム《A Hero's Death》(2020)がリリースされます。

  • ◎ The Talkies(Rough Trade 2019)Girl Band
  • Girl Bandは2011年にアイルランド・ダブリンで結成されたポスト・パンク・バンド。Dara Kiely (ヴォーカル)、Alan Duggan(ギター)、Adam Faulkner(ドラムス)、Daniel Fox(ベース)‥‥「少女楽団」という名称に反してメンバー4人は全員男性で、女装趣味があるわけでもない。The Murder CapitalやFontaines D.C.など同郷のポスト・パンク勢に比べて、ノイズ&インダストリアルの含有量が多い。4年振りの2ndアルバムはDara Kielyの呼吸音から始まる。2分弱のドローン〈Prolix〉はスタジオで起こったパニック発作の記録だという。渦巻くノイズに巻き込まれる〈Shoulderblades〉、咆哮から怒涛の展開を見せる〈Prefab Castle〉など、「響きと怒りに満ちた」(Full of sound and fury)ノイズ・ロックだが、〈Aibohphobia〉のような言葉遊びもある(「アイボ恐怖症」(Aibohphobia)は回文から生まれたユーモラスな造語なので、精神医学的な症状として実在するわけではない)。全12曲・46分。見開き紙ジャケ仕様、9つ折り歌詞・ポスター付き。

  • ◎ Schlagenheim(Rough Trade 2019)Black Midi
  • ブラック・ミディ(black midi)は英ロンドンで結成された4人組。バンド名はMIDIファイルを利用した日本の電子音楽ジャンル「Black MIDI」に由来するという。ポスト・パンク、マス・ロック、クラウト・ロック、ポスト・ハードコアなどのジャンルを超えた彼らの音楽は弾幕系シューティング・ゲームのような「黒楽譜」のアナロジーなのかもしれない。ドイツ語タイトルのデビュー・アルバムは6拍子と5拍子が激しく交錯する〈953〉、人を喰った羊頭狗肉な〈Reggae〉、高速爆走パンクの〈Near DT, MI〉、牧歌的なアルペジオから始まる〈Western〉、爆撃機からの大量投下を想わせる〈Bmbmbm〉など全9曲・43分。デイヴィッド・ラドニック(David Rudnick)のコラージュ・カヴァ(廃棄物の集積)が何か忌まわしいオブジェに変貌するように、black midiの音楽も怪物的なアッサンブラージュとして姿を現わす。CDシングル・ジュエルケース仕様。8つ折り歌詞・ポスター封入。

  • ◎ Every Bad(Secretly Canadian 2020)Porridge Radio
  • ポリッジ・レディオ(Porridge Radio)は2015年、英ブライトンで結成されたポスト・パンク・バンド。Dana Margolin(ヴォーカル、ギター)率いる、Georgie Stott(キーボード、ヴォーカル)、Maddie Ryall(ベース)、Sam Yardley(ドラムス、ギター、ベース)の4人組(女3・男1)。2ndアルバムはPatti SmithやPJ Harveyを想わせるダナ・マゴリンのエモーショナルなヴォーカルとタイトなアンサンブルが素晴しい(ポスト・パンク版ステレオラブかしら?)。「Thank you for making me happy」と執拗に繰り返す〈Born Confused〉、Sonic YouthやPixes風ヘヴィ・ノイズ・ロックの〈Sweet〉、浮游感のあるシューゲイズからカオス化する〈Lilac〉、回転木馬ワルツの〈Circling〉、フィル・コリンズの〈夜の囁き〉みたいな〈Homecoming Song〉‥‥最後までリスナーの胸を鷲掴みにして離さない。全11曲・42分。三面見開き紙ジャケ仕様。歌詞はインナーに記載されている。

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    • レヴューした10枚のアルバム(輸入盤 2015 - 2020)は全て自腹で購入にゃん^^;

    • Viet Cong、Shame、ILL、Goat Girl、Black Midiは再録(一部加筆・改稿)です

    • 「ディスク・ガイド ポスト・パンク」(MUSIC MAGAZINE 7月号)を参照しました
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    Viet Cong

    Viet Cong

    • Artist: Viet Cong
    • Label: Jagjaguwar
    • Date: 2015/01/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Newspaper Spoons / Pointless Experience / March Of Progress / Bunker Buster / Continental Shelf / Silhouettes / Death
    Sun Coming Down

    Sun Coming Down

    • Artist: Ought
    • Label: Constellation
    • Date: 2015/09/18
    • Media: Audio CD
    • Songs: Men For Miles / Passionate Turn / The Combo / Sun's Coming Down / Beautiful Blue Sky / Celebration / On The Line / Never Better

    Songs Of Praise

    Songs Of Praise

    • Artist: Shame
    • Label: Dead Oceans
    • Date: 2018/01/12
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dust On Trial / Concrete / One Rizla / The Lick / Tasteless / Donk / Gold Hole / Friction / Lampoon / Angie

    We Are Ill

    We Are Ill

    • Artist: ILL
    • Label: Box
    • Date: 2018/05/18
    • Media: Audio CD
    • Songs: ILL Song / Space Dick / Stuck On A Loop / Bears / Bus Shelter / I Am The Meat / Slithering Lizards / Power / Hysteria


    Goat Girl

    Goat Girl

    • Artist: Goat Girl
    • Label: Rough Trade
    • Date: 2018/04/06
    • Media: Audio CD
    • Songs: Salty Sounds / Burn The Stake / Creep / Viper Fish / A Swamp Dog's Tale / Cracker Drool / Slowly Reclines / The Man With No Heart Or Brain / Moonlit Monkey / The Man / Lay Down / I Don't Care Part 1 / Hank's Theme / I Don't Care Part 2 / Throw Me A Bone / Dance Of ...


    When I Have Fears

    When I Have Fears

    • Artist: Murder Capital
    • Label: Human Season
    • Date: 2019/08/16
    • Media: Audio CD
    • Songs: For Everything / More Is Less / Green & Blue / Slowdance I / Slowdance II / On Twisted Ground / Feeling Fades / Don't Cling To Life / How The Streets Adore Me Now / Love, Love, Love


    Dogrel

    Dogrel

    • Artist: Fontaines D.C.
    • Label: Partisan
    • Date: 2019/04/12
    • Media: Audio CD
    • Songs: Big / Sha Sha Sha / Too Real / Television Screen / Hurricane Laughter / Roy's Tune / The Lotts / Chequeless Reckless / Liberty Belle / Boys In The Better Land / Dublin City Sky


    Schlagenheim

    Schlagenheim

    • Artist: black midi
    • Label: Rough Trade
    • Date: 2019/06/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: 953 / Speedway / Reggae / Near DT, MI / Western / Of Schlagenheim / Bmbmbm / Years Ago / Ducter


    The Talkies

    The Talkies

    • Artist: Girl Band
    • Label: Rough Trade
    • Date: 2019/09/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Prolix / Going Norway / Shoulderblades / Couch Combover / Aibohphobia / Salmon Of Knowledge / Akineton / Amygdala / Caveat / Laggard / Prefab Castle / Ereignis


    Every Bad

    Every Bad

    • Artist: Porridge Radio
    • Label: Secretly Canadian
    • Date: 2020/03/13
    • Media: Audio CD
    • Songs: Born Confused / Sweet / Don't Ask Me Twice / Long / Nephews / Pop Song / Give/Take / Lilac / Circling / (Something) / Homecoming Song

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