USインディ・アルバム 40(1 9 8 5 ー 2 0 0 4) [r e w i n d]
BAD MOON RISING (Homestead 1985) Sonic Youth
夕暮れのNYを背景にして、燃え上がるカボチャ頭(Jack-o'-lantern)の案山子のシルエット‥‥写真家ジェームズ・ウェリング(James Welling)の撮影したアルバム・カヴァが不吉な月夜(Bad Moon Rising)を暗示する。3rdアルバムはMartin Bisiとの共同プロデュース。Lee Ranaldo(ギター) 、Kim Gordon(ベース、ヴォーカル) 、Bob Bert(ドラムス)、Thurston Moore(ギター、ヴォーカル)の4人でレコ ーディングされたエクスペリメンタルなノイズ・ロック…#01
LIFES RICH PAGEANT (I.R.S. 1986) R.E.M.
シリアス、ミステリアス、暗い‥‥などの形容詞が常に付き纏うR.E.M.だが、実際問題として、何を歌っているのか理解に苦しむという戸惑いがリスナー側になかったわけではない。確かにMichael Stipeのモゴモゴ声はモヤッとしたサウンドの中で泥濘化していたし、故意に分からないように歌っているという疑いも少なからずあった。一般的に難解といっても様々なレヴェルが内在する。Elizabeth Fraser(Cocteau Twins)のようにエコーの洪水の彼方へ意図的に後退〜曖昧化して…#02
SONGS ABOUT FUCKING (Touch and Go 1987) Big Black
Big Black(1981-87)は米インディ・ロック界の必殺録音請負人・スティーヴ・アルビニ(Steve Albini)が率いる3ピース ・バンド。2ndアルバムは、みやわき心太郎の劇画 「THE レイプマン」 から借用したカヴァとタイトル、「デカくて黒い」 というバンド名(次に結成したバンドはRapemanだった)から下卑た下ネタを想わせる。日本のエロ劇画だけでなく 、レコーディング・スタジオに壊れたパチンコマシンを3台も所有するなど、アルビニはクール・ジャパンに興味があるら…#03
DOOLITTLE (4AD 1989) Pixies
Gil Nortonがプロデュースした2ndアルバムはタイトルとカヴ ァからヒュー・ロフティングの『ドリトル先生アフリカゆき』(The Story Of Doctor Dolittle 1920)を想い浮かべてしまうが、直接的な関連性は認められない。〈Debaser〉の中でルイス・ブニュエルの映画 「アンダルシアの犬」(Un Chien Andalou 1929)に言及しているように、猿よりも犬 、児童文学よりもシュルレアリスムが色濃く反映されている。女性トルソの上のスプーンと髪の毛、縄とバービー人形、心臓…#04
THE POWER OF PUSSY (Shimmy Disc 1991) Bongwater
カヴァ・デザインはオリジナルUS盤とは「Bongwater」のロゴなどが異なっている(ユーロ盤にタイトル名が記されていないのは、ヌード・イラスト女性の 「THE POWER OF PUSSY」 という人型文字に問題があったのか?)。Ann Magnuson扮するグラマラスなアマゾネスのカヴァがエロティックならば、「プッシー・パワー」 というアルバム・タイトルも強烈で、サイケデリックな表題曲でゲスト参加のFred Schneider (The B-52's)がAnn Magnusonとデュエットする。「猫ぢか…#05
TO MOTHER (Twin/Tone 1991) Babes In Toyland
インディーズ時代にロンドンで録音した7曲入りミニ・アルバム。メンバーはKat Bjelland(ギター&ヴォーカル)、Lori Barbero(ドラムス)、Michelle Leon(ベース)の3人で、少女時代のモノクロ写真を使ったアルバム・カヴァ(Katちゃん)が愛らしい。リズム・チェンジを繰り返す、変則パンクの〈Catatonic〉。操縦士キャットが絶叫してアクロバット飛行しているような〈Mad Pilot〉。Lori Barberoのヴォーカル曲〈Primus〉‥‥虚飾を脱ぎ捨てて疾走する体脂肪率の少…#06
NO PORKY FOR KITTY (Matador 1991) Superchunk
ノース・カロライナ出身の4人組Superchunkの2人、Laura Ballance(ベース)とMac McCaughn(ヴォイス&ギター)は、今やMERGEレコードの主宰者としての方が有名かもしれない。20年前、メジャーへの道を拒否して自主レーベルを立ち上げた2人も反骨精神に溢れていたが、2ndアルバムの日本盤リリースを許さなかったArcade Fireも相当に偏屈だった。《Neon Bible》(Merge 2007)の大ブレイクは彼らだけではなく、MERGEレーベルの知名度も上げた。アルバム…#07
THE GUILT TRIP (Shimmy Disc 1993) Kramer
インスト・ナンバーの〈Overtune〉に始まり〈Coda〉で終わる36曲、2時間(128分)を超える超大作。Kramerの2人の友人、Randolph A. Hudson III(ギター)とDavid Licht (ドラムス)のサポートで、1年余りの期間(1991-92)に渡り、彼のスタジオ「Noise New Jersey」で録音された。女性の喘ぎ声と工事現場のドリル音や破壊音の落差が意表を衝く〈Stupid Summer〉。Pink Floydのパロディみたいに聴こえる美しいバラード〈Welcome Home〉。Brian Ferry…#08
SPASM SMASH XXXOXOX OX AND ASS (El-e-ment'al 1993) Trumans Water
1991年、Kirk & Kevin Branstetter兄弟を中心に米サン・デ ィエゴで結成されたTrumans Waterは冗談とも本気ともつかないクレイジーでバカバカしい絶叫狂乱ロックを爆発させる。2ndアルバムは質より量(全20曲77分44秒)なのかと思うと 、実はそうでもない。変拍拍子にリズム・チェンジ‥‥鬼のような変則ギター・リフを執拗に畳かけるスタイルなので、一見混沌としているようで意外にグシャグシャしていない。ギターとベースとドラムスのタイミングを合せるだけでも相当…#09
ALL MY SCREWS FELL OUT (Megaphone 1993) The Honkies
1枚ずつ異なるアルバム・デザインを輸入CDショップで見較べるのは愉しい。同じ手作りジャケでもメガフォン・リミテッド・シリーズ(Megaphone Limited)のようにアルミ箔で包んだり、透明テープを貼った「デコ・ジャケ」ではなく、The Honkiesのハンド・メイドのカヴァはジュエルケースと歌詞ブ ックレットの隙間に正方形の紙片(12cm x 12cm)を挿み込んだだけなのだが、その視覚効果は抜群で、思わず手に取って見たくなる誘惑に逆らえない。デカルコマニー風の抽象…#10
PUSSY WHIPPED (Kill Rock Stars 1993) Bikini Kill
Bikini Kill(ビキニ・キル)は1990年、米ワシントン・オリンピアで結成されたガール・パンク・バンド。Kathi Wilcox (ベース)、Billy Karren(ギター)、Tobi Vail(ドラムス) 、Kathleen Hanna(ヴォーカル)の4人組‥‥いわゆるライオット・ガルー(Riot grrrl)である。元々「Bikini Kill」はKathleen Hannaが発行していたファンジンの名称で、仲間のミュージシャン(Lois Maffeo)のバンド名だったが、彼女が「Cradle Robbers」に改名した後、この名前を気に入…#11
STRANGERS FROM THE UNIVERSE (1994) TFUL 282
汚いものを洗い流す、躰を洗って浄める、シャワーを浴びるといった清冽なイメージの奔流が、この上もなく美しく心地良い〈Cup Of Dreams〉‥‥短い電子音、長い反復から成るギタ ー・イントロ〜メロディ〜マッチョな男声コーラス〜ヴォーカル(その背後で繰り返される「ビックリ箱」から飛び出したみたいなホッピング音、何かがコロコロ転がるような音、驚く男の声、アブク音などのサンプリング・コラージュ・ループは少年時代のセピア色に褪色した遠い記憶のカレイドスコー…#12
DUSK AT CUBIST CASTLE (Flydaddy 1996) The Olivia Tremor Control
何の予備知識、前情報もないまま、たまたま輸入CDショップで試聴して気に入ったオリヴィア・トレマー・コントロール(OTC)のデビュー・アルバム。副題に「Music From The Unrealized Film Script」とあるように、「架空の映画」(台本)のための音楽」という良くあるコンセプトだが、あらゆる意味で謎が多い。OTCの4人にElephant 6 Orchestraという5人組がサポ ート、全27曲(74分)にアンビエントCD(68分)がオマケに付いていたのだから。後期BeatlesのGe…#13
I CAN HEAR THE HEART BEATING AS ONE (Matador 1997)Yo La Tengo
シューゲイザー(Shoegazer)とは文字通り「靴を見つめる人」という意味で、音楽ジャンルではなく演奏スタイルを指していた。直立不動で頭を垂れてギターを弾く姿が足許を見つめているように見えたらしい。グランジのように感情を露わにして(激しいアクションで)飛び回るのではなく、静的で内省的なロック。囁くような繊細なヴォイスの背後でサイケデリックなギター・ノイズが深い霧のように立ち籠める。代表的なバンドであるMy Bloody Valentineがグランジの雄Nirvana…#14
SENTIMENTAL EDUCATION (Wiiija 1997) Free Kitten
11年振りに復活した〈気まぐれ仔猫ちゃん〉の3rdアルバム。〈Teenie Weenie Boppie〉はFrance Gallのカヴァですが、Serge Gainsbourgの提供した曲にはアイドル・ソングらしくない辛辣で意地悪な意味が込められていた。〈夢見るシャンソン人形〉の原題は〈蝋人形、糠人形〉だったし、〈アニーとボンボン〉の棒付きキャンディ(ボンボン)には性的なシンボルが隠喩されていた(後年、France Gallは〈Les Sucettes〉の歌詞に嫌悪感を露わにする)。仔猫ちゃんが仏〜英語混…#15
STICKS & STONES MAY BREAK MY BONES ... (Reverent 2002) NNCK
透明アクリル板、黒いCDトレイ(白いCD盤)、ベニヤ板の3枚を帯状の紙枠が囲む。左右上・三面開きの変形(八角形)スリーヴで、裏面のベニヤ板には「NNCK」の焼印が押されている。オリジナル盤はJohn Faheyのレーベル「Reverent」からのリリース(現在は彼らの「Sound@One」から再発)。NYの即興音楽集団、No Neck Blues Bandは灰色の岩オブジ ェのようにも、石像の横顔のようにも見えるアルバム・カヴァのように捉えどころがない。4曲しかクレジットされて…#16
YANQUI U.X.O. (Constellation 2002) Godspeed You! Black Emperor
今まさに投下されたクラスター爆弾から俯瞰した「航空写真」と大手レコード会社(コングロマリット)と軍事産業の癒着を告発した相関図式の表・裏スリーヴがタイトル以上にGY!BEの立場を鮮明に物語っている。歌のないインスト・ミュージックが荒涼とした地上の世界観を啓示する。インディ界の必殺録音請負人Steve Albiniが手掛けたことで、地下100メートルの核シェルター内で録られたようなサウンド(音圧)が現実世界をトポロジカルに反転させる。瓦礫に埋もれた都市部、…#17
MILK MAN (Kill Rock Stars 2004) Deerhoof
ネット配信で大ブレークしたサンフランシスコの4人組の奇妙な音楽を一言で言い表わすのは難しい。紅一点の日本人女性サトミ嬢の舌足らずな英語ヴォイス(一部日本語)は決して上手いとも個性的だとも思わないが、一歩先が読めない曲展開・構成、人を喰ったようなギターの音色や変態的フレーズ‥‥に、同郷の Thinking Fellers Union Local 282の名を挙げれば多少とも分り易いだろうか。パンクともオルタナともポスト・ロ ックとも音響派とも呼ぶのを躊躇ってしまうようなアヴ…#18
FUNERAL (Merge 2004) Arcade Fire
アルバム名が『葬式』、バンド名が「アーケードの火事」というカナダの大所帯グループ(6人+α)。地球に墜ちて来た男がRoxy Musicを従えて歌ったような〈Neighborhood #1 (Tunnels)〉やDavid Byrne が〈Pretty In Pink〉をカヴァしたような〈#2 (Laika)〉に殺られる。クレイジー極まりない歌詞。アコーディオン、サキソフォン、ヴァイオリン、チェロ、ハープなどが鳴り響く分厚いサウンドが薄くなる瞬間に鳥肌が立つ。後期Talking Heads風アプローチの〈Haiti〉…#19
REJOICING IN THE HANDS (Young God 2004) Devendra Banhart
フリー・フォークの旗手、Devendra Banhartの生ギター弾き語りアルバム。英米音楽メディアの年間ベスト・アルバムに選出されて、彼だけでなくYoung Godレーベルも人口に膾炙した。〈Pughkeepsie〉で Elvis Presleyの曲名を歌詞の中に折り込み、〈This Bead Is For Siobhan〉の後半でパーカッションが入り、〈When The Sun Shone On Vetiver〉でスライド・ギターが優雅に滑り、〈Fall〉で軽快にフォーク・ロ ックして、〈Rejoicing In The Hands〉では伝説のフ…#20
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us indie albums 40 1985-2004 / 2005-2021 / sknynx 1023
- 特集:USインディ40年史 /『サマー・オブ・ソウル』とブラック・パワーの時代
- 出版社:ミュージック・マガジン
- 発売日:2021/08/20
- メディア:雑誌
- 目次:ビッグ・レッド・マシーン・インタヴュー / スフィアン・スティーヴンス・インタヴュー / インディを拠点にする意思 / USインディ・ヒストリー(1)1980年代 / USインディ・ヒストリー(2)1990年代 / USインディ・ヒストリー(3)2000年代 / USインデ ィ・ヒストリー(4)2010年〜 / 映画解説とクエストラヴ監督による記者会見 /『サマ...
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