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コロナ籠もりの日々 [b l o g]



  • 湯のたぎる音がしはじめたので、わたしはマロンを膝から下ろし、台所に行って珈琲を淹れた。マロンはわたしの足もとにすり寄ってきた。マロンのためには皿にコーンフレークとミルクをいれ、珈琲カップといっしょに居間に持ってきた。ソファに腰を下ろし、珈琲とミルクをテーブルに置くと、マロンはすぐに膝にとび乗り更にテーブルに乗って、皿に首をつっこんだ。/「おいしいかい?」/ わたしは声に出して言った。/ 一人でマンション暮らしをしていると、一日じゅう、誰とも喋らないことがある。食事のための買物は近くのスーパー・マーケットを利用する。備えつけの籠に品物を放りこみ、レジで清算するだけだから、売り手と話をかわすこともない。何か荒涼としてもいるけれど、しじゅう他人が介入してくるような生活よりはわたしにむいているようだ。/ 西田安雄といっしょにうなぎを食べたりしたのは、数少ない、他人と交流するひとときだった。/「おいしいかい?」/ もう一度訊いた。
    皆川 博子 『花の旅 夜の旅』


  • 「コロナ籠もり」の影響なのかどうか分からないが、拙ブログが「音楽 ブログランキング」の24位に入った(2020-05-15)。ソネブロの公式ランキングは上位25位までしか表示されない。「管理ページ」には「アクセスランキング:940位」「ブログテーマ:音楽(24位 / 7707ブログ中)」と表示されている。ランキングはPV(pageview)ではなく、訪問者数(visited)の集計なので、数多くの読者が閲覧してくれないと順位は上がらない。1人が複数の記事‥‥たとえば100件の記事を読んでもランキングには「1」としかカウントされない。あくまでもテーマ別(音楽)の順位なので、「アクセスランキング」とは必ずしも比例しない。前日よりも訪問者が多くなっても、順位が上がるとは限らない。このランキングが反映される14日の訪問者数は170、PVは675だった。ちなみに5月10日の訪問者数は303、PVは749だったが、残念ながら25位以内には入らなかった。


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    「コロナ籠もり」で痛感したのは、いかに図書館(休館中)とレコード店(休業中)に依存していたかである。食料や生活必需品の買い出しを除くと、私用で外出するのはネコ撮り散歩くらいになってしまった。そもそもヒトと接触するよりもネコと接する機会の方が多いので、今さら「8割減」と言われても困惑するだけである。外出して躰を動かさないと気分も晴れず、体調が悪くなるので、毎日の散歩は欠かせない。今は近所のネコたちと親交を暖めて、写真を撮るのが何よりも愉しい。「ネコとネコ 感染しやすい」(朝日新聞 2020・5・14)という記事によると、「ネコを含めペットからヒトに感染した事例は報告されていない」が、ネコとネコ、ヒトからネコに感染するリスクがあるという。未読の本や未聴のアルバム(CD)も少なからず卒塔婆のように積まれているので、「コロナ籠もり」中に退屈することはないけれど、図書館やレコード店で新刊や新譜を物色出来ないのはストレスにゃん。

    《Atlanta Millionaires Club》 (Secretly Canadian 2019)は米ジョージア・アトランタを拠点に活動する女性SSWフェイ・ウェブスター(Faye Webster)の3rdアルバム。金貨(チョコ?)を頬張るアルバム・カヴァは成金趣味っぽいけれど、「アトランタ百万長者倶楽部」というタイトルは彼女の父親が院生の友人グループ(5kmレースとドーナツ早食い競走を主催するチャリティー・クラブ)につけた名前に由来するという。軽やかな曲線を描くペダル・スチールの甘美な音色と午睡の夢のように気怠そうなヴォイスの組み合わせは弱冠21歳とは思えない魅力に溢れている。「もっと外に出て楽しまなくちゃ」(I should get out more)とリフレインする〈Room Temperature〉は「Stay Home」というコロナ対策とは真逆のメッセージ。ハワイアン・ダンスとアーティスティック・スイミング(旧シンクロ)と海辺のギター弾き語りの取り合わせが奇妙なPVにも癒されます。

    毎日アルバムを1枚ずつ聴いて記事〈帰って来たクリアランス 2020〉を書いた一週間は愉しかった。Bianca Gismonti Trioのアルバムはヴォーカル入りの〈Danca, Mandela〉から俄然面白くなる。ジャニ・ドゥボック(Jane Duboc)の〈A Luz Sem O Veu〉やパウラ・サントーロ(Paula Santoro)の〈Lenda De Francisco〉は新ミナス派の浮游感に溢れているし、ビアンカ・ジスモンチの自由奔放なスキャットが飛び跳ねる5/6拍子の〈Glaucia Do Samba〉にも心躍る。ワイズ・ブラッド(Weyes Blood)はカレン・カーペンターの生まれ変わりのようだし、看護師の実習中に末期の癌患者から、自分の夢を追い駆けるように促されたというケリー・リー・オーウェンス(Kelly Lee Owens)のヒーリング・ミュージックにも胸打たれた。グラヴェオラ(Graveola)のルイザ・ブリーナ(Luiza Brina)とジョゼ・ルイス・ブラガ(Jose Luis Braga)がデュエットした〈Aurora〉のPV‥‥無人のリモート・バーで踊っている 「女性」(Lazaro dos Anjos)はLGBTQである。


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    売れない作家・鏡直弘(小生)は花と旅をテーマにした女性向けの隔月刊誌「ウィークエンド」の編集者・那智克人から「花の旅」の連載を依頼される。季節折々の花の名所とモデルのグラビア(4頁)に、花をモチーフにした短篇(平戸、網走、能登)を掲載するという企画だった。ところが能登への取材中にカメラマン・新藤圭太の妻・真弓(マネージャー)が海に墜ちて死亡し、鏡直弘も睡眠薬の過剰摂取で死んでしまう。4年前に新人賞を同時受賞した針ケ尾奈美子(わたし)が皆川博子(鏡直弘のペンネーム!)の連載の第4話以降(京都、北鎌倉、東京)を引き継ぐことになる。月刊誌「デリカ」(千趣会 1978-79)に1年間連載された『花の旅 夜の旅』(講談社 1979)は作中作の短篇と「鏡直弘と針ケ尾奈美子のノート」を交互に挿み込んだ構成で、最後にフィクションとストーリ(現実)が融合するメタ・ミステリ。『花の旅 夜の旅』(扶桑社 2001)はサイコ・ミステリ長編『聖女の島』(1988)と合本した「昭和ミステリ秘宝シリーズ」(扶桑社文庫)の1冊。文庫化した際に『奪われた死の物語』(講談社 1986)に改題されたが、元のタイトルに戻された。


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    • 苦節15年!‥‥テーマ別ブログランキング(音楽)の25位以内に入りました^^;

    • 「コロナ籠もり」 で、レコード店(休業中)にも、図書館(休館中)にも行けません

    • Kelly Lee Owensの《Inner Song》(CD)はコロナ禍の余波で8月に延期された
    • 鏡直弘(KAGAMI NAOHIRO)と針ケ尾奈美子(HARIGAWO NAMIKO)は皆川博子(MINAGAWA HIROKO)のアナグラムです
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    s k n y s - s y n k s

    s k n y s - s y n k s

    • Author: sknys
    • Articles: 918
    • Date: 2020/05/21
    • Pageview: 4,153,719
    • Media: Blog


    Atlanta Millionaires Club

    Atlanta Millionaires Club

    • Artist: Faye Webster
    • Label: Secretly Canadian
    • Date: 2019/05/24
    • Media: Audio CD
    • Songs: Room Temperature / Right Side Of My Neck / Hurts Me Too / Pigeon / Jonny / Kingston / Come To Atlanta / What Used To Be Mine / Flowers / Jonny (Reprise)


    花の旅 夜の旅(昭和ミステリ秘宝)

    花の旅 夜の旅(昭和ミステリ秘宝)

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:扶桑社
    • 発売日:2001/08/01
    • メディア:文庫(扶桑社文庫)
    • 目次:花の旅 夜の旅 / 聖女の島 / 講談社版『聖女の島』解説・綾辻 行人 / あとがき・皆川 博子 / 解説・日下 三蔵 / 著作リスト


    奪われた死の物語

    奪われた死の物語(改題 「花の旅 夜の旅」)

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:講談社
    • 発売日:1986/12/15
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次:平戸 / 鏡直弘のノート(I)/ 網走 / 鏡直弘のノート(II)/ 能登 / 針ケ尾奈美子のノート(I)/ 京都 / 針ケ尾奈美子のノート(II)/ 発表されなかった第三話 / 針ケ尾奈美子のノート(III)/ 北鎌倉 / 針ケ尾奈美子のノート(IV)/ 東京 / 針ケ尾奈美子のノート(V)/ 解説・清原 康正

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