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タワレコ・セール 2 0 1 8 [m u s i c]



  • ふたりは街を走りまわりながらなんでもかんでもおもしろがったが、そんなふうだったのは知り合った当初のその頃だけで、後になると、その関係はぐんと悲しく切なく空しいものに変わるのである。でも、そのときはまだふたりともマヌケみたいに街のなかを踊りまわり、その後をぼくは、興味をそそる連中に会うといつもそうしてきたように、よろよろくっついていったわけで、ぼくにとってかけがえのない人間とは、なによりも狂ったやつら、狂ったように生き、狂ったようにしゃべり、狂ったように救われたがっている、なんでも欲しがるやつら、あくびはぜったいにしない、ありふれたことは言わない、燃えて燃えて燃えて(太字引用者)、あざやかな黄色の乱玉の花火のごとく、爆発するとクモのように星々のあいだに広がり、真ん中でポッと青く光って、みんなに「ああ!」と溜め息をつかせる、そんなやつらなのだ。
    ジャック・ケルアック 「オン・ザ・ロード」


  • ◯ Dragging A Dead Deer Up A Hill(Kranky 2013)Grouper
  • グルーパー(Grouper)は米オレゴン・ポートランドの女性SSW、Liz Harrisのソロ・プロジェクト。自らグルーパー(ハタ科の海水魚)と名乗る諧謔性の持ち主である。深遠な森林から聞こえて来る儚い白昼夢のような囁きとギター・サウンドはノイズの大嵐が過ぎ去った後のシューゲイズ・ドローンのようにも聴こえる。Cocteau Twins(4AD)やLida Husik (Shimmy Disc)などと比較される静謐で内向的なサイケデリック・フォークで、〈When We Fall〉〈Invisible〉のハリスは「反響する廊下で歌うヴァシュティ・バニヤンのように聴こえる」とも評される。オリジナル盤(Type 2008)「山手レコーズ」でも高値がついていたが、リイシュー盤(2013)は彼女の他のアルバムと同じく、カラーからモノクロ・カヴァ(母親が撮った少女時代の写真)に変更されている。見開き紙ジャケ仕様で、歌詞ブックレットは付いていない(エッシャーの錯視模様みたいな「ステッカー」が1枚同封されている)。Pitchfork「Best Albums Of 2008」の37位に選ばれています。

  • ◎ Ramo(Independente 2013)Ramo
  • 新世代ミナス派のミュージシャン6人によるインストゥルメンタル・バンド、ハモ(Ramo)のデビュー・アルバム。全10曲はメンバーのオリジナルで、Daniel Pantoja(フルート)、Felipe Jose(チェロ、フルート、ギター)、Antonio Loureiro(ドラムス、ヴィブラフォン)、Rafael Martini(ピアノ、メロディカ、ギター)が各2曲、Andre Rocha(ギター)とFrederico Heliodoro(コントラバス)が1曲という構成。ピアノ、ギター、ドラムス、フルート、チェロによるアクースティック・サウンド。ジャズ〜フュージョンというよりもプログレッシヴなチェンバー・ミュージックという感じ。即興的な緊張感とミナス特有の浮游感が混じり合う。インプロヴィゼーションが爆発する〈Volupedes〉、ヴォーカル入りの最終曲〈Jose No Jabour〉は大所帯バンドMisturada Orquestraのアルバム(2011)の1曲目として再演される。Leonora Weissmannがアルバム・アートを担当するなど、今日のミナス・ミュージックのプロトタイプである(2009年の録音だが日本では入手困難だった)。

  • ☆ HK Presente Les Deserteurs(Blue Line 2014)HK
  • 北仏リールのミクスチュア・ユニット、レ・サルタンバンク(Les Saltimbanks)を率いるHK(アシュカ)ことカドゥール・ハダディ(Kaddour Hadadi)がシャンソンの名曲をアルジェリアン・シャアビ(Chaabi)・ヴァージョンでカヴァしたアルバム。Jacques Brelの〈Vesoul〉、Fabulous Trobadorsの〈Demain Demain〉、Edith Piafの〈Sous Le Ciel De Paris〉と〈Padam Padam〉、Georges Brassensの〈Les Passantes〉、Boris Vianの〈Le Deserteur〉、Serge Gainsbourgの〈Les P'tits Papiers〉、Claude Nougaroの〈Toulouse〉、Leo Ferreの〈L'affiche Rouge〉など、全16曲。Amar Chaoui (パーカション、ドラムス)、Erc Rakotoarivoni(ベース)、Hacene Khelifa(ヴァイオリン)、Meddhi Ziouche (ピアノ、ローズ、アコーディオン、ベース)、Meddhi Dalil(ギター、バンジョー、マンドール、フルート)、P’tit Moh(マンドール)、Rabah Khelfa(ダルブッカ)などの「脱走兵たち」がHK(ヴォーカル)をバックアップしている。

  • ◎ Quema Quema Quema(Strut / Tiger's Milk 2015)Kanaku Y El Tigre
  • Kanaku Y El Tigreは南米ペルー・リマで2010年に結成されたインディ・ロック・バンド。Bruno Bellatin(ギター、ウクレレ、パーカッション)とNicolas Saba(ヴォーカル、ハーモニカ、アコーディオン)のデュオ・ユニットだったが、現在はギター、ベース、ドラムスを加えた5人組で活動している。デビュー・アルバム《Caracoles》(Ombligo 2011)が南米インディ・シーンで話題を呼び、2ndアルバムは英レーベルからのリリースとなった。スペイン語のアルバム・タイトルはジャック・ケルアックの小説「オン・ザ・ロード」の一節「burn, burn, burn」から採られたという。一瞬不良CDかと疑うくらい歪んだループから始まる〈Quema Quema Quema〉。スペインの女優レオノール・ワトリング(Leonor Watling)をゲスト・ヴォーカルに迎えた〈Pulpos〉。ペルーの女性歌手パメラ・ロドゲリス(Pamela Rodriguez)とデュエットした〈Hacerte Venir〉‥‥英語詞の〈Burn Burn Burn〉には「路上」の蜘蛛のイメージ(like spiders in the skyline)が反映されている。

  • ◎ Y Dydd Olaf(Heavenly 2015)Gwenno
  • 60年代風のガールズ・グループ、ザ・ピペッツ(The Pipettes)のフロント・ウーマンだったグウェノー・ソーンダーズ(Gwenno Saunders)は英ウェールズ・カーディフ生まれ。ソロ・デビュー・アルバムはウェールズ語で歌われている(最終曲の〈Amser〉だけはコーンウォール語詩人の父親ティム・ソーンダーズの詩を歌詞に使っている)。マイナーな母国語で歌うことが彼女のアイデンティティだったという。人造的なガールズ・ポップとは懸け離れたシンセ・ポップなのに違和感がないのは彼女のヴォイスが可愛いらしいからかもしれない。レゲエ風の〈Calon Peiriant〉、ディスコ調の〈Fratolish Hiang Perpeshk〉‥‥アルバム・タイトルの「Y Dydd Olaf」は世界征服したロボットが人間をクローン化するというウェールズの作家オウェイン・オウェインのディストピアSF小説「最後の日」(1976)から採られている。Loud And Quiet「Top 40 Albums Of 2015」の2位に選出された。

  • ◎ Strangers(Bella Union 2016)Marissa Nadler
  • マリッサ・ナドラー(Marissa Nadler)は米マサチューセッツ・ボストンを拠点に活動する女性アーティスト。英米音楽メディアで高評価だった《July》(2014)に引き続き、7thアルバムもランドール・ダン(Randall Dunn)がプロデュースしている。ブラック・メタルとゴシック・フォークは案外相性が良いのかもしれない。彼女のヴォーカルとギターに、ピアノ、シンセ、ペダル・スチール、ヴィオラ、ヴァイオリン、ベース、ドラムスという編成で、モノクロームの夢幻世界を創り出す。ギターとシンセの強風が吹き荒れる〈Hungry Is The Ghost〉、夕闇に揺蕩うような〈All The Colors Of The Dark〉、スチール・ギターが幽玄に奏でる〈Strangers〉、「ラナ・デル・レイさえも一時停止させる愛の大惨事のワイドスクリーン・ポートレイト」と評された〈Janie In Love〉‥‥美術家のマリッサはオフィシャルPVを自ら監督し、コマ撮りクレイ・アニメも自作している。

  • ◎ Cosmetic(Heavenly 2016)Nots
  • ノッツ(Nots)は米テネシー・メンフィスで結成された女性4人組のノイズ・パンク・バンド。《We Are Nots》(2014)というデビュー・アルバムのタイトル(Devoを想わせる)からして大胆不敵で頼もしい。Natalie Hoffmann(ヴォーカル、ギター)、 Charlotte Watson(ドラムス)、Alexandra Eastburn(キーボード)、Meredith Lones(ベース)の4人が一丸となってノイズを撒き散らしながら爆走する2010年代のレディース暴走族。凄まじい熱量を放つ爆発力と破壊力のライオット・ガルー。全11曲・26分という潔い1stアルバムに対して、全9曲・34分と曲数が減ったのに演奏時間が増えたのはアルバム・タイトルの〈Cosmetic〉が5分、ラストの〈Entertain Me〉が7分に渡る長尺曲だから。全力疾走するパンク娘たちはノイズ通りの隘路へ突き進む。3rdアルバムはスティーヴ・アルビニのスタジオで録音して欲しい。

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    新年恒例のタワレコ渋谷・クリアランスセール(2018)は実施されなかった。昨年のフロア別の縮小開催(2017)から予想されたことだが、毎年楽しみにしていた音楽ファンは落胆しているでしょう。日本の漁場に侵入して大量に漁って行く某国の密漁船団のように旁若無人なセドリ対策なのかもしれない。今までのクリアランスに代わって、「輸入盤CD 70%OFF SALE」(1/1~2/18)が渋谷と新宿店で開催されている‥‥これでも充分に安いように思えるけれど、クリアランス(税込¥290)の蜜の味を知ってしまったので割高感は否めない。しかも7割引きされてから消費税が加算されるのだ。都内では渋谷と新宿店で開催されているものの、セール品の種類も点数も少なくて、物色している客も疎らだった。消費者の店舗離れを加速させているようにも見える(タワレコ錦糸町店は2月12日に閉店した)。昨年のクリアランスに出ていたアルバムを値上げして売っているのも阿漕ではないかしら?‥‥売れ残ったセール品がクリアランスに落ちて来るかどうかは不透明にゃん。

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    • 「70%OFF SALE」(◯ 2473→741、◎ 2581→774、☆ 3091→1001円)です

    • 《Y Dydd Olaf》は中古盤で入手していましたが、「70%OFF」で買い直しました。Gwennoの2ndアルバム《Le Kov》(Heavenly 2018)が3月にリリースされます

    • 《HK Presente Les Deserteurs》のシークレット・トラック(16曲目)は〈狼たちがパリに入って来た〉(Les loups sont entrés dans Paris)だった!
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    Dragging A Dead Deer Up A Hill

    Dragging A Dead Deer Up A Hill

    • Artist: Grouper
    • Label: Kranky
    • Date: 2013/02/05
    • Media: Audio CD
    • Songs: Disengaged / Heavy Water/I'd Rather Be Sleeping / Stuck / When We Fall / Traveling Through A Sea / Fishing Bird (Empty Gutted In The Evening Breeze) / Invisible / I'm Dragging A Dead Deer Up A Hill / A Cover Over / Wind And Snow / Tidal Wave / We've All Gone ...


    Ramo

    Ramo

    • Artist: Ramo
    • Label: Import
    • Date: 2012/12/04
    • Media: Audio CD
    • Songs: Mosquito / Corre Lolo, que ta na hora! / Cao Andaluz / Benesse / Sis Tar / Junho / Samba Irmao / Ao que... / Volupedes / Jose no Jabour


    Les Deserteurs

    Les Deserteurs

    • Artist: HK
    • Label: Blue Line
    • Date: 2014/02/18
    • Media: Audio CD
    • Songs: Vesoul / Demain Demain / Sous le ciel de Paris / Les passantes / Les vieux amants / Le déserteur / P'tits Papiers / Travailler c'est trop dur / Dès que le vent soufflera / En groupe, en ligue, en procession / Padam padam / Le plat pays / Toulouse / Né quelque part / L'affiche ...


    Quema Quema Quema

    Quema Quema Quema

    • Artist: Kanaku Y El Tigre
    • Label: Strut / Tiger's Milk
    • Date: 2015/05/18
    • Media: Audio CD
    • Songs: Quema Quema Quema / Nunca Me Perdi/ Pulpos/ Quien Se Queda Quien Se Va/ Si Te Mueres Mañana/ Bubucelas/ 10 Años/ Hacerte Venir/ Burn Burn Burn/ Fin/ Quema Quema Quema (Spanish Version)


    Y Dydd Olaf

    Y Dydd Olaf

    • Artist: Gwenno
    • Label: Pias America
    • Date: 2015/07/24
    • Media: Audio CD
    • Songs: Chwyldro / Patriachaeth / Calon Peiriant / Sisial Y M / Dawns Y Blaned Dirion / Golau Arall / Stwff / Y Dydd Olaf / Fratolish Hiang Perpheshki / Amser


    Strangers

    Strangers

    • Artist: Marissa Nadler
    • Label: Bella Union
    • Date: 2016/05/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Divers Of The Dust / Katie I Know / Skyscraper / Hungry is the Ghost / All the Colors Of The Dark / Strangers / Janie In Love / Waking / Shadow Show Diane / Nothing Feels The Same / Dissolve

    オン・ザ・ロード(スクロール版)

    オン・ザ・ロード(スクロール版)

    • 著者:ジャック・ケルアック(Jack Kerouac)/ 青山 南(訳)
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日: 2010/06/11
    • メディア:単行本
    • 目次:

    Cosmetic

    Cosmetic

    • Artist: Nots
    • Label: Heavenly
    • Date: 2016/09/09
    • Media: Audio CD
    • Songs: Blank Reflection / Rat King / Cold Line / New Structures / Cosmetic / No Novelty / Inherently Low / Fluorescent Sunset / Entertain Me
    オン・ザ・ロード

    オン・ザ・ロード

    • 著者:ジャック・ケルアック(Jack Kerouac)/ 青山 南(訳)
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2010/06/04
    • メディア:文庫
    • 目次:オン・ザ・ロード / 解説 / 文庫版訳者あとがき

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