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ジャグジャグウォー [m u s i c]



  • サバトはどれも祝宴なのだが、特にソーウィンはその傾向が強まるのは言うまでもない。食べものと飲み物は儀式終了までに用意しておくこと。そして、商店で買った殻なしのものや、あるいはパブでもらった一袋のピーナッツしか手に入らなくとも、木の実を含んだ食事にするべきだ。焙った木の実のはぜ方に未来を読み取る伝統的占い(これは明るい気性の霊を引きつける最も良い占いの方法なのだ)は、現実には室内で実際に火を燃やしている場合にしかできないのだ。個人的追記。私たちはスージーという名前のぶち猫を飼っているが、この猫は(他にもたくさん猫を飼ってはいるのだが)、自分から私たちの使い魔として振舞っている。彼女はとてもサイキックで、全ての儀式に出席したがっており、魔法円が描かれる時には部屋の中に入ろうとしてドアにぶつかってくるのだ。行儀の良い猫なのだが、宴会は儀式の「後」だ、ということはどうしても覚えられないらしい。そのため、私たちは正しい時間になるまで、食べものは戸棚の中に隠しておかねばならない。
    ファーラー夫妻 「ソーウィン 10月31日」


  • ◎ 22, A Million(Jagjaguwar 2016)Bon Iver
  • Justin Vernon率いるボン・イヴェール(Bon Iver)の3rdアルバムは、その外観からして一風変わっている。オレンジと金色の四角い勾玉の周りに様々なアイコンを配列したエリック・ティモシー・カルトン(Eric Timothy Carlson)のカヴァ・アート。数字(22、10、715、33、29、666、21、8、45、1000000)や記号で表記された曲名。歌詞ブックレット(28頁)のレイアウトやフォントも凝っている。ゴスペル歌手Mahalia Jacksonの〈How I Got Over (Live)〉(1963)を引用した〈22 Over Soon〉、歪んだビートが猛威を振るう〈10 Death Breast〉(Stevie Nicksの〈Wild Heart〉をサンプル)、変調加工された多重唱アカペラの〈715 Creeks〉、Sharon Van Ettenの〈Dsharpg〉などをサンプリングした〈33 "GOD"〉、途中で耳障りなノイズが入る弾き語りフォークの〈29 #Strafford Apts〉‥‥ノイズやサンプルの深くて仄暗い森の中から美しいヴォーカルやコーラスが立ち現われる。フォークトロニカと称されるBon Iverに一番近いのはSufjan Stevensかしら。

  • ◎ Preoccupations(Jagjaguwar 2016)Preoccupations
  • 泥沼化したヴェトナム戦争の悪しき記憶を否応なく思い出させるViet Congというバンド名が災いしたのか(人種差別・文化的盗用と批判された)、2012年にカナダ・カルガリーで結成されたポスト・パンク4人組は潔く改名して2ndアルバムをリリースした。しかし、どう贔屓目に見ても「先入観」(Preoccupations)という抽象的な名前はインパクトに欠ける。「名は体を表す」と言うけれど、Michael Wallace(ドラムス)、Scott Munro(ギター、シンセ)、Matthew Flegel(ヴォーカル、ベース)、Daniel Christiansen(ギター)の音楽性まで変わってしまったわけではない。2ndアルバムにも11分を超す〈Memory〉が収録されているし、「迷宮的ポスト・パンク」(labyrinthine post-punk)と評された複雑怪奇な音楽性も、エコバニ風の耽美主義も健在である。新アルバムを1枚出すごとにバンド名を変えて行くという突飛なアイデアも浮かぶ。

  • ◎ My Woman(Jagjaguwar 2016)Angel Olsen
  • Angel Olsenは米ミズーリ・セントルイス出身の女性SSW。Justin Raisen(Charli XCX、Sky Ferreira)がプロデュースした3rdアルバムは意表を衝くシンセポップの〈Intern〉で幕を開ける。基本的にはギターやピアノの弾き語りスタイルだが、鼻にかかったヴォーカルは力強かったり、可愛かったり、気怠かったり‥‥女性の持つ多面性のように変化に富む。Stewart Bronaugh、Seth Kaffman(ギター)、Joshua Jaeger(ドラムス)、Emily Elhaj(ベース)、Justin Raisen(マルチ・インストルメント)というバンド編成でレコーディング。嗚咽系シャウトが炸裂する〈Shut Up Kiss Me〉、グランジ風のギター・リフの〈Give It Up〉。Stevie Nicks(Fleetwood Mac)のように蠱惑的な〈Sister〉、Angel Olsen & Crazy Horseみたいな〈Woman〉の2曲は7分超え。ピアノ・バラード〈Pops〉で幕を下ろす全10曲・47分。アマンダ・マルサリス(Amanda Marsalis)の撮ったパッツン前髪の「ブス顔」を敢えてアルバム・カヴァにするところに彼女の気概が感じられる。

  • ◎ Are We There(Jagjaguwar 2014)Sharon Van Etten
  • シャロン・ヴァン・エッテン(Sharon Van Etten)は米ニュー・ジャジー州クリントン生まれの女性SSW。4thアルバムは彼女のギター、ピアノ、オムニコード(Omnichord)、オルガン、ベース、ドラムス、に、ギター、ベース、ウーリッツァー、オルガン、ピアノ、ハープ‥‥というオーソドックスな編成でインディ・ロックやフォーク・ロックを奏でる。煌びやかな衣裳で男性に媚を売るような軟弱な素振りは皆無。毅然としたヴォーカルが大地に響き、空気を揺るがす。気怠いヴォーカルが躊躇いの感情を引き摺る〈Taking Chances〉、エモーショナルなヴォイスが痛々しい激情を曝け出す〈Your Love Is Killing Me〉、ピアノ弾き語りの〈I Know〉‥‥。マルティーヌ・フランク(Martine Franck)の撮ったアニエス・ヴァルダ(Agnès Varda)のモノクロ写真をアルバム・カヴァに使用している。車窓から斜めに顔を傾けて外界を見渡す女性ドライヴァーの目には一体どのような光景が映っているのだろうか。

  • ◎ II(Jagjaguwar 2013)Unknown Mortal Orchestra
  • Unknown Mortal Orchestra(UMO)は米オレゴン・ポートランドのサイケデリック・バンド。ニュージーランド生まれのSSW、Ruban Nielson(The Mint Chicks)を中心とする4人組だが、1stアルバムは彼のソロ・プロジェクトだった。2ndもRuban Nielson(ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、シタール、ドラムス)に、弟のKody Nielson(ドラムス)、Chris Neilson(ホーン)などが参加。柔和な高音ヴォイスとブレイクビーツやループを駆使したUMOのファンキーなソウル・サウンドは既成のインディ・ロックから逸脱している。「世界から逃げ出して、寒い深海の底を漂う空想」から生まれた〈Swim And Sleep (Like A Shark)〉、3歳の息子の笑い声の入った〈Faded In The Morning〉‥‥。シースルー美女が右手で長剣を翳す「アルバム・カヴァ」は英国の魔女作家・ジャネット・ファーラー(Janet Farrar)の写真を借用したもの。Ruban Nielsonは魔女はプレ・フェミニストのシンボルで、カヴァ写真は「自由、力、反抗、魔法を象徴している」と解説している。

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    ジャグジャグウォー(Jagjaguwar)は1996年に米インディアナ・ブルーミントンで設立されたインディ・ロック・レーベルである。姉妹レーベルのシークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)やデッド・オーシャンズ(Dead Oceans)と同程度の知名度だったが、Bon Iverの2ndアルバム《Bon Iver》(2011)が全米アルバム・チャート第2位になったことで、人口に膾炙した。マージ・レコーズ(Merge Records)に所属するArcade Fireと同じように、メジャーに移籍することなくインディ・レーベルに留まったままで、メガ・ヒットを記録することを実証したのだ。この2バンドの快挙によって、インディからメジャーという旧来の成り上がり出世コースは廃道と化した。そもそもインディ・バンドは規制や制約の多いメジャー・レーベルと契約したいとは思っていないのかもしれない。2016年9月にAngel Olsen、Preoccupations、Bon Iverのニュー・アルバムがJagjaguwarから相次いでリリースされた。この奇妙な名称のインディ・レーベルから目が離せない。

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    • iLoudの「Unknown Mortal Orchestra 『II』インタビュー」を参照しました^^

    • 引用文中の「ソーウィン」(Samhain)はハロウィン、万聖節前夜祭(イヴ)のこと

    • 〈Sister〉はFleetwood Macの〈Dreams〉(1977)、〈Woman〉はNeil Young & Crazy Horseの〈Down By The River〉(1969)へのオマージュでしょう^^
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    Jagjaguwar

    Jagjaguwar

    • Founded: 1996
    • Founder: Darius Van Arman
    • Genre: Indie rock
    • Location: Bloomington, Indiana
    • Artist: Rick Alverson / The Besnard Lakes / Black Mountain / Bon Iver / S. Carey / Dinosaur Jr. / Foxygen / Gayngs / Gordi / Lia Ices / Lightning Dust / Briana Marela / Moonface / Moonface And Siinai / Angel Olsen / Oneida / Pink Mountaintops / Preoccupations / Trevor ...Sensor / Sinoia Caves / Small Black / Unknown Mortal Orchestra / Sharon Van Etten / Volcano Choir / Wolf People


    22, A Million

    22, A Million

    • Artist: Bon Iver
    • Label: Jagjaguwar
    • Date: 2016/09/30
    • Media: Audio CD
    • Songs: 22 Over Soon / 10 Death Breast / 715 Creeks / 33 "GOD" / 29 #Strafford Apts / 666 Cross / 21 Moon Water / 8 Circle / 45 / 1000000 Million


    Preoccupations

    Preoccupations

    • Artist: Preoccupations
    • Label: Jagjaguwar
    • Date: 2016/09/16
    • Media: Audio CD
    • Songs: Anxiety / Monotony / Zodiac / Memory / Degraded / Sense / Forbidden / Stimulation / Fever


    My Woman

    My Woman

    • Artist: Angel Olsen
    • Label: Jagjaguwar
    • Date: 2016/09/02
    • Media: Audio CD
    • Songs: Intern / Never Be Mine / Shut Up Kiss Me / Give It Up / Not Gonna Kill You / Heart Shaped Face / Sister / Those Were The Days / Woman / Pops


    Are We There

    Are We There

    • Artist: Sharon Van Etten
    • Label: Jagjaguwar
    • Date: 2014/05/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Afraid Of Nothing / Taking Chances / Your Love Is Killing Me / Our Love / Tarifa / I Love You But I'm Lost / You Know Me Well / Break Me / Nothing Will Change / I Know / Every Time The Sun Comes Up


    II

    II

    • Artist: Unknown Mortal Orchestra
    • Label: Jagjaguwar
    • Date: 2013/02/05
    • Media: Audio CD
    • Songs: From The Sun / Swim And Sleep (Like A Shark) / So Good At Being In Trouble / One At A Time / The Opposite Of Afternoon / No Need For A Leader / Monki / Dawn / Faded In The Morning / Secret Xtians


    サバトの秘儀(魔女たちの世紀)

    サバトの秘儀(魔女たちの世紀)

    • 著者:ファーラー夫妻(Janet and Stewart Farrar)/ ヘイズ 中村(訳)
    • 出版社:国書刊行会
    • 発売日: 1997/08/20
    • メディア:単行本
    • 目次:儀式の基礎(開儀礼・大儀礼・閉儀礼)/ サバト(インモラグ 2月2日・春分 3月21日・ビョールティナ 4月30日・盛夏 6月22日・ルーナサー 7月31日・秋分 9月21日・ソーウィン 10月31日・ユール 12月22日)/ 誕生・婚姻・死(洗礼・魔女の結婚式・鎮魂式)/ 写真図版 / 原註 / 訳者あとがき / 参考文献

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