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スニーズ・シンクス 2 0 1 5 [b l o g]



  • 取締役は服をぬぎ、シャワーを浴び、背広を外の物干にかけて乾かそうとした。すると妙なことに気がついた。背広のポケットに入れておいた例の手紙の何通かの切手の色が落ちて、ほとんど白くなっているのだ。ガソリンで印刷インクが溶けてしまったにちがいないと思った。何の気なしに1枚の切手をはがしたところ、とつぜん消音器つき郵便喇叭の形が見えた。喇叭の透かしを通して自分の掌の肌がはっきり出ているのだ。「何かの符号だ」と彼はささやいた ──「符号としか言いようがない」。宗教的な人間だったらひざまずいたところだ。彼の場合は、大まじめに、こう宣言しただけだった ──「ぼくの大きな過ちは愛というものだった。きょうこの日からぼくは愛に近づかないことを誓う ── 異性愛、同性愛、両性愛、愛犬、愛猫、愛車、あらゆる種類の愛に近づかない。孤立する者の協会を設立してこの目的に奉仕する。そしてこの印、ぼくの命を奪うところだったガソリンの力で示現した印を協会の記章としよう」。そして彼はそれを実行した。
    トマス・ピンチョン 「競売ナンバー49の叫び」


  • 10年目のスニンクス(sknynx)は63本の記事をアップした(2014.12~2015.11)。回文シリーズは新年恒例の「回文かるた」を含めて5本。ネコ・ログは4本。音楽記事は年間ベスト、タワレコ・クリアランス、ファブ・フォーやゼップのリマスター・アルバムなど計12本。石ノ森シリーズは「イナズマン」や「仮面ライダー」など4本。アート記事はマグリットとネコ写真展「世界ネコ歩き」「ふるさとのねこ」。猫ゆりシリーズは〈猫のマジー〉(猫盤)、〈猫のミツ〉(猫本)の2本をアップ。10年越しの懸案だった〈スーパースターの悲劇〉が書けたのは感慨深い。ブログ記事などを書いているノートブック(MacBook Pro)を「Time Machine」でバックアップした〈タイムマシンにお願い〉もデータ保護という面では大きかった。ストレージを丸ごと、1時間ごとに差異分をバックアップしているので、いつトラブルに見舞われても元の環境に復元することが出来るようになったのだ。

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    回文シリーズは〈デビュー、指で〉〈ヒツジも失費〉(回文かるた)〈理屈屋しゃっくり〉〈糞・泥・土足〉〈イカ部オフ会〉の5本をアップ。〈パリンドル 4〉〈パリンド・キャット 3〉の2本はテーマ別(なぞなぞ、ネコ)に編集した回文選集。「パリンデックス」のレイティング(5段階評価)で5つ星を獲得したのは〈筏、雷鳴り、波が高い〉〈世界ハヤブサ、杉降らし。ゴジラ吹き荒ぶヤバい旋風〉〈熱気球追う雪キツネ〉〈絵馬、消え薮?‥‥深夜に走るジバニャン、渋谷駅前〉〈痛み庇い走る猿芝居、バカみたい〉〈魔窟、ラリッた力石徹落とし、いきり立つリラックマ〉〈怒って四苦八苦、イライラ幾つ白紙撤回?〉〈朽木、津軽、箱根、能登去る冬、「ふるさとのねこ」春、活気づく〉の8回文。そこはかとなくマンネリ感が漂っているような気もするけれど、意外と動物キャラ回文が多かった。『アニマルマニア』(講談社 2003)という回文集があったように、動物と回文は相性が良いのかもしれません。

    街で出会う外ネコの数が減っているように感じられる。その原因の1つは耳先カットの効果が表われていること。去勢・不妊手術を施したネコからは新たな生命は産まれないので、ノラや地域ネコの個体数は減少して行く。もう1つはニュースでも報じられている小動物(猫や兎など)の虐殺事件の影響がある。飼主が心配して、今まで自由に出入りしていたネコを外へ出さずに屋内で飼うようになったことは容易に想像出来る。外ネコたちにもネコ撮り人にも厳しい時勢になってしまったが、長毛種のロンや黒ネコのソラン、茶トラのレイちゃんなど‥‥姿は見えなくても、猫語で話せば駆け寄ってくる常連ネコも少なからずいる。今年出遭った三毛スコ(三毛のスコティッシュ・フォールド)は天然系ではないかと想われるくらい人懐っこくて可愛い。「ネコ・ログ」は各記事のトップを飾るネコ写真9枚をサムネイル化してアルバム風に並べた記事。〈ネコ・ログ #36〉〈ネコ・ログ #37〉〈ネコ・ログ #38〉〈ネコ・ログ #39〉の4本で延べ36匹のネコたちのプロフィールを紹介した。

    石森章太郎の「そして‥‥だれもいなくなった」(1967)はギャグ、ストーリ・マンガ、ドキュメント風の劇画などタイプの異なる5つの物語が同時進行する当時としては劃期的な作品だった。「ワイルドキャット」(1968-69)は青年誌に連載されたセクシー路線のスパイ活劇。「009ノ1」と良く似た世界観だが、ヒロインの山猫ネネはサイボーグではなく超能力者である。「仮面ライダー」(1971)は作画的に最も美しい時代の変身ヒーローもので、大胆で洗練されたコマ割り、スタイリッシュでカッコ良い仮面ライダーズやショッカーの怪人(改造人間)たちのアクションを堪能出来る。「イナズマン」(1973-74)は「幻魔大戦」と変身ヒーローを合体させたもの。作者が物語の主人公を2つのタイプ、サイボーグ(島村ジョー、ミレーヌ・ホフマン、本郷猛&一文字隼人)とエスパー(ミュータント・サブ、山猫ネネ、風田三郎)を使い分けていることは興味深い。

    実に13年振りの「マグリット展」(国立新美術館)である。〈マグリットじゃない!〉でジョルジュ・ロックの『マグリットと広告 ── これはマグリットではない』(リブロポート 1991)をサブ・テキストに使ったので、〈マグリットかもしれない?〉では『マグリット事典』(創元社 2015)や『マグリット 光と闇に隠された素顔』(マール社 2012)を読んでみた。林檎や花束など偏愛的なオブジェで顔を隠したマグリットの実像に少し迫れたような気がする。石森章太郎も「ジュン」(1967-69)の中でルネ・マグリットへのオマージュを愉しそうに描いていた。〈ネコと歩けば 2〉〈猫のコトラさん〉は岩合光昭写真展の記事。「世界ネコ歩き」(日本橋三越本店)ではミラーレス一眼で撮ったネコ写真が大きく引き伸ばしても鮮明なことに驚いた。「ふるさとのねこ」(渋谷ヒカリエ)は東北の四季の移ろいと子ネコたちの成長が調和していて美しい。

    病院の待合室で読む本は分厚いミステリに限る。エアコンの効きすぎた院内でエラリイ・クイーンの『九尾の猫』(ハヤカワ文庫 2015)や『災厄の町』(ハヤカワ文庫 2014)を読んだ。前者の「猫」は連続絞殺魔のニックネームで、尻尾の本数が犠牲者の人数を暗示している。文字通りの「ネコ本」ではないけれど、邦題(原題は「Cat Of Many Tailes」)には惹かれるものがある。後者は名作の誉れ高いミステリ。アメリカの都市(NYマンハッタンとライツヴィル)を震撼させた殺人事件、意外な真犯人など‥‥2作品には共通点がある。トマス・ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』(サンリオ文庫 1985)は中篇なのに読み応えがあった。長くて難解と言われるピンチョン入門書には最適かもしれない。レメディオス・ヴァロの〈大地のマントを織り紡ぐ〉が表紙カヴァの本書は絶版ですが、短編「殺すも生かすもウィーンでは」を併録した増補改訂版『競売ナンバー49の叫び』(ちくま文庫 2010) が出ています。

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      NME's Top 10 Albums of 2015
    • Art Angels - Grimes
    • To Pimp A Butterfly - Kendrick Lamar
    • In Colour - Jamie xx
    • My Love Is Cool - Wolf Alice
    • Currents - Tame Impala
    • Every Open Eye - CHVRCHES
    • Honeymoon - Lana Del Rey
    • What Went Down - Foals
    • Marks To Prove It - The Maccabees
    • Multi-Love - Unknown Mortal Orchestra


      MOJO's Top 10 Albums Of 2015
    • Have You In My Wilderness - Julia Holter
    • To Pimp A Butterfly - Kendrick Lamar
    • Music Complete - New Order
    • Currents - Tame Impala
    • Simple Songs - Jim O'Rourke
    • West Kirby County Primary - Bill Ryder-Jones
    • Music In Exile - Songhoy Blues
    • From Kinshasa - Mbongwana Star
    • Key Markets - Sleaford Mods
    • Carrie & Lowell - Sufjan Stevens


      The Wire's Best Releases Of 2015
    • Dark Energy - Jlin
    • Coin Coin Chapter Three: River Run Thee - Matana Roberts
    • Magnetoception - Joshua Abrams
    • Have You In My Wilderness - Julia Holter
    • I Abused Animal - Heather Leigh
    • Platform - Holly Herndon
    • Simple Songs - Jim O'Rourke
    • The Epic - Kamasi Washington
    • To Pimp A Butterfly - Kendrick Lamar
    • Vertigo - The Necks


      Pitchfork's 10 Best Albums Of 2015
    • To Pimp A Butterfly - Kendrick Lamar
    • In Colour - Jamie xx
    • Art Angels - Grimes
    • Summertime '06 - Vince Staples
    • Currents - Tame Impala
    • Carrie & Lowell - Sufjan Stevens
    • Black Messiah - D'Angelo
    • Wildheart - Miguel
    • Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit - Courtney Barnett
    • The Epic - Kamasi Washington

    毎年11月下旬から順次発表される年間ベスト・アルバム。英米音楽誌や新聞紙、レコード・ショップ、ウェブ・サイトなど様々なメディアが「Best Albums」を選出している。発表されるアルバムの数はベスト10から100まで色々あるが(ベスト50が多い)、順位をつけない方針のところもある。最速なのは「Rough Trade」、保守的な「Rolling Stone」、辛口レヴューの「Pitchfork」、アヴァギャン志向の「The Wire」‥‥など、各メディアが独自色を出そうとしている(みんな同じリストでは意味がない)。それでも年間ベストの上位が毎年、数枚のアルバムに集中してしまうのは面白い。「Rewind 2015」は上半期のベスト10〈BEST ALBUMS 2015(So Far)〉を挙げたので、余り迷うことはないと楽観している。「年間ベスト・アルバム」の愉しみは同じ嗜好のメディアやレヴュワー(評者)を見つけて欣喜雀躍することだけでなく、聴き逃した(買い逃した?)未知のアルバムを探しに師走の街へ出かけることにある。

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    s k n y s - s y n k s

    s k n y s - s y n k s

    • Author: sknys
    • Articles: 608
    • Date: 2014/12/11
    • Page View: 2,334,001
    • Media: Internet

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    コメント 2

    ぶーけ

    知らない間にミレーヌ姫の新作が。。
    慌てて注文しましたが、なかなかきません。
    クリスマスシーズンできっと混んでるんですね。

    ぞっちゃの日常、というマンガ、ご存じですか?
    飼い猫のぞっちゃくんのお話し。かわいいです。
    by ぶーけ (2015-12-15 15:16) 

    sknys

    毎年年末になるとリリースされるミレーヌ姫の新作。
    今年は少し早かったのかしら?

    Vanessa Paradisの「Edition Noel」(2CD+DVD)を某ディスクユニオンで入手(2年落ちの未開封新品!)。
    http://www.amazon.co.jp/Love-Songs--Noel-Vanessa-Paradis/dp/B00G5YSTS0
    Lou Doillon(Jane Bの娘)の最新アルバムはエル・スールに注文しました。
    http://www.amazon.co.jp/Lay-Low-Lou-Doillon/dp/B013F6KPW8

    ミレーヌ姫の購入は来年になるかもしれません。
    「ゾッチャの日常」は初耳にゃん^^;
    by sknys (2015-12-15 20:23) 

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