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F A V O R I T E ー B O O K S 1 5 [f a v o r i t e s]

  • 開かせていただき光栄です(早川書房 2011)皆川 博子


  • 18世紀ロンドン。聖ジョージ病院外科医ダニエル・バートンの私的解剖室にウェストミンスター地区治安判事に所属する犯罪捜査犯人逮捕係の2人が踏み込む。ダニエルの5人の弟子が墓から盗んだ令嬢エレインの屍体を暖炉の奥に隠すが、相前後して検分に来た治安判事の助手アン=シャリー・モアに屍体の包みを見つけられてしまう。ところがエレイン嬢の屍体は四肢を切断された少年の屍骸に掏り替わり、暖炉の奥から顔を潰された男性の屍骸が発見される‥‥前半は少年ネイサン・カレンの視点から描いた過去と現在を交互に挿み込む構成 300



  • フジモトマサルの仕事(平凡社 2020)コロナブックス編集部(編)


  • フジモトマサルの画業は回文、なぞなぞ、コミック、装幀、装画、エッセイなど多岐に渡るが、ネコ、キツネ、タヌキ、ヒツジ、ウサギ、イタチ、カワウソ、クマ、バク、ペンギン、スカンク、カモノハシなどのキャラは直立二足歩行する擬人化動物として描かれる。人間を動物に置換したデペイズマンによってシュールな空間に豹変させ、内省的な会話や独白が不条理世界を増幅させる。著作からの抜粋、単行本未収録コミックやエッセイ、ロングインタヴューも再録。巻頭エッセイは村上春樹の「フジモトマサルさんのこと」299



  • 月ノ石(河出書房新社 2004)トンマーゾ・ランドルフィ


  • 大学生の詩人ジョヴァンカルロは郷里Pに帰省して、叔父の旧家で夏休暇を過ごす。団欒中に顔見知りらしい少女グルーが来客する。歓待した叔父一家には見えないのだが、少女のスカートから覗いていたのは細い足首と優雅な脚ではなく、「山羊の蹄」だった。ある月夜、若者は山羊少女に山奥の谷間へ誘われる。廃墟となった暗闇の小屋から秘密の通路を抜け、広い洞窟で山賊たち(死者)と出遭う。番人ナポレオン(若者の祖先)との戦い。勝利の酒宴。水辺の「母たち」‥‥表紙カヴァはレメディオス・ヴァロの〈星粥〉(1958)である 298



  • 夢魔のレシピ(工作舎 1999)レメディオス・バロ


  • シュルレアリスム画家レメディオス・バロ(Remedios Varo 1908- 1963)の「眠れぬ夜のための断片集」。レシピと夢の記述・自動記述「夢のレシピ」、手紙と劇の草案など「魔女のテクスト」、自作解説「イメージの実験室」、インタヴューと手紙「地球の想い出」、訳者・野中雅代の「メキシコの魔法の庭」の全5章で構成。カタロニア生まれのバロは結婚後パリへ移住。バルセロナに戻るが、スペイン内戦から逃れて再びパリに渡り、第二次大戦下メキシコへ亡命。日本初 「レメディオス・バロ展」(伊勢丹美術館 1999)は強烈だった 297



  • タマ、帰っておいで(講談社 2020)横尾 忠則


  • 横尾家の一員として15年暮らした愛猫タマの画集。タマの肖像画(90点)と日記で構成されているが、絵と文は対応していない。タマの死(2014・5・31)に始まり、生前(2004・7・6~)の日記もある。死後(~2018・6・1)の記述が2/3を占め 、肖像画はタマの死後に描かれた。作者(ぼく)は描くことでペットロスから治癒したが、タマ(私)は「タダノリ君へ」宛てた手紙の中で、「君のやっている芸術とかは空洞を埋めようとしています。空洞は空洞としてスカスカでいい」 と諭す 296



  • 壁・旅芝居殺人事件(双葉社 1998)皆川 博子


  • 15年前に「桔梗座」で起きた事件(四綱渡りからの墜落した座長と失踪した座員、奈落で発見された2死体)が芝居小屋の最終興行で再び繰り返される。当時9歳だった小屋主の娘・三藤秋子(わたし)の1人称視点による巧妙な叙述トリックが仕掛けられている。2つの事件の真相に迫る秋子の謎解き部分が言葉足らずなのは枚数制限があったから?‥‥長篇ミステリにしては160頁と短いのは澁澤龍彦『城』や中井英夫『墓地』など、紀行文中心の叢書「日本風景論」(白水社)として刊行されたからだという。第38回日本推理作家協会受賞作 295



  • 夜のアポロン(早川書房 2019)皆川 博子


  • 『夜のリフレーン』(KADOKAWA 2018)と対を成す単行本未収録短篇集。「リフレーン」 は幻想系24篇、本書はミステリ系の中短篇16篇を収録。作品数が少ないのに、本書の方が100ページ以上も多い。「単行本にならないのは、作品が拙劣で、刊行する価値がないからだ」 と思っていた著者は原稿を紙屑として処分し、雑誌の掲載ページを切り取って保存することも考えつかなかったという。テクストが見つからずに半ば掲載を諦めていた「死化粧」、編者・日下三蔵も作品の存在を把握していなかった「魔笛」の2作品が読める意義は大きい 294



  • 花の旅 夜の旅(扶桑社 2001)皆川 博子


  • 売れない小説家・鏡直弘は花と旅をテーマにした女性向けの隔月刊誌「ウィークエンド」の編集者から「花の旅」の連載を依頼される。季節折々の花の名所とモデルのグラビアに、花をモチーフにした短篇を添える企画だった。ところが取材中にカメラマンの妻が海に墜ちて死亡し、鏡直弘も睡眠薬の過剰摂取で死んでしまう。4年前に新人賞を同時受賞した針ケ尾奈美子が皆川博子(鏡直弘のペンネーム)の連載を引き継ぐ。作中短篇と作者ノートを交互に挿み込んだメタ・ミステリ。『聖女の島』と合本した文庫版「昭和ミステリ秘宝」の1冊 293



  • さよならの儀式(河出書房新社 2019)宮部 みゆき


  • 「8 Science Fiction Stories」とあるように、書下ろし日本SFコレクション『NOVA』(河出文庫)などに収録された8作品を纏めた短篇集。虐待された子供と親を救済するマザー法の施行された社会を描く「母の法律」。防犯・監視カメラ社会の不気味さを警鐘した「戦闘員」。中年女性(わたし)の実家の玄関前に、女子高生(ワタシ)がタイムスリップする「わたしとワタシ」。廃棄された汎用作業ロボットと若い娘が別れの会話を手話で交わす「さよならの儀式」。地球へ探査に来た精神生命体が姉妹の中に入り込む「星に願いを」‥‥ 292



  • 猫の扉(扶桑社 2020)江坂 遊


  • ボードレールから梅崎春生まで、ネコに纏わるショートショート32篇(小説30、コミック2)を蒐集した文庫版アンソロジー。選者・江坂遊(星新一の弟子)によると、「神」 という漢字は「ネコ+1」に分解出来るという。ヒトよりもネコの方が「神」に近い存在なのだ。ハインラインの『夏への扉』への敬意込めたタイトルの本書にはサキ、ペロー、宮沢賢治、星新一などの「ネ古典」だけでなく、謎の覆面作家・佐久やえ、経歴不詳のハワード・ジョーンズの「神品」なども収録されている。「夜廻り猫」 からは 「わがままモネ」 が参入にゃん 291



  • ニャンニャンにゃんそろじー(講談社 2020)


  • 9人の作家とマンガ家によるネコ・アンソロジーで、猫小説5篇と猫マンガ4篇を交互に収録。有川ひろ「猫の島」、ねこまき(ミューズワーク)「猫の島の郵便屋さん」。蛭田亜紗子「ファントム・ペインのしっぽ」、北道正幸「ネコ・ラ・イフ」、小松エメル「黒猫」、真梨幸子「まりも日記」、ちっぴ「ヅカねこ」。町田康の「諧和会議」は『猫のエルは』(2018)からの再録。原本のイラストを描いたヒグチユウコは元ネタと思しき夢野久作の掌編 「きのこ会議」(1922)を絵本にしている。文庫版は『夜廻り猫』から全10話を追加 290



  • 薔薇密室(早川書房 2012)皆川 博子


  • 第一次大戦下のドイツ・ポーランド。瀕死の士官オーディンを抱いて馬に乗った脱走兵コンラートは「薔薇の僧院」に辿り着く。所有者ホフマン博士は薔薇と若者を接ぎ木して融合させる実験をしていた。2人は士官を「薔薇の若者」として甦生させる。シャム双生児や唖少年など「美しい劣等体」が暮らし、「帝国のハイニ」(ヒムラー)が訪れる僧院。コンラート(私)、庭師ヨリンゲル(俺)、少女ミルカ(わたし)‥‥目紛しく変わる語り手。ホフマン著『〈ヴィーナスの病〉の病原体とその治療薬に関する研究』を書いたのは一体誰なのか 289



  • SABRINA(早川書房 2019)ニック・ドルナソ


  • グラフィック・ノヴェルと称されるオール・カラーのアメコミ。同棲中のサブリナ・ギャロが行方不明になった。精神的に不安定になったテディ・キングは高校の同級生カルヴィン・ローベルの家に身を寄せる。メディアにサブリナの殺害映像を収録したVHSテープが送付され、差出人のアパートから、ベッドのシーツに覆われたサブリナの遺体と浴槽の中で死亡している住人ティミー・ヤンシーが発見される。モンドリアンみたいに幾何学的な格子状のコマ割り、ミニマムな構図、淡く沈んだ色合い、表情に乏しい「目が点」のキャラ‥‥ネット時代の重苦しい閉塞感が漂う 288



  • 辺境図書館(講談社 2017)皆川 博子


  • 《読書に興味のない方でも名前は知っているような有名作や作家には触れず、素晴らしいけれど忘れがちな古い作、あるいはおびただしい出版物の中に埋もれがちな作をなるべく選ぶようにしました》とのことなので、当図書館愛蔵のドストエフスキーや山尾悠子などは除外されている。ホセ・ドノソの『夜のみだらな鳥』から郡虎彦まで25章、34点の作品と31人の作家について語るだけでなく、少女時代の読書体験や自著との関連などにも及ぶ。古今東西の文学作品からの引用で構成された書下ろし短篇「水族図書館」と「索引」を巻末に収録 287



  • 夜廻り猫 4(講談社 2018)深谷 かほる


  • 頭の上に鮭缶を載せ、縦縞褞袍の懐に片目の子ネコ重郎を抱いて「泣く子はいねが〜」と呼びかけながら夜の街を徘徊して「涙の匂い」を嗅ぎつける強面灰色ネコの遠藤平蔵。ツイッタから生まれた8コマ・マンガ(前後編・3話連続あり)だが、全90話(282~371話)を纏めた単行本は読み応えがある。見開き頁の右に表題と扉絵、左に8コマ・マンガという構成。福島県出身の作者は東日本大震災後の家族の病気を機に「苦境にある人は水面下で頑張っているということが伝わる作品を描きたい」と思ったそうだ。「いい天気」(371)は出色 286



  • 猫舌男爵(早川書房 2014)皆川 博子


  • 「水葬楽」 「猫舌男爵」 「オムレツ少年の儀式」 「睡蓮」 「太陽馬」 を収録した短篇集だが、表題作には「本文」がない。「本書はハリガヴォ・ナミコの短編集『猫舌男爵』の全訳である」という「訳者あとがき」から始まるからだ。ヤマダ・フタロの英訳本『THE NOTEBOOK OF KOHGA'S NIMPO』に魅了された学生ヤン・ジェロムスキが針ケ尾奈美子の短編集を翻訳するが、日本語及び日本文化の知識不足が「珍訳」を生む。針ケ尾奈美子(皆川博子のアナグラム)の「清純な乙女を、残虐冷酷な猫舌男爵が苛む物語」が読めないのは残念にゃん 285



  • 倒立する塔の殺人(理論社 2007)皆川 博子


  • 第二次大戦下の日本。**女学院のチャペルに直撃弾が落ち、焼け跡から専門部の女生徒・上月葎子と身許不明の遺体が掘り出された。空襲によって校舎が全焼した都立**高等女学校の生徒たちは焼け残った女学院へ通う。阿部欣子は級友の三輪小枝から頼まれて、手書きの本「倒立する塔の殺人」を読む。3人の女生徒が回し書きした「倒立する塔の殺人」はギイ・ロスタンの後任として女学院に赴任した教師ジュエル・サマンと女生徒ミナモの物語と書き手の「手記」で構成されていた。「ミステリーYA!」 の1冊だが、作者は若年層に阿ない 284



  • 死の泉(早川書房 2001)皆川 博子


  • 第二次大戦下のドイツ。ギュンターの子を身籠もったマルガレーテはナチスの施設〈レーベンスボルン〉でミヒャエルを産む。所長クラウス・ヴェッセルマンの求婚を不本意ながら受諾し、孤児のフランツとエーリヒを養子にする。無資格看護婦のブリギッテがクラウスの子ゲルトを宿す。ギュンター・フォン・フュルステンベルク著『死の泉』は3部構成。「生命の泉」 はマルガレーテ(わたし)の1人称、「ミュンヘン」 と 「城」 はギュンターやゲルトの三人称視点で描かれる。訳者・野上晶の「あとがきにかえて」がドンデン返しする長編小説 283



  • 龍彦親王航海記 澁澤龍彦伝(白水社 2019)礒崎 純一


  • 「澁澤龍彦(1928-87)の生涯と作品ついて書かれ、語られた膨大な文章」を選択し、時系列順に編集配列した「伝記」。著者は〈福音史家〉として振る舞い、詠唱したりはしない。「狐のだんぶくろ」 「大胯びらき」 「神聖受胎」 「サド復活」 「妖人奇人館」 「ホモ・エロティクス」 「胡桃の中の世界」 「記憶の遠近法」 「魔法のランプ」 「太陽王と月の王」 の全10章で、章タイトルは著作から採られている(書名は『高丘親王航海記』の捩り)。500頁に及ぶ大著だが、龍彦親王と同じく平易な文章なのでスラスラ読める。詳細目次、主要参考文献、索引付き 282



  • 辺境薔薇館(河出書房新社 2018)皆川 博子


  • 「皆川博子の文藝別冊 総特集」。絵に文を添えた 「辺境美術館」。短篇精華 「風」 「砂嵐」 「お七」 「廃兵院の青い薔薇」 「ひき潮」 「美しき五月に」 「水引草」 。ロングインタヴュー。随筆精華7篇。綾辻行人、恩田陸、篠田真由美など39名のエッセイ、解説、挿絵。「皆川博子を読み解くキーワード20」東雅夫。有栖川有栖や北村薫など23人による 「私の愛する皆川作品3」 。「編集後記」。 「作品ガイド・著作リスト」日下三蔵。「Biography」 ‥‥『海と十字架』(1972)でデビューしてから半世紀。皆川博子(1930-)は現役バリバリの作家である 281


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