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ネコ・ログ #43 [c a t a l o g]

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  • 歌、ユーモア、詩、音楽‥‥と、ねこはどこでもひっぱりだこ。フランス語でねこを意味する「シャ」は耳に心良く響き、無限の言葉遊びが可能です。音が美しければ、論理は必要ではありません。1950年代、ジャン・コンスタンタンの歌『Le Pacha(パシャ、オスマン帝国の高官の意)』は、「それはねこ、パシャのようなペルシャねこ」で始まります。ここで重要なのは、音の繰り返しによって生まれる軽やかな響きです。〔‥‥〕/ 歌に登場するねこは、しばしば哲学的。ジャック・ブレルは、『Les Bigotes(狂信女、1962年)』で「信心に凝り固まった女は少しずつ年を取り / 犬からねこになる / ああ、狂信女たち」と歌いました。/ 人は人生でさまざまな出来事に出会いますが、特に喪に服している時、ねこはいつも私たちのそばにいます。まさにそれが、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲、1981年ロンドン初演のミュージカル『キャッツ』のテーマ。今日なお、多くのミュージシャンが、ねこをテーマにしていて、フランスのアカペラ四重奏グループ、パウワウは「僕はねこになりたいのさ」と歌い、ノルウェンは、アルバムのカバー写真に『不思議の国のアリス』のチェシャねこを用いました。
    ブリジット・ビュラール=コルドー 「歌」


  • #379│モル│ノラ猫 ── 春のゴロニャン
    まだ寒い春の日、モルちゃんが地面に寝転がっている。太陽に照らされたアスファルトに温もりが籠っているのか、気持ち良さそうに寝返りを打つ。女飼主は老齢ネコなのよと言うけれど、ネコの年齢や性別は人間の老若男女とは異なり、見た目では分かり難い。それでも同じ女主人に飼われている茶虎のレイや三毛のマープルちゃんに比べると、動作が緩慢に感じられる。ネコの行動は注意深く何かを凝視しているかと思うと、次の瞬間に急に走り出すなど予測不能だが、モルは些細な変化に少しも動じる気配がない。老人と同じように敏捷性や感受性が鈍って来ているのかもしれない。自ら近づいて挨拶することもないし、逆に近寄っても逃げ出したりはしない。躰を撫でるとニャンと鳴く。炬燵や縁側で微睡んでいる高齢者の姿に重なる。レイがマープルを追い回しても、モルは涼しい顔でゴロニャンしている。

    #380│ガク│飼い猫 ── ガングロにゃんこ
    都電沿線をネコ歩きする。路面電車に乗って移動しているだけでは見逃してしまう風景がある。車道に面した民家の車庫でガングロ・ネコが鎮座していた。躰は茶色なのに、顔だけが真っ黒い。元々は黒ネコだったのか(黒ネコのソランちゃんの躰が最近茶色っぽくなって来た)、子ネコの頃から黒と茶の配色だったのかは不明だが、通行人の人目を惹く個性的なネコちゃんである。この辺には数匹のネコがいるけれど、近寄っても逃げ出さないのはガクだけらしい。間合いを縮めて手を差し伸べようか止めようか躊躇していると「大丈夫よ。馴れているから」と通りがかった女性が教えてくれた。民家のオバさんによると、ガクは裏手のタクシー運転手の飼っているネコだという。日中は飼主が不在なので、夕方になると表通りに出て来て、健気に主人の帰りを待っているのかもしれない。ジャンナッツ(JANAT)の2匹のネコ、サムとボウのように。

    #381│マオ│飼い猫── 木陰で一休み
    S井開運稲荷には数匹のネコたちが暮らしている。全員が特定の飼主のいるネコというわけではないらしいが、大柄なマオは首輪をしているので飼いネコだと分かる。黒いビロードのような毛並みの色艶も良い。ネコの額のような空間の奥には民家やアパートが建っていて、時どき住人らしき人が通り抜ける。開運稲荷へ参拝に来る人は稀で、表通りからネコを見に来る通行人の方が多い。買物や散歩の途中に立ち寄る近所の住人も少なくない。ネコの躰に触れて撫でる人、デジカメやスマホで写真を撮る人‥‥ネコたちは思い思いの場所で毛繕いをしたり、長閑に微睡んでいる。マオが選んだ場所は植え込みのある木陰だった。日中の強い陽射しを吸収して火照った躰を日陰で冷やしているのかもしれない。神社にはS井銀座やS降銀座商店街の日常とは異なる時間が流れている。

    #382│リオ│ノラ猫 ── 左目の青い空
    人気のない寂れた集合住宅。幽霊屋敷や廃家を想わせる建物は都会に出現した「心霊スポット」のようだ。かつて住んでいた人たちは既に引っ越して行ったのか、敷地内へ入れないようにフェンスで囲まれ、中庭には雑草が生い茂っている。他の粗大ゴミと同じように捨てられてしまったのか、1匹のネコがフェンスの前で鳴いていた。今日は未だネコおばさんが食事を運んで来ないのだろうか。もう少し経ったらゴハンが食べられるからね、とネコを宥めるように話しかける。レジ袋を下げた女性の後を追い駆ける。人違いだった。撮った1枚の画像をモニタ画面で確認すると、左目の青みが強くオッド・アイに見える。本来は左右とも黄みがかった目の色をしている。撮影した日は雲1つない快晴だった。ネコの左目に青空が綺麗に映り込んでいたのだ。青い空の中に惹き込まれそうになる。ネコの目に世界は一体どのように映っているのだろうか。ネコの目になって、現実世界を眺めてみたい。

    #383│ヤマ│飼い猫 ── 黒いヴェジタリニャン
    J造試験所跡地公園にはスベリ台やジャングルジムなど子供のための遊具は一切設置されていない。入口にある花壇と周辺に植えられた桜の樹があるだけで、昔ながらの「原っぱ」が一面に拡がっている。今日は数人の子供たちが遊びに来ていた。2人の女の子が黒ネコと戯れている。鈴のついた首輪をしているので、少女の連れて来た飼いネコなのかもしれない。子供たちは遊びに興じ出して、少女もネコから離れて行く。解放された黒ネコは広い敷地を自由気儘に散策し始める。カメラを構えてネコの後を追う。淡いピンクの舌を出しているのは「ナメんなよ!」とガンを飛ばしているわけではなく、雑草を食べていたから。意外にもヴェジタリニャンの黒ネコなのだ。初対面なのに嫌がらずに撮らせてくれたのは人馴れしているからだと思う。コミュニケーションやスキンシップが足りなかったのか、網フェンスの隙間から公園の外へ出て行ったきり、呼んでも戻って来なかった。

    #384│ラブ│飼い猫 ── 可愛い三毛にゃん
    スコ(スコティッシュ・フォールド)ちゃんと同じ家で飼われている可愛い三毛ネコ。小柄なので、子ネコのように見えなくもない。人見知りする内気な性格なのか、呼びかけても近づいて来ないし、近寄ると逃げ去ってしまう。同じ飼いネコなのに人懐っこいスコちゃんとは対照的に臆病なのだ。それでも好奇心は旺盛らしく、スコの写真を撮っていると遠巻きから興味深そう見つめている。室内の窓からに外を窺っている時もあるし、キャットスルーから跳び出して来ることも、逆に逃げ帰ることもあった。斜向いの民家の横の植木鉢の奥に身を隠しているところを撮った。標準3倍ズームでは限界の距離。これ以上間合いを詰めると確実に逃げられてしまう。一体どうすればラブちゃんの警戒心を解いて、仲良くなれるのだろうか。もっと足繁く通わないとダメなのかしら?‥‥飼主に一度訊いてみたい。結果的にスコちゃんの写真ばかりが増えて行く。

    #385│レイ│飼い猫 ── 気ンなる茶トラ
    茶虎のレイちゃんは今日もパトロールに余念がない。テリトリー内に異常がないかどうか注意深く見張っている。毛繕いやゴロニャンしている時に躰を撫でようとすると咬みつかれることがある。暫く咬み痕は残るけれど、決して血は滲まないという絶妙な力加減。どれくらいの強さで咬めば良いのか本能的に心得ているらしい。ネコ同士の戯れ合いならば互いに爪を出して引っ掻いたり咬み合ったりするところだが、ヒトがネコに咬みついたら三面記事になってしまう。ポートレイトの基本は目にピントを合せること。真正面からのカメラ目線で撮るのが理想的である。ネコは2本指を出して微笑む人間のように撮影者の注文に応じないので難しい。ソッポを向いた時は目線の先の空間を広く撮る。右向きならば右方向を広く空ける。逆に右向きの被写体を右に寄せて左側を広く空けるとバンジャマン・ビオレーの「アルバム・カヴァ」のように緊張感のある写真になる。

    #386│シュー│ノラ猫? ── 見つめていたい
    A川図書館から帰る途中で1匹の灰色ネコに出逢った。N暮里辺りの比較的広い車道の前で所在なげにしている。商店街ではないので人通りは少ない。飼いネコなのか初対面なのに逃げ去る気配がない。屈んで手招きすると、手の届くか届かない距離まで近づいて来る。この時、ネコの躰に触れるかどうかで次の対応が大きく左右される。空振りすると、こちらから間合いを詰める必要がある。上手く触れればネコの方から擦り寄って来る可能性が高い。スキンシップを交わしてネコとの信頼関係を築けば、後はカメラを構えてシャッターチャンスを待つだけである。30分くらい粘っていると魅惑的なポーズで応えてくれることもある。初めて訪れた場所でのネコとの出会いは一期一会になることも少なくないので別れが辛い。後ろ髪を引かれる思いで立ち去らなければならない。

    #387│ロン│ノラ猫 ── 薮蚊との戦い
    長毛種のロンちゃんは中央図書館裏の遊歩道や鉄柵で囲われた向かいの敷地にいることが多い。遊歩道の横にある階段を上がるとマンションの駐車場を兼ねた中庭がある。左手奥がデッキのように張り出していて、遊歩道を見下ろせる。猫語で呼びかけるとロンは鉄柵を擦り抜けて足許に纏いつく。ビャービャーという特徴的な声で鳴いて挨拶する。階段を昇ると素速く追い抜いて行く。雑草を食んだり、毛繕いをしたり‥‥冷たくて居心地が良いのか、デッキの上で寛ぐ。絶好のシャッターチャンスが巡って来たわけだが、この周辺は上も下も蚊が異常発生している。ロンの躰は長い毛で覆われているので蚊に刺され難く、左右の耳をレーダーのように器用に動かして頭上の蚊を追い払う。吸血蚊に悩まされながら写真を撮っていると、デッキの隙間が仄暗く揺れていた。どうやらデッキの下が貯水槽になっているらしい。道理で蚊が多いはずである。夏のネコ歩きは薮蚊との戦いでもある。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第43集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ380匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第43集の常連ネコはレイとロンちゃん。第43集はガク、マヤ、シューなどニュー・フェイスが多い。初対面なのに逃げられることも嫌われることもなく撮れたのはラッキーです。『ちいさな手のひら事典 ねこ』(グラフィック社 2016)はネコの歴史や民間信仰、ことわざ、性質、行動、品種‥‥など78項目の見出しとアンティーク・クロモカードで構成された「ネコの小事典」。見開き左頁に解説文、右頁にカラー・イラストが掲載されている。引用文で紹介しているPow Wowの歌は〈Le Chat〉(Mercury 1992)、Nolwenn Leroyのアルバムは《Le Cheshire Cat & Moi》(2009)です。

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にリサイズしています
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    ちいさな手のひら事典 ねこ

    ちいさな手のひら事典 ねこ

    • 著者:ブリジット・ビュラール=コルドー(Brigitte Bulard-Cordeau)/ いぶき けい(訳)
    • 出版社:グラフィック社
    • 発売日:2016/05/16
    • メディア:単行本
    • 目次:千と一匹のねこ / 起源 / 種 / 家畜化 / エジプトの聖なるねこ / アジアの伝説 / ヨーロッパの伝説 / 中世のねこ / ねこと魔女 / 民間信仰 / ことわざ / お守りとしてのねこ / ねこと妖精 / ねこと女性と月 / 有名人のねこ / ねこ嫌い / 有名なねこ / 詩 / フランス文学 / 外国文学 / ねこと作家 / 童話 / 長靴をはいた猫 / 歌 / 童謡 / 絵画 / 彫刻 / 映画 / ねこ...


    Janat

    Janat

    • Type: Private Company
    • Founded: 1872
    • Founder: Janat Dores
    • Headquarters: Paris, France
    • Products: Tea, Chocolate, Honey, Biscuit, Jam


    Le Cheshire Cat Et Moi

    Le Cheshire Cat Et Moi(Edition Collector)

    • Artist: Nolwenn Leroy
    • Label: Mercury
    • Date: 2009/12/08
    • Media: Audio CD
    • Songs: Le Cheshire cat & moi / Faut-il, faut-il pas? / Mademoiselle de la gamelle / Feel Good / Cauchemar / Valse au sommet / Parfaitement insaisissable / You get me / Textile schizophrenie / Amis de jours de pluie / Safe & sound / Ici c'est moi qui commande / Aucune idée


    Palermo Hollywood

    Palermo Hollywood

    • Artist: Benjamin Biolay
    • Label: Barclay
    • Date: 2016/04/22
    • Media: Audio CD
    • Songs: Palermo Hollywood / Miss Miss / Borges Futbol Club / Palermo Queens / La débandade / Ressources humaines / Tendresse année zéro / Palermo Spleen / La Noche Ya No Existe / Palermo Soho / Pas sommeil / Pas d'ici / Yokoonomatopea / Ballade française

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