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キャリーとローウェル(2 0 1 5) [r e w i n d]



  • ◎ NO CITIES TO LOVE*(Sub Pop)Sleater-Kinney
  • 1994年、米ワシントン・オリンピアで結成された女性トリオ Sleater-Kinneyは12年間で7枚のアルバムをリリースした。2006年に活動停止したが、2014年に再結成して、翌年1月に10年振りの8thアルバムを発表した。Corin Tucker、Carrie Brownstein(ヴォーカル、ギター)、Janet Weiss(ドラムス)という3ピース・バンドで、JSBXやThe Exと同じようにベースレスなのが彼女たちのスタイル。2人のヴォーカルと2本のギターが絡み合うサウンドはスリリングで厚みがある。ギターの下降ラインに痺れる〈Surface Envy〉、人気アニメの「ボブズ・バーガーズ」(Bob's Burgers)と共演したPVが愉しい〈A New Wave〉、ハード・ディスコ調の〈Bury Our Friends〉‥‥。ライオット・ガルーの咆哮は若い娘から齢を重ねてオバさんになっても衰えず、丸くなるどころか逆に凄みを増した。アルバム・カヴァの「萎れた花束」はアルチンボルド風女性の横顔のように見えなくもない。

  • ◎ VIET CONG(Jagjaguwar)Viet Cong
  • Viet Congはカナダ・カルガリーで結成されたポスト・パンク・バンド。悪趣味なバンド名は泥沼化したヴェトナム戦争を否が応でも思い出させる。Matt Flegel(ヴォーカル、ベース)、Mike Wallace (ドラムス)、Scott "Monty" Munro(ギター、シンセ)、Daniel Christiansen(ギター)という4人組で、トライバルなドラムスや耳障りなギター、自己嫌悪と自己陶酔の入り混じったヴォーカルなどがニュー・ウェイヴの記憶をフラッシュバックさせる。モントリオール出身のOughtがTelevisionならば、Viet Congはエコバニ(Echo & The Bunnymen)なのかもしれない。デビュー・アルバムの曲数が全7曲と少ないのはポスト・パンクにしては演奏時間が長いからで、ラストの〈Death〉に至っては11分に及ぶ。それだけに曲構成も複雑で、「迷宮的ポスト・パンク」(labyrinthine post-punk)と評するレヴューもある。「ヴェト・コン」という名称を変更するかどうかで揺れているらしいが、これ以上にインパクトのある名前を付けるのは難しいでしょう。

  • ◎ UN VASO DE AGUA(Eden Srl)Candelaria Zamar
  • 藍色や緑色の絵具を溶かしたような白い空間に映るラファエル前派風女性の横顔ポートレイト‥‥Candelaria Zamarはアルゼンチン・コルドバ出身の女性SSW。デビュー・アルバム「水のグラス」は24秒の〈Intro〉を含めた全9曲、26分という短さだが、清冽な透明感に溢れている。彼女の弾くピアノ、ローズ・ピアノ、シンセ、ウーリッツアに不穏なサンプリング(ノイズ)やエフェクト、口笛、ウクレレ、多重録音されたコーラスやスキャットなどを加えた音数の少ないサウンドはシンプルなゆえに音の1つ1つが際立つ。彼女のヴォイスも飾り気がなく、ストレートで麗しい。「一服の清涼剤」という陳腐な常套句を色褪せさせる小宇宙が煌めいている。ラストの〈Aeiou〉が母音だけで歌われるという意外性も微笑ましい(渋谷「EL SUR RECORDS」の閉店・移転セール(ALL20%OFF)で入手しました)。

  • ◎ SORGA(Buda Musique)Dupain
  • Dupainは南仏オクシタニアのミクスチャー系フォーク・ロック・バンド。10年振りの4thアルバムは、Sam Karpienia(ヴォーカル、マンドール)、Pierre-Laurent Bertolino(ヴィエル・ア・ルー)、Gurvant Le Gac(フルート)、Emmanuel Reymond (コントラバス)、François Rossi(ドラムス)という新編成の5人で録音。マンドール(Mandole)、ハーディ・ガーディ(Vielle à roue)、フルート、ドラムスが一丸となって疾走する切れ味鋭いサウンドはパンキッシュでプログレッシヴ。5拍子の〈Au Còr De Mon Silensi〉、6拍子の〈Cada Vouta〉。〈Beveire D'Aucèus〉の咆哮は何度聴いても目頭が熱くなる。アルバム・タイトルの「Sorga」はオック語で「水源」(Source)という意味。アルバム・カヴァには2つの水瓶から水を流す女神が描かれている。全12曲はオック語で歌われていて、歌詞ブックレット(36頁)には仏語と英訳詞が併記されている(公式リリースは3月だったが、「猫の日」に「El Sur Records」でフラゲにゃん。帰宅してネットにアクセスすると、カストール爺さんの「ソルガ男の生きる道」がアップされていた)。

  • ◎ VULNICURA*(One Little Indian)Bjork
  • ネット(iTunes)では2015年1月20日に先行配信されていたBjorkの9thアルバム。CDはブリッジをして胸の赤い裂け目を見せているグロテスクな青銅像のような「限定盤」と黒いコスチューム姿のBjorkが後光のようなケープ(headpiece)を纏っている「通常盤」(限定盤のカヴァは歌詞ブックレットの表紙になっている)の2種が同時リリースされている。アルバム・カヴァやスリーヴなどパッケージ・デザインの違いだけで、収録されている9曲に異同はない。オープニングの〈Stonemilker〉はデビュー・アルバムに収録されていても違和感がないけれど、ハートブレイクした心象風景を黒い湖面に映す〈Black Lake〉、Antonyとデェエットした5拍子の〈Atom Dance〉など、次第に傷ついた心を鎮める内省的な世界へ降りて行く。興味を惹くのは「ヴァルニキュラ」(Vulnicura)というタイトルと彼女の胸の亀裂がヴァギナ(vagina)を想わせること。破局した元夫マシュー・バーニー(Matthew Barney)風の性的コスプレ・アートになっているところも逆説的で面白い。

  • ◎ SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES ...*(Milk!)Courtney Barnett
  • 白地に青と緑のチェック柄の絨毯と肘掛け椅子が描かれた安西水丸風のカヴァ。「時には椅子に座って考えたり、座っているだけだったり」という長いタイトル‥‥豪タスマニア生まれの女性SSW、Courtney Barnettのデビュー・アルバムは少女っぽい意匠だが音楽は筋金入り。フェンダー・ジャガーを左指で弾く。2ギター、ベース、ドラムスというオーソドックスな編成(ライヴではトリオ)で、ライオット・ガルーなインディ・ロックやNirvana風のグランジを演奏する。〈Elevator Operator〉〈Dead Fox〉 など、ポップな曲の中にあって、〈Kim's Caravan〉の気怠いヴォイスとノイズ・ギターは強烈な印象を残す。Kim Gordonへのオマージュなのかどうか半信半疑だったが、2015年5月に豪メルボルンで行なわれたライヴ・パフォーマンス映像を視て嬉しくなった。彼女がSonic YouthのTシャツ(レイモンド・ペティボンが描いた有名なアルバム・カヴァ)を着ているではないか!

  • ◎ CARRIE & LOWELL*(Asthmatic Kitty)Sufjan Stevens
  • Sufjan Stevensの7thアルバムはドラムレスのフォーク・ソング集。アクースティック・ギターやバンジョー、ピアノ、キーボードなどの弾き語りによるギミックのないシンプルな伴奏で、母親の死(2012)に触発された少年時代の記憶や継父への思いが歌われる。母キャリー(Carrie)はSufjanが1歳の時に家を出た。父親は再婚してミシガンへ移住する。継父ローウェル(Lowell)はキャリーの再婚相手である。熱心なレコード・コレクターだった継父はSufjanに色々な音楽を聴かせたという。オレゴンはSufjan少年(5〜8歳)がキャリー&ローウェルと3度の夏を過ごした思い出の場所だった。《The Age Of Adz》(2010)のようなサウンド面の目新しさはないけれど、繰り返し聴いているうちにジワジワと胸に沁みて来る。「We're all gonna die」とリフレインされる〈Fourth Of July〉は優しく柔らかなヴォイスとは裏腹に重く切なく響く(U2の「アメリカ独立記念日」も薄気味悪かった)。3拍子の〈John My Beloved〉も美しい。

  • ◎ PLATFORM*(4AD)Holly Herndon
  • Julia Holter、Laurel Halo、Jenny Hvalなど、Bjorkが切り拓いた前人未踏の荒野を女性たちが探検に出かける。米テネシー生まれの作曲家、ミュージシャン、音楽アーティストのHolly Herndon(灰色の瞳と赤毛の三つ編みヘアがトレードマーク)も女性探検隊の1人である。2ndアルバムのエレクトロ〜エクスペリメンタル系のサウンドには気味悪さと心地良さが奇妙に混在している。耳触りが良くて、脳内もゾワゾワしちゃう? 谷口暁彦(Akihiko Taniguchi)のPVで注目された〈Chorus〉、悪名高いNSA(アメリカ国家安全保障局)のことを歌った〈Home〉、未知の惑星を探査する〈Morning Sun〉、彼女が親しげに語りかける〈Lonely At The Top〉は 「世界の上位1パーセントの富裕層に向けて書かれたクリテ ィカル・ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)(ele-king)だという。ちなみにThe Wireの年間ベスト・アルバム「2015 Rewind」の6位に選ばれています。

  • ◎ SIMPLE SONGS*(Drag City)Jim O'Rourke
  • Sonic Youthから離脱したJim O'Rourkeは2006年、活動の拠点をNYから東京(新宿界隈)へ移した。《Insignificance》(2001)以来、実に13年半振りの歌入り(SSW)アルバムである。石橋英子(ピアノ、オルガン)、須藤俊明(ベース)、山本達久(ドラムス)、波多野敦子(ストリングス)という日本人のバンドで完璧な欧米ロックを創出する。親日派の外国人が陥るジャパネスクや変な東洋趣味は微塵もない。6拍子で始まり、7拍子〜6拍子となる〈That Weekend〉、ギター〜ピアノ弾き語りの〈Hotel Blue〉、生ギター弾き語りフォークの〈These Hands〉、変拍プログレ風の〈Last Year〉、ピアノ弾き語りバラードの〈End Of The Road〉‥‥繊細なヴォーカルはサウンドの中に溶け込み、「シンプル・ソングス」というアルバム・タイトルに反して楽曲は丹念に作り込まれている。アルバム・カヴァが友沢ミミヨ画伯の「キモかわ」イラストでなかったのは残念ですが‥‥。

  • ◎ HAVE YOU IN MY WILDERNESS*(Domino)Julia Holter
  • 彼女に一体何が起こったのか?‥‥Julia Holterの4thアルバムは驚くほどポップで親しみやすい。《Ekstasis》(Rvng 2012)《Loud City Song》(Domino 2013)に引き続き、Cole Marsden Greif Neill(Ariel Pink、Nite Jewelの夫)との共同プロデュース。彼女のキーボードにベース、パーカッション、サックス、クラリネット、ヴァイオリン、チェロという編成はポスト・クラシカル風だが、ロックでもジャズでもクラシックでもない新しい音楽(アヴァンポップ)を切り拓く。拍子抜けするほどポップな〈Feel You〉、暗鬱で気怠い雰囲気を醸し出す〈How Long?〉、コレットの短篇「ホテルの部屋」の登場人物を題材にしたという〈Lucette Stranded On The Island〉、「私は泳げないのよ」と告白する〈Sea Calls Me Home〉、意表を衝くロカビリー調の〈Everytime Boots〉、メキシコの山賊チブルシオ・ヴァスケス(Tiburcio Vásquez)のことを歌った〈Vasquez〉‥‥浮世離れしたヴォイスは妖精のように可愛らしくドリーミーでリスナーを彼女の桃源郷へ誘う。

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    今年(2015)の年間ベスト・アルバムは前半で大方決まってしまった。そのまま上半期の〈BEST ALBUMS 2015(So Far)〉を挙げても差し支えない。しかもKendrick Lamar、Dupain、Chassol、Bjork、Courtney Barnett、Jlin、Sufjan Stevensなど、3月に注目作が相次いでリリースされた。この1カ月間だけで「ベスト10」が選べるのではないかと思うほど。選外は上記の3枚(Kendrick Lamar、Chassol、Jlin)に加えて、Rafael Dutra、Panda Bear、Jose Gonzalez、Jessica Pratt、Luciole、Natalia Lafourcade、Speedy Ortiz、Waxahatchee、Lucio Mantel、Jenny Hval、Wolf Alice、Jamie xx、Colleen、Tame Impala、Wilco、Ought、Metz、Beach House、U.S. Girls、Joanna Newsom、Arca、Lou Doillon‥‥まだ聴き切れてないアルバムも多数残っている。2015年は「喪失」の年だった。夫(マシュー・バーニー)との破局や母親(キャリー)の死をテーマにした2枚は胸の奥に沁み入る。個人的な辛い体験を作品に昇華出来るのは羨ましくもあるけれど。

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    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • Holly Herndonのレヴューは〈スニーズ・ラブ 7〉からの転載(一部改稿・加筆)

    • SYNC4 「interview Sufjan Stevens」を参照しました

    • 輸入盤のリリース順(国内・流通盤が出ているアルバムには *マークを付けました)
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    Carrie & Lowell

    Carrie & Lowell

    • Artist: Sufjan Stevens
    • Label: Asthmatic Kitty
    • Date: 2015/03/31
    • Media: Audio CD
    • Songs: Death With Dignity / Should Have Known Better / All Of Me Wants All Of You / Drawn To The Blood / Eugene / Fourth Of July / The Only Thing / Carrie & Lowell / John My Beloved / No Shade In The Shadow Of The Cross / Blue Bucket Of Gold


    No Cities to LoveViet CongSorga

    Un Vaso De AguaVulnicuraSometimes I Sit & Think & Sometimes I Just Sit

    PlatformSimple SongsHave You In My Wilderness

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    コメント 3

    sknys

    warszawa The Best Albums Of 2015
    1. Have You In My Wilderness - Julia Holter
    2. Carrie & Lowell - Sufjan Stevens
    3. Mutilator Defeated At Last - Thee Oh Sees
    4. Chunks - White Fang
    5. Half Free - U.S. Girls
    6. Apocalypse, Girl - Jenny Hval
    7. Sometimes I Sit And Think, And Sometimes ... - Courtney Barnett
    8. b’lieve i’m goin down - Kurt Vile
    9. Goes Missing - The Cairo Gang
    10. Picture You - The Amazing
    http://wrszw.net/the-50-best-albums-of-2015/4/
    by sknys (2016-01-11 01:00) 

    sknys

    Kitty Empire: the best rock and pop of 2015
    1. To Pimp A Butterfly - Kendrick Lamar
    2. Divers - Joanna Newsom
    3. Sometimes I Sit and Think, and Sometimes... - Courtney Barnett
    4. Carrie & Lowell - Sufjan Stevens
    5. Sound & Color - Alabama Shakes
    6. I Love You, Honeybear - Father John Misty
    7. Ones and Sixes - Low
    8. From Kinshasa - Mbongwana Star
    9. Natalie Prass - Natalie Prass
    10. Currents - Tame Impala
    http://www.theguardian.com/music/2015/dec/13/kitty-empire-best-rock-pop-2015-adele-kendrick-lamar-joanna-newsom
    by sknys (2016-01-11 01:22) 

    sknys

    ele-king 2015 Best Albums
    1. To Pimp A Butterfly - Kendrick Lamar
    2. In Colour - Jamie xx
    3. GhostTapes - El Mahdy Jr.
    4. White Men Are Black Men Too - Young Farthers
    5. Black Messiah - D'Angelo And the Vangauard
    6. Sometimes I Sit and Think, and Sometimes ... - Courtney Barnett
    7. Fading Frontier - Deerhunter
    8. Levon Vincent - Levon Vincent
    9. Garden Of Dlete - Oneohtrix Point Never
    10.Simple Songs - Jim O'Rourke
    http://www.ele-king.net/books/004863/
    by sknys (2016-05-05 20:30) 

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