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微に入るアルビニ [m u s i c]



  • 火曜日の夜、私の最も親しい友人の1人、スティーヴ・アルビニが突然亡くなりました。 彼は超自然的な才能があり(あなたや私が期待するよりも遙かに多くの分野で)、心優しく、心が広く、時間を惜しみませんでした。彼はとても温かく、いつも心からの笑顔であなたを迎えてくれました。〔‥‥‥〕 数年間、スティーヴ(とボブとトッド)は私をシェラックの音響技師(soundman)と見なして、私を世界中に連れて行ってくれました(過度に大音量のコンサートによって、明らかな難聴になったのにも拘わらず)。旅先で私たちが共有した冒険は、いつも私の最も楽しい思い出の一部です。シェラックは昨年ニュー・アルバムを完成させました。来週リリースされる時にスティーヴがいないのは理解出来ません。私の人生、そしてスティーヴに近い人々の人生は、この瞬間から永遠に変わってしまうでしょう。ステ ィーヴのように寛大で、意気投合した友人の代わりになる人はいません。私は彼を愛しているので、これから先の人生は彼がいなくて寂しくなるでしょう。
    コーリー・ラスク「スティーヴ・アルビニを偲んで」


  • ◎ Songs About Fucking(Touch & Go 1987)Big Black
  • ビッグ・ブラック(Big Black 1981-1987)は米インディ・ロック界の必殺録音請負人スティ ーヴ・アルビニ(Steve Albini 1962-2024)率いる3ピース・バンド。2ギター&ベースという編成で、ドラム・マシン(Roland TR-606)を使用している。みやわき心太郎の劇画 「THE レイプマン」(1986)から借用した2ndアルバムのカヴァとタイトル、「デカくて黒い」 というバンド名は下卑た下半身を想わせる。Kraftwerkのカヴァ〈The Model〉、英紙 「The Observer」(日曜版 「The Guardian」)にアルバムやライヴ評などを寄稿している音楽ライターのペンネームになった〈Kitty Empire〉など(CDにはCheap Trickの〈He's a Whore〉も追加収録された)、全14曲・32分。永遠の子猫リル ・バブ(Lil BUB)ちゃんと笑顔で会話するスティーヴ・アルビニとSNSのプロフィール・アイコンが 「ジーン・シモンズ・メイク」 のキティ・エンパイア(KItty Empire)が大のネコ好きなのは明らかだ。

  • ◎ Two Nuns And A Pack Mule(Touch & Go / Blast First 1988)Rapeman
  • Big Blackの解散後に結成した3ピース・バンド、レイプマン(Rapeman 1987-1989)は性犯罪やミソジニーを連想させるバンド名(Big Blackの2ndアルバム・カヴァと同じく、劇画 「THE レイプマン」 から採られた)が災いして短命に終わった。もしアルビニが女性差別主義者ならば、Kim Deal(The Breeders)やPJ Harvey、Joanna Newsomが彼にレコーディングを依頼するはずがない(インディ・ロック界の男女差別は既に克服されているという思い込みからの命名や蔑視的な発言などで、女性たちを傷つけたことを後に謝罪した)。Sonic Youthとのライヴで乱闘騒ぎになったという〈Kim Gordon's Panties〉やZZ Topのカヴァ〈Just Got Paid〉など、全10曲・29分。CDは4曲入りEP《Budd》(1988)を追加収録した全14曲・44分。プロデュースした1人として記載されているフラス(Fluss)は人間ではなく、アルビニの飼っていた黒猫(2003年に23歳で亡くなった)の名前だった。

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  • ◎ 1000 Hurts(Touch & Go 2000)Shellac
  • シェラック(Shellac 1992-)はイリノイ州シカゴで結成されたポスト・ハードコア、ノイズ・ロック・バンド。Steve Albini(ギター、ヴォーカル)、Todd Trainer(ドラムス)、Bob Weston(ベース)の3人組で、オーヴァダビングなしの一発録り、アナログ録音、変拍子や反復的なリズム、尖ったノイジーなギター・サウンドなどで知られる。3rdアルバムは意表を突くボックス仕様でリリースされた。パッケージとCD盤面は録音用オープンリール(Ampex)のケースとテープを模しているが、その容量に見合うものがCDとステッカーの他に何か入っているわけではない。タイトルは 「1000Hz」 の駄洒落で、インナー・スリーヴにはオシロスコープが描かれている。天上の神に元カノと新しい恋人を殺してくれと祈祷する〈Prayer To God〉、「樹に千びきの毛蟲」(吉行淳之介)を髣髴させる数千匹の栗鼠の唄〈Squirrel Song〉、妹アンジェリーナの死を嘆く〈Mama Gina〉など、全10曲・37分。

  • ◎ Excellent Italian Greyhound(Touch & Go 2007)Shellac
  • 7年振りの4thアルバムは灰色犬の群れを描いたモノクロ・イラストのスリップケースを外すと、バナナやリンゴ、グレープ、パプリカ、オレンジとレモンなど、色とりどりの果物や野菜に囲まれた一頭のイタリアン・グレーハウンドが姿を現わすという洒落た仕様になっている。「賢いイタグレ」 というアルバム・タイトルはTodd Trainer(ドラムス)の愛犬ウフィツ ィ(Uffizi)に由来する。見開き紙ジャケ仕様で、LPのカヴァは手刷りのシルクスクリーンだという。ギター、ドラムス、ベースだけの贅肉を削ぎ落とした強靭なサウンド、研ぎ澄まされた怒涛のヴォーカル、最小ユニットにして最強トリオのハードコア・パンク、ノイズ、マス・ロックは漆黒のダイヤモンドの輝きと硬度を誇る。《1000 Hurts》(2000)のLPボ ックスにはアルバムと同内容の無印CD(アナログとデジタルを聴き比べてみろという意図なのだろうか?)が入っていたが、本アルバムにも封入されているそうです。全9曲・42分。

  • ◎ Dude Incredible(Touch & Go 2014)Shellac
  • 5thアルバムのアートワークはロイター通信の写真家アントン・メレス(Anton Meres)が撮った2匹の猿(1匹が重量挙げのように、もう1匹を両手で頭上に高く掲げている)が使われている。7年振りの 「驚くべき伊達男」(アルビニが使用していたセットアップを再現するエフェクターの名称にもなっている)は全9曲、33分と当時としては短めの収録時間だが、ブシャール(Bouchard)のダーク・チョコのように中身が濃い。ギター、ドラムス、ベース、ヴォーカルが一丸となって襲いかかるアグレッシヴなサウンドは贅肉を削ぎ落とした強靭な肉体による舞踏や格闘技を想わせなくもない。「イタグレ犬」 から猿にアルバム・カヴァが進化しても硬質・高強度のサウンドは不変なのだ。今回もLPにはCDが封入されていた。全9曲・33分。ボール紙のスリップケース。DU購入特典の 「Shellacファンジン」(A5判・12頁)はアルビニ宛に質問表を送ったのに回答なしのまま、丸1年遅れで無料配布された。

  • ◎ To All Trains(Touch & Go 2024)Shellac
  • 10年ぶりの6thアルバムがリリースされたが、もうアルビニは存在しない。10日前に急逝したからだ。この喪失感はどんな代替え物でも埋められない。レーベル(Touch & Go)の主宰者コーリー・ラスク(Corey Rusk)も追悼しているように、アルビニは唯一無二の存在だったからだ。印税の受け取りを拒否する 「プロデューサー」(この肩書きを嫌ったアルビニは 「配管工」 のような無名のエンジニアであろうとした)が1人でもいただろうか。犬、猿の次は 猫(ジャケ)を期待していたけれど、カヴァ・アートに使われたのはBob Westonの撮ったシカゴ・ユニオン駅の待合室にあるアーチの写真だった。アルビニも 「すべての列車へ」 というフレーズを気に入っていたという。「もし天国があるならば / 楽しんでいることを願う / だって地獄があるならば / 皆んなと知り合いになるはずだから」 と歌うラストの〈I Don’t Fear Hell〉は意味深だが、毎年クリスマス・プレゼントを贈って来た夫妻の 「慈善活動」 のせいで、意に反して天国へ逝っちゃったかも?‥‥全10曲・28分、スリップケース。

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    米インディ・ロック界の必殺録音請負人 「スティーヴ・アルビニ(Steve Albini)の急死」(2024・5・7)は寝耳に水だった。今までに〈ビッグ・ブラック〉〈レイプマン〉〈シェラ ック・ファンジン〉などをブログに書いた。〈マジカル・スペース・キャット〉で紹介した 「Lil BUB's Big SHOW」(Episode 3 2013)の中で、「どんな有名なバンドとレコーディングしたことがあるの?」 というリル・バブちゃんの質問に、「The Pixies、The Breeders、Nirvana、Bush、Jimmy Page & Robert Plant、PJ Harvey」 の名前を挙げて、イリノイ ・シカゴのスタジオ(Electrical Audio)に彼女を案内していたアルビニの笑顔が脳裡に浮かぶ。Speedy Ortizのサディ・デュプイ(Sadie Dupuis)も彼に会って、エレクトリカルをじっくり見られたことは 「私にとってトップ10の瞬間だった」 と追悼している。音楽ライターのキティ・エンパイア(Kitty Empire)は 「うーん、文章が書けません。アルビニ界隈の皆さんに哀悼の意を表します。クソったれ死(Fuck death)」 とSNS(X)に投稿した。

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    • 2024年5月7日に急逝したスティーヴ・アルビニの記事を纏めて加筆・改稿しました

    • 「米インディ・ロック界の必殺録音請負人」 から始まる文章は再録(sknys-lab)です

    • 2枚のネコード、The Jesus Lizardの《Liar》(Touch & Go 1992)とSuperchunkの《No Pocky For Kitty》(Matador 1991)も無記載ですが、アルビニ録音です

    • 「スティーヴ・アルビニと妻のヘザー・ウインナーがシカゴの貧しい家族にクリスマス・プレゼントを20年近く贈り続ける活動をしている」(Huffington Post 2015)

    • 「レコード会社は私が1%か1.5%の印税を要求すると思っているだろう。300万枚のセールスを挙げたら、それは40万ドルほどになる。しかし、そんな法外な金額は受け取れない。私へのギャランティーはバンド自身が額を決めて、バンド自身が支払うように。私は配管工(Plumber)のように支払いを受けたい」(ニルヴァーナ『イン・ユーテロ』20周年)‥‥《In Utero》(1993)は1500万枚も売れたそうですが^^;

    • アルビニ愛用のギター(Travis Bean TB500)はアルミネック。ストラップを肩に架けずに、腰に巻いています(クソ重いからでしょうか?)。 エフェクターはファズ・ペダル(Interfax Harmonic Percolator HP-1)、銅製のピックを使用しています

    • リンクを知りたい時はサイドバーの 「SKIN SWITCHER」 で他の色に変えて下さい

    • 《To All Trains》(2024)の輸入盤(国内流通仕様)も値上げ(¥3,850)にゃん!

    • 自腹で購入したアルバムはLP(vinyl)ではなくて、CD(fuck digital)ですよ^^;
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    Songs About Fucking

    Songs About Fucking

    • Artist: Big Black
    • Label: Touch & Go
    • Date: 1992/10/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: The Power Of Independent Trucking / The Model / Bad Penny / L Dopa / Precious Thing / Colombian Necktie / Kitty Empire / Ergot / Kasimir S. Pulaski Day / Fish Fry / Pavement Saw / Tiny, King Of The Jaws / Bombastic Intro / He's A Whore


    Two Nuns And A Pack Mule

    Two Nuns And A Pack Mule

    • Artist: Rapeman
    • Label: Touch And Go
    • Date: 1988/10/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Steak And Black Onions / Monobrow/ Up Beat / Coition Ignition Mission / Kim Gordon's Panties / Hated Chinee / Radar Love Lizard / Marmorset / Just Got Paid / Trouser Minnow/ Budd/ Superpussy / Log Bass / Dutch Courage


    1000 Hurts

    1000 Hurts

    • Artist: Shellac
    • Label: Touch & Go
    • Date: 2000/08/08
    • Media: Audio CD
    • Songs: Prayer To God / Squirrel Song / Mama Gina / QRJ / Ghosts / Song Against Itself / Canaveral / New Number Order / Shoe Song / Watch Song


    Excellent Italian Greyhound

    Excellent Italian Greyhound

    • Artist: Shellac
    • Label: Touch & Go
    • Date: 2007/06/04
    • Media: Audio CD
    • Songs: The End Of Radio / Steady As She Goes / Be Prepared / Elephant / Genuine Lulabelle / Kittypants / Boycott / Paco / Spoke


    Dude Incredible

    Dude Incredible

    • Artist: Shellac
    • Label: Touch & Go
    • Date: 2014/09/16
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dude Incredible / Compliant / You Came In Me / Riding Bikes / All the Surveyors / The People's Microphone / Gary / Mayor/Surveyor / Surveyo


    To All Trains

    To All Trains

    • Artist: Shellac
    • Label: Touch & Go
    • Date: 2024/05/17
    • Media: LP / Audio CD
    • Songs: Wsod / Girl From Outside / Chick New Wave / Tattoos / Wednesday / Scrappers / Days Are Dogs / How I Wrote How I Wrote Elastic Man (cock & bull) / Scabby The Rat / I Don't Fear Hell

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