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カケル×カケル [b o o k s]



  • 誰かが、通路を歩いてくる。ドアがノックされた。上村は、出たままだった箒をロッカに仕舞いにいく。小川が返事をすると、戸口に現れたのは、西之園だった。/「あ、西之園先生」小川は立ち上がって、デスクから出ていった。/「おはようございます。近くへ来たので、ちょっと寄ってみました。椙田さんは?」/「いいえ、彼は、もう‥‥」小川は首をふって答える。/「そう、やっぱり、そうなのね」西之園は頷いた。/「いえ、いいんです。去る者は追わず」西之園が上村の方を見る。/ 西之園は、じっと彼女を見つめた。上村は目を見開いて、立ち尽くしていた。/「メグミちゃん」西之園は言った。「ここで何をしているの?」それは、上村の本名だった。/「あ、新人です」小川は紹介した。/ しかし、上村は黙って西之園に近づき、手前で立ち止まり、お辞儀をした。/ その後、二人はしばらく、抱き合っていた。/「知合いだったの?」小川がきいても、二人は答えてくれない。
    森 博嗣 「ダマシ×ダマシ」


  • ▢ イナイ×イナイ(講談社 2007)森 博嗣
  • 椙田探偵事務所を訪れた佐竹千鶴(双子姉妹の姉)は電話番をしていた芸大生・真鍋瞬市に行方不明の兄・鎮男の調査を依頼する。3カ月前に父・重蔵が亡くなり、千鶴は妹の千春、義母の絹子と共に都心の広大な敷地内に建つ大屋敷で暮らしているが、母屋の地下牢に幽閉されている兄には15年間も会ったことはないという。真鍋瞬市は佐竹家の絵画コレクションの撮影を椙田泰男(美術品鑑定業)に頼まれた。屋敷内を探る助手の小川令子と同業者の探偵・鷹知祐一郎は佐竹夫人の悲鳴を聞き、押入から地下室へ降りる。地下牢で倒れていた双子姉妹‥‥千春は首筋を切られて殺害されていた。地下牢から姿を消した鎮男の犯行なのだろうか。それとも母屋の地下室に通じている林の中の小屋に住む下男の六郎の仕業なのか。2人の探偵(小川令子と鷹知祐一郎)を差し置いて、真鍋瞬市が事件の真相に迫る。「エピローグ」では大学の図書館で絵画の資料をコピーしていた椙田と小川が西之園萌絵と接近遭遇するパプニングもある。

  • ▢ キラレ×キラレ(講談社 2007)森 博嗣
  • Xシリーズ第2作目。寿司詰めの満員電車の中で30代の女性がナイフのようなもので背中を切られる刺傷事件が3度続けて起きていた。3回目の容疑者として誤認逮捕されたD建設会社役員の川戸道久に調査を依頼された探偵・鷹知祐一朗は「SYアート&リサーチ」の小川令子と真鍋瞬市に協力を求める。3人目の被害者・岸本真由はD建設の社員だった。30代、独身、会社員・公務員‥‥無関係だと思われていた面識のない女性被害者たちには共通点があった。3人は「佐久間クリニック」でカウンセリングを受けていたクライアントだったのだ。4人目の被害者・阿部雪枝は椙田探偵事務所でアルバイトをしていた。そして4人と面識のあった中野薬局の店主・中野孝司が刺殺される。連続切り裂き魔と薬剤師殺害犯は同一人物なのか、それとも殺された薬剤師が切り裂き魔だったのか?‥‥郊外へ向かう電車の中で背中を切られた小川令子はカッターナイフを振り回す連続切り裂き魔と対決する。彼女の窮地を救ったのは偶然乗り合わせていた西之園萌絵だった。

  • ▢ タカイ×タカイ(講談社 2008)森 博嗣
  • Xシリーズ第3作目。真鍋瞬市とクラスメートの永田絵里子は大学へ行く途中で、地上15mのポールの上に掲げられている死体を目撃した。スターマジシャン・牧村亜佐美の自宅敷地内で発見された他殺体はマネージャーの横川敬造だった。探偵の鷹知祐一郎は仮面マジシャン・鷲津伸輔と牧村亜佐美に資金援助していた実業家の三澤宗佑から、2人の素行調査を依頼される。永田と真鍋、鷹知はファンの鈴原万里子を介して牧村亜佐美に事情を聴けたが、鷲津伸輔は行方知れず。三澤の娘・有希江と殺された横山は結婚する予定だったという。小川令子は同級生だった三澤有希江と、鷲津伸輔は依頼主の三澤宗佑と、西之園萌絵は牧村亜佐美と会う‥‥ところが3人は自分が横川敬造を刺殺したと告白するのだった。「エピローグ」では西之園萌絵と久しぶりにインド料理店で対面した鷲津伸輔がS&Mシリーズの「幻惑の死と使途」(1997)に登場した有里ナガル(宮崎長郎)であることが明かされる。

  • ▢ ムカシ×ムカシ(講談社 2014)森 博嗣
  • Xシリーズ第4作目。資産家の百目鬼悦造・多喜夫妻が屋敷内で刺殺された。大正時代の女流作家・百目一葉で知られる旧家で、孫娘の小説家・君坂一葉は広大な敷地内の母屋に1人で住んでいる。百目鬼家の遺品(美術・骨董品)の整理を依頼された「SYアート&リサーチ」の所長・椙田泰男(保呂草潤平)。助手の小川令子とバイトの芸大生・真鍋瞬市、永田絵里子の3人が倉庫で美術品のリストを作成することになる。河童が出るという古井戸の中から発見された新たな死体。そして第三の殺人が起こる。真鍋瞬市が祖父の書斎の壁に架けてある河童の絵に記されていた文字「ぶすになるべからず、すすみとげて金を得る」の謎を解き、小川令子が殺人動機を推理するが、密室トリックや被害者の頭の上に載っていたお皿の謎(ダイニング・メッセージ?)は明らかにされない。犯行の動機は分からないというのが作者の持論である。Vシリーズや「四季」4部作に登場していたアキラ(各務亜樹良)も最後に顔を出す。

  • ▢ サイタ×サイタ(講談社 2014)森 博嗣
  • Xシリーズ第5作目。童謡「チューリップ」の歌詞に擬えた犯行声明をメディアに送りつける「チューリップ爆弾魔」。依頼された匿名人物から素行調査。「SYアート&リサーチ」の助手・小川令子とバイトの芸大生・真鍋瞬市、永田絵里子は調査の対象者・佐曾利隆夫のアパートを24時間張り込み、外出時に尾行する。過去に同棲していた野田優花へのストーキング疑惑。佐曾利隆夫を尾行中に見失った永田絵里子と遅れて駆けつけた真鍋瞬市は野田優花のマンションの駐輪場裏で女性の絞殺死体を発見した。翌日、商業地裏の空き地で殺された女性も野田優花の友人だった。佐曾利隆夫の犯行なのか、謎の爆弾魔と連続絞殺犯は同一人物なのか、素行調査の依頼主は一体誰なのか?‥‥主犯らしき人物が自ら警察に出頭するけれど、真犯人だという確証も動機も推測の域を出ない。本作は読後に割り切れないウヤムヤ感だけが残る。Xシリーズは次作で一応完結するという。

  • ▢ ダマシ×ダマシ(講談社 2017)森 博嗣
  • Xシリーズの最終作。静岡県で小学校の教員をしていた上村恵子は失踪した鳥坂大介の調査を小川令子(SYアート&リサーチ)に依頼する。東京近郊の都市で銀行に勤務している男性と結婚したはずなのに、銀行口座に振り込んだ預金300万円と共に消えてしまったのだ。調査の過程で鳥坂の裏の顔が明らかになった。鳥坂(源氏名・桐谷夢人)は「ホストクラブもどき」で夜のバイトをしていた。津村路代(モデル)や繁本さくら(会社員)など、上村令子と同じような結婚詐欺に遭った被害者たちも数人浮上するが、詐欺師の鳥坂(本名・鳥井信二)は鉄パイプで撲殺されてしまう‥‥。Xシリーズの最終巻では所長の椙田泰男(保呂草潤平)が引退(ヤバくなって雲隠れ?)して、小川令子が探偵社の業務を引き継ぐ。バイトをしていた真鍋瞬市(芸大生)と永田絵里子の2人は結婚することになる。西之園萌絵だけでなく、Gシリーズの加部谷恵美と雨宮純も別の名前(仮名やペンネーム)で登場している。探偵事務所の近所に住んでいるナオミと名乗る老婆は一体誰なのかしら?

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    タイトルにギリシャ文字を冠したGシリーズ(全12巻)と並行する形で始まったXシリーズ(全6巻)が完結した。探偵事務所「SYアート&リサーチ」の助手・小川令子とバイトの芸大生・真鍋瞬市を主人公とする3人称視点のシリーズである。椙田泰男(保呂草潤平)や西之園萌絵などもS&MやVシリーズの主要キャラも登場するが、脇役に徹していて前面には出て来ない。大屋敷の地下牢で双子の妹が殺害される「イナイ×イナイ」、連続切り裂き魔と薬剤師刺殺事件の「キラレ×キラレ」、マジシャンの邸宅の敷地に立つ地上15mのポールの上で他殺体が発見される「タカイ×タカイ」、旧家で連続殺人事件が起こる「ムカシ×ムカシ」、爆弾魔と連続絞殺犯が交錯する「サイタ×サイタ」、銀行員でホストの結婚詐欺師が鉄パイプで撲殺される「ダマシ×ダマシ」‥‥XシリーズはS&M、V、Gシリーズなどに橋を架けて繋げるジョイントのような位置づけなのだろうか。

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    イナイ×イナイ PEEKABOO

    イナイ×イナイ PEEKABOO

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2010/09/15
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次:プロローグ / 美しき囚われ人 / 闇と血の消散 / 黙する紫の花 / 白き頬に赤き唇 / 香しき思慕の末 / エピローグ / 私はずっとリケイになりたかったんです。樋口真嗣


    キラレ×キラレ CUTTHROAT

    キラレ×キラレ CUTTHROAT

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2011/03/15
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次: プロローグ / 不愉快な繰り返し / 不連続な繰り返し / 不条理な繰り返し / 不用意な繰り返し / 不思議な繰り返し / エピローグ / 解説・清水 ミチコ


    タカイ×タカイ CRUCIFIXION)

    タカイ×タカイ CRUCIFIXION

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2012/03/15
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次:プロローグ / まずは虚偽に集い / しかし虚構の眺め / そして虚飾が陰り / またも虚脱を語り / やがて虚栄は崩れ / エピローグ / 解説・長井 好弘


    ムカシ×ムカシ REMINISCENCE

    ムカシ×ムカシ REMINISCENCE

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2017/04/14
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次:プロローグ / 河童の祟り / 河童の仕業 / 人間の仕業 / 人間の夢 / エピローグ / 解説・猫目トーチカ / 森博嗣著作リスト


    サイタ×サイタ EXPLOSIVE

    サイタ×サイタ EXPLOSIVE

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2017/09/13
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次:プロローグ / つきまとい / しめころし / つづけざま / ためらわず / エピローグ / 解説・香山 リカ / 森博嗣著作リスト


    ダマシ×ダマシ SWINDLER

    ダマシ×ダマシ SWINDLER

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2020/05/15
    • メディア:文庫(講談社文庫)
    • 目次:プロローグ / だんだんはじまる / どんどんはげしく / さまざまいろいろ / しだいにゆるやか / エピローグ / 解説・唐仁原多里


    ダマシ×ダマシ Swindler

    ダマシ×ダマシ Swindler

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2017/05/08
    • メディア:新書
    • 目次:プロローグ / だんだんはじまる / どんどんはげしく / さまざまいろいろ / しだいにゆるやか / エピローグ

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