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ネコ・ログ #39 [c a t a l o g]

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  • 人間よりも先に「木野」の居心地の良さを発見したのは灰色の野良猫だった。若い雌猫で、長くて美しい尻尾を持っていた。店の片隅にある窪まった飾り棚が気に入ったらしく、そこで丸くなって眠った。木野はできるだけ猫にかまわずにおいた。たぶん放っておいてほしいのだろう。一日に一度餌を与え、水を取り替えてやった。それ以上のことはしたくなかった。そして猫がいつでも自由に出入りできるように、小さな出入り口を作ってやった。しかし猫はなぜかむしろ、人と一緒に正面のドアから出入りすることを好んだ。/ あるいはその猫が良い流れを運んできてくれたのかもしれない。やがて少しずつではあるが客が「木野」を訪れるようになった。路地の奥の一軒家、小さな目立たない看板、歳月を経た立派な柳の木、無口な中年の店主、プレーヤーの上で回転している古いLPレコード、二品ほどしかない日替わりの軽食、店の片隅で寛いでいる灰色の猫、そんなたたずまいを気に入って、何度も足を運んでくれる客もできた。
    村上 春樹 「木野」


  • #343│モモ│ノラ猫 ── ネコ科の小動物
    カフェオレ色の毛並み、面長の顔立ち‥‥中央公園のモモちゃんは一般的な日本ネコからは「ネコ離れ」している。ネコというよりもネコ科の大型獣のヒョウやマウンテン・ライオンに似ているかもしれない。ゴハンを運んでくるネコおばさんも、外国種の血が混じっているのではないかと話す。陰影のある彫りの深いハーフ顔という感じだろうか。愁いを帯びた表情も耽美的で思慮深げな哲学者を想わせる。写真を撮っていると、食事係のネコおばさんは「私が近づくと逃げちゃうのよ」と不思議がる。モモちゃんに写真を見せるけれど、写真に写っている自分の姿を見ても自撮り女子のようには喜ばない。ネコは小賢しい「自己表現」とは無縁の存在である。広い敷地内を散策するモモちゃんは木立に躰を擦りつけたり、ベンチの上で毛繕いをしたり‥‥ネコ科の獰猛な肉食獣とは異なり、大人しくて人懐っこい。

    #344│ソン│飼い猫 ── 見張塔からずっと
    1歩近寄ると少し後退りをする。もう1歩進むと、また少し離れて何事もなかったように毛繕いをする。ソンちゃんとの距離は一向に縮まらない。常にヒトとの一定の間合いを保つソンちゃんの躰に触れるのは難しい。高いところが好きなので、觔斗雲に乗って空を翔け回る孫悟空から「ソン」と名付けられたという(某携帯電話会社の会長とは無関係)。地上ではシャッターチャンスはなかったけれど、民家の門柱の上に登ってからは真下に行っても逃げなくなった。下から仰ぎ見て、ソンちゃんを撮る。高い場所から周囲を睥睨するソンちゃんは城を警備する見張り番のように凛々しい。人間に媚びない姿は麗しく、光り輝いている。後日、写真を手渡すと女飼主も「ソンらしい」と、ご満悦だった。お礼に福砂屋の「キューブ・カステラ」を貰ってしまった。

    #345│ゲン│ノラ猫 ── 微睡みの午後にゃん
    久し振りに中央公園でモモちゃんを撮っていると、内藤陳さん似(痩身痩躯)のネコウォッチャーが少し離れたところにも人懐っこいネコ1匹がいると教えてくれた。陳さんに案内されて公園の奥へ行ってみると、虎縞のネコが落ち葉をベッドにして微睡んでいた。日向と日陰のコントラストが強すぎて思うような写真が撮れない。午後の陽射しは強烈で、暑苦しくて薮蚊も多い。半睡半眼のゲンちゃんは一昔前のアイドル少女のように八重歯(キバ)が口許から覗いていて可愛らしい。かつて公園内には数十匹のネコたちが暮らしていたというけれど、今では数匹しか棲んでいない(周辺住民からの苦情を請けた区の保健所が駆除したのでしょうか)。午睡の邪魔をしないように留意して公園を後にする。遊歩道は中央図書館裏へと続いている。

    #346│マグ│ノラ猫 ── 駅前駐輪場のネコ
    I袋駅前公園に併設されている駐輪場(地下と地上2F)の出入口付近にネコがいる。横に細長い公園の中程にある水天宮神社周辺に暮らすネコたちとはテリトリーが異なるらしい。植え込みブロックの上で寛いでいるリンちゃんの横に座るのは覚悟がいる。待ち構えていたかように膝の上に乗ろうとするからだ。冬は湯たんぽの代わりになるけれど、夏は重くて暑苦しい。リンちゃんを膝の上に乗せていると、地下駐輪場から自転車を押しながら出て来た子供に「いつものネコおじさんじゃない?‥‥」と不思議顔で訊ねられる。この時刻になると、停めていた自転車に乗って帰宅する母娘連れらしい。夕飯を運んで来るネコおじさんとは顔見知りなのだろう。水天宮神社の前に祭りのテントが張られると、公園のネコたちは姿を一斉に消す。花見や盆踊り、秋祭りなどに限らず、ネコたちは騒がしい年中行事が大嫌いなのだ。R.E.M.の歌の中に出て来る「騒々しい猫」(noisy cats)とは五月蝿い人間たちのことである。

    #347│ソラン│飼い猫 ── パトロールは怠らない
    黒ネコのソランちゃんとは大の仲良しで、姿を目視すると遠くの方からでもミャーミャー鳴いて挨拶に来る。足許に纏わりついて顔を見上げる。ソランとは強い絆で結ばれていると実感する瞬間である(勝手な思い込みかもしれないけれど‥‥)。それから暫くはソランのパトロールに付き合うことになる。お腹を見せてゴロニャンしたり、指先や手を舐めてくれたり、雑草や草木の葉っぱを食べたり、自転車やバイクのタイヤ(ゴム)の匂いを嗅いだり、民家の木塀や木立で爪を研いだり、バケツの中の水を飲んだり、毛繕いをしたり‥‥ソランの行動は気儘で忙しい。急に毛繕いを止めて遠くを見つめていると、少し遅れて歩行者や自転車やバイクに乗ったヒトが姿を現わす。自由奔放に行動しているようで、実はテリトリー内に異常がないかどうか注意深く見張っているのだ。

    #348│ベス│ノラ猫? ── 両耳先カット・キャット!
    往来を歩いていると横道にネコがいたので、静かに近づく。歩行者に気づいたネコは民家の前の鉢植えの陰に素速く隠れて、路地の奥の方へと逃げて行く。一瞬振り向いて迫り来るヒトとの距離を測る。これ以上近寄ると逃げられてしまう境界線上でシャッターを切った。精神的に追い詰めてしまったかもしれないという後悔の念が脳裡を過るけれど、緊張感のあるネコ写真が撮れた。画像をデジカメのモニタ画面で確認すると、ネコの両耳先がカットされていた。片耳先カット(不妊手術済みの印)されたネコは都会では珍しくない風景になっているが、左右の耳先が切られているのは見るからに痛々しい。両耳先カットとは一体どういうことなのか?‥‥と訝しく思う。耳先カットに代わる洒落た目印を考えても良いのではないかしら(黒ネコのピアちゃんは耳ピアスを付けていたけれど)。

    #349│ファブ│ノラ猫 ── みんないい子猫
    K浜東北線沿いの空き地に数匹のネコたちがいた。ノラ仲間なのだろうか、身を屈めて手招きすると半信半疑で近寄って来る。生憎の雨模様で小雨が降っている。悪条件に抗して写真を撮っていると、ネコおばさんが夕食を運んできた。ネコ缶の中身を地面に盛る。顔の一部と胸の部分だけが白い黒ネコ。未だ子ネコなのに鮮やかなオレンジ色の目に野生の精悍さが宿っている。曇りのない鋭い眼差しでカメラを真正面から見つめる。ノラとして自立しているのだろう。「ネコ歩き」の中で岩合さんは「いい子だねぇ〜」とネコ目線で語りかける。飼いネコとノラ、器量の良し悪し、性格の違いなどの分け隔てなく、「みんないい子猫」である。ちなみにファブ・フォーの〈みんないい娘〉(Everybody's Trying To Be My Baby 1957)はカール・パーキンスのカヴァだった。

    #350│アキ│ノラ猫 ──ネコとMacFan
    ファブと同じところ(K浜東北線沿い)で出会ったネコ。薄茶色の毛並みがエレガントなアキちゃんは可愛くて人懐っこい。たまたま手に持っていたMacFan(2015年6月号)が気に入ったらしく、表紙(木村文乃)の上でポーズを決めてくれた。歴代Mac OS Xのコードネームはネコ科の動物シリーズ(チーター、ピューマ、ジャガー、パンサー、タイガー、レパード、スノーレパード、ライオン、マウンテンライオン)だった。初代iMacの筐体の中で寛いでいるネコたちの画像(19 Lucky Cats Who Live In Colorful Macs)を眺めていると、ネコとMacの相性の良さを感じて幸せな気分になる。青リンゴと戯れる「ふるさとのねこ」たちも新鮮だった。OS Xのコードネームが 10.9(マーヴェリック)から、米カリフォルニア州の地名になってしまったのは残念でならない。次期OS Xの名前は大山猫(Lynx)を期待していたのに‥‥。

    #351│ミュー│飼い猫 ── チビ猫と初対面
    大怪我をしたサビくんは内ネコ(室内飼いネコ)となって、2度と外へ出してもらえないらしい。狭い車道を1匹のネコが走り抜けた。目の前を横切って行った子ネコにサビの面影があった。ひょっとしたらサビの子かもしれないと思って雀躍する。帯状の首輪もサビが巻いていたリボンと良く似ている。親交を深めて仲良くなりたいと思っているのに、ミューちゃんは民家の敷地内に飛び込んだまま一向に外へ出て来る気配がない。初対面なので警戒しているのだろうか。それとも、人見知りする内気な性格なのだろうか。その日は時間もなかったので、仕方なく鉄柵の間からズーム撮影した。逆光気味でピントも甘い。ボールのように丸い顔のミューは好奇の目でカメラを見つめている。次の出会いに期待しよう。この地区は黒ネコのソラン、茶トラのレイ、三毛のマープル、片折れ耳のアクなども暮らしているネコ密度の高い穴場なのだ。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第39集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ350匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第39集の常連ネコはモモとソランちゃん。先日、都電沿いを歩いていたら、1匹の茶トラネコと目が合った。ビックリ眼の可愛いネコちゃん。これ幸いとカメラを構えたが、ネコは民家の前の鉢植えの陰に身を隠し、隣家との間の狭い路地に逃げ去ってしまった。気落ちして目を民家の鉢植えに戻すと、もう1匹のネコが興味深そうに見つめているではないか。そのネコを見て驚いた!‥‥三毛スコ(三毛のスコティッシュ・フォールド)だった。ネコとの出逢いは驚異と謎に満ちている。

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にリサイズしています
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    女のいない男たち

    女のいない男たち

    • 著者: 村上 春樹
    • 出版社:文藝春秋
    • 発売日:2014/04/18
    • メディア:単行本
    • 目次:まえがき / ドライブ・マイ・カー / イエスタデイ / 独立器官 / シェエラザード / 木野 / 女のいない男たち


    MacFan 2015年 06 月号

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    • 出版社:マイナビ
    • 発売日:2015/04/28
    • メディア:雑誌
    • 特集:新生MacBookがノートブックを革新する /「写真」のおいしい召し上がり方


    Lifes Rich Pageant

    Lifes Rich Pageant

    • Artist: R.E.M.
    • Label: Capitol
    • Date: 1998/01/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Begin The Begin / These Days / Fall On Me / Cuyahoga / Hyena (Album Version) / Underneath The Bunker / The Flowers Of Guatemala / I Believe / What if We Give It Away? / Just A Touch / Swan Swan H / Superman

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