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ネコとイヌ [a r t]

  • ©Mitsuaki Iwago


  • 「ネコは家畜化されたものではなく、自らヒトに近づいて来たのではないか。何故なら遺伝子が変化した形跡がない」という興味深い論文を、先日、WEBで読みました。やはりな、と昔からネコの動きを見ていたので合点がいきます。ヒトと寄り添うように変えられてきたイヌと、ヒトのいうことを聞いてくれないネコ。その違いを、誰にでもわかるよう科学的に証明してくれたのです。昔からネコとイヌは常にヒトの暮らしと共にありました。ですが、その振る舞いの違いは一目瞭然。イヌは、真っすぐにヒトを目で見て確認し、耳を傾け言葉を聞く。かたやネコは、ドアの隙間からこっそりと覗き、壁の向こうで聞き耳を立てているイメージ。イヌはハグが大好き、ネコは抱っこ?と聞いてみると断られることも多々あり‥‥。ネコとイヌは呉越同舟ではありません。種が違うからといって、敵対する必要も、そして仲良くする必要もありません。互いを同じヒト社会という森で生きる木々だと認め合っているように思います。
    岩合 光昭「ねこといぬ」


  • ▢ 岩合光昭写真展「ねこといぬ」(西武池袋本店 別館2階=西武ギャラリー)
  • 会場には「自由気儘なネコ」と「従順なイヌ」の仲睦まじい2ショット・パネルが並んでいるが、イヌとネコをテーマにして撮り下ろした新作ではないはず。長年ネコを撮っていた時に、たまたまイヌも一緒に撮れてしまったというのが実情でしょう。戌年(2018)に当て込んだ副次的な写真展ではないかしら?‥‥写真展の名称が「いぬとねこ」ではなく、「ねこといぬ」になっていることも、岩合さんらしいスピンオフ的な企画であると想わせる。国内外のネコとイヌの写真(約130点)を展示。写真集「ねこ」(クレヴィス 2010)の表紙カヴァに使われたブルドッグとの2ショットなど、今までのネコ写真展や写真集で見たことのあるものも再展示されている。今回は従来のネコ好きに加えて、イヌ好きの人たちも観に来ているのか、会場内は予想以上に混雑していた。ギャラリーに併設されている「ねこグッズマーケット」に足を踏み入れると、2018年は「猫年」ではないかと錯覚しちゃうけれど。

  • ▢ ねこといぬ(クレヴィス 2017)岩合 光昭
  • イヌとネコの2ショット75枚を収録したコンパクトな写真集(IWAGO’S BOOK 3)。クレタ島、サントリーニ島(ギリシャ)、ブスキシタル(スペイン)、シク(ルーマニア)、オリャンタイタンボ(ペルー)、ハロン湾(ベトナム)、プリンスエドワード島(カナダ)、ロチャ、コロニア郊外(ウルグアイ)、モンス(ベルギー)、五島列島(長崎県)、ガンジ、ソレント(イタリア)、メルボルン郊外(オーストラリア)、チャールストン、バーモント州(アメリカ)、ドゥブロブニク近郊(クロアチア)、鞆の浦(広島県)、藤沢市(神奈川県)、周南市(山口県)、ハバナ(キューバ)、バルパライソ(チリ)、イスタンブール(トルコ)、ムーレイ・イドルス、エッサウィラ(モロッコ)、チェンマイ郊外(タイ)、アンタニヴィナキ村(マダガスカル)、高山市(岐阜県)、京都市(京都府)、パリ、ルシヨン郊外(フランス)、スチュアート島(ニュージーランド)、玉皇廟村(中国)、青森市(青森県)‥‥「仲違いの本では寂しいので、仲良しの本にしてみました」と「まえがき」にあるように、仲睦まじい写真が多い。ネコとイヌの距離に互いの親密度が表われている。

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  • 「とらねこ」とはトラのような縞模様の毛色をしたネコのことです。雌雄に関わりなく様々なネコがいて、おそらく世界で一番多く出合う毛色模様だと思います。なかでも見かける確率が高いのが、キジトラと呼ばれる黒色とこげ茶色のストライプ。"思わずM君" と呼びたくなる、額の真ん中がM印模様になっているオスもこの種が多いです。オスと言えばそう、シチア島のドメニコもキジトラです。ドメニコは著名なマフィアを輩出した街として有名なコルネレーネで暮らしています。大きな顔にしっかりした四肢、毛の模様も覚えやすいのでどこで出会ってもわかります。ところが会う場所場所で、マルコとかトムとか呼ばれる名前が違うのです。そう、ネコ版 "7つの名前を持つ男"。風貌も生き方も親分のようで、敬意を込めてドンと呼んでいました。

    個性的で印象深い "オストラ" は他にもいます。ニューオーリンズのバーネコ、ミスター・ウーもそのひとり。こちらはサバトラ。1年半ぶりに再会した時は嬉しくて、思わず、カウンターの上にいたウーの頭や背を撫でました。それを見ていた観光客の方がウーを触ろうと手を出すやいなや、「カプッ!」。店のヒトが、このネコは噛むから気をつけてと言いましたが時すでに遅し‥‥。何故、あなたは大丈夫なのかしら?と不思議がられました。ネコは3日で恩を忘れると言われていますが、ぼくは違うと思っています。ウーはもちろんドメニコも、魚屋の前で2年ぶりに会えたとき、立ち止まり座り直して「お前、どこかで会ったことあるよな」という顔をしたのですから。まだまだ謎に包まれている部分が多いネコ。まずは、たくさんいてくれる「とらねこ」で、その謎を解くキーを探してみましょう。
    岩合 光昭 「とらねこ」


  • ▢ とらねこ(クレヴィス 2017)岩合 光昭
  • 「IWAGO'S BOOK 2」は虎縞模様のネコだけをコレクションした「とらねこ」。英語でタビー(tabby)と呼ばれる種類は野性味溢れる精悍な顔立ちで、額に浮かび上がる「M」字の模様が特徴。ストライプ模様は文字通り虎(タイガー)を想わせる。一般にトラネコは色別に焦茶色の「キジトラ」、赤茶色の「チャトラ」、灰色に黒縞の「サバトラ」の3種に分けられる。キジトラのドメニコ(シチリア)、ブール(パリ)、コーラ(シンガポール)、パブの子ネコ(イングランド)、トラ(山口)、アリ(スペン・マドリード)、ちくわ(沖縄)、ニューディス(ラトビア)、ワイコロアのネコ(ハワイ)。チャトラのミコ(アムステルダム)、シキンニョ(リオデジャネイロ)、パパライオン(アンダルシア)、ペー&パー(津軽)、マリアノ(ペルー)。サバトラのミスター・ウー(ニューオーリンズ)、リリー(ポルトガル)、バディ(オーストラリア)‥‥18匹のトラネコたちがプロフィール付きで登場します。

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  • 頬と頬を寄せているネコたちがいます。朝の光線が輪郭を浮かび上がらせます。さぁ、出かけようぜ、という挨拶でしょうか。全身の五感をフルに使って、どちらに行くかを決めているようです。それは日の向き次第であり、良い匂いが漂って来る方向でもあるようです。また、オスにとっては縄張りへの朝のパトロールの始まりであり、メスにとっては子ネコの待つ巣穴へ帰る合図かもしれません。決められた時間はありません。それぞれのネコにそれぞれの時間があります。それは時計の単位ではない、わたしたちが忘れてしまっている太陽や月やその他の自然が織りなす一瞬を、ネコの体の動きからハッとさせられるような感覚の時間といってよいのかもしれません。動くことは生きること、生きることは永遠へと引き継がれる命のゆるやかな時、これからも見つめ続けていきたいと思います。
    岩合 光昭 「ねこのとけい」


  • ▢ ねこのとけい(クレヴィス 2016)岩合 光昭
  • 「IWAGO'S BOOK」は岩合さんが撮った世界の動物たちを紹介するコンパクトな写真集シリーズ。第1集はネコたちの1日を時間軸に沿って構成した写真集。正確には夜明けから日没までの13時間(午前5時〜午後6時)で、夜のネコたちを撮った写真は1枚もない。夜行性のネコはヒトのように早寝早起きというわけではない。謎に満ちた夜の生態や行動も興味深いけれど、岩合さんはネコの目に悪影響を与え兼ねないフラッシュを焚いた夜間撮影は行なわない。山口県、滋賀県、宮城県、三重県、福岡県、島根県、佐賀県、香川県、新潟県、山形県、東京都、神奈川県、愛知県、宮崎県、栃木県、北海道、沖縄県、埼玉県、静岡県、大阪府、鹿児島県、熊本県、広島県、岡山県の1都1道1府21県、イタリア(シチリア島、ソレント、コッレルンゴ、ポルトベレーネ、アッシジ、ラコーナ)、アメリカ(クラークスデール)、トルコ(イスタンブール)、ギリシャ(ミコノス島)、モロッコ(シャウエン、フェズ)、スペイン(バルセロナ)‥‥日本国内外75カ所で撮られたネコちゃんが並ぶ。

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    ネコとイヌは仲良しなのか、それとも仲が悪いのか?‥‥その日の気分で親密になったり、素っ気なかったりするのは気紛れなネコの特性ではないだろうか。ヒトやイヌを手玉に取る小悪魔的なネコの方に主導権があるようだ。自由気儘なネコとは違って、従順なイヌはリードで繋がれているので、その行動が制約されるし、受け身にならざるを得ない。ネコはイヌへの対し方もヒトの場合と余り変わらない。ネコにとってはイヌもヒトも同列で分け隔てのない存在なのかもしれない。写真を撮っている時に散歩中のイヌが通りかかると、明らかにネコの態度が急変する。目を瞠ってイヌの動向を目の前を通り過ぎるまで凝視している。気の弱いネコは尻尾を巻いて物陰に隠れるし、気の強いネコは自ら近づいて威嚇する。ネコとイヌが仲良く2ショットに収まることは殆どない。「ねこといぬ」のような仲睦まじい写真を撮るのは、同じ飼主に飼われていたり、隣近所で暮らしている顔馴染みのネコとイヌでないと難しいのではないでしょうか。

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    • 「ねこといぬ」は西武池袋店本店2F西武ギャラリー(2017年12月23~29日)、ノエビア銀座ギャラリー(2018年1月9日~3月9日)、京都(3月29日~4月15日)、岐阜タカシマヤ(8月2日~14日)、そごう徳島店(8月3日~19日)を巡回予定です

    • 岩合光昭写真展「ねこといぬ」の写真は公式サイト(Crevis)からの借用です。会場内で撮った写真は照明が映り込んでしまったので差し替えました

    • 冒頭に引用した「まえがき」は《だからこそ、気の合うもの、合わないもの、様々なのではないでしょうか。仲違いの本では寂しいので、仲良しの本にしてみました。ヒトと共存する仲間たちの大らかさを、楽しんでいただけたら幸いです》と続きます
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    岩合光昭写真展 ねこといぬ

    岩合光昭写真展 ねこといぬ

    • 会場:西武池袋本店 別館2階=西武ギャラリー
    • 会期:2017/12/23~29
    • メディア:写真
    • 概要:昔からヒトに一番身近な存在であるネコとイヌ。「自由きままなネコ」に対して「従順なイヌ」と評されるほどその性質は正反対ですが、本展では仲良しの作品を集めました。母を亡くした子ネコに乳を与え育てるメスイヌ。ご近所の飼い主同様に仲の良いネコとイヌ。いつも寝食を共にする共同アパートのネコとイヌ‥‥。ヒトと共存する “仲間” たちの大らかな関係を観て楽しんでいただ...


    ねこといぬ

    ねこといぬ

    • 著者:岩合 光昭
    • 出版社:クレヴィス
    • 発売日:2017/12/08
    • メディア:単行本(IWAGO’S BOOK 3)
    • 目次:まえがき / クレタ島 ギリシャ / ブスキシタル スペイン / シク ルーマニア / オリャンタイタンボ ペルー / ハロン湾 ベトナム / プリンスエドワード島 カナダ / クレタ島 ギリシャ / ロチャ ウルグアイ / モンス ベルギー / 五島列島 長崎県 / サントリーニ島 ギリシャ / コロニア郊外 ウルグアイ / ガンジ イタリア / ソレント ...


    とらねこ

    とらねこ

    • 著者:岩合 光昭
    • 出版社:クレヴィス
    • 発売日:2017/03/31
    • メディア:単行本(IWAGO’S BOOK 2)
    • 目次:まえがき / ドメニコ シチリア / ミコ アムステルダム / ブール パリ / ミスター・ウー ニューオーリンズ / コーラ シンガポール / パブの子ネコ イングランド / トラ 山口 / シキンニョ リオデジャネイロ / アリ スペイン・マドリード / パパライオン アンダルシア / ちくわ 沖縄 / リリー ポルトガル / バディ オーストラリア...


    ねこのとけい (IWAGO'S BOOK)

    ねこのとけい

    • 著者:岩合 光昭
    • 出版社:クレヴィス
    • 発売日:2016/07/30
    • メディア:単行本(IWAGO’S BOOK 1)
    • 目次:山口県 岩国市 / 滋賀県 近江八幡市 / イタリア シチリア島 / 宮城県 石巻市 / 三重県 鳥羽市 / 福岡県 北九州市 / 島根県 津和野市 / アメリカ クラークスデール / イタリア ソレント / トルコ イスタンブール / 佐賀県 唐津市 / 香川県 小豆郡 / 新潟県 佐渡市 / 山形県 山形市 / 東京都 武蔵野市 / ギリシャ ミコノス島 / 神奈川...

    タグ:cats art iwago
    コメント(2) 

    コメント 2

    ぶーけ

    ねこといぬ、なんですね。^^
    ネコは自分から人間に近づいてきた。。
    意外と人は猫に愛されてるのかも。^^

    by ぶーけ (2018-02-14 16:11) 

    sknys

    寒い冬は公園のネコも膝に乗って来る。
    毛皮に包まれた湯たんぽを抱いているようでポカポカ暖かい。
    ネコとヒトの親密な関係を結べます^^
    by sknys (2018-02-14 23:27) 

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