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USインディ・アルバム 40(2 0 0 5 ー 2 0 2 1) [r e w i n d]

  • ILLINOISE (Asthmatic Kitty 2005) Sufjan Stevens


  • アメリカ50州をテーマにしたアルバム(全50枚?)の第2弾。衝撃度ではシリーズ1作目の《Michigan》(2003)に譲るものの、より稠密なコンセプト・アルバムになっている。ピアノ曲やバンジョー弾き語り、得意の奇数拍曲や「1人ステレオラブ状態」と、今作も20種類以上の楽器を器用に弾き熟すスフ ィアン君のパノラマ・ワールドを堪能出来る。新種のSSWという点から後述のDevendra Banhartと比較されることもあ ったが、新作は奇しくも両者共に「全22曲・74分」対…#21



  • RETURN TO COOKIE MOUNTAIN (4AD 2006) TV On The Radio


  • 「ラジオの上のTV」(TVOTR)という、黒人白人混成5人組の2ndアルバム。ノイジーなギター、浮游するサンプリング・ノイズ、強靭なデジタル・ビート、清冽なピアノ、ファルセット ・ヴォイス‥‥Kyp Malone & Tunde Adebimpeのヴォーカルがソウルフルに響く。ポスト・ロックの雄というよりも新しいソウル・ミュージックのように聴こえる。かつてYAZやFYCが、そうだったように‥‥。リスナーの全身に衝撃が走る〈I Was A Lover〉、日本人女性(Kazu Makino)のヴォ…#22



  • FLEET FOXES (Sub Pop 2008) Fleet Foxes


  • ピーテル・ブリューゲル父の〈ネーデルランドの諺〉(The Blue Cloak 1559)を使用したカヴァ・アートが人目を惹くFleet Foxesのデビュー・アルバムは、フリー・フォークと呼ばれるアクースティック音楽が新たな局面に入ったことを示唆している。米シアトル産の5匹の狐たちは自らを「バロック・ハーモニック・ポップ・ジャムズ」と名乗る。牧歌風のフォーク・ソングでありながら、教会内に響くゴスペルのような荘厳なイメージが広がる。広大な農村地帯ではなく山岳地方…#23



  • BITTE ORCA (Domino 2009) Dirty Projectors


  • Dave Longstrethのソロ・プロジェクトから始まり、6人組となった男女混成バンドの5thアルバム。Dirty Projectorsの奇妙な音楽を文章で解説するのは難しい。不協和音が混じったような女声コーラスに魅惑される〈Cannibal Resource〉、アフリカっぽいギターの音色やリズムの揺らぎに眩惑される〈Temecula Sunrise〉、Amber Coffmanのヴォイスに魅了される〈Stillness Is The Move〉、メロディやリズムの複雑な構成に翻弄される〈Useful Chamber〉‥‥。明るく…#24



  • MERRIWEATHER POST PAVILION (Domino 2009) Animal Collective


  • アニコレこと、Animal Collectiveの8thアルバム・タイトルになっている「Merriweather Post Pavilion」は米メリーランド州コロンビアにある野外コンサート会場(音響効果に優れている)の名称だが、そこでライヴ録音されたというわけではない。サイケデリックな「ウォール・オヴ・サウンド」。多幸感溢れる祝祭的なコーラス&ハーモニーの奔流に包まれる。音楽で作られたファンタスティックな桃源郷。《Sung Tongs》(Fat Cat 2004)や《Feels》 (2005)の中に潜んで…#25



  • HUNTING MY DRESS (Last Laugh 2009) Jesca Hoop


  • 黒地に浮かび上がるJesca Hoopの横顔‥‥紙ジャケを見開くと、紫色のチューリップが敷き詰められたインナー・スリーヴのスリットに同じデザイン(紫チューリップ)をプリントしたCDが挿まれている。デビュー・アルバム《Kismet》(Red Ink 2007)はSony傘下のメジャー・レーベルだったのに2ndアルバムがUKインディーズからの先行リリースになったのは彼女が米カリフォルニアから英マンチェスターへ活動の拠点を移したことと関係があるのだろうか。アカペラ多重唱か…#26



  • TEEN DREAM (Sub Pop 2010) Beach House


  • 米ボルチモアで結成されたAlex ScallyとVictoria Legrandの男女デュオ。ウェブ画像では分かり難いけれど、アルバム・カヴァが縞馬模様になっているのは〈Zebra〉という曲が1曲目に入っているから。ドリーム・ポップの〈Silver Soul〉、そしてキラー・チューンの〈Norway〉に文字通り瞬殺される。演奏中にギターの弦を緩めたような不協和音の気味悪さとネオ ・アコ風の夢見るようなメロディの混じり具合が絶妙で何度も繰り返して聴きたくなる。仏作曲家Michel Legrandの…#27



  • MY FATHER WILL GUIDE ME UP A ROPE TO THE SKY (Young God 2010) SWANS


  • 米NYのポスト・パンク〜エクスペリメンタル・バンドの14年振りの復活アルバム。Micheal Gira(ギター、ヴォーカル) 、Norman Westberg、Christoph Hahn(ベース)、Chris Pravdica(ギター)、Phil Puleo、Thor Harris(ドラムス)という凶悪顔のメンバー6人にGrasshopper(マンドリン) 、Devendra Banhart(ヴォーカル)、Bill Rieflin(ドラムス、ピアノ、ギター、シンセ)などがゲスト参加している。重低音の音塊が一丸となって襲いかかる戦慄と覚醒を促す…#28



  • BON IVER, BON IVER (Jagjaguwar 2011) Bon Iver


  • 2011年を象徴するアルバムはBon Iverの2ndとJames Blakeのデビュー・アルバムかもしれない。インディ・フォークロックとダブ・ステップ‥‥いわゆる「ロックの王道」から大きく逸脱した音楽で、「辺境ロック」と呼びたい誘惑に駆られる。ゼロ年代のエレクトロニカやフリー・フォークを経て結実した前者はインディ・レーベルからのリリースなのにも拘わらず、全米チャート第2位(Billboard)という快挙を成し遂げた。Justin Vernonの哀しげなファルセット・ヴォイスと幽…#29



  • EKSTASIS (Rvng Intl. 2012) Julia Holter


  • Laurie Andersonの姪、それともJulianna Barwickの双子姉妹なのか?‥‥米ロサンゼルス出身のSSW、マルチ奏者の2ndアルバムは夢幻的なエレクトロニカでリスナーを魅惑する。可愛らしいヴォーカルとキーボードに、クラリネット、ヴィオラ 、アルト・サックスなどが響く異世界へトリップする。Julia Holterの神秘的なヴォイスは妖精の囀りにも、セレーンの誘惑にも聴こえる。カナダの詩人アン・カーソンのエッセイ集から採ったというアルバム・タイトルの〈Ekstasis〉はギ…#30



  • RUINS (Kranky 2014) Grouper


  • 人類学者のテンペランス・ブレナンは「グルーピーよりもグル ーパーの方が理に適っている」と発言していたが、Liz Harrisが育ったコミューン、フォース・ウェイ(Fourth Way)の通称「Grouper」から採ったというソロ・プロジェクトにも魅了される。2011年、彼女がポルトガル・アルジェズール滞在中にレコーディングしたアルバムはオープニングの〈Made Of Metal〉とラストの〈Made Of Air〉(この曲だけは2014年に米ペタルーナの母の実家で録音されている)が呼応…#31



  • SPRAINED ANKLE (6131 2015) Julien Baker


  • 「挫いた足首」とは、まるで中学生の作文みたいなタイトルである。うら若き女性SSW(当時20歳)のデビュー・アルバムとして、これほど痛々しくてプライヴェートな題名も珍しい。アルバムの収録曲はテネシー州立大学在学中に書いた。当時活動していたバンド(The Star Killers、Forrister)の雰囲気に合わないと思って、彼女は発表するつもりはなかったが、友人の勧めでデモを作り、2014年の夏ヴァージニア・リッチモンドのスタジオで録音したという。Bandcampで自主リ…#32



  • MY WOMAN (Jagjaguwar 2016) Angel Olsen


  • エンジェル・オルセン(Angel Olsen)は米ミズーリ・セントルイス出身の女性SSW。3rdアルバムは意表を衝くシンセポ ップの〈Intern〉で幕を開ける。彼女の基本的スタイルはギタ ーやピアノの弾き語りだが、鼻にかかったヴォーカルは力強か ったり、可愛かったり、気怠かったり‥‥多面体の彫像のように変化する。Stewart Bronaugh、Seth Kaffman(ギター) 、Joshua Jaeger(ドラムス)、Justin Raisen(マルチ・インストルメント)、Emily Elhaj(ベース)と…#33



  • FRONT ROW SEAT TO EARTH (Mexican Summer 2016) Weyes Blood


  • 《Titanic Rising》(Sub Pop 2019)が年間ベスト・アルバムの上位に選出された米カリフォルニア・サンタモニカ生まれのSSW、Natalie Meringの3thアルバム。ワイズ・ブラッドというステージ・ネームはフラナリー・オコナー(Flannery O'Connor)の小説 「Wise Blood」(1952)から採られている。彼女とChris Cohen(Deerhoof)の共同プロデュース。ターコイズブルーのサテンスーツを着て浮島に横たわるアルバム・カヴァは米カリフォルニア・インペリアル・バレー…#34



  • STRANGER IN THE ALPS (Dead Oceans 2017) Phoebe Bridgers


  • iPhoneのCM(2014)で、Pixiesの〈Gigantic〉をカヴァして一躍注目された女性SSWのデビュー・アルバム。フィービ ー・ブリジャーズのギターとバンジョーに、キーボード、ピアノ、ギター、ベース、ドラムス、チェロ、ヴァイオリンを配したアクースティック・サウンド。3フィンガーズ・ピッキングの〈Funeral〉、アルペジオの〈Demi Moore〉など‥‥生ギター弾き語りタイプのSSWで、〈Gigantic〉のパンキッシュなイメージとは異なる。「天才少年」の中では一番フォ…#35



  • DOUBLE NEGATIVE (Sub Pop 2018) LOW


  • アニコレの《Merriweather Post Pavilion》(2009)のように、良くも悪くも1年を象徴してしまうアルバムがある。米ミネソタ・ダルースで結成された3人組の12thアルバムもメンバ ーたちの思惑は兎も角、2018年に蔓延していた閉塞感を音像化している。自分だけが良ければという排他的利己主義、監視カメラの映像やクレジット・カードの情報(閲覧履歴や購入記録)などでプライヴァシーが暴かれ、個人の行動や嗜好がビッグデータとして利用されてしまう管理社会。遅れて…#36



  • TWO HANDS (4AD 2019) Big Thief


  • 《U.F.O.F.》の完成から僅か5日後、米テキサス・トーニロで録音された4thアルバム。ワシントン・ウッディンビルの湿った森と緑、乾燥した暑い砂漠地帯の対比。バンドが前者を「天上の双子」(the celestial twin)、後者を 「地上の双子」(the earth twin)と呼んでいるツイン姉妹アルバムだ。Adrianne Lenker(ヴォーカル、ギター)、Buck Meek(ギター)、James Krivchenia (ドラムス)、Max Oleartchik (ベース)という編成でライヴ・レコーディングされたという…#37



  • NO HOME RECORD (Matador 2019) Kim Gordon


  • 夫婦バンドは仲睦まじい時は良いけれど、不仲になるや否や解散の危機に直面する。Sonic Youthも浮気を赦さない妻(Kim Gordon)が夫(Thurston Moore)に三下り半を突きつけて離婚、バンドも解散を余儀なくされた。キム姐さんの初ソロ・アルバムはアヴァンポップ系(Yves Tumor、Angel Olsen)のプロデューサ、ジャスティン・ライセン(Justin Raisen)とのコラボ。Arto Lindsayみたいなノイズ・ギターが炸裂する〈Air BnB〉、クリックトラックとマリンバを組み合…#38



  • REMIND ME TOMORROW (Jagjaguwar 2019) Sharon Van Etten


  • ニュージャージー・ベルヴィル生まれの女性SSW、シャロン ・ヴァン・エッテンの5thアルバム。2017年に男児を出産して母親になったことを示唆しているようなアルバム・カヴァ。「ゴミ屋敷」と化した子供部屋は彼女ではなく、映画監督のキ ャサリン・ディークマン(Katherine Dieckmann)が15年前に撮った子供たちの写真だという。John Congletonのプロデュース、Stella Mozgawa(Warpaint)、Jamie Stewart(Xiu Xiu)などが参加したサウンドはダビーでダーク…#39



  • SINNER GET READY (Sargent House 2021) Lingua Ignota


  • クリスティン・ヘイター(Kristin Hayter)は南カリフォルニア・デル・マー生まれのマルチ奏者である。リングア・イグノタ(Lingua Ignota)というステージ・ネームは「中世ドイツのベネディクト会系女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)によって作られた言語」に由来する。家庭内暴力、性的虐待、拒食症、ミソジニーなどから生き長らえた「サヴァイヴァー・アンセム」。ブルガリアン・ヴォイス、アパラチアン・フォーク、ピアノやバンジョー弾き語り…#40

    「MUSIC MAGAZINE 2021年9月号」 の特集は 「USインディ40年史」 という名称だが、実質的には38年間(1982-2019)にリリースされた80枚が4人の選者によってリスト・アップされている。〈USインディ・アルバム 40〉が37年間(1985-2021)と中途半端になってしまったのは「年間ベスト・アルバム」を遡って行く記事(Rewind)が1988年で止まっているからで、Dinosaur Jr.、Butthole Surfersなど、選出から漏れてしまった80年代のインディ ・アルバムもあるし、Akron/Family、Battlesなど、記事にするタイミングを逃したゼロ年代のアルバムも少なくない。1アーティスト・1バンド、1枚という縛りとはいえ、40年で40枚という企画が無謀だったのかもしれない。「USインディ40年史」と重複するアルバムは40枚中14枚。MMに迎合するようなリストを挙げても面白くないし、強いて独自性を出したというわけでもないけれど、スニンクスの嗜好が反映されたUSインディ・アルバム40選になったと思う。〈USインディ・アルバム 1985 - 2004〉と併せて、ご笑覧下さい。

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    ミュージック・マガジン 2021年 9月号

    ミュージック・マガジン 2021年 9月号

    • 特集:USインディ40年史 /『サマー・オブ・ソウル』とブラック・パワーの時代
    • 出版社:ミュージック・マガジン
    • 発売日:2021/08/20
    • メディア:雑誌
    • 目次:ビッグ・レッド・マシーン・インタヴュー / スフィアン・スティーヴンス・インタヴュー / インディを拠点にする意思 / USインディ・ヒストリー(1)1980年代 / USインディ・ヒストリー(2)1990年代 / USインディ・ヒストリー(3)2000年代 / USインデ ィ・ヒストリー(4)2010年〜 / 映画解説とクエストラヴ監督による記者会見 /『サマ...

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