10年代アルバム・ベスト20 [r e w i n d]
ANTONIO LOUREIRO (Independente 2010) Antonio Loureiro
ミナス出身のSSW、Antonio Loureiroはドラムス、ピアノ、ギター、マリンバ、ローズ・ピアノ、ヴィブラフォン、グロッケンシュピールなどを操るマルチ奏者。Caetano Velosoを想わせる中性的なヴォイスとエクスペリメンタルなサウンド‥‥冒頭の変則5拍子曲〈Voo A Dois〉を一聴するだけでも、並大抵の才能でないことが分かる。トロンボーン、フルート、クラリネット、チェロ、アコーディオン、ハープなどの奏でる優雅なチェンバー・ポップはSufjan Stevensと共振する…#01
MY FATHER WILL GUIDE ME UP A ROPE TO THE SKY (Young God 2010) Swans
米NYのポスト・パンク〜エクスペリメンタル・バンドの14年振りの復活アルバム。Micheal Gira(ギター、ヴォーカル)、Norman Westberg、Chris Pravdica(ギター)、Christoph Hahn(ベース)、Phil Puleo、Thor Harris(ドラムス)という凶悪顔のメンバー6人に、Grasshopper(マンドリン)、Devendra Banhart(ヴォーカル)、Bill Rieflin(ドラムス、ピアノ、ギター、シンセ)などがゲスト参加している。重低音の音塊が一丸となって襲いかかる戦慄と覚醒を促す静寂...#02
THE AGE OF ADZ (Asthmatic Kitty 2010) Sufjan Stevens
全米50州シリーズはジョークだった!?‥‥5年振りのニュー・アルバムはエレクトロニカ色が濃い。馴れ親しんだ軽やかなバンジョーやヴィブラフォンの音色も殆ど聴こえないし、ギターもノイジーで歪んでいる。歌詞や楽器などの記載も一切省かれている。《Michigan》(2003)、《Illinoise》(2005)に纏わる歴史を掘り起こし、現代と対比させる重層・横断的な世界を期待したリスナーは困惑するかもしれない。〈I Want To Be Well〉は変則7〜5拍子、ラストの〈Impossible S...#03
BON IVER, BON IVER (Jagjaguwar 2011) Bon Iver
2011年を象徴するアルバムはBon Iverの2ndとJames Blakeのデビュー・アルバムかもしれない。インディ・フォークロックとダブ・ステップ‥‥いわゆる「ロックの王道」から大きく逸脱した音楽で、「辺境ロック」と呼びたい誘惑に駆られる。ゼロ年代のエレクトロニカやフリー・フォークを経て結実した前者はインディ・レーベルからのリリースなのにも拘わらず、全米チャート第2位(Billboard)という快挙を成し遂げた。Justin Vernonの哀しげなファルセット・ヴォイスと幽…#04
EKSTASIS (Rvng International 2012) Julia Holter
Laurie Andersonの姪、それともJulianna Barwickの双子姉妹なのか?‥‥米ロサンゼルス出身のSSW、マルチ奏者の2ndアルバムは夢幻的なエレクトロニカでリスナーを魅惑する。可愛らしいヴォーカルとキーボードに、クラリネット、ヴィオラ 、アルト・サックスなどが響く異世界へトリップする。Julia Holterの神秘的なヴォイスは妖精の囀りにも、セレーンの誘惑にも聴こえる。カナダの詩人アン・カーソンのエッセイ集から採ったというアルバム・タイトルの〈Ekstasis〉はギリ…#05
KILL FOR LOVE (Italians Do It Better 2012) Chromatics
Chromaticsは2001年に米オレゴン・ポートランドで結成されたシンセ・ポップ・バンド。元々はパンク・ローファイ・バンドだったが、紆余曲折を経て1人残ったオリジナル・メンバーのAdam Miller(ギター、ヴォコーダー)にマルチ楽器奏者のJohnny Jewel(プログラミング、プロダクション)が加入したことで音楽性が大きく変わった。彼らの5thアルバムはNeil Youngのカヴァ〈Into The Black〉で幕を開ける。紅一点のRuth Radelet(ヴォーカル、ギター、シンセ)はミント…#06
QUARANTINE (Hyperdub 2012) Laurel Halo
米ミシガン・アナーバー生まれのローレル・ヘイロー(Laurel Halo)はデトロイトやタイに移り住み、フリー・ジャズやテクノ・ミュージック、フォーク・ソングの洗礼を受けたという。その後、NYブルックリンに活動の拠点を移し、King Felix名義のEPなどで注目された彼女がダブステップを牽引する英レーベル(Hyperdub)からデビュー・アルバムをリリース。「検疫 ・隔離」(Quarantine)というアルバム・タイトルが示唆しているようなダーク・ポップ。シンセ・ドローン…#07
M B V (MBV 2013) My Bloody Valentine
2013年2月の来日公演では聴衆に耳栓が配られたという元祖シューゲイザーによる22年振りの3rdアルバム。2012年5月にリイシューされたリマスター盤3種(1st、2nd、Ep's)が露払いになったのか、満を持しての新作である。デビューから四半世紀以上を経て古色蒼然どころか、「シューゲイザー」という1ジャンルを確立してしまったMBVのニュー・アルバムは良くも悪くも変わっていない。自主レーベルからのリリース、「YouTube公式チャンネル」で全曲試聴可という変化...#08
ULTRAVIOLENCE (Polydor 2014) Lana Del Rey
ラナ・デル・レイ(Lizzy Grant)はNY生まれの女性SSW。「ギャングスタ版ナンシー・シナトラ」 を自称し、「ハリウッド ・サッドコア」 とも呼ばれる音楽スタイルは往年の映画女優のような気怠い頽廃感に覆われている。Dan Auerbach(The Black Keys)が大半をプロデュースした3rdアルバムは60年代のヒット曲〈And I Love Her〉や〈Romeo And Juliet〉を彷彿させるノスタルジックなサウンド。モノクロのアルバム・カヴァ‥‥メルセデス・ベンツのドアを開けてパワ...#09
NO CITIES TO LOVE (Sub Pop 2015) Sleater-Kinney
1994年、米ワシントン・オリンピアで結成された女性トリオ Sleater-Kinneyは12年間で7枚のアルバムをリリースした。2006年に活動停止したが、2014年に再結成して、翌年1月に10年振りの8thアルバムを発表した。Corin Tucker、Carrie Brownstein(ヴォーカル、ギター)、Janet Weiss(ドラムス)という3ピース・バンドで、JSBXやThe Exと同じようにベースレスなのが彼女たちのスタイル。2人のヴォーカルと2本のギターが絡み合うサウンドはスリリングで厚みが...#10
SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOME... (Milk! 2015) Courtney Barnett
白地に青と緑のチェック柄の絨毯と肘掛け椅子が描かれた安西水丸風のカヴァ。「時には椅子に座って考えたり、座っているだけだったり」という長いタイトル‥‥豪タスマニア生まれの女性SSW、Courtney Barnettのデビュー・アルバムは少女っぽい意匠だが音楽は筋金入り。フェンダー・ジャガーを左指で弾く。2ギター、ベース、ドラムスというオーソドックスな編成(ライヴではトリオ)で、ライオット・ガルーなインディ・ロックやNirvana風のグランジを演奏する。〈Elevator …#11
PALERMO HOLLYWOOD (Riviera 2016) Benjamin Biolay
アルゼンチン・ブエノス・アイレス北東部のパレルモ地区。ボルヘスが幼少期を過したことでも知られるパレルモ・ビエホは1990年代半ばにラジオやTVプロデューサなどが住み着いたことで、「パレルモ・ハリウッド」と呼ばれるようになったという。バンジャマン・ビオレー(Benjamin Biolay)の10thアルバムは「南米の歓楽街」の過去と現在を交錯させて、夢幻のように描き出す。バンドネオンやチャランゴに彩られ、ブエノス・アイレスのオーケストラが奏でられる。フットボー…#12
BOA NOITE PRA FALAR COM O MAR (Tratore 2016) Joana Queiroz Sexteto
2ndアルバムはカルテット名義の《Uma Maneira de Dizer》(2013)から、Joana Queiroz、Beth Dau(ヴォーカル) 、Bernardo Ramos(ギター)、Rafael Martini(ピアノ)、Bruno Aguilar(コントラバス)、Felipe Continentino(ドラムス)の6人(Sexteto)編成となった。全8曲中ヴォーカル入りは2曲だけだが、JoanaとBeth Dauの2人が自由奔放にスキャットしているので「インスト・アルバム」という感じはしない。彼女が率いる管楽六重奏団、Inventosのメン…#13
HALO (Crammed Discs 2017) Juana Molina
1人だけで録音した《Wed 21》(2013)から3年半‥‥フアナ・モリーナの7thアルバムは宅録から、スタジオ・レコーディングへ1歩踏み出す。テキサス郊外のスタジオで録音したアルバムにはライヴ・サポート・メンバーのOdin Schwartz (ベース、シンセ、ギター)とDiego Lopez de Arcaute(ドラムス)が参加している。John Dieterich(Deerhoof)がギターを弾く〈In The Lassa〉、6拍子の〈Paraguaya〉と〈Estalacticas〉、7拍子の〈Cosoco〉‥‥アルバム・…#14
VESTIDA DE NIT (Universal 2017) Silvia Perez Cruz
スペイン・パラフルージェル生まれの女性歌手シルヴィア・ペレス・クルース(Silvia Perez Cruz)のニュー・アルバムは彼女の「愛唱歌」を弦楽五重奏(ヴァイオリン×2、ヴィオラ 、チェロ、コントラバス)でリメイク。Caetano Velosoのスペイン語圏のラテン・カヴァ・アルバム《Fina Estampa》に収録されていたSmon Diazの〈Tonada De Luna Llena〉、カタルーニャのトラッド・ソング〈Vestida De Nit〉、日本でもヒットした〈La Lambada (Chorando Se Foi) 〉、...#15
EL BUEN GUALICHO (Casa Del Arbol 2017) Natalia Doco
ナタリア・ドコ(Natalia Doco)はアルゼンチン・ブエノス ・アイレス生まれの女性SSWで、2011年から活動の拠点をパリに移している。アルゼンチン音響派のアクセル・クリヒエール(Axel Krygier)によるプロデュースの2ndアルバムは仏レ ーベルからリリースされた。フォルクローレやクンビア、フレンチ・ポップスなどをスペイン語やフランス語で歌う摩訶不思議な世界‥‥女占星術師風のアルバム・カヴァは近寄り難いけれど、ツンデレ系の可愛いヴォイスに一瞬で惹き込まれ…#16
UTOPIA (One Little Indian 2017) Bjork
《Vulnicura》(2015)に引き続いて、Arcaが全面参加した9thアルバム。痛ましい胸の疵(裂け目)が額に転移して花開いたジェシー・カンダ(Jesse Kanda)のカヴァ・アートが強烈無比(中島らも「DECO-CHIN」の女性版?)。アルバムを入手した人は彼女の音楽を聴く前に、このアートワークに直面することになる。顔を顰めるか、微笑むか、バカバカしいと思うか‥‥リスナーの人間性(性意識)も問われている。ダウン・ロードやストリーミングで聴いている人は衝撃度が...#17
JE SUIS UNE ILE (Heavenly 2018) Halo Maud
アロー・モード(Maud Nadal)はフランス・オーヴェルニュ出身の女性SSW。デビュー・アルバムはGwenno、Melody's Echo Chamber、Jane Weaverなどに通じる最新流行型のサイケデリック・ドリーム・ポップだが、「Francoise HardyからBjorkにひとっ飛びする弾力性のあるヴォーカル」に魅了される。共同プロデュースしたRobin LeducやBenjamin Gilber (Aquaserge)、Pablo Padovani(Moodoïd)が彼女を好サポート。英・仏語混じりで歌うBjorkっぽい〈Tu Sais C…#18
NO HOME RECORD (Matador 2019) Kim Gordon
夫婦バンドは仲睦まじい時は良いけれど、不仲になるや否や解散の危機に直面する。Sonic Youthも浮気を赦さない妻(Kim Gordon)が夫(Thurston Moore)に三下り半を突きつけて離婚、バンドも解散を余儀なくされた。キム姐さんの初ソロ・アルバムはアヴァンポップ系(Yves Tumor、Angel Olsen)のプロデューサ、ジャスティン・ライセン(Justin Raisen)とのコラボ。Arto Lindsayみたいなノイズ・ギターが炸裂する〈Air BnB〉、クリックトラックとマリンバを組み合...#19
MAGDALENE (Young Trucks 2019) FKA twigs
FKA twigs(Tahliah Barnett)は英グロスタシャー・チェルトナム生まれの女性SSW(母親はスペイン人系英国人、父親はジャマイカ人)。デビュー・アルバム《LP1》(2014)から5年、恋人との破局や子宮筋腫の手術を経てリリースされた2ndアルバム《Magdalene》(Young Turks 2019)は傷心と痛みから生まれた。ソプラノ・ヴォイスとインダストリアル ・ノイズ、破壊的なビートと奇妙なサンプリングなどの織りなす拗れたアヴァンポップ。多数のアーティストとの共同...#20
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rewind 2010-2019 / 2000-2009 / 1990-1999 / sknynx / 885
- 特集:2010年代のオールジャンル・アルバム・ベスト100
- 出版社:ミュージック・マガジン
- 発売日:2019/11/20
- メディア:雑誌
- 執筆者:赤尾美香 / 天井潤之介 / 五十嵐正 / 池上尚志 / 石川真男 / 石田昌隆 / 今井智子 / 大石始 / 大鷹俊一 / 岡村詩野 / 荻原和也 / 小野島大 / 金子厚武 / 木津毅 / 栗本斉 / 小出斉 / 小山守 / 近藤真弥 / 坂本哲哉 / 佐藤英輔 / 柴崎祐二 / 鈴木孝弥 / 高橋健太郎 / 土佐有明 / 柳樂光隆 / 能地祐子 / 萩原健太 / 長谷川町蔵 / 原雅明 / 原田和典 / 原田尊志 / ...
Music Magazine: 2010's All Genres Albums Best 100
(http://musicmagazine.jp/mm/mm201912.html)
1. James Blake(Atlas 2011)James Blake
2. To Pimp A Butterfly(Top Dwag 2015)Kendrick Lamar
3. Blonde(Boy's Don't Cry 2016)Frank Ocean
4. ★ (Blackstar)(ISO 2016)David Bowie
5. Bon Iver(JagJaguwar 2011)Bon Iver
6. Black Messiah(RCA 2014)D'Angelo & The Vanguard
7. Let's Dance Raw(Zelone 2014)Sakamoto Shintaro
8. The ArchAndroid(Bad Boy 2010)Janelle Monae
9. Carrie & Lowell(Asthmatic Kitty 2015)Sufjan Stevens
10. Mellow Waves(Warner 2017)Cornelius
by sknys (2019-12-25 10:41)