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アガルタの伝説 [c o m i c]



  • 人類の祖先アダムとイブに "知恵" のリンゴを食べさせたヘビの話は "真実" だったんだ。遠い遠い昔、宇宙の彼方から、一隻の巨大な宇宙船が銀河の片すみの小さな "青い星" 地球に飛来した。故郷の星への長い長い旅の途中でふとみつけたその星地球のさもいわれぬ美しさに魅せられて立ち寄ってみようとしただけだったが、着陸に失敗し宇宙船は爆発大破、乗組員も半数以上が死亡した。〔‥‥‥〕その死んだ乗組員の中に、宇宙船をつくる技術をもった者たちの多数がふくまれていたために、生きのこった者たちは地球にくぎづけになってしまった。みしらぬ異星にとり残された者たちにあることを思いつかせたのは、おそらくせつない望郷の思いだったにちがいない。その子どもたち、いやずっとのちの世代になるだろうが、カレラは故郷へ帰りたかったんだ。そのころの地球には "人類" はいなかった。いたのは類人種だけだった。カレラはそのサルに近い類人種族の "改良" に着手した。そう、この星に労働力と技術を、そして宇宙船を建造できるまでの文明をもたらすために。こうして "人類" が誕生した。そのアダムとイブをつくりだし、"知恵" をさずけたカレラこそ、ヘビに似たカレラこそボクらのご先祖さまだった。
    石森 章太郎 『星の伝説アガルタ』


  • □ 星の伝説アガルタ(週刊少女コミック 1974-75)石森 章太郎
  • 東京・西武池袋線桜台駅に降り立った少年は喫茶店ラタンへ行く。店内では石森章太郎と美少女が会話を交わしていた。アシスタント志望の少年が持参した原稿をマンガ家に見せる。東北・秋田県鹿角市から上京した黒木シュンと自称 「U・F・O研究家」 の橘レミは互いに惹かれ合う。ところがアシスタントとして石森家に住み込むことになったシュンには大きな秘密があった。シュンとレミの遭遇した物語を石森章太郎が作品に描く。石森家を訪れたレミは仕事休みの日曜日、目黒区中町の自宅へシュンを招待する。庭先でゴルフ・スウィングの練習をしていた父親はボーイ・フレンドの暗さ、陰気さが気に懸かる。自室でU・F・O談義に花を咲かせる2人。なぜか飼い犬のペロがシュンに吠える。駅まで送って行く途中に立ち寄った祐天寺の仁王の目が光る。その夜、クスリの禁断症状に苦しむシュン。浴室から出てベッドで横になったレミの部屋で突然強風が吹き荒れ、閉まっていたはずの窓ガラスが割れた。

    空飛ぶ円盤と宇宙人の関係、エジプトのピラミッドやインカの遺跡、ナスカ平原の地上絵やイースター島のモアイ像などについて話す黒木シュン。沈み込んだ表情の橘レミはシュンを散歩へ誘い出し、先一昨日の夜、シュンが帰った後に起こった異常現象(寝室に突然大風が吹き荒れた)を告げる。その夜、部屋の人形たちが動き出して、首が抜け飛ぶというポルターガイスト(騒霊現象)が起こる。愛犬ペロが吠えて、父親が窓のカーテンを開くと、塀を飛び越えて逃げるシュンの後ろ姿が見えた。この騒動が少年の仕業だと疑った父親は娘にシュンとの交際を禁じる。目黒区立中町公園に隠れていた少女と子供がシュンの前に姿を現わす。ユリとユウの2人はシュンを村へ連れて帰るために迎えに来ていた。レミを怖がらせた超常現象もユリの仕業だった。翌日レミは仕事場に電話してシュンを喫茶店ラタンに呼び出して、彼から秘密を聞き出そうとするが、高稲荷公園で一族の不思議な秘密と秘密を守るための村の掟を外へ漏らすことは死を意味すると告白される。

    黒木シュンが仕事場に戻ると、机の引き出しから "月のしずく"(クスリ)が消えていた。昼間、見学に来たユウが持って行ったのだ。その夜、浴槽で意識を失っていた橘レミを母親が発見する。高熱に魘されたレミは夢の中でシュンと抱擁してキスするが、邪悪な蛇に襲われてしまう。ユリの超能力によるレミへの悪夢とクスリの禁断症状に苦しむシュンは村へ帰ることを約束する。シュンが光るU・F・Oへ向かって空高く飛び上がって行く夢から覚めたレミが不安になって仕事場へ電話する。石森章太郎によると、「スミマセン」 という紙切れを机の上に残して消えてしまったという。履歴書に記されていた住所を頼りに、レミは父親の反対に逆らってシュンの故郷、秋田県鹿角市那須加村へ単身向かう。小さな山村で出合った子供ユウに案内されてシュンの実家を訪ねるが無人だった。屋内に入ると、戸口に現われたユリとユウがレミを追い返す。シュンのことを思って黒叉山を眺めていると、古代文明に興味を持って研究しているという黒いサングラスの男が話しかけて来た。

                        *

  • 長い時の流れが、その "真実" を伝説にかえてはしまったが、"空飛ぶ蛇" の紋章で、その証拠は世界のいたるところに残っている。カレラは人間を次つぎに改良し新しい知識をさずけていった。つくられた人間の歴史が始まってたった数千年たらずで、カレラと "人間" は宇宙船をつくりだせる文明を手にいれた。その選ばれた文明の地の名がアトランチス大陸だった。だがいよいよという時、おもわぬおとし穴が待っていた。その大陸は文明もろとも破壊され沈まされてしまったんだ。その破壊者は正義の旗をふりかざして、星の闇の中から現われた。銀河連邦進化管理局から派遣された大船団。銀河連邦法によれば、ひとつの星が他の星の "進化" に手を貸すことは禁じられていたのだ。それは自然の、進化のサイクルを無視した過去の結果にてらしあわしてつくられた "法律" だった。だがこのアトランチスの破壊と滅亡から、なんパーセントかのカレラ 「ヘビ族」 と 「改良人類」 がちりぢりばらばらになりながら、世界の各地に逃げ出した。そして 「ヘビ族」 は地にひそみ、「改良人類」 は再び文明の建設にとりかかった。銀河連邦進化管理局のきびしい絶えまない監視の目のもとに。
    石森 章太郎 『星の伝説アガルタ』


  • 黒いサングラスの男が話題にしたR・E・ディクホフの 「アガルタ」 から、黒木シュンが東京に持って来た原稿のタイトルだったこと、そのSFマンガを挟んでいたスケッチブックが実家にあったことに思い至った橘レミは少年が村へ帰郷していたと確信する。吊り橋を渡ったレミは待ち受けていたユリとユウに、あなたたちは嘘を吐いていたのよと詰る。無人の家で待つレミの前に戸を開けて顔面を鱗に覆われた人物が現われた。悲鳴を上げた彼女を両手に包帯を巻いたシュンが背後から抱く。再び戸口に姿を現わしたユリがシュンの婚約者であるとレミに告げる。両手に巻かれた包帯は掟破りの罰、柱に架かっていた十字架(キリストの磔像)は掟を破った戒めの象徴だった。村長がレミは村に災いをもたらす、妙な若い男が村を彷徨いているとシュンに語る。夜空に出現した空飛ぶ円盤。シュンはレミと一緒に東京に戻ることを決意する。その前に黒叉山へ行って、"月のしずく" を盗って来なくてはならない。

    翌朝、黒叉山へ行った黒木シュンの帰りを待つレミの許に黒いサングラスの男が来て、アトランティスやインカ、アガルタのようになる前に早く村から出るように忠告する。家から外へ出た直後に男は村人たちに殺害されてしまう。レミも鎌で殺されそうになるが、シュンに妨げられる。殺された三つ目の男は村の様子を探りに来ていた円盤人(宇宙人)だった。再び村人たちが襲って来るとユウが報せに来た。シュンとレミは山の頂上へ登り、神社の床下の階段を降りて、"月のしずく" の薬草畑に辿り着く。特殊な加工を施したクスリを貯蔵した薬品室へ行くが、2人の後を追って来たユリに阻止される。全身が鱗に覆われたヘビ人間がシュンとレミに向かって撃つが、2人の前に立ち塞がって盾となったユリが犠牲となってしまう。シュンが薬品室からクスリを盗み出すと警報が鳴って、ヘビ人間たちが慌ただしく動き出す。岩の割れ目に入り込むと、その先は水辺の行き止まりになっていた。真夜中過ぎになると、シュンの手が鱗に覆われた。"月のしずく" を飲むと、シュンの手から鱗が消えた。

    この村もアトランティス、インカ、アガルタのようになると言った男の言葉を橘レミが思い出す。村人に報せに行った黒木シュンが戻って来た。誰もいなくなって、山の頂上への出口も塞がれて、山の中に閉じ込められてしまった。先の警報は監視兵の乗った円盤の飛来を告げるものだったのか。"月のしずく" は人間の姿を保持するために必要不可欠なクスリだったが、年を経ると効かなくなって、先祖返りを止められなくなる。そして山の中のピラミッドで暮らすことになる。掟を破って村から出た者は改心するまでクスリを貰えない。その掟に反抗したイエス・キリストもカレラ(銀河連邦進化管理局)に殺された。精神の力で物体を動かしたり出来る 「超能力」 を使うことも掟は禁じている。その能力をカレラにキャッチされてしまうからだ。夜が明けて水辺が明るくなった。シュン、レミ、ユウは水中に潜って外へ出る。森に出て騒いだユウがカレラに消される。円盤からの攻撃から逃れるために精神移動したシュンも抹殺されてしまう。「捜索願いを出されていたレミが盛岡の駅で保護されたのは家出をしてから三日めの午後だった」‥‥彼女は三日間の記憶を完全に失っていた。

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    上京してマンガ家のアシスタントになった少年と自称 「U・F・O研究家」 の少女が遭遇した物語を石森章太郎が描いた作品という設定のメタ・フィクション。新書判や全集版の表紙に描かれた主人公・黒木シュンは片目を隠した 「ファンタジー・ワールド」 のジュンや 「ブルー ・ゾーン」 の二子神ジュンを想わせるが、縦縞ジャケットを纏った風貌はギターを背負った 「キカイダー」 のジローに似ていなくもない。少女マンガ誌の連載らしく、ヒロインの橘レミはフランソワ・アルヌール似の美少女で、目も大きく描かれている(ユウは子供の頃の島村ジョーみたいだ)。女性週刊誌に連載された中編 「霧の彼方より」(ヤングレディ 1967)はエドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」を引用したゴシック・ミステリ仕立てになっていたが、「アガルタ」 は滅亡した古代文明(アトランティス大陸)、宇宙船で地球に飛来した異星人(ヘビ族)、U・F・O(空飛ぶ円盤)という 「石ノ森ワールド」 全開のSF作品になっている。「僕が見ていた石ノ森章太郎」(小野寺丈)によると、父親の作品は 「アガルタ」 に限らず、女性層からの支持も大変に多いそうです。

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    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 3-35」(角川書店 2008)をテクストに使いました。「本の通販ストア」 終了のため、萬画大全集版はデジタル大全(kindle)にリンクしました

    • 新書判(Sun comics)と単行本(Star comics)は 「怪奇マンガのあなぐら」(まっどどっぐ・がちょん)にリンクしています^^;

    • 読みやすさを考慮して、引用文の中の 「点線」(‥‥)、「感嘆符」(!!)、「ダッシュ」(──)を句点(。)と読点(、)に変更しました
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    星の伝説 アガルタ ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-35

    星の伝説 アガルタ ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-35

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/08/31
    • メディア:コミック
    • 内容:橘レミはUFOなど不思議なことが大好きな女の子。ある日、SF漫画家の石森先生と話をしているところに現れたアシスタント希望の男の子・黒木シュンと出会う。SF好きの二人はすぐに親しくなるが、そのころからレミの周りでは不思議なことが起こり始める。また、自分のことをあまり話さないシュンには重要な秘密があった‥‥。秋田の山奥に残る...

    星の伝説 アガルタ ── 石ノ森章太郎デジタル大全

    星の伝説 アガルタ ── 石ノ森章太郎デジタル大全

    • 著者:石ノ森章太郎
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2014/10/31
    • メディア: Kindle版
    • 内容:橘レミはUFOなど不思議なことが大好きな女の子。ある日、SF漫画家の石森先生と話をしているところに現れたアシスタント希望の男の子・黒木シュンと出会う。SF好きの二人はすぐに親しくなるが、そのころからレミの周りでは不思議なことが起こり始める。また、自分のことをあまり話さないシュンには重要な秘密があった‥‥。秋田の山奥に残る...

    アガルタ

    アガルタ

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:朝日ソノラマ
    • 発売日:1976/01/30
    • メディア:コミック(Sun comics)
    • 内容:橘レミは、UFOが大好きな娘。彼女は、黒木シュンという青年と運命の出会いをする。黒木シュンは、石森章太郎先生のアシスタントになるため、秋田県鹿角市から上京してきた。彼は、SF漫画を志しており、UFOの話を通じて、レミと急接近する。だが、彼を家に招いて以来、夜中に二度、彼女の部屋でポルターガイスト現象が起きる。更に、二回目のポ...


    アガルタ

    アガルタ

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:大都社
    • 発売日:1984/09/20
    • メディア:コミック(Star comics)
    • 内容:オカルト・ブームの真っ最中の1974年頃に、当初は 「星の伝説アガルタ」 のタイトルで、「週刊少女コミック」 に掲載された作品であります。「恐怖新聞」 のように随所随所にオカルト的知識を散りばめながらも、ヒロインに石森先生の美少女キャラを配し、奇想天外(でも、ちゃんとスジは通ってます)なSFエンターテイメントに仕立て上げた手腕...

    タグ:SF ishinomori comic
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