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マサルさま [c o m i c]



  • 本格的な入院を控えた夏に、Ustreamの放送を行った。著作のPRのためだが、壮行会のような意味合いもあった。/ 放送内で言葉遊びをした。質問の前半を隠して「なんですか」とか「どれですか」などとだけ尋ねる。解答者が無理やりに解答したところで、出題の全文を明かし、答えと質問の辻褄の合わなさを鑑賞する「それはなんでしょう」という遊びだ。/ フジモトさんが大病(二枚目の)で入院することを、視聴者にはもちろん伝えていない。彼からの出題は「なにをしますか?」だった。さまざまな解答が寄せられたところで全文を明かし、僕は度肝を抜かれた。思わず「二度見」してしまったが、フジモトさんは平然としていた。放送をみていた人も、僕の首の動きを二度見とは思わなかったろう。彼は、僕だけが驚けばよかったのだ。このときも、触れたように思った。/ 出題の全文は「人生最後の日にあなたはなにをしますか?」だった。彼の漫画の作中に入り込んでしまった気がした。
    長嶋 有 「触れたように思った」


  • ▢ ウール100%(文化出版局 2001)フジモトマサル
  • 牝羊のドリーを主人公にしたマンガ。『ウール100%』には1から5頁(1頁4コマ)のエピソード25話が収録されている。1頁を上・下・左・右均等に4つ割りしているので、従来の縦に読む4コマ・マンガを逆Z(右上→左上→右下→左下)に読み進める新鮮さがある。第1話「ひとり暮らし」は目覚めたドリーが朝食のシリアルを食べて出勤する前に、玄関に置いてある羊のマスコット(ぱたぽん)に挨拶すると、首が落ちてしまう。「これは何か悪いことが起きる前兆だわ」と用心するドリーが仕事場のパソコンから友人のハルミさんに連絡すると、「心配することない。そういう日に限っていいことがあるわよ」という返信が来る。何事もなく家に辿り着いたが、空き巣に入られて部屋が荒らされていた。ビデオデッキは盗まれてしまったけれど、「いいこと」もあった。「中身のレンタルビデオは置いていってくれたの」とハルミさんに知らせるドリーは内省的で天然ボケのクローン羊なのだ。

  • ▢ ウール101%(文化出版局 2004)フジモトマサル
  • 羊のOLドリーをヒロインにした続編の『ウール101%』も1から6頁(1頁4コマ)のエピソード20話を収録。『ウール100%』でハルミさんから紹介された黒羊のつむじくんとデートしたり、ハルミさんとシェアハウスして一緒に住んだり、花屋さんで働いている小学校の級友・吉田タケシくんと偶然に再会したり‥‥少しずつドリーの世界が拡がって行く。最終話は初恋の男子の店に通っているドリーがハルミさんに「素敵な店」のある場所を教える。翌日、ドリーは花屋の前で立ち話しているタケシくんとハルミさんの姿を目撃してしまう。失意のドリーはバスの中で音楽を鳴らす。彼女は「好きな曲ならいつでも頭の中で完璧に再生できる」のだ。失恋ソングを聴いていると、車中のドリーに気づいたつむじくんがバスに乗って来る。放心状態で行く宛のないバスに乗車していたドリー。つむじくんが「今面白そうなDVD借りてきたんだけど、うちで一緒に観る?」と誘う。

  • ▢ 今日はなぞなぞの日(平凡社 2004)フジモトマサル
  • ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』に連載された「火曜日はなぞなぞの日、金曜日はなぞなぞのこたえの日」(2002年4月~2003年4月)に加筆・修正を加えたなぞなぞ本。左頁に問題文とイラスト、次頁右に答え(逆さ表記)という構成。2通りの意味が発生する同音異義語(単語や文章)を答えとする「ダジャレなぞなぞ」は大喜利の「謎かけ」に近い。たとえばワープロの漢字変換で「額装」「学僧」などの同音異義語に気づけば、誰でも簡単に作れそうだが、《「2文字漢字熟語×2」 の組み合わせは禁じ手とする》という厳しいルールを設けているので、なぞなぞの作成も答えもハードルが高い。著者は巻頭で《まず最初に言っておきたいのは、「悩む時間はなぞなぞの最大の調味料である」ということです。わからないからといってすぐにページをめくって答えを見てはいけません。「これぞ!」 と思える答えが頭に浮かぶまで、1日でも2日でもじっくりと考える時間を楽しんでください》と釘を刺しているので、10日間かけて全70問に挑みました。正解率は3割くらいかしら?

  • ▢ ダンスがすんだ(新潮社 2004)フジモトマサル
  • 「イラストレーター兼マンガ家。ときになぞなぞ作家、そして回文作家」による回文絵物語(一部書店では回文新聞「しんぶんし」も配布された)。見開き右頁に回文、左頁にモノクロ・イラストというレイアウトで全76篇を収録している。「医者らしい」から「歌唄う」までの単純な回文だが、長編ストーリ仕立てになっているところが新機軸で面白い。青年医師と黒猫美女の危ないアヴァンチュール、妻との離婚、猫人の蜂起、叛乱、革命、亡命?‥‥と、ダークでスリリングなフィルム・ノワール風の物語を愉しめる。モノクロ画の世界の中でファム・ファタルな黒ネコの睛が妖しく光る。ネコと回文は相性が良い。意外に思うかもしれないが、長い回文よりも短い回文を作る方が遙に難しい。10文字前後の短回文は既に世間に流布されている可能性が高いから。表題の「ダンスがすんだ」、元本の「キネマへまねき」など、使い回された既成回文も少なくない中で、「改竄破格! 飽きて懲りない脱税医。絶大利己的悪か? 犯罪か?」という長回文が作家としての力量を示している。

                        *

  • ▢ いきもののすべて(文藝春秋 2006)フジモトマサル
  • 「いきもののすべて」はイタチ、パンダ、ネズミ、ネコ、ロバ、スカンク、ペンギン、アルマジロ、トラ、レッサーパンダ、ヤギ、クマ、ウサギ、オオカミ、イヌ、アシカ、セイウチ、ヒツジ、ライオン‥‥など、擬人化された動物たちの4コマ・マンガ(50篇)。殆どが従来の縦積み4コマだが、羊のドリーさんのような一見ほのぼのとした天然ボケのギャグで溢れている。「マガオくん」はデザイン事務所に転職したウサギが主人公の4コマ・マンガ(89篇)で、うさぎ図案社の社長や同僚など登場人物全員がウサギ・キャラ。「真顔」という名前通り、余り表情の変わらない新入社員は敢えて演技をしないモンタージュ理論の男優のように時には不気味でもある。「ある平凡な一日の終わりに」(8頁)は自然科学博物館を訪れたマガオくんを主人公とする短篇マンガ。2人連れのリスがジオラマの手前にあるボタンを押すと、送電鉄塔や原子力発電所がピカピカ光る。一番左端にある核ボタンに気づいたマガオくんが透明カヴァを開けて押すと、大きな白い雲が湧いて模型世界が壊滅してしまう。

  • ▢ 二週間の休暇(講談社 2007)フジモトマサル
  • アパートの一室で目覚めた小川日菜子は空腹を感じて買物に出かける。紙飛行機を飛ばして遊ぶ子供たちも豆腐屋も八百屋も通行人も全員が鳥の姿をしていた。コロッケ1個を買い食いした日菜子はニコライ書房に立ち寄って、『給水塔占い』を購入する。占いの結果は「砂漠鉄塔型」だった。その夜、彼女は砂漠で水を求めて、給水塔に昇る夢を見る。翌日、日菜子は書店で貰ったフリーペーパー「月刊わが町」を片手に大石上神社に登った。帰宅して夕食の料理をしていると、突然サイレンが鳴り響く。隣室のロンゴくんの部屋にアパートの住人(長老、よもぎさん、ロンゴくん、日菜子)が集まる。10年前にも同じようなサイレンが鳴ったことがあると長老が話す。しかし、日菜子には10年前どころか1週間前の記憶も全然なかった。2羽の黒鳥が彼女の部屋を訪れて「記憶の紅茶」を手渡す。丸いラベルのテイーバックを飲むと、日菜子の記憶が甦った。オフィスで残業中の彼女に母親から電話が来た。長寿猫(26歳)の玉ちゃんが帰って来ないと心配そうに告げる。

    何もかも忘れて休みたいという日菜子の願望を2羽の黒鳥が叶えた。4時44分に白い壁に手を触れると「鳥の国」へ行けるという。荷造りをして深夜に家を出た彼女は玉ちゃんの後を追い、空き家の壁を通り抜けて地下鉄やエレヴェータを乗り継ぎ、アパートの一室に辿り着く。よもぎさんが編集している雑誌「月刊わが町」を手伝うことになった日菜子はニコライ書房の主人や発掘家のロンゴくんにインタヴューしたり、町の風景写真を撮ったり‥‥発掘されたスケッチブックには文鳥のチーコやタマちゃん、ひなこちゃんの絵が描かれていた。日菜子は小学5年生の時、放課後に隣りのクラスの女の子・片山真由美に話しかけられたことを思い出す。真由美は将来の夢を「鳥と自由に遊んだり、話をしたりできる世界があるといいな」と語っていた。翌日、日菜子は真由美ちゃんが病院で亡くなったことを知る。野外で鳥仲間と「コロッケ・パーティ」を開いていると、真由美ちゃんが姿を現わした。「鳥の国」は彼女が創った世界だった。空を飛べるようになった鳥たち。世界が終わる前に日菜子と玉ちゃんは元の世界へ戻る。

  • ▢ 終電車ならとっくに行ってしまった(新潮社 2010)フジモトマサル
  • 回文絵物語、なぞなぞ本、4コマ・マンガ‥‥フジモトマサル氏の本は一風変わっている。25篇のエッセイとマンガを収録した本書にも不思議な世界が拡がっている。「燦めく星座」「闇の向こう」「退屈と戦争」「秘伝」「思い出せない」‥‥記憶の曖昧さや夢、日常的な齟齬や違和感などについて綴られたエッセイ(4頁)は地味で内省的だが、それらをテーマにして描いたマンガ(2頁)が不条理感を高めている。二立直立歩行するナマケモノが部屋で独白し、外界を散策する。蚊や鮮魚屋の店主、オトヒメマクラ貝、死神、小鳥と会話を交わす。古いTVを拾い、飛行船を目撃し、穴の中に墜ちる。ボートを漕いで、2匹のネコと一緒に外の世界へ船出する。一見独立したエピソードの羅列ように見えて、実は繋がっていた世界。短篇小説ならば「奇妙な味」と評されるところだが、エッセイとマンガ、現実と虚構の相乗効果によって深みを増している。小鳥が警告する「Prrr」(千年に一度起こる大変なこと)とは一体何なのか。深夜の駅のホームに取り残された読者は途方に暮れてしまう。

  • ▢ 夢みごこち(平凡社 2011)フジモトマサル
  • 夢の中でカモノハシとして目覚めた僕は引き蘢りだった。2カ月振りに外出してベンチに座り、どうして今まで引き蘢っていたのかを自問する「素晴らしき開放感」‥‥獄中で目が覚めたスカンクが見たカモノハシの夢を囚人(5号)に話す。ある日、この現実が長い長い夢なのではないかと疑った僕は「頬つねりの罪」で逮捕されてしまう。5号が看守に連れ出されると、部屋の壁が動き出して縮んで来る「夢警察」‥‥墓の中で目覚めたカンガルーは停留所(第二墓地)からバスに乗る。背中に翼のあるガイドが天国へ招いてくれるシステムなのだが、彼女は名簿に載っていなかった「我を失う」‥‥食卓の電球を替えようとして椅子から転げ落ちて気を失っていたネコのスピカ。帰宅した夫のカロンに記憶を検められるが、「それは君の記憶じゃない。君の名前は志保だし、僕の名前は榮造だ」と告げられる「いいニュース悪いニュース」‥‥観測史上最大の豪雨が続く。オフィスで仕事を整理するフクロオオカミがボートに乗って、ビルの7階に閉じ込められた巨大タコを救出する「最期の希望」

    ‥‥三日前、小学校の級友シンジから久しぶりに電話が来た。ネコのアキラが近く取り壊される校舎の塀に2人で隠した宝物を取り出しに行く「再会」‥‥海洋調査船ピラコチャ号が沈没して、ゴムボートで漂流する1羽のウサギ。大西洋の真中で蝶を発見した遭難者(マガオくん?)が海上を歩く海洋蝶類学者と出遭う「蝶を追う」‥‥悪夢から目覚めたネコの榮造はメンタルクリニックの医師に薦められた「千年計画」に参加することにする。志保と知り合い、地下に設置されたタイムカプセルの中に入って人工凍眠したが、一週間後に事故が起こって変わり果てた地上へ避難する「夢から覚めた日」。18篇の悪夢の連鎖がメビウスの輪のようにループするディストピア・コミック・ワールド。榮造は記憶障害のカロンの祖父の名前で、宇宙空間を漂流するメデューサ号の乗組員の名前だった。メデューサ号から緊急脱出してオーヴォに不時着する「SOS」。クマの榮造と志保が訪れた小型飛行艇の石碑には著者からのメッセージが古代語で刻まれていた‥‥「人生最良の日のように毎日を生きよ」

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    ウール100%

    ウール100%

    • 著者:フジモトマサル
    • 出版社:文化出版局
    • 発売日:2001/06/04
    • メディア:単行本
    • 目次:ひとり暮らし / 寝覚めの悪い朝もある / みんないいひと / すてきな友人 / 恋人未満 / わたしはひつじ / 神様今日もありがとう


    今日はなぞなぞの日

    今日はなぞなぞの日

    • 著者:フジモトマサル
    • 出版社:平凡社
    • 発売日:2004/04/14
    • メディア:単行本
    • 内容:買うと、もれなくおやつがもらえる家電製品は? 悩む悦び、ハマる楽しさが満載。ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」連載「火曜日はなぞなぞの日、金曜日はなぞなぞのこたえの日」に新作を加えて単行本化


    ダンスがすんだ 猫の恋が終わるとき

    ダンスがすんだ 猫の恋が終わるとき

    • 著者:フジモトマサル
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2004/08/21
    • メディア:単行本
    • 収録回文:医者らしい / スリム化無理す / 薬の暗い快楽のリスク / カルテ見てるか? / 感じいい人家 / 妻待つ / 闇の飲み屋 / この娘どこの娘? / しがない流し / ウククレレ喰う / 言い争いかい? そらあいい / 死の間際、酒場でばか騒ぎ、魔の死 / とうとうウトウト / この娘! 猫の娘 / 美しいこの娘‥‥医師苦痛 / 坂で傘 / 影のあるあの外科 / おつかい、タ...


    いきもののすべて

    いきもののすべて

    • 著者:フジモトマサル
    • 出版社:文藝春秋
    • 発売日:2006/11/25
    • メディア:単行本
    • 目次:いきもののすべて / マガオくん / ある平凡な一日の終わりに


    夢みごこち

    夢みごこち

    • 著者:フジモトマサル
    • 出版社:平凡社
    • 発売日:2011/01/25
    • メディア:コミック
    • 目次:素晴らしき開放感 / 夢警察 / 我を失う / いいニュース悪いニュース / 最期の希望 / 再会 / 蝶を追う / いつまでも見る夢 / 亡者の戯れ / 闇の中の筏 / 田舎暮らし / 夢裁判 / 不安の種 / 穴 / 月の光 / 挑戦者 / SOS / 夢から覚めた日


    二週間の休暇〈新装版〉

    二週間の休暇〈新装版〉

    • 著者:フジモトマサル
    • 出版社:講談社
    • 発売日: 2016/03/10
    • メディア:単行本
    • 目次:目覚め / サイレン / 記憶の紅茶 / 発掘 / 世界の終わり / 給水塔占い / 解説(穂村 弘)

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