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クリアランスセール 2 0 1 7 [m u s i c]



  • 何年も何年も前 / 海辺の王国に / ひとりの少女がいた / その名はアナベル・リー / その子の心には、ぼくを / 愛することと、ぼくに愛されることしかなかった / ぼくは幼く、彼女も幼く / この海辺の王国で / ふたりは、愛を超えて愛しあった / ぼくとアナベル・リーの愛を / 翼を持つ天国の天使さえ / うらやんでいた そのせいで、もうずいぶん前、/ 海辺の王国に / 雲間から風が吹きつけ / 美しいアナベル・リーは凍りついた / 身分の高い彼女の家族がやってきて / 彼女をぼくの前から連れ去り / 墓に閉じこめた / 墓は海辺の王国にある / 天使たちは、天国にいてもあまり幸せでなく / アナベル・リーとぼくをねたんだ / そう! そして(だれだって知っている / 海辺の王国で)/ 夜の雲間から風が吹きつけ / アナベル・リーを凍りつかせて命を奪った / だけどぼくたちの愛は強かった / 大人の愛よりずっと── / 賢者の愛よりずっと── / 天国の天使も / 海の悪魔も / ぼくの魂をアナベル・リーの魂から / 引き離すことはできない〔‥‥〕 / だって、月が輝けば、僕は夢をみる / 美しいアナベル・リーの夢を / そして星がまたたけば、ぼくは明るい瞳をみる / 美しいアナベル・リーの瞳を / そして夜の潮とともに、ぼくは横たわる / いとしい──いとしい──ぼくの命、ぼくの花嫁は そして夜の潮とともに、ぼくは横たわる いとしい──いとしい──ぼくの命、ぼくの花嫁は / 海辺の墓地 / 波打ち際の墓のなか
    エドガー・アラン・ポー 「アナベル・リー」


  • ◎ Remerle(Le Saule 2015)Aurelien Merle
  • オーレリアン・メルル(Aurelien Merle)はフランスの男性SSW。2008年に設立したレーベル「Le Saule」からリリースされた5thアルバムは野外で仰向けになって、枝に止まっている黒い小鳥を見上げる山羊男パーン‥‥19世紀末スイスの象徴主義画家アーノルド・ベックリンの〈牧神と黒ツグミ〉(Faune et le Merle 1864/65)をカヴァに借用。アーティスト名(AURELIEN MERLE)の中に「再び黒鶇」(REMERLE)というアルバム・タイトルが隠されている。基本的にはアクースティック・ギター弾き語りタイプだが、レーベル・メイトのLeonore Boulanger(コーラス、ヴォーカル、鉄琴)、Antoine Loyer(ブズーキ、バラフォン)、Jean-Daniel Botta(コーラス、コントラバス、ゲンブリ、フルート、ハーモニウム、ブズーキ)などが参加することで空気感が一変する。無名の差出人が書いた古い絵葉書や手紙を歌詞に使う試みはベルギーの画家ピエール・アレシンスキーに一脈通じるものがある。2016年末に急逝したPierre Barouhのカヴァ〈80 AB〉(1972)を含む全12曲。

  • ◎ Nosebleed Weekend(Suicide Squeeze 2016)The Coathangers
  • ザ・コートハンガーズ(The Coathangers)は米アトランタ・ジョージアで2006年に結成された女性パンク・バンド(2013年にキーボード奏者が離脱して3人組になった)。メンバー全員がコートハンガー姓を名乗っているが、親類縁者(姉妹や従妹など)ではない。それどころか単刀直入なバンド名が「自己誘発性流産の方法」(a method of self-induced abortion)を示唆しているというのだから怖しい。5thアルバムは「鼻血の週末」というタイトル通り、アルバム・カヴァに写っている黄色い服の女性に鼻血の跡がある。Meredith Franco(ベース)の身に一体何が起こったのか。アイドル顔のJulia Kugel(ギター)と長身刺青女のStephanie Luke(ドラムス)の2人も意味深な表情を浮かべている。ガーリィ・パンキッシュな〈Perfume〉〈Squeeki Tiki〉〈Nosebleed Weekend〉〈Watch Your Back〉〈Copycat〉と硬派アルト・ヴォイスの〈Make It Right〉〈Down Down〉‥‥2人のヴォーカルは大きく異なるけれど、それも彼女たちの魅力になっている。

  • ◎ Me(Terrible 2015)Empress Of
  • Empress Ofは米ロサンゼルスを拠点に活動する女性SSW、ロレリー・ロドリゲス(Lorely Rodriguez)のソロ・プロジェクト。風変わりなステージ・ネームはタロット占いで友人が最初に引いたカードの「女帝」(The Empress)に由来する。左の握り拳で口許を押さえたモノクロ・ポートレイトのアルバム・カヴァ‥‥スパニッシュ・ホンジェラス系の顔立ちは聡明でチャーミングに映る。いわゆるエレクトロポップだが、耽美系のドリーム・ポップとは一線を劃す。ヴォーカルはBjorkのようにエモーショナルで、サウンドも華やかで躍動している。壮大なトリップ・ホップの〈Water Water〉、高音ファルセット・ヴォイスに魅了される〈Standard〉(PVでは逆さ吊りにされて歌っている!)、エレクトロ・ロックっぽい〈How Do You Do It〉、ノイジーでクレイジーな〈Kitty Kat〉‥‥。Pitchforkの「BEST NEW MUSIC」(年間ベスト・アルバム 37位)に選ばれています。

  • ◎ July(Bella Union 2014)Marissa Nadler
  • マリッサ・ナドラー(Marissa Nadler)はワシントンD.C.生まれの女性フォーク歌手。デビュー・アルバム《Ballads Of Living And Dying》(Eclipse 2003)でエドガー・アラン・ポーの詩に曲をつけた〈Annabelle Lee〉やヴァージニア・ウルフの入水自殺をテーマにした〈Virginia〉を歌っていたゴシック・フォーク系のSSWである。ブラック・メタル・バンドのプロデュースで知られるランドール・ダン(Randall Dunn)による6thアルバムは幽玄で深遠な夢の世界を紡ぎ出す。清純無垢なヴォーカルと彼女に寄り添う守護天使のようなコーラスがエーテルのように重なり合って幻覚効果を生む。見知らぬ土地へ自動車で旅行するような〈Drive〉、不思議少女エミリーがゴースト・タウンに迷い込んだような〈Dead City Emily〉、鏡を通り抜けたアリスを想わせる〈Was It A Dream〉‥‥英米音楽メディアでは軒並みハイ・スコアを獲得。Pitchforkのレヴューは「8.1」だった。

  • ◎ Aventine(Play It Again Sam 2013)Agnes Obel
  • アグネス・オベル(Agnes Obel)はデンマーク・コペンハーゲン出身の女性SSW。同じ幽玄・夢幻派でもMarissa Nadlerのようなアクースティック・ギターではなく、クラシック・ピアノ弾き語りタイプである。デビュー・アルバム《Philharmonics》(2010)はデンマーク音楽賞(Danish Music Awards 2011)の5部門に輝き、ベルギーやフランス、オランダなどヨーロッパでもヒットした。ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ギター、ハープの奏でるクラシカルなアクースティック・サウンドに、彼女の優しく物憂げなヴォーカルが浮游する。不穏なチェロの響きとハープのピッツィカートが共演する〈Aventine〉〈The Curse〉の暗鬱なトーンはLana Del Reyに近いかもしれない。英語詞8曲にインスト3曲という構成。新曲3曲やライヴ、リミックスを収録した2枚組「Deluxe Edition」(2014)もリリースされている。

  • ◎ Puzzle(Sound Of A Handshake 2011)Amiina
  • アミーナ(Amiina)はアイスランド・レイキャヴィク音楽大学の女子が結成した弦楽四重奏団。Sigur Rósのレコーディングやライヴで演奏していた4人に男性2人が新メンバーとして加入して、2ndアルバムからは男女混成6人組になった。弦楽カルテットにパーカッションとエレクトロニクスが入ることでエレクトロニカの度合いが増し、ヴォーカルにも挑戦している。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにミュージカル・ソー、グロッケンシュピール、アコーディオン、ギデオン・ハープ、オルゴールなどが奏でる静謐なアンビエント・サウンドとベース、ドラムス、シンセなどの躍動的なリズムがパズルのように組み合わさって新しい音楽を生み出す。インストの〈Ásinn〉〈Púsl〉、男女コーラスの入った〈Over And Again〉〈Mambó〉や女性ヴォーカル曲の〈What Are We Waiting For?〉〈In The Sun〉。ドラムスとベースによるパワフルなバンド・サウンドを構築する〈Sicsak〉は今後のAmiinaを予感させて頼もしい。

  • ◎ Desejo(Biscoito Fino 2014)Mariana De Moraes
  • 顔に金粉を塗られた女性が目を瞑って恍惚の表情を浮かべているカヴァに惹きつけられる。〈イパネマの娘〉の作詞者として知られる詩人ヴィニシウス・ヂ・モライス(Vinicius de Moraes)の孫娘マリアーナ(Mariana De Moraes)の5thアルバムはカヴァ集。ソロ名義では20年間で僅か3枚と寡作なのは1969年ブラジル・リオ生まれの「歌う女優」だからでしょうか。ドリフの「ちょっとだけよ」で当時の子供たちも鮮明に記憶している〈Taboo〉(Margarita Lecuona 1934)から、パーカッションの伴奏で共作者たちとラップする〈A Liberdade é Bonita〉(Jorge Mautner e José Miguel Wisnik 2014)まで幅広い選曲
    になっている。Marcelo Costaとデュエットした〈Flor do Cerrado〉(Caetano Veloso 1974)、故ドミンギーニョス(Dominguinhos)がアコーディオンで参加した〈Assum Branco〉(José Miguel Wisnik e Tom Zé 1994)、共作者の詩人ヴァリー・サロマォン(Waly Salomão)のヴォイスをサンプリングした〈Motivos Reais Banais〉(Adriana Calcanhoto 2014)など、選曲だけでなくアレンジも多彩だ。

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    新年恒例の「タワレコ渋谷・クリアランス」は年末になってもセールの告知がなかった。酉年(2017)は中止なのかと危ぶんでいたら、4Fのイヴェント・スペース(クラシックは7F)で密やかに開催(1/1~4)されることになった。人気のない一角にJ-POP、K-POP、ROCK、SOUL、WORLD、CLUB MUSIC‥‥などのエサ箱が寒々しく並ぶ。2日に飛んで行ったので強者どもの夢の跡なのか、それとも元日から「酉年の飢饉」だったのかは分からないけれど、拍子抜けするほどの少なさに啼きたくなった。それでも何とか羽繕いをして、Agnes Obelの《Aventine》、Marissa Nadlerの《July》など‥‥女性SSWのアルバム3枚を啄む。こんな事態もあろうかと予期して、他店舗の年末クリアランス商戦で何枚か確保していたのだ(定価で店舗販売されているAurelien Merleの《Remerle》やEmpress Of《Me》は掘り出し物かも?)。今年はクリアランスセールの記事をアップ出来ましたが、今後も続けられるかどうかは不透明です。

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    • ¥290(税抜 ¥269)×7=2030円の出費です^^;

    • 〈牧神と黒ツグミ〉‥‥黒ツグミ(Merle du Japon)は日本の鳥なので、正確にはクロウタドリ(Merle noir)のことです。The Beatlesの〈Blackbird〉も然り‥‥

    • 「アナベル・リー」は『ポー怪奇幻想集 1』(原書房 2014)から引用しました
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    Remerle

    Remerle

    • Artist: Aurélien Merle
    • Label: Le Saule
    • Date: 2015/06/15
    • Media: MP3
    • Songs: Carreaux tremblent / Grand cerf / Appeaux et appâts / Génie / Voyage sans bridge / Chic aux buissons / La fugue / 80 A.B. / Les gestes inutiles / Okinawa / La conversation / Le réveil


    Nosebleed Weekend

    Nosebleed Weekend

    • Artist: The Coathangers
    • Label: Suicide Squeeze
    • Date: 2016/04/15
    • Media: Audio CDSongs: Perfume / Dumb Baby / Squeeki Tiki / Excuse Me? / Make It Right / Nosebleed Weekend / Watch Your Back / Burn Me / I Don't Think So / Down Down / Hiya / Had Enough / Copycat


    Me

    Me

    • Artist: Empress Of
    • Label: Hostess Entertainment
    • Date: 2015/09/11
    • Media: Audio CD
    • Songs: Everything Is You / Water Water / Standard / How Do You Do It / To Get By / Kitty Kat / Need Myself / Make Up / Threat / Icon


    July

    July

    • Artist: Marissa Nadler
    • Label: Bella Union
    • Date: 2014/02/11
    • Media: Audio CD
    • Songs: Drive / 1923 / Firecrackers / We Are Coming Back / Dead City Emily / Was It A Dream / I ve Got Your Name / Desire / Anyone Else / Holiday In / Nothing In My Heart


    Aventine

    Aventine

    • Artist: Agnes Obel
    • Label: Pias America
    • Date: 2013/09/30
    • Media: Audio CD
    • Songs: Chord Left / Fuel To Fire / Dorian / Aventine / Run Cried The Crawling / Tokka / The Curse / Pass Them By / Words Are Dead / Fivefold / Smoke & Mirrors


    Puzzle

    Puzzle

    • Artist: Amiina
    • Label: Sound Of A Handshake
    • Date: 2011/04/12
    • Media: Audio CD
    • Songs: Asinn / Over And Again / What Are We Waiting For? / Pusl / In The Sun / Mambo / Sicsak / Thoka


    Desejo

    Desejo

    • Artist: Mariana De Moraes
    • Label: Biscoito Fino
    • Date: 2014/10/14
    • Media: Audio CD
    • Songs: Tabu / Veleiro Azul / Vai Vem -Amor de Carnaval / Flor Do Cerrado / Assum Branco / Morro Amor / Cacilda / Motivos Reais Banais / Engomadinho (Pedro Caetano E / A Mãe D Água E a Menina / CÁ JÁ / Amor Em Lagrimas / A Liberdade É Bonita

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