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ビキニ斬る! [m u s i c]



  • 89年頃、ワシントン州オリンピアで大学に通うトビ・ヴェイルはバンドをしながら『Jigsaw 』というジン(引用者註:Zine)も作っていた。内容はパンク・ロックやフェミニズムなど彼女の主観。自分の立場や安全が脅かされる可能性があるにもかかわらず、彼女はシーンで何が起きているのか(女性に対する暴力や差別などを含む)、それを女性である自分はどう感じたかなどをジンに綴っていた。/ 同じ大学に通い写真を学んでいたキャケリーン・ハナは、フェミにストの視点で創った作品が「卑猥すぎる、暴力的だ」として大学側から検閲を受け、それを機に友人らとフェミニスト・アートのギャラリーを始める。その運営資金をあ埋めるためのショーを行なっていたが、そのほとんどが男の子バンドだった。これに疑問と退屈さを感じ、彼女たちはバンドを始めた。キャケリーンはトビのジンの愛読者で寄稿などもして意気投合、また大学の友人キャシ・ウィルコックスも加わり、3人で『Bikini Kill』というフェミニスト・ジンを作り始めた。1990年ビリー・ボアダムが加わり、ジンと同名のビキニ・キルというバンドが結成される。
    大垣 有香 「私たちの革命 ライオット・ガールというムーヴメント」


  • ◎ Revolution Girl Style Now!(Bikini Kill 2015)Bikini Kill
  • ビキニ・キル(Bikini Kill)が1991年に自主リリースした8曲入りデモ・テープ(CE)がLP&CD化された。Guy Picciotto(Fugazi)のミックス、John Goldenのマスターによるリイシュー盤は未発表3曲〈Ocean Song〉〈Just Once〉〈Playground〉を追加収録した全11曲・31分。デモ・テープなので音質面に不安があったけれど、思っていたよりも悪くない。荒削りなサウンドは90年代初頭の潮流を反映してか、パンクよりもグランジ色が濃い。ベースは極太で、ドラムスも重い。ドスを利かせて凄んでみせても、Kathleen Hannaの可愛いヴォイスは隠し切れない。〈Feels Blind〉〈Carnival〉〈Double Dare Ya〉〈Suck My Left One〉〈Liar〉の5曲はデビューEP《Bikini Kill》(1992)、〈This Is Not A Test〉はHuggy BearとのスプリットLP《Yeah Yeah Yeah Yeah》(1993)に再録されることになる。見開き紙ジャケ仕様。歌詞はインナーに記載されている。

  • ◎ The First Two Records(Bikini Kill 2015)Bikini Kill
  • 「最初の2枚のレコード」という素っ気ないアルバム・タイトルだが、成り立ちには補足説明を要する。6曲入りEP《Bikini Kill》(Kill Rock Stars 1992)と14曲入りLP《Yeah Yeah Yeah Yeah》(2004)を1枚に纏めた編集盤で、後者は元々Huggy Bearとのスプリット・アルバム(1993)としてリリースされた。リイシュー(1994)の際に、Huggy Bearのトラックを省いて、Bikini Killの未発表曲(7曲)を追加収録したことで、彼女たちのアルバムとしては異例のヴォリューム(全20曲・47分)となった。自主リリースしたデモ・テープ(1991)のタイトル「Revolution girl style now!」という叫び声から始まる〈Double Dare Ya〉、女性の悲鳴と共にPlastic Ono Bandの〈Give Peace A Chance〉を無邪気に歌う〈Liar〉、ライヴ・ヴァージョンの〈Thurston Hearts The Who〉‥‥。《Yeah Yeah ‥‥》の後半は〈George Bush Is A Pig〉〈Fuck Twin Peaks〉など、ライヴや練習テープから採られている。見開き紙ジャケ仕様。歌詞ブックレット(8頁)付き。

  • ◎ The Singles(Bikini Kill 2018)Bikini Kill
  • 長らく廃盤になっていたBikini Killのアルバム(Kill Rock Stars)が彼女たちの自主レーベル(Bikini Kill Records)から順次リイシューされている。オリジナル・アルバム《Pussy Whipped》(1993)と《Reject All American》(1996)も2019年6月にデジパック仕様で再発された。《The Singles》(1998)は3枚のEP(全9曲)を纏めた編集盤である。《New Radio》(1993)の3曲はJoan Jett(ギター、ヴォーカル)がプロデュースした。《Anti-Pleasure Dissertation》と《I Like Fucking》(1995)の6曲は同時期のレコーディングで、Tobi Vail(ドラムス)がヴォーカルの〈In Accordance To Natural Law〉と〈I Hate Danger〉はKathleen Hanna(ヴォーカル)がベース、Kathi Wilcox (ベース)がドラムスを担当している。演奏時間は17分と短いけれど、Pitchforkでは「BEST NEW REISSUE 10に輝いた。見開き紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(12頁)付き。

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  • ◎ Pussy Whipped(Bikini Kill 2019)Bikini Kill
  • Bikini Killは1990年、米ワシントン・オリンピアで結成されたパンク・バンド。Kathleen Hanna(ヴォーカル)、Kathi Wilcox(ベース)、Billy Karren(ギター)、Tobi Vail(ドラムス)の4人組‥‥いわゆる「ライオット・ガルー」(riot grrrl)である。元々「Bikini Kill」はKathleen Hannaが発行していたファンジンの名称で、仲間のミュージシャン(Lois Maffeo)のバンド名だったが、「Cradle Robbers」に改名した後に、この名前を気に入っていたTobi Vailが譲り受けたという。デビュー・アルバムは全12曲、25分という潔さ。骨太のベース、ヘヴィなドラムスにノイジーなギター。悲鳴、絶叫、咆哮から猫撫で声まで、Kathleen Hannaのヴォーカルは目まぐるしく変化するネコの目のように変幻自在。Kathi Wilcoxの〈Speed Heart〉(Kathleen Hannaがベースを弾いている)、Tobi Vailの〈Tell Me So〉〈Hamster Baby〉も負けず劣らず凄まじい。〈Rebel Girl〉は「ライオット・ガルー」のアンセムである。デジパック仕様、歌詞カード(1枚)入り。

  • ◎ Reject All American(Bikini Kill 2019)Bikini Kill
  • Bikini Killの2ndアルバムも全12曲、27分と演奏時間は短いが、1〜2分で駆け抜ける爆走パンクだけでなく、〈False Start〉や〈For Only〉など、内省的な曲も収録されている。〈R.I.P.〉は1995年10月、エイズで亡くなった「Hippy Dick Magazine」の発行者Gene Barnes(Portia Manson)に捧げた曲である。攻撃的なパンク女から内向的な少女へ‥‥絶叫しないKathleen Hannaは途端に可愛くなる。デビュー・アルバムのヘヴィでハードなパンク・ロックから脱皮しようとしているようにも感じられる。男性原理のパンクを踏襲するだけでは女性の置かれている現状を打破することは出来ない。〈Reject All American〉の中で、Kathleen Hannaは「良い成績を取って、ギターを弾く。彼はクールだと思っているけれど、本当はクールじゃない」と歌っている。〈Distinct Complicity〉〈For Only〉はTobi Vail(ヴォーカル)、Billy Karren(ギター)、Kathleen Hanna(ベース)、Kathi Wilcox(ドラムス)という編成。最終曲〈Finale〉が暗示していたかのように、リリースの1年後にビキニ・キルは解散してしまう。デジパック仕様、歌詞ブックレット(8頁)付き。
  • Bikini Kill Studio Albums
    • Revolution Girl Style Now!(Self-released 1991)
    • Pussy Whipped(Kill Rock Stars 1993)
    • Reject All American(Kill Rock Stars 1996)
    • The First Two Records(Kill Rock Stars 1994)
    • The Singles(Kill Rock Stars 1998)

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  • Julie Ruin(Kill Rock Stars 1998)Julie Ruin
  • キャスリーン・ハンナ(Kathleen Hanna)はBikini Kill解散後に2つのバンド、Le Tigre (1998-2007)、The Julie Ruin(2010-)を結成したが、その前に「Julie Ruin」名義の1stソロ・アルバムをリリースしている。彼女のアパートでレコーディングした宅録、サンプラーやドラム・マシンなどを使ったローファイ・エレクトロニカ(4トラック・カセット→8トラック・レコーダ)だった。〈I Wanna Know What Love Is〉はThe Clashの〈The Guns Of Brixton〉、〈Breakout A-Town〉はThe Carsの〈It's All I Can Do〉、〈Stay Monkey〉はLesley Goreの〈I'm Coolin', No Foolin〉をサンプリングしている。「少女がベッドルームで録音したようなサウンドにしたかった」 と語っているけれど、アルバムの収録曲をライヴで演奏するために結成したバンドが「Julie Ruin」名義ではなく、Le Tigreだったところが面白い。The Julie RuinはBikini KillとLe Tigreを掛け合わせたようなバンドだった。全15曲・40分。ジュエルケース仕様、歌詞ブックレット(8頁)付き。

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    某ディスクユニオンの中古ROCK棚を物色していて、《Reject All American》(2019)の「未開封品」を見つけた。自主レーベルからのリイシュー盤はデジパック仕様で、「First time in print for 7 years!」と記されたステッカーが貼ってある。リマスター盤ではないらしい。2ndアルバム1枚しかないのかと落胆して、何気なく一段上に目を遣ると、「BECK」のスペースに《Pussy Whipped》(2019)と《The First Two Records》(2015)の2枚が並んでいた。故意か間違いかは兎も角、アーティストやバンドのネームプレートだけを探しているだけでは目当てのアルバムは見つからない!‥‥周辺の棚に紛れ込んでいる可能性もなくはないという甘苦い教訓である。3枚纏めて購入すると割引(10%OFF)される「中古お買い得セール」中だったが、Bikini Killの「未開封品」は対象外だった。それでも「新品」よりも3割安く入手出来たのだから良しとしよう。

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    • 〈ビキニ着る?〉に続く第2弾はBikini Kill(リイシュー盤5枚)+ Julie Ruinです

    • ガール(girl)と区別するために、ガルー(grrrl)という日本語表記にしました^^;

    • 2019年、Bikini KillはKathi Wilcox (ベース)、Tobi Vail(ドラムス)、Kathleen Hanna (ヴォーカル)の3人に、Erica Dawn Lyle(ギター)を加えて再結成された
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    Revolution Girl Style Now

    Revolution Girl Style Now

    • Artist: Bikini Kill
    • Label: Bikini Kill Records
    • Date: 2015/09/25
    • Media: Audio CD
    • Songs: Candy / Daddy's L'il Girl / Feels Blind / Suck My Left One / Carnival / This Is Not A Test / Double Dare Ya / Liar / Ocean Song / Just Once / Playground


    The First Two Records

    The First Two Records

    • Artist: Bikini Kill
    • Label: Bikini Kill Records
    • Date: 2015/06/30
    • Media: Audio CD
    • Songs: Double Dare Ya / Liar / Carnival / Suck My Left One / Feels Blind / Thurston Hearts The Who / White Boy / This Is Not A Test / Don't Need You / Jigsaw Youth / Resist Psychic Death / Rebel Girl / Outta Me / George Bush Is A Pig / I Busted In Your Chevy Window .../ Get Out / Why / Fuck Twin Peaks / Girl Soldier / Not Right Now


    THE SINGLES

    THE SINGLES

    • Artist: Bikini Kill
    • Label: Bikini Kill Records
    • Date: 2018/09/25
    • Media: Audio CD
    • Songs: New Radio / Rebel Girl / Demirep / In Accordance To Natural Law / Strawberry Julius / Anti-Pleasure Dissertation / Rah! Rah! Replica / I Like Fucking / I Hate Danger


    Pussy Whipped

    Pussy Whipped

    • Artist: Bikini Kill
    • Label: Bikini Kill Records
    • Date: 2019/06/14
    • Media: Audio CD
    • Songs: Blood One / Alien She / Magnet / Speed Heart / Lil Red / Tell Me So / Sugar / Star Bellied Boy / Hamster Baby / Rebel Girl / Star Fish / For Tammy Rae


    Reject All American

    Reject All American

    • Artist: Bikini Kill
    • Label: Bikini Kill Records
    • Date: 2019/06/14
    • Media: Audio CD
    • Songs: Statement Of Vindication / Capri Pants / Jet Ski / Distinct Complicity / False Start / R.I.P. / No Backrub / Bloody Ice Cream / For Only / Tony Randall / Reject All American / Finale


    Julie Ruin

    Julie Ruin

    • Artist: Julie Ruin
    • Label: Kill Rock Stars
    • Date: 1998/08/11
    • Media: Audio CD
    • Songs: Radical Or Pro-Parental / V.G.I. / A Place Called Won't Be There / Tania / Aerobicide / Apt. #5 / My Morning Is Summer / I Wanna Know What Love Is / The Punk Singer / On Language / Crochet / Interlude / Stay Monkey / Breakout A-Town / Love Letter


    ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編

    ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編

    • 編者:野田 努 / 三田 格
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2011/01/15
    • メディア:単行本
    • 目次:そんなビッチ殺っちまえよ 本書はいかにして生まれたか / もうひとつの、しかし極めて重要な物語 ボヘミアン・ガールの系譜 / 私たちの革命 ライオット・ガールというムーヴメント / 強きもの、汝の名は弱さ ジンライムのお月さまは「ひどい乗り方」を許していたんだ / ノー・ウーマン、ノー・クライム ヒップホップ文化に見る性について ...

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