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火蟻浴び [p a l i n d r o m e]



  • 空自身は、自分の姿を見ることは出来ない。でも、窓に映り込んだことで、その姿を確認出来るのだろう。この写真を撮ったときは、そんなこと考えもせず、シャッターを切った。目で見た風景を、改めて一枚の写真として見直すと、色々なイメージが広がる。物言わぬ写真が、私を刺激し、想像を膨らませる。そのとき自分が何を見ていたか、どんなふうに見つめていたか‥‥、そのことと向き合うのが面白い。人もまた、一人で自分を知るのは困難なことかもしれない。人と関わり、その形に自分自身の姿が映し出され、自分を知っていく。写真を撮るとき、ファインダーを覗いていると、対象となるものと一対一の関係になる。その集中した感じが、個人的な空間の雰囲気が、好きなのかもしれない。或いは、そこにある微妙な距離感が好きなのかもしれない。
    松 たか子 「写ったものに映るもの」


  • □ 愛しい子が立つまで、松たか子、意思問い
    写真を撮るのが唯一の趣味だという松たか子さん。19歳の誕生日にプレゼントされたマニュアル・カメラと標準レンズを今でも愛用している。「犬達や子供にレンズを向けると、自然にアップが多くなってしまう。可愛らしいものに対しては愛情に嘘をついたり、無理が出来なくなってしまう」。ビルの窓を撮った2枚の写真(カラーとモノクロ)には空(雲)が映り込んでいる。空(雲)は自分の姿を見ることが出来ないけれど、ビルの窓に映った姿を見ることで確認出来る。「写真に写ったものは、そのときそこに居た自分も映し出す」‥‥セルフィ(自撮り)などという露骨で端ない行為に及ばなくても、写真には自分の姿がビルの窓に映った空(雲)のように映っているのである。結婚して、母親となった松たか子は転んで泣き出した幼い娘が自分の意思で立ち上がるまで辛抱強く待ち続け、愛情を込めてカメラのシャッターを切る。

    □ 男装の麗人、掘る古本。仕入れ農村だ!
    某新古書店チェーンの社長が就任したこともあったけれど、古書業界は未だに色褪せて黴臭い古本と同じく、古色蒼然とした「男社会」である。浅生晴美は日本では珍しい女性の古書・古本ハンターである。地方の古い民家の物置きや納戸、倉庫や蔵に死蔵されている本や雑誌を買い付けて仕入れ、古書店に卸す仕事を生業にしている。実家や小・中学校の図書室の蔵書は殆ど読破したと豪語する子供の頃からの本の虫。大学の教育学部を出て公立図書館の司書となったが、ある日私の求める本は毎日数多く出版される新刊ではなく、時代の闇に埋もれて忘れ去られた古本だと気づいて転職した。必殺古本仕入れ人は彼女の天職である。今日の大都市には稀覯本は殆ど埋まっていない。地方の旧家や農村の蔵の中に人知れず眠っていることが少なくない。保守・封建的な風土が残る地方で嘗められないように、晴美は男装の麗人となって今日も古本を掘りに行く。

    □ 兄死んで五月晴れ、我々は喫茶店「シニア」
    12歳年上の兄が死んだ。1年前から長期入院していたので、最悪の事態は覚悟はしていたけれど、実際に亡き兄の遺体と対面するのは辛かった。決して兄弟の仲が悪かったわけではない。年齢が一回り離れていたこともあって、成人してからは次第に疎遠になった。葬儀と火葬を終えた後で、今まで張りつめていた緊張の糸が緩んだのか、名状し難い虚無感に襲われてしまった。今どきの火葬場では五月晴れの青空に死者の煙が立ち昇ったりはしない。「空が青いから泣けてくる」「天国なんかない。上にあるのは空だけ」という歌が天使の輪のように宙に浮かぶ。温かい遺骨を拾い、骨壺を抱いて帰途に着く。老人会の溜まり場だったという喫茶店「シニア」で、兄の友人たちから生前を話を聞いた。兄が長年連れ添った妻の死の翌日に公園のネコたちを見に来たこと。自転車に乗って近所の野良ネコたちに毎日食事を与えていたこと。兄がネコ好きだったことを今日初めて知ったのだ。

    □ 力んだ九段、三択、 啖切り
    A級順位戦7回戦・光浦九段(先手)と秋葉八段(後手)の対局は激戦だった。いつ終局するのか分からない長丁場の死闘である。両者得意の戦形「横歩取り」で始まり、形勢不明のまま中盤へ突入。その後、龍を押さえ込んで駒得(桂得)した八段が優勢となった。2人の対局は午前1時過ぎに漸くクライマックスを向かえようとしている。九段は持時間(6時間)を使い果たして、1分将棋に突入していた。八段も秒読みに追われながら「6七香成」と指す。九段は苦悶の表情で盤面を見つめる。自陣の玉を守るか、王手で攻めるか、それとも最後の勝負手を放つか?‥‥の三択で迷っていた。30秒が経過して記録係の秒読みが続く。極度の緊張状態からか、突然激しく咳き込んだ九段は慌てることなく懐から取り出した啖切り飴(のど飴)を舐める。50秒、1、2、3、4、5、6、7、8‥‥九段の169手目は「5三金」打ちの王手!‥‥「一瞬の逆転劇」だった。

    □『昆布で若返り、切り絵画』(河出文庫)
    子育ても終わり、子供たちも自立して家から出て行ってしまった。経年による皮膚の弛みや目尻の皺、長年の運動不足から生じた肥満と腰痛‥‥ある日、鏡に映った自分の姿を見て、オバさん化してしまったことに気づき愕然とした。若かった頃の自分自身を取り戻す決心をした。ウォーキングと筋トレ、ダイエットと食事療法による健康管理。青汁やスムージーなどの健康飲料も試してみたけれど、著しい改善効果は感じられなかった。意気消沈している時に出合ったのが「昆布茶健康法」だった。1日3回、毎食後に昆布茶を飲むだけで、見る見る若返って行ったのだ。彼女が次に行なったことは趣味の「切り絵」だった。学生時代に凝って作っていたが、結婚して子供が出来てからは疎遠になっていたのだ。ブログにアップした「昆布で若返り」と「切り絵画」が大きな話題となって、本まで出版される運びになった。久々に実家に里帰りした娘は母親の変貌ぶりに仰天し、ツイッターに誤って「昆布で若返り、母は貼り絵画」(河出文庫)と書き込んだ。

    □ 亀石「ビキニ着る」明日香や人など、素見す歩きに厳しい目が
    奈良県高市郡明日香村川原にある石造物「亀石」は飛鳥時代の代表的な遺跡の1つである。夏休みのヴァカンスで明日香村を訪れた明日香は「亀石」との2ショットをブログにアップした。何の気なしに撮った1枚の写真に批判が殺到して、削除せざるを得なくなる事態になるとは夢にも思わなかった。彼女の着ていたTシャツ(黒地に白文字で「Bikini Kill」とプリントされている)が災いを招いたのだろうか。ビキニ・キル(Bikini Kill)がキャサリン・ハンナ(Kathleen Hanna)の率いる4人組ライオット・ガルーであることを知らない輩が日本の遺跡の前で原爆実験を連想させるのは不謹慎だと非難のツイートしたことからブログが炎上!‥‥いつの間にか「ビキニ着る」と流言飛語化して、ビキニ姿の戯けた写真を撮ったことになってしまったのだ。明日香はジュリー・ルーイン(The Julie Ruin)のPVでワクサハッチー(Waxahatchee)が「YOKO ONO」のTシャツを着ていたのを真似しただけなのに‥‥と憤懣遣る方ない。

    □ ユーラシアの御飯、パン。今晩はこの味、ラー油
    中華料理に欠かせない調味油のラー油(辣油)がアジアは元より、ヨーロッパを含めたユーラシア全域で一大ブームを引き起こしている。日本でも数年前から「食べるラー油」として売り出されるや否や人気食品となっていた。料理の調味油や餃子などのタレとして使われるだけでなく、主食の白米やパンのオカズとして食べるのだ。今や激辛ソースの代名詞だった「タバスコ」の存在を脅かすほどの存在になっているという。外出時にも「マイ七味」を持って歩くほどの自他共に認める超辛党のR子も今では「マイラー」と呼ばれるほどラー油の魅力に嵌まっている。「ペヤング激辛やきそば」にラー油を振りかけて食べるというのだから怖しい。ちなみに私が食卓に常備しているのはタバスコでもラー油でもない。マリー・シャープス(Marie Sharp's)「ピーウェア・コマトスホット(激辛)」です。

    □ 嘘・偽り且つ罪作り。屁理屈3つ刈羽、追従
    2017年10月4日、新潟県柏崎刈羽原発が原子力規制委員会の安全審査に「合格」した。鹿児島県薩摩川内原発に続いて再稼働されてしまうのだろうか。電力会社は原発がエコでクリーンで低コストの安全なエネルギーであると数十年前から喧伝して来た。ところが2011年3月11日に発生した東日本大震災の地震と津波で爆発した福島原発事故によって、地球環境に優しいクリーン・エネルギーという「安全神話」が全くの嘘偽りであったことが白日の許に曝されてしまったのだ。その舌の根も乾かないうちに、福島原発の廃炉処理も住民の避難計画も核のゴミ(放射性廃棄物)の収容施設場所も覚束ないのに再稼働への準備だけは着々と進んでいる。クリーンで安全で省エネ(低コスト)などと屁理屈を捏ねても、現実に起こってしまった歴史的な事実は変えられない。K泉元総理も在職中に「郵政民営化」などではなく「反核・反原発」を国民に訴えて、実現しておけば良かったのにね。

    □ 瀕死・不審者、母子・小火、紳士・不審火
    早朝ジョギングしていた主婦が公園で倒れていた瀕死の老人を発見した。その日の午後、近くのマンショの一室で火災が発生して母親と幼い子供が救出された。深夜には不審火によって近隣の民家が全焼して、1人暮らしの男性が焼死した。同日、半径500m内の三角地帯で立て続けに起きた3つの怪事件に何かしらの関連性があるのか、それともないのか?‥‥地元の警察は慎重に捜査を進めている。病院に救急搬送された身許不明の不審者は公園で寝起きしていたホームレスらしい。マンションの火災は部屋の一部が焼けただけの小火で、母子共に軽傷(手足の軽い火傷)だった。民家の火事は放火の疑いが色濃い。焼け落ちた民家の前で、迷宮探偵の綾取猫人と黒猫のコロネは「魔のトライアングル事件」の真相を探ろうとしていた。民家の男性焼死者と火傷した母親は別居中の夫婦で、ホームレス老人は行方不明になっていた母方の祖父だったりして?

    □ 寝た妻は妊婦。先月定価で買い「鉄拳7」に嵌まったね
    妻は妊娠5カ月‥‥漸く安定期に入って心身共に落ち着いて来たのか、今夜も寝室のベッドで安らかに眠っている。妊娠中は妻だけではなく、夫も気が利きではない。一緒に想像妊娠してしまったり、浮気に走ったりすることも少なくないらしい。尋常ならぬ精神状態に陥って、意外な兆候や極端な行動に至ってしまうという。一刻も早く健康な状態で産まれて欲しいと願っているのに、日常の時間は遅々として進まない。焦燥感や不安感を紛らわすために夫が没頭したのは対戦格闘ゲームだった。発売日に「鉄拳7」を入手して以来、毎夜オンライン・ランクマッチに打ち興じている。お気に入りのキャラはアリサ・ボスコノビッチ(アンドロイド娘)。顔馴染みの鉄拳キャラだけでなく、2D格ゲーから新たに参戦した豪鬼や600年の眠りから目覚めた女ヴァンパイアのエリザ、「餓狼伝説」の悪役ギース・ハワードとの闘いも愉しい。浮世の柵から逃れて、妻子のことも忘れ去り、ロボ娘を操って世界中の匿名プレイヤーと夜な夜なランクマするのは無上の喜びである。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

    • 2005年12月から連載している回文シリーズが50回(500回文)になりました^^;

    • 「松のひとりごと」(朝日新聞出版)、「亀石」(Wikipedia)、「第76期A級順位戦7回戦」(朝日新聞)、「ロボ娘イキます!」(YouTube)などを参照しました

     スニンクスなぞなぞ回文 #50

     毛並み、出遭い◯▽◇△◎◯む◯◎△◇▽◯い当て身投げ

     回文作成:sknys

     ヒント:ギース・ハワードの対戦相手は?


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    松のひとりごと

    松のひとりごと

    • 著者:松 たか子
    • 出版社:朝日新聞出版
    • 発売日:2009/10/07
    • メディア:文庫
    • 目次:鏡越しの顔 /『HERO』噂話 / 勝利の人 / 街と人と劇場 / マスクの心 /「その先」/ 心のやりとり / 確かにそこにいた記憶 / 九月の長い夜 / 苦行と歓び /『嵐が丘』の幕開け / 写ったものに映るもの / 鏡をみるとき / 犬間関係 / clover / あの子が私に言ったコト / 五月回想 / 笑いのセンス / 窓から見上げて / エアーの犬小屋 / 光と影の色 / ”55” の夢 ...


    ハバネロソース ピーウェア・コマトスホット(激辛)

    ハバネロソース ピーウェア・コマトスホット(激辛)

    • 名称:レッドハバネロソース
    • ブランド名:マリーシャープス(Marie Sharp's)
    • 内容量:248ml
    • 原産国名:ベリーズ(Belize)
    • メディア:その他


    鉄拳7

    鉄拳7

    • メーカー:バンダイナムコエンターテインメント
    • プラットホーム:PlayStation 4
    • 発売日:2017/06/01
    • メディア:Video Game
    • 内容:ストーリーモード / トーナメントモード / オンラインバトル / アーケイドバトル / VRモード / トレジャーバトル / バーサスバトル / プラクティス / カスタマイズ / ジュークボックス / ギャラリー / ...

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