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鉛の飛行船 IV [m u s i c]



  • レッド・ツェッペリンのショーは音量と繰り返しとドラムに多くを依存している。そこにはモロッコで体験できるトランス・ミュージックとの類似性が見出せる。トランスの起源と目的は不可思議なものだ ── というのも、それは精神力の喚起と統制に関連しているからだ。モロッコでは、音楽家は同時に魔術師でもある。グナワの音楽は悪霊を退散するために使われている。ジャジュカの音楽は牧羊神、パニックをもたらす牧神を呼び起こすが、これはまがい物を一掃する魔法の力を象徴している。思い出しておくべきは、あらゆる芸術 ── 音楽、絵画、文学 ── の起源は神秘的かつ心を揺さぶるものだということだ。そして魔術は、常に何らかの明確な結果を得るために使われる。レッド・ツェッペリンのコンサートでは、その "結果" とは、パフォーマーと観客にエネルギーを生み出すことを目的としているように見える。そのような魔術がうまくいくためには、神秘のエネルギーの源をとんとんと叩かなければならないが、これは危険なことでもある。
    ウィリアム・S・バロウズ 「クロウダディ」


  • ◎ Presence(Swan Song 1976)Led Zeppelin
  • 1975年8月、ギリシャ・ロードス島で休暇中に起こした交通事故で大怪我を負ったRobert Plantが車椅子(アームチェア)でレコーディングしたという7thアルバム。座って歌っているためか、ヴォーカルに精彩を欠くし、溌溂としたところもないけれど、過度の装飾を払拭し、贅肉を削ぎ落したバンド・サウンドはストイックで硬質の強度を誇る。アルバム・アートワークの捩じれたオベリスクのように、紡錘形の黒い鉛の塊のように存在を際立たせる。高速でアキレスが天を翔る〈Achilles Last Stand〉。Jimmy Pageのトレモロ・アーム・ダウンと重くシンコペートするJohn Bonhamのドラムスが絡み合う〈For Your Life〉。前に突んのめりそうなロカビリー調のロックンロール〈Candy Store Rock〉。感傷的なギターと内省的なヴォーカルが甘苦く混じり合う‥‥アルバムのラストを飾るスロー・ブルーズの〈Tea For One〉は泣ける。オープンニグとエンディングに好対照の長尺曲を配置する全7曲の構成も揺るぎない。

    2枚組のデラックス・エディションに付属している「コンパニオン・オーディオ」は全5曲(31分)とリマスター・アルバム中で最も少ない。オリジナル曲の「参照ためのミックス」(Reference Mix)4曲と未発表曲1曲のみ。僅か18日間でレコーディングとリミックス作業を終えたために元々アウトテイクの曲も少なかったのかもしれないが、全然物足らない。〈Two Ones Are Won〉(Achilles Last Stand) はインスト・ヴァージョンで、音質も平坦だ。唯一の未発表曲〈10 Ribs & All/Carrot Pod Pod (Pod)〉もピアノ中心のインストで、〈Royal Orleans〉に至ってはRobert Plant以外の誰かが歌っているのではないかという。しかもデラックス・エディションの裏カヴァは表の反転ソラリゼーション仕様なので、オリジナル・アートワーク(小学生の少年少女と女性教師)が削除されているのだ。熱心なZepファンやマニアでない限り、スタンダード・エディションで充分のような気がする。

                        *

  • ◎ In Through The Out Door(Swan Song 1979)
  • 1977年4月、全米ツアー中に起こったRobert Plantの愛児カラック(5歳)のウィルス感染による急死、Jimmy Pageのドラッグ依存症、John Bonhamのアル中‥‥という危機的な状況下で制作された8thアルバムはJohn Paul Jonesが主導することになった。全7曲中6曲にJonesの名前がクレジットされている。「出口用のドアから入る」という逆説的なアルバム・タイトル通り、サンバやカントリーにまで拡げた風通しの良い音楽性は多孔質の鉛の飛行船を想わせる。オリジナル・アナログ盤は茶色の紙袋の中に6種類の異なるアルバム・カヴァが入っていた。バーのカウンターに座る白いスーツの男を店内の6人の視線で捉えたセピア色の写真(表カヴァがメモを燃やす前、裏面は燃やした後)で、同じようにレコード内袋の表裏にはカウンターのモノクロ・イラストが描かれていた(水で濡らすと発色する特殊なインク印刷)。茶色の紙袋に入ったリマスター盤のデザインは1種類、ブックレットのイラストは水で濡らしても恐らくカラフルな色は着かないでしょう。

    「コンパニオン・オーディオ」にはオリジナル・アルバム全7曲と同じ曲目・曲順の「作業中のラフ・ミックス」(Rough Mixes Of Work In Progress)が収録されている。中近東風のエキゾチックなイントロから始まる〈In The Evening〉、Jonesのホンキー・トンク・ピアノが際立つサザン・ロック〈Southbound Piano (South Bound Saurez)〉、陽気で底抜けに明るいサンバ・カーニヴァルを思い起こさせる〈Fool In The Rain〉、軽佻軽薄なカントリー&ウェスタン調の〈Hot Dog〉、3つのパートから構成されているテクノ・ポップ風の〈The Epic (Carouselambra)〉、急逝した愛息のカラックに捧げた〈The Hook (All My Love)〉、R&B調のスロー・バラード〈I'm Gonna Crawl〉‥‥ラフ・ミックスに驚くような発見は少ない。総じてZepらしくないアルバムだが、個人的にはソフト・ロック路線の〈All My Love〉が入っているだけで捨て難い。

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  • ◎ Coda(Swan Song 1982)
  • John Bonhamの急死〜バンドの解散発表後にリリースされた9thアルバムはオリジナル・アルバムとは言い難い。アウトテイクや未発表曲、ライヴ音源などを寄せ集めた地味なアートワークの「ラスト・アルバム」には1980年9月25日に急死したJohn Bonhamへの追悼という意味合いもあるのだろう。〈We're Gonna Groove〉と〈I Can't Quit You Baby〉は1970年1月9日、ロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ・レコーディングだが、観客の歓声は消されている。前者はPageがギターをオーヴァダブ。後者はデビュー・アルバムに収録されていたOtis Rushのカヴァ。変則チューニングの〈Poor Tom〉は《Led Zeppelin III》、ハード・ロックの〈Walter's Walk〉は《Houses Of The Holy》のアウトテイク。〈Ozone Baby〉〈Darlene〉〈Wearing And Tearing〉も《In Through The Out Door》のアウトテイク。〈Bonzo's Montreux〉はタイトル通りスイス・モントレーのスタジオで録音したJohnのドラム・ソロをPageが1曲に仕立てたインストである。

    「コンパニオン・オーディオ」はアウトテイク、ラフ・ミックス、ライヴなど、全15曲を収録した2CD仕様(約64分)になっている。解散後の「未発表曲集」にアウトテイクやラフ・ミックス、ライヴ音源などを追加するという屋上屋を重ねるような編集方針には疑問の余地がある。Disc 2には〈We're Gonna Groove〉の異ミックス、〈Bonzo's Montreux〉の作業中ミックス、〈Poor Tom〉のインスト・ミックス、〈If It Keeps On Raining (When The Levee Breaks)〉のラフ・ミックス。スロー・ソウル・バラードの〈Baby Come On Home〉とブルーズ・ナンバーの〈Sugar Mama〉はデビュー・アルバムのアウトテイク。〈Travelling Riverside Blues〉は1969年6月23日に録音したBBCセッション。シングル盤〈Immigrant Song〉のB面曲〈Hey, Hey, What Can I Do〉はアトランティック・レーベルのサンプラー・アルバム《Hot Menu '73》(2枚組・全28曲)に初収録された。

    Disc 3には《III》のアウトテイクだったインスト曲〈St. Tristan's Sword〉、〈Desire (The Wanton Song) 〉〈Bring It On Home〉〈Walter's Walk〉〈Everybody Makes It Through (In The Light)〉のラフ・ミックスが収録されているが、注目すべきは1972年10月19日にインド・ボンベイの現地ミュージシャン(Bombay Orchestra)と共演した2曲であろう。インストルメンタルの〈Four Hands (Four Sticks)〉、Pageの変則チューニング・ギターとPlantの妖しげなヴォーカルの〈Friends〉‥‥シタールやタブラ、ストリングスなどと融合した摩訶不思議な中近東サウンドは刺戟的で面白い。アウトテイクやラフ・ミックスはオリジナル曲が収録された各アルバムの「コンパニオン・オーディオ」に振り分ければ、敢えて2CDにすることはなかったのではないか。「最終楽章」で大盤振る舞いの蔵出しをするくらいならば、オリジナル・アルバム8枚の「コンパニオン・オーディオ」を充実させて欲しかった。

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    • 国内盤より千円近く安い輸入盤CD(Swan Song 2015)がお買い得にゃん^^

    • 「デラックス・エディション」のアルバム・カヴァは反転した裏面の画像です
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    Presence

    Presence(DELUXE EDITION 2CD)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2015/07/31
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Achilles Last Stand / For Your Life / Royal Orleans / Nobody's Fault But Mine / Candy Store Rock / Hots On For Nowhere / Tea For One / Two Ones Are Won (Achilles Last Stand) / For Your Life / 10 Ribs & All/Carrot Pod Pod (Pod) / Royal Orleans / Hots On For Nowhere


    In Through The Out Door

    In Through The Out Door(DELUXE EDITION 2CD)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2015/07/31
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: In The Evening / South Bound Saurez / Fool In The Rain / Hot Dog / Carouselambra / All My Love / I'm Gonna Crawl / In The Evening / Southbound Piano (South Bound Saurez) / Fool In The Rain / Hot Dog / The Epic (Carouselambra) / The Hook (All My Love) / Blot (I'm Gon...


    Coda

    Coda(DELUXE EDITION 3CD)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2015/07/31
    • Media: Audio CD(3CD)
    • Songs: We're Gonna Groove / Poor Tom / I Can't Quit You Baby / Walter's Walk / Ozone Baby / Darlene / Bonzo's Montreux / Wearing And Tearing / We're Gonna Groove / If It Keeps On Raining / Bonzo's Montreux / Baby Come On Home / Sugar Mama / Poor Tom / Travelli...ng Riverside Blues / Hey, Hey, What Can I Do / Four Hands (Four Sticks) / Friends / St. Tristan's Sword / Desire (The Wanton Song) / Bring It On Home (Rough Mix) / Walter's Walk / Everybody Makes It Through (In The Light)


    ZEP ON ZEP(レッド・ツェッペリン インタヴューズ)

    ZEP ON ZEP(レッド・ツェッペリン インタヴューズ)

    • 著者:ハンク・ボードウィッツ(Hank Bordowitz)/ 五十嵐 哲(訳)
    • 出版社:シンコーミュージック
    • 発売日:2015/07/15
    • メディア:単行本
    • 目次:謝辞 / 序文 / プレリュード:未来のロック・スター、生物学の道を検討中 / 胸いっぱいの愛を / レヴィー・ブレイクス / ランブル・オン / 寄稿者 / クレジット / ディスコグラフィー / 索引


    レコード・コレクターズ 2015年 9月号

    レコード・コレクターズ 2015年 9月号

    • 特集:山下達郎が語る1975年のナイアガラ / レッド・ツェッペリン
    • 出版社:ミュージック・マガジン
    • 発売日:2015/08/12
    • メディア:雑誌
    • 目次:山下達郎が語る1975年のナイアガラ / レッド・ツェッペリン リマスタリング・シリーズ最終章 / ポール・マッカートニー アムステルダム公演での考察 / ロジャー・ウォーターズ / ロビン・ギブ / 井上陽水『UNITED COVER 2』川原伸司 インタヴュー / 中井戸麗市 / 夜の番外地 ディスコ歌謡 / ブラウンズウィック/ダガー・ソウル・ストリーム

    タグ:Music Zep Remaster
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