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意気地なし悔い [p a l i n d r o m e]



  • このような最初の冒険からひと月たったある晴れた夏の日のこと、もちろんそのひと月の間、お姫さまはとても注意深く世話をされていたのですが、その日、お姫さまはお妃さまの寝室のベッドに寝かされ、ぐっすり眠っていました。お昼だったので、窓がひとつ開いており、とても蒸し暑い日だったため、赤ん坊は、かろやかなまどろみのほかには、何にもくるまれていませんでした。お妃さまが部屋に入ってきて、赤ん坊がベッドで寝ていることに気づかず、もうひとつの窓をあげました。すると、いたずらの機会をずっとうかがっていた浮かれ気分の妖精風が、片方の窓から吹きこみ、幼子の寝ているベッドの上を通ってこの子をとらえ、まるでタンポポの綿毛かわたぼこりのように空中に舞いあげて、反対側の窓から外へ運び去りました。お妃さまは、自分が何をなくしたかにちっとも気づかず、階下へ降りていきました。
    ジョージ・マクドナルド 「軽いお姫さま」


  • □ 新刊『河井玲奈』‥‥不甲斐ないが、不馴れ、違和感感じ
    河井玲奈(れなぴょん)は兵庫県生まれの女性アイドル。ループ(loop)というアイドル・ユニットで地道にライヴ活動をしていたが、「2017 YAグラ姫」の最終候補の8人に選ばれたことで一躍脚光を浴びた。れなぴょんの魅力は「YAグラ姫」のためにバッサリ髪を切ったというショートヘア、天性のアニメ声、8年間の新体操で鍛えた肢体と柔軟性。ファッション・センスも8人の中では際立っていた。読者投票の結果は第3位。グランプリ(グラビアプリンセス)の座は逃したけれど、「審査員特別賞」を獲得。青年コミック誌ヤングアニマル(no.5)の巻末グラビアでセーラー服、レオタード、水着姿を披露した。「河井玲奈写真集」の企画も進行中だが、新体操で着慣れたレオタードは兎も角、露出度の多いビキニ姿になるのは恥ずかしくて、今でも馴れていない。アイドル(歌手)とグラドルの狭間で違和感を感じている。

    □ 路地巡る浅草、歩く目白
    女性写真家のHは東京23区を「ネコ歩き」している。花曇りの今日は下町の浅草周辺を散策するつもり。白、黒、斑、縞、三毛、デブ、痩せ、子猫‥‥どんなネコたちと出会えるかを想像して期待に胸が膨らむ。都会の住宅地では公園や駐車場、駐輪場などが外ネコたちの溜まり場だが、飲食店や商店が建ち並ぶ駅前や繁華街では道幅の狭い路地や建物の隙間がネコの通り道となる。人が通り抜けられそうにない隘路や屋根や塀の上がネコの抜け道となる。浅草の「キャット・ウォーク」を巡って、数匹のネコと出遭った。一眼レフカメラを構えてシャッター・チャンスを窺う。彼女と目が合うや否や慌てて逃げ去る小心者のネコ、逆に興味を示して自ら近づいてくるネコ、敵か味方か相手を用心深く見定めて一瞬たりとも目を離さないネコ‥‥飼いネコとノラの区別なく、ネコの性格や行動は千差万別である。近くの喫茶店で昼食を摂ったHは上野から山手線に乗って、目白へ向かうことにした。

    □ 真白、舌出して、お手した田代島
    エレノア・メレディス(Eleanor Meredith)は英ウェスト・ロージアン出身の女性イラストレーターである。BBCスコティッシュ交響楽団のコンポーザーだった姉アンナのアルバム・カヴァに猫のイラストを描いたこともある。ネコ好きの妹が遠く離れた日本の田代島に島民よりも数多くのネコたちが暮らしていることを知ったのは東日本大震災の数カ月後だった。多くの死者と行方不明者を出した地震と津波、原発爆発事故による放射能汚染、避難民や被災地に置き去りにされた家畜やペットたち‥‥それらにも増して、彼女は田代島のネコたちのことが気懸かりだった。エレノアは躊躇なく日本へ旅立った。三陸道石巻港から定期船に乗って田代島に着くと何匹ものネコたちが出迎えてくれた。島の中央にある「猫神社」で出会った真っ白いネコ・マシロのことは忘れ難い。まるで美與利大明神の化身のように神々しい白ネコはエレノアに近づくと、永遠の子猫のリル・バブのようなピンク色の舌を出して彼女の差し出した掌を舐め、お手をしたのだ。遙々遠方から来た来訪者を労うように。

    □ 抜き足・差し足、鯵刺し飽きぬ
    吾輩は子猫である。名前はマダニャイ。「名前はまだない」のパロディでも、猫語風の駄洒落でもない。マダニャイという名前なのだ。吾輩の趣味は読書である。特に夏目漱石の作品が大好きで、文豪と称される文学者に憧れている(自慢の白いヒゲは実は付け髭であるけれど)。吾輩にも漱石の「猫」のような処女作が書けたならと夢想する。しかし、今のところ猫語でしか文章を綴れないので、吾輩の小説を正確な日本語に翻訳してくれる訳者の協力が不可欠だ。「猫語の教科書」を英語に翻訳したポール・ギャリコのようなネコ好きの作家は日本にいないのかしら?‥‥吾輩の好物は「サバ缶」とプロフィールには書いておるが、それは貧しい庶民の目に配慮してのこと。本当は茹でた甘エビや焙ったマグロの赤身などを好む。その中でも鯵の刺身は毎日食べても飽きないくらいの大好物なのだが、最近は飼主家の家計が苦しいのか、主人の食卓にも滅多に載らなくなってしまった。解消策はスリルとサスペンスに満ちている。鯵刺しを食べたくなった時は近所の魚屋から調達して来るのである。

    □ ダイヤ、煮卵、寝すぎ兄貴に空き巣?‥‥ネコ、マダニャイだ!
    春眠暁を覚えず‥‥ある休日、須似津兄貴は眠い目を擦りながら寝室を見回して、異変に気づいた。お世辞にも整理整頓された部屋とは言い難いが、いつも以上に乱雑に散らかっていたからだ。寝ぼけ眼で荒らされた室内を見渡す。空き巣に押し入られたのではないかと認知するのに数分を要した。真っ先に確かめたのはナイト・テーブルの引き出しに仕舞ってある貴金属類‥‥母の形見のダイヤの指輪や真珠のネックレスだった。幸いにして金目のものは何1つ盗まれていなかった。ところが不思議なことに昨夜、茹でて醤油と味醂に漬け置いていた煮卵(4個)が食卓から消えていた。今どきの泥棒が茹で卵だけを盗むだろうか?‥‥黒い液体の入ったボウルを見つめながら台所で立ち尽くしている兄貴に飼いネコのマダニャイが挨拶に来た。朝食は未だなのかと催促するような表情でミャ〜と鳴く。兄貴は寝室で狼藉を働いたマダニャイが煮卵も食べたのではないかという疑いを拭えない。

    □ 枝もぎ悶える猿、枝も木も耐え‥‥
    言葉を一切発せず、自らの意志で移動も出来ない寡黙で静謐な樹木や植物にも意識や感情はある。もし何かの理由で1本の木が傷つけられると、その痛みは瞬時に周囲の木々に伝達される。非常事態を報せる臨時ニュースや避難指示を命じる緊急メールよりも早く速やかに。1匹のサルが木に登って、一心不乱に枝を捥ぎ取っていた。ボス猿との覇権争いに敗れて野に下ったハグレ猿だろうか、それとも動物園から逃げ出して来た猿だろうか。飼主に虐待されていたペットの猿かもしれない。傷心サルのストレスは凄まじく、抵抗出来ない木を傷つけることで溜まった鬱憤を晴らそうとしているように見える。嬉々として遊んでいるのではなく、悶え苦しんでいるように奇声を上げている。周辺の木々は脅えと怒りで殺気立っ。今にも枝の矢がヤマアラシの針攻撃みたいにサルを狙って飛んで来るのではないかと怖れるほど険悪な空気が張り詰めている。

    □ 「寄るな!」 とドナルド・トランプ転ぶ、ワイキキ岩風呂。子分らと 「撮るな!」 と怒鳴るよ
    第45代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ氏は久々の休暇をワイキキ・ビーチで満喫していた。ハワイ州の連邦地裁が「新入国禁止令」の執行停止を決定したことに反発して、最高裁まで争うと息巻く。ツイッターから発せられる口汚い暴言の数々はヴァカンス中でも早朝から止まらない。今日もオアフ島の保養地で凝り固まった躰を解きほぐす予定だ。家族や友人たちを引き連れて、ワイキキの岩風呂へ向かった。シークレット・サーヴィスや新聞・TV局の記者やカメラマンなども同行する。トランプ氏が岩風呂に入ろうとした時にハプニングは起きた。うっかり足を滑らし、湯船の中で転んでしまったのだ。悲鳴と歓声、カメラのフラッシュとシャッター音が風呂場に響く。インアタヴューしようと近寄って来た記者に「寄るな!」と怒るトランプ氏。子分たちも色を作して「撮るな!」とカメラマンに怒号を浴びせる。TVニュースやネットに流れた映像はヤクザ映画の1シーンようだ。

    □ 数歩勝つ、魅力続くより、三日坊主
    ライヴァルよりも数歩先んじる。ファッション・モデルのSは流行に敏感だ。常日頃から世界の最新トレンドをキャッチするために、SNSのチェックや路上観察を毎日欠かさない。もちろん浮き沈みの激しいファッション業界で最先端に立ち続ける(仕事や地位を失いたくない)ためだが、同業者たちに負けたくないという負けん気の方が強い。情報や知識や教養だけでなく、躰も磨かなければ一流モデルとしての魅力は保てない。加齢と共に肉体的な老化は日々増進して行くだから。ある意味で彼女の心情は相手よりも一歩でも先にゴールしたいと熱望する陸上競技のアスリートと似ているかもしれない。しかし、プロ・スポーツ選手の過酷な練習とは比べようのないけれど、モデルとしての体調管理や体型維持も想像以上に難しい。筋トレやジョギングなどの辛いトレーニングは三日坊主で終わってしまうことも少なくない。Sは自分の姿を鏡に映して全身を隈なく点検する日課をを怠らない。

    □ ブー、フガジ、エジプトへ飛ぶジェシカ・フープ
    ジェシカ・フープ(Jesca Hoop)は夢を見ていた。大きな蒲公英の綿毛を右手で担ぎ、不思議な草花が咲き乱れている小道を歩いている。すると森からクマのプーさん(Winnie-the-Pooh)が姿を現わした。「今日はジェシカさん。これからロック・バンドの野外ライヴが行なわれるので、一緒に見に行きませんか」と彼女を誘う。プーさんの道案内されて鬱蒼とした森の奥へ進む。薄暗い木立の中を歩いて行くと、急に視界が開けて広場のような空間が現われた。ちょうどバンドのメンバーがギターやベース、ドラム・スティックを手にして演奏を始めるところだった。ウサギ、リス、ネコ、ネズミなどの小動物が中央のステージの周りに集まっていた。フガジ(Fugazi)の激しいロックに身も心も奪われて、ジェシカは今にも昇天しそうになった。気がつくとジョージ・マクドナルドの「軽いお姫さま」みたいに躰が浮游していた。いつの間にかタンポポの綿毛を掴んで空を飛んでいた。宏大な蒼穹と大海原の間を飛行するジェシカ・フープ。彼方から砂漠とピラミッドが見えて来た。

    □ 大洋、妖精王、1人釣り。飛び魚、伊勢うようよいた
    東京から北海道へ療養に来た忍海爵は従者クーフーリンの招きで妖精の国ニンフィデアに迷い込む。メデューサやハーピーなど、妖精たちと戦いを通して爵も成長する。しかし、ダークエルフの女王クイーン・マブとの直接対決が間近に迫り、忍海爵はプレッシャーに押し潰されそうだった。爵は極度の緊張感から逃れるために、北海道の魔洲湖から三重県・伊勢志摩へ渡った。釣り舟に乗って船出する爵を子鹿のプック(鹿の精)が心配そうに見送る。1人ぼっちの太平洋で趣味の釣りに興じる。白い雲と青い空、暖かい潮風、穏やかな波面‥‥落ち込んだ気分を恢復するのには絶好の釣り日和だ。困惑するクーフーリンの面影を脳裡から振り払う。いつ魚が釣れるの釣れないのか全く分からない無我の境地は座禅にも通じる精神修行ではないかしら。海に出て何時間経っただろうか。色即是空‥‥般若心経を唱える爵の顔が水に濡れる。静寂を破って海面に波飛沫が立つ。無数の飛び魚が妖精王を応援・鼓舞するかのように、釣り舟の周りで飛び跳ねているのだった。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

    • ジェシカ・フープの回文ストーリは「アルバム・カヴァ」のイメージを借りました

    • 妖精王回文は「スニンクスなぞなぞ回文 #46」の解答です^^

     スニンクスなぞなぞ回文 #47

      ◯▽◇△◎ぶはるり☆リル・バブ◎△◇▽◯

     回文作成:sknys

     ヒント:リル・バブと愉快な仲間たち


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    マダニャイ

    マダニャイ

    • 名前:マダニャイ
    • 年齢:不明(こう見えて子猫)
    • 特徴:文学、とくに夏目漱石の作品が大好き。文豪に憧れていて、実はつけひげ
    • 好物:サバ缶
    • ごあいさつ:吾輩の名はマダニャイ。文学好きの猫であるニャ。夏目漱石没後100年メモリアルで、朝日新聞が「吾輩は猫である」を連載。「猫から目線」で描かれたこの傑作の魅力を紹介するんだニャ


    ヤングアニマル 2017年 3/10号

    ヤングアニマル 2017年 3/10号

    • 表紙&巻頭グラビア:小宮 有紗
    • 巻末グラビア:河合 玲奈&水沢 心愛
    • 出版社:白泉社
    • 発売日:2017/02/24
    • メディア:雑誌
    • 別冊付録:B5判ミニ写真集 16P 菜乃花・牧野 紗弓


    軽いお姫さま

    軽いお姫さま

    • 著者:ジョージ・マクドナルド(George MacDonald)/ 富山 太佳夫・富山 芳子(編)
    • 出版社:青土社
    • 発売日:1999/09/20
    • メディア:単行本
    • 目次:人喰い鬼の求婚 / アメリアと小人たち(ジュリアナ・ホレイティア・ユーイング )/ 軽いお姫さま(ジョージ・マクドナルド)/ チャーリーと妖精たち(エドワード・H・ナッチブル=ヒューゲッセン)/ ニックと願いごと(クリスティーナ・ロセッティ)

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