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ココナッツな午後 [p a l i n d r o m e]



  • 僕も友人も、〈猫〉〈舌〉〈男〉は読めたが、〈爵〉という真っ黒い文字がわからなかった。二人でカンワ辞典で調べ、〈男爵〉が男爵を意味することを理解した。/ おお、『もんてくりすと伯爵』のような波瀾万丈の物語であろう。ということは、ヤマダ・フタロのような、驚天動地の物語であるに違いない。友人と僕の期待は高まった。/ 〈猫舌〉は、文字通りにとれば猫の舌である。/ 猫はさまざまな寓意を持たされる動物である。多くの場合、犬は男に、猫は女になぞらえられる。かの、べるぎーの劇詩人も、童話劇において、犬の本性を男、猫のそれを女として描いている。男は仕える主人に忠実であるが、旨い食い物のためには裏切りも辞さず、女は徹頭徹尾裏切りっぱなしである。/ 猫舌男爵は、男である。ばろねすではないのである。猫の舌はちーず卸しなどよりはるかに鋭く尖ったざらつきがある。男爵は、舌に刺を持つ怪異な人物なのであろうか。/ 男爵は、気に入った少女を攫い、監禁し、夜な夜な、刺のある猫舌で、少女の足の裏を舐めるのであろうか。
    皆川 博子 「猫舌男爵」


  • □ 田中みな実、流れた涙。妬み雪崩が波々彼方
    民放TV局が新人女子アナをバラエティ番組の司会やレポータなどに起用するようになってから、アイドル化が始まった。NHK以外の民放局が入社試験で、容姿も加味して採用していることは明白である。ミス・キャンパスや元アイドルの女子アナも少なくない。マス・メディアと視聴者が「女子アナという名のモンスター」を作り上げてしまった。退社〜フリー・アナ〜プロ野球選手と結婚という「上がり」も用意されている。写真集『Sincerely yours…』(宝島社 2019)を出版した田中みな実は《テレビ局のアナウンサーのときから「嫌いな女子アナ」ランキングで上位だった私は、「あざとい」 「ぶりっ子」 と言われてきました。キャラを演じている、ですか? 求められていることを100%の力でやるのを「演じる」というならそう。嫌われたとしても強いイメージを残せたほうがいいし、それに乗っちゃったほうがいいと考えています》(Dear Girls 朝日新聞 2020・3・6)とインタヴューで語っている。

    □ 海老・鹿・鰐・鴨・蟹‥‥和菓子冷え
    神無坂のレストラン《YUI》は「特別料理」を提供する店として有名である。R**大学文学部哲学科研究室助手の「私」は新入生歓迎コンパの二次会で流れた居酒屋でフジツボを食す。その様子を隣のテーブルから見ていた50代後半の紳士から《YUI》という店を紹介された。1カ月後、「私」と妻は《YUI》で食事をする。「私」は☆印のついたメニューの中から 「ハツカネズミとハムスターとモルモットのミックスグリル」 「チャバネゴキブリ入り特製チャーハン・ミジンコ風味」 、妻には 「ウシガエルとそのオタマジャクシとその卵の親子三代シチュー」 、「イグアナ酒」 「カマキリのガーリック炒め」を注文した。デザートは 「トノサマガエルの卵入り杏仁豆腐」 ‥‥《YUI》はゲテモノ、イカモノ喰いの店だったのだ。「特別料理」に興味を持った私は彼女を誘って、小説のモデルとなった神無坂のレストラン**へ行き、シェフお任せコースをオーダーした。どんな「特別料理」が出て来るのかと期待していたが、運ばれて来たのは海老のアヒージョ、鹿肉のロースト、鰐のタプナード、鴨肉のコンフィ 、蟹のミルフィーユ‥‥デザートは抹茶の水羊羹だった。

    □ ポラロイド課・保安官、アボガド色ラボ
    太陽フレアによる巨大磁気嵐で地球上の情報通信システムが壊滅状態となった近未来。人工衛星からの通信も途絶え、スマホなどの携帯端末なども通話出来なくなった。一部の地域では電力供給などのインフラにも甚大な障害が生じている。停電によって信号機は止まり、監視・防犯カメラも作動せず、可視化取り調べ(録音・録画)やホロ・スキャナー(盗聴・盗撮)なども使えない。最新デジタル機器は鉄の鶏肋となった。カリフォルニア州オレンジ郡の警察署では「ポラロイド課」なる部署が新設された。一瞬で全データを消失してしまう危惧のあるデジタルよりも古き良きアナログ機器が見直されたのだ。カメラならばデジタルではなくフィルム、フィルムよりも現像する手間の入らないポラロイドの復活である。事件現場の痕跡や証拠写真、容疑者の写真撮影は全てポラロイド・カメラで撮影する。ポラロイド課の保安官カメレオンの研究室の内装は何故か緑一色のアボガド色なのだ。

    □ 火の粉・寝転び・花火、名は博子・猫の日
    「猫の日」は少なくとも1年に2回あるのだ。日本の2月22日(2・2・2とニャン・ニャン・ニャンの語呂合わせ)と、国際動物福祉基金が2002年に制定した8月8日の「世界猫の日」(World Cat Day)‥‥地元の花火大会に行った博子さんは芝生に寝転んで夜空を眺めていた。町内で毎年開催されている夏祭りの最終夜に打ち上げられる花火。菊先、牡丹、錦冠など‥‥大音響の後、暗い夜空に極彩色の花々が華開く。風下なのか、風に乗って焦げ臭い硝煙が流れ、黒い燃えカスが飛んで来る。ロケット花火が放物線を描いて飛ぶ。博子さんはケイト・ブッシュの〈Rocket's Tail〉を思い出して微笑む。まるで今夜の花火大会のような迫力満天の曲ではなかったか。ロケット(Rocket)というのはケイトの飼猫の名前で、本当は「ネコの尻尾」という意味だと知ったのはネコを飼うようになってからだった。今日は「世界猫の日」。飼い猫のケイトちゃんも花火見物に連れて来れば良かったと少々悔んだ。

    □ 故人偲ぶ過去、寡婦の宍道湖
    島根県松江市から出雲市に渡る宍道湖は日本で7番目に大きな湖である。海水を含む汽水湖なので多くの魚介類が棲息している。鱸、モロゲエビ(ヨシエビ)、鰻、アマサギ(ワカサギ)、白魚、鯉、蜆(ヤマトシジミ)は宍道湖七珍として知られている。宍道湖の知名度を上げたのは日没30分間のドラマ‥‥湖面をを赤く染める夕陽に浮かび上がる嫁ヶ島のシルエットでクライマックスを迎えるという。湖上に浮かぶ嫁ヶ島には氷の張った湖面を渡っていた若い嫁の足許が割れて冷たい湖底に沈み、憐れに思った水神が小さな島を浮上させて亡骸を湖面へ引き揚げたという悲しい伝説も遺っている。宍道湖を巡る観光遊覧船「はくちょう号」の最終便でサンセット・クルージングも楽しめる。風光明媚な湖だが、それ故に「入水自殺の名所」にもなっている。心霊スポットやゼロ磁場などもあるらしい。夕暮れ時、湖畔に佇む女性のシルエットがあった。10年前に入水自殺した夫を偲ぶ寡婦の姿だった。

    □「レバニラ、後ろめたいわ」韮、裏庭炒め、路地裏にバレ
    今夜の料理当番は私だった。台所でレバニラ炒めを作ろうとしたら、家人からキッチン内に嫌な臭いが籠るので外でやってくれと命じられた。仕方がないので猫の額のように狭い裏庭で調理することにした。非常用に置いてある七輪の火を熾し、フライパンでレバーを炒めてニラを投入する。長年の悪しき習慣だった煙草の喫煙場所が換気扇の下からヴェランダ、そして裏庭へ追いやられたことを思い出す。潔癖すぎる妻というのも善かれ悪しかれではないか。毎日欠かさずダイソンのコードレス掃除機で室内を隈なく清掃する。抜け毛の多さを嫌味ったらしく非難する。毎夜風呂に入らないと機嫌が悪い。特に臭いには犬や猫並みに敏感だ。1日中空気清浄機を稼働させて、辺り構わず消臭スプレーを振り撒く。レバニラの匂いが裏庭から路地裏へ流れ込んだのか、近所のノラネコたちが集まって来た。

    □ 実る紫蘇味だ!‥‥猫舌男爵は悔しんだ。出汁捏ねた味噌汁飲み
    吾輩は猫舌男爵である。巷間では少女の美脚を舌で舐め舐めするのが大好きな「エロ男爵」などと揶揄されているが、吾輩は変態ネコ男では断じてない。針ケ尾奈美子の「清純な乙女を、残虐冷酷な猫舌男爵が苛む物語」は吾輩をモデルにしたフィクションなので、事実と異なることも少なからず含まれている。女性の脚を舐める行為は成人男子にも多く見られる一般的な性的嗜好だ。ヤン・ジェロムスキ氏は「訳者あとがき」の中で、「気に入った少女を攫い、監禁し、夜な夜な、刺のある猫舌で、少女の足の裏を舐めるのであろうか」などと書いているけれど、吾輩は映画「コレクター」(1965)の独身男のような性的虐待者ではない。嫌がる少女を無理矢理に誘拐・監禁したことは一度もない。ネコ好きの少女たちが自らの好奇心から猫舌男爵邸を訪れるのだ。今日遊びに来た美少女M子は手料理を振舞ってくれた。紫蘇の実入りの特製味噌汁を飲んだ吾輩は思わず叫んだ‥‥「熱じ〜〜〜〜〜〜ぃ!」

    □「ねぶた」がヤバい。警戒、競馬、屋形船
    新型コロナウイルスの感染が世界中に蔓延している。発祥地とされる中国(湖北省武漢)の感染者数は減少しているが、WHO(世界保健機関)が「パンデミック宣言」をしたことで、東京五輪の開催も危ぶまれる緊急事態になった。日本政府は豪華客船ダイヤモンド・プリンセスへの初期対応を誤った。乗客と乗務員を下船させずに2週間「隔離」したことで逆に船内での感染が拡がった。感染者をクルーズ船内に閉じ込めておけば日本国内への感染を封じ込められると楽観視していたのだろうが、その間にコロナウイルスの国内感染が密かに拡散していたのだ。屋形船やライヴ・ハウスなど、狭い閉鎖空間に多数の人が集まる場所がクラスター感染の温床となるらしい。ディズニーランドやUSJなどのテーマパークも軒並み休園に追い込まれた。無観客競馬、大相撲三月場所も無観客開催、選抜高校野球は中止、プロ野球の開幕戦やJリーグの試合も延期された。青森の夏祭り「ねぶた」は開催されるだろうか。

    □ パンデミック、マラバリスタは肌擦り、バラ撒く罪、伝播
    2020年3月11日、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長は新型コロナウイルスの感染拡大が「パンデミック」であることを認めた(奇しくも東日本大震災から9年目の日だった)。WHOによると感染者は110の国で確認され、感染者は約11万人、死者数は4千人を超えるという。韓国、イタリア、イランで急増し、アメリカにも拡散した。新型コロナウイルスの発祥地は中国(湖北省武漢)ではなく、ポルトガル・リスボンではないかという異説が流布している。ロシオ広場とコメルシオ広場を繋ぐアウグスタ通りは歩行者天国になっていて、大道芸人のパフォーマンスを見物する観光客たちで賑わっているという。空中浮游紳士、フラメンコ・ダンス、人間マネキン、辻楽師‥‥その中の1人、ジャグリングをしていたマラバリスタ(曲芸師)が中国人観光客と「濃厚接触」したことから、コロナウイルスが世界中に拡散したという。「ウイルスはデマも一緒に連れてくる」‥‥「米軍が武漢に持ち込んだ可能性がある」という陰謀論まで出て来たのだ。

    □ 異名・カワイレナ、片仮名。令和、改名
    カワイレナ(aka 河井玲奈)は兵庫県生まれの地下アイドル。5年間活動していたアイドルユニットloop(ループ)からの卒業を機に、河井玲奈からカタカナ表記の「カワイレナ」に改名。2019年3月、「LOVEReS〈ラヴレス〉」 の新メンバーとなって活動中である。11月にはライヴ・ハウス「新宿 MARZ」で「カワイレナ生誕祭」を開催。 1st写真集『白群』(アイドルヴィレッジ 2019)も出版された。逗子の海辺で撮影したという写真集にはスタイリストが用意した衣裳だけでなく、彼女の私物(衣服や小物)も数多く使われたという。女性カメラマン「福田瞳さんのインスタ」には『白群』の写真が数点アップされている。昨年暮れ、子年(2020)の年賀状を書いていて気づいた。「カワイレナ」を逆に綴ると「ナレイワカ」‥‥新元号の「レイワ」が入っていることに。「カワイレナ」は新時代の幕開けに相応しい縁起の良い名前ではないかしら。「令和のアイドル」として大空に羽搏いて欲しい。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい^^;

    • 綾辻行人『眼球綺譚』(集英社 1995)の 「特別料理」 から引用 、フィリップ・K・ディック『スキャナー・ダークリー』(早川書房 2005)のイメージを借りました

    • 「宍道湖」 「嫁ヶ島」 「リスボン:アウグスタ通りの大道芸人」 などを参照しました

     スニンクスなぞなぞ回文 #58

     夜廻り猫◇△◎☆▽◯会いあ◯▽☆◎△◇粉練り和マヨ

     回文作成:sknys

     ヒント:平蔵とK姐さんの和風レシピ


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    田中みな実 1st写真集 Sincerely yours...

    田中みな実 1st写真集 Sincerely yours...

    • 著者:田中 みな実
    • 出版社:宝島社
    • 発売日: 2019/12/13
    • メディア:単行本
    • 内容紹介:フリー転進後、数多くの女性ファッション誌や美容誌で特集が組まれ、瞬く間に「女性が憧れる女性」として人気となった、フリーアナウンサー・田中みな実の1st写真集が発売決定!撮影は豊かな自然と美しい海に囲まれた、スペイン・バルセロナにて2019年の秋に敢行。スペイン中心部から少し離れた小さな町で借りた別宅やバルセロナ中心地...


    眼球綺譚

    眼球綺譚

    • 著者:綾辻 行人
    • 出版社:角川グループパブリッシング
    • 発売日: 2009/01/24
    • メディア:文庫(角川文庫)
    • 目次:再生 / 呼子池の怪魚 / 特別料理 / バースデー・プレゼント / 鉄橋 / 人形 / 眼球綺譚 / 角川文庫版あとがき / 解説・風間 賢ニ


    The Sensual World(2018 Remaster)

    The Sensual World(2018 Remaster)

    • Artist: Kate Bush
    • Label: Warner Music
    • Date: 2018/11/16
    • Media: Audio CD
    • Songs: The Sensual World / Love And Anger / The Fog / Reaching Out / Head's Were Dancing / Deeper Understanding / Between A Man And A Woman / Never Be Mine / Rocket's Tail / This Woman's Work


    猫舌男爵

    猫舌男爵

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2004/03/27
    • メディア:単行本
    • 目次:水葬楽 / 猫舌男爵 / オムレツ少年の儀式 / 睡蓮 / 太陽馬

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