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僕を悦ばせてね [m u s i c]

  


  • レノンのその口だしは、単純かつ見事だった。英語で最も簡単な五語を加えるだけで、その歌詞を、ティーンエイジャー向けの陳腐な文句から、リスナーにセックスを連想させる、甘い殺し文句に変えてしまったのだ。「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は、売れ行きもよく、彼らをヒロイックな人気者に仕立てて、誰もをリスナーにしてしまうというビートルズの特徴をまず最初に引き出した良い例だろう。「僕の気持ちはわかっているだろう」で、暗黙のうちに、シンガーとリスナーが同じ仲間となり、礼儀と責任をわきまえなければならない大人の世界に対抗して団結する。リスナーは、彼の気持ちはもちろんわかっているし、喜んで信任投票するだけでなく、創造的な体験までもほとんど共有できてしまうのだ。ティーンエイジャーであれ、十代を過ぎた者であれ、十七歳という年齢から想起されるあらゆる印象が、自分自身のその歌の続きをリスナーたちに書かせるのだった。
    マーク・ハーツガード 「栄光への第一歩」


  • ◎ Please Please Me(Parlophone 1963)The Beatles
  • ファブ・フォーのデビュー・アルバムはレノン&マッカートニー(Lennon–McCartney)のオリジナル8曲+カヴァ6曲(全14曲)という構成。2枚の先行シングル4曲を除く10曲を1日(1963年2月11日)、約10時間で録音を終えたというから驚きである。当時のレコーディングは2トラックで、トラック1に演奏、トラック2にヴォーカルを録音しことで、ステレオ・ミックスは左チャンネルに楽器、右チャンネルに歌声が分離した状態で聴こえる。2トラック・テープが破棄されていた〈Love Me Do〉〈P.S. I Love You〉の2曲はモノ・ヴァージョンを収録。たった1日で11曲をレコーディングする強行スケジュールやEMI本社ビルで撮影したアルバム・カヴァからも低予算で制作されたことが良く分かる。日米では独自の編集盤が「デビュー・アルバム」だったので、手摺りから身を乗り出した笑顔の4人を仰ぎ撮ったカヴァ写真は別ヴァージョンを使用したベスト・アルバム 「赤盤」《The Beatles 1962-1966》(Apple 1973)の方が馴染み深いかもしれない。

    ● I Saw Her Standing There
    「1, 2, 3, 4!」‥‥というPaulのカウントから入るデビュー・アルバム冒頭の1曲目。いわゆる通常のブルーズ進行とは異なるが、溌溂とロックン・ロールしている。Paulのヴォーカル、ベース、Johnのギター、コーラス、Georgeのギター、Ringoのドラムス。Paulによると歌い出しの韻を踏むフレーズは当初「Well, she was just seventeen, never been a beauty queen」だったが、Johnの助言で後半部分を「You know what I mean」という思わせ振りな歌詞に変更したという。イントロのカウントは別テイクからの編集、4人の手拍子はオーヴァ・ダビングであることが判明している。仮タイトルの〈Seventeen〉のままだったら,当時の日本の若者は大江健三郎の同名小説を連想したかもしれない。このタイトルを英文法の構文(第5文型SVOC)として憶えている人も少なくないでしょう。

    ■ Misery
    JohnとPaulが当時16歳の英国女性人気歌手ヘレン・シャピロ(Helen Shapiro)のために書き下ろした曲だったが、歌詞が悲観的で暗いという理由で拒否された(ヘレンの英国内ツアーにファブ・フォーと共に同行していた英黒人歌手ケニー・リンチ(Kenny Lynch)が代わりにレコーディングしたことで、最初にカヴァされたレノン&マッカートニーの曲となった)。Johnのヴォーカル、ギター、Paulのベース、コーラス、Georgeのギター、Ringoのドラムス。ジョージ・マーティン(Georege Martin)が後日、ピアノをオーヴァ・ダビングしている。倍速で録音したテープを通常のスピードで再生して、ピアノをオーヴァ・ダブする「ハーフ・スピード録音」は後のレコーディングでも何度か試されることになるジョージ・マーティンの得意技だ。「恋人に振られて僕はミジメ(misery)‥‥」という内省的な歌詞はJohnらしい。

    ■ Anna (Go To Him) (Arthur Alexander)
    ◆ Chains (Gerry Goffin, Carole King)
    ★ Boys (Luther Dixon, Wes Farrell)
    3曲目からカヴァ・ソングが3曲続く。いずれもライヴで演奏していた定番レパートリーである。〈Anna (Go To Him)〉は米R&B歌手アーサー・アレキサンダーのバラード・ソング(1962)。Johnのヴォーカル、ギター、Paulのベース、Georgeのギター、RIngoのドラムスで、Johnの力強いヴォーカルをPaulとGeorgeのコーラスが和らげている。〈Chains〉はジェリー・ゴフィンとキャロル・キングの夫婦コンビが提供した米ガールズ・グループ、クッキーズ(The Cookies)のデビュー・シングル(1962)。Georgeのヴォーカル、ギター、Johnのギター、ハーモニカ、Paulのベース、Ringoのドラムスで、GeorgeとJohn、Paulのコーラスによる3声ハーモニー。〈Boys〉は米女性コーラス・グループ、シュレルズ(The Shirelles)の大ヒット・シングル〈Will You Love Me Tomorrow〉のB面曲(1960)。Ringoのヴォーカル、ドラムス、Johnのギター、Paulのベース、Georgeのギター。軽快なロックンロール曲で、3人がコーラスでRingoをバックアップしている。

    ■ Ask Me Why
    カヴァ曲の後に2枚のシングル4曲(CDは6〜9曲目。LPはA面最後の2曲とB面最初の2曲)が並んでいる。Johnが敬愛するスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ(Smokey Robinson & The Miracles)の楽曲を参考にして作ったといわれるラヴ・ソング。恋愛は成就しているのに〈Misery〉と呼応するかのように「泣く」(cry)や「惨め」(misery)という言葉が出て来る。Johnのヴォーカル、Paulのベース、Georgeのギター、Ringoのドラムス。右チャンネルから生ギターが聴こえて来るのはJohnの弾き語りのギター音をヴォーカル・マイクが拾っているから。PaulとGeorgeのファルセット・コーラスやメジャー7thによるエンディングの余韻も耳に優しい。2ndシングル〈Please Please Me〉のB面曲として先行リリースされた。

    ■ Please Please Me
    ラジオから流れて来たロイ・オービソン(Roy Orbison)の〈Only The Lonley〉に触発されて作ったJohnのスロー・バラードだったが、ジョージ・マーティンのアドヴァイスでテンポ・アップしたロックン・ロールに生まれ変わった。Johnのヴォーカル、ギター、ハーモニカ、Paulのベース、コーラスGeorgeのギター、コーラス、Ringoのドラムス。ヴォーカル、コーラスにギター、ハーモニカ、ドラムスが一体となったパワフルなサウンドはジョージ・マーティンもNo.1ヒットを確信したほど。2分に満たない曲の中にファブ・フォーの魅力が凝縮されている。ステレオ・ヴァージョンはハーモニカの入る箇所がダブルトラックになっていたり、歌詞を間違えたJohnが直後に笑っていたり‥‥。「Please」の2つの意味を重ねた歌詞は直截的で際どい。全英チャートでNo.1に輝いた大ヒット曲だが、公式チャート記録では2位止まりだったために英米チャートで1位になった全27曲を網羅した《The Beatles 1》(Apple 2000)には収録されていない。

    ● Love Me Do
    1962年10月5日、英国でリリースされたファブ・フォーの記念すべきデビュー・シングル。Paulが10代の頃(1958)に書いた曲で、当初はJohnがリード・ヴォーカルを担当することになっていた。しかし、ハーモニカを吹きながらタイトル・フレーズを歌うのは困難だったため、作曲者のPaulが主旋律を歌うことになった。Paulのヴォーカル、ベース、Johnのコーラス、ハーモニカ、Georgeのギター、Ringoのタンバリン‥‥。Ringoの演奏に不安を感じたジョージ・マーティンは再レコーディングに際してセッション・ドラマーのアンディ・ホワイト(Andy White)を起用した。アルバム・ヴァージョンでRingoはタンバリンしか叩いていない。デビュー曲としては地味で、1962年当時ファブ・フォーの人気もリヴァプールを中心としたイングランド北西部に限られていたからか、全英チャートは最高17位。1964年5月30日に全米で1位を獲得した。

    ● P.S. I Love You
    遠く離れた場所から恋人への手紙を綴って、文末に「追伸・愛している」と書く。恋人へ宛てた手紙という形式の洒落たラヴ・ソング。作曲者のPaulによると実体験に基づく歌詞ではなく、完全な創作だという。Paulのヴォーカル、ベース、JohnとGeorgeのギター、コーラス、Ringoのマラカス。〈Love Me Do〉のアルバム・ヴァージョンと同じく、この曲でもRingoに代わってアンディ・ホワイトがドラム(スネアドラムのリム)を叩いている。実質的には5人(ファブ・フォー+1)でレコーディングしたことで、結果的に2トラック録音にも拘わらずサウンドの奥行きが増した。デビュー・シングル〈Love Me Do〉のB面に収録され、全米シングル・チャートの10位まで上昇した。

    ■ Baby It's You (Mack David, Barney Williams, Burt Bacharach)
    5曲目の〈Boys〉と同じく、シュレルズが1961年に発表した曲のカヴァ。Johnのヴォーカル、ギター、Paulのベース、コーラス、Georgeのギター、コーラス、Ringoのドラムス。メイン・ヴォーカルと2人のコーラスというスタイルは女性コーラス・グループを踏襲。間奏のチェレスタは後日ジョージ・マーティンがGeorgeのギター・ソロに重ねてオーヴァ・ダビングしている。たった1日で10曲をレコーディングした夜のセッションではカヴァ5曲‥‥〈Anna (Go To Him)〉〈Boys〉〈Chains〉〈Baby It's You〉〈Twist And Shout〉を連続で演奏したという。いずれもライヴで何度も演奏していた定番ソングと雖も、平均2テイクの一発録りで終えているのには舌を巻く。

    ◆ Do You Want To Know A Secret?
    幼少期にJohnの母親ジュリアが良く歌ってくれたというディズニー・アニメ映画「白雪姫」(Snow White And The Seven Dwarfs 1937)の挿入歌〈I'm Wishing〉からヒントを得て作った曲。語りの後の最初の2節は挿入歌から引用している。Johnは自分で歌うのが恥ずかしかったらしく、Georgeにリード・ヴォーカルを譲っている。Georgeのヴォーカル、ギター、Johnのギター、コーラス、Paulのベース、コーラス、Ringoのドラムス。Georgeの甘いヴォイスとJohnとPaulのエコーのかかったコーラスがアニメ映画さながらのファンタジックな雰囲気を醸し出している。お手本がないので、どのように歌ったら良いのか分からなかったとGeorgeはコメントしている。

    ● A Taste Of Honey (Bobby Scott, Ric Marlow)
    1960年に上演されたブロードウェイ・ミュージカルの同名テーマ曲のカヴァ。オリジナルはインスト曲で、ファブ・フォーは米国人歌手レニ・ウェルチ(Lenny Welch)が1962年にカヴァした歌入りヴァージョンを参考にしている。ロックに関心のない観客のリクエストに応えて演奏していた独ハンブルグ修業時代のレパートリーだったが、生まれついてのロックン・ローラーだったJohnは嫌っていたという。Paulのヴォーカル、ベース、Johnのギター、コーラス、Georgのギター、Ringoのドラムス。3拍子のAメロから4拍子にリズム変化するサビのヴォーカル部分だけが初のダブルトラックになっている。この曲を聴くと中学生時代の昼食時間を思い出す。教室の天井近くにある小さなスピーカから気怠い午後の音楽が流れていた。当時の放送部には所蔵のアルバムも部員の私物レコードも少なかったのか、同じ曲が何度も繰り返し流れていた。ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス(Herb Alpert And The Tijuana Brass)の軽快なインスト・ナンバーを決して「蜜の味」とは言い難い学校給食中に聴かされるのは皮肉なことだった。

    ■ There's A Place
    John曰く、モータウン(黒人音楽)を目指す試みだったという曲。1日で10曲をレコーディングしたセッションの最初に録音された。Johnのヴォーカル、ギター、ハーモニカ、Paulのベース、コーラス、Georgeのギター、コーラス、Ringoのドラムス。JohnとPaulがハモるツイン・ヴォーカル(主旋律が分かり難い)やJohnのハーモニカは初期ファブ・フォーに顕著で特徴的なスタイルである。《気分が沈んでいる時やブルーな気分の時に行く場所がある。それは僕の頭の中。独りでいると、時間が経つのも忘れてしまう》」 と歌われるJohnの内省的な歌詞や語尾を長く伸ばす自由な感性には後年の代表曲〈Strawberry Fields Forever〉や〈Tomorrow Never Knows〉などへの萌芽が見て取れる。次のラスト・ナンバーとの対比も鮮烈である。

    ■ Twist And Shout (Phil Medley, Bert Russell)
    デビュー・アルバムの掉尾を飾るのはJohn一世一代の絶叫ヴォイス・パフォーマンスである。オリジナルはフィル・スペクターがプロデュースしたトップ・ノーツ(Top Notes)のシングル曲(1961)で、米R&Bグループ、アイズレー・ブラザース(The Isley Brothers)のカヴァで1962年にヒットした。1日で10曲をレコーディングしたセッションの最後の1曲だった。当日、風邪を引いていたJohnは上半身裸になり、最後の力を振り絞って渾身のヴ ォーカルを披露した。Johnのヴォーカル、ギター、Paulのベース、コーラス、Georgeのギター、コーラス、Ringoのドラムス。Johnの入魂のシャウトに感化されたのか、GeorgeとPaulのコーラスも力強く激しい。マーク・ハーツガード は《「ツイスト・アンド・シャウト」は、彼らのライヴのハイライトであり、必ず喝采を受ける曲だった。乱暴で、騒がしく、品がなくて、派手にセックスを叫ぶドキドキするようなダンス・ナンバーだった》と書いている。2テイク録ったが、2回目は声が出なかったという。

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    • ■ John Lennon ● Paul McCartney ◆ George Harrison ★ Ringo Starr
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    Please Please Me

    Please Please Me

    • Artist: The Beatles
    • Label: Universal Music
    • Date: 2013/11/06
    • Media: Audio CD
    • Songs: I Saw Her Standing There / Misery / Anna (Go To Him) / Chains / Boys / Ask Me Why / Please Please Me / Love Me Do / P.S. I Love You / Baby It's You / Do You Want To Know A Secret / A Taste Of Honey / There's A Place / Twist And Shout


    ビートルズ

    ビートルズ

    • 著者:マーク・ハーツガード(Mark Hertsgaard)/ 湯川 れい子(訳)
    • 出版社:角川春樹事務所
    • 発売日: 1997/07/18
    • メディア:単行本
    • 目次:アビイ・ロード・スタジオの中で / リヴァプールからやってきた4人の若者 / 栄光への第一歩 / ショーをやれ!/ 音楽はどこへ行った?/ ブライアンと共に / おかしなコードが聞こえた / 人気の重圧 / 闘いに疲れて / 天才たち / フレッシュ・サウンド / 4人の相乗作用 / 成熟期 /「シンフォニーのように」/ 夢の色を聴け / 僕らは世界を変えたいんだ ...


    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    • 編者: 大人のロック!
    • 出版社:日経BP社
    • 発売日: 2009/12/07
    • メディア:ハードカヴァ
    • 目次:英米公式全作品の系譜 / 公式録音全213曲徹底ガイド(2トラックレコーディング時代〜ライヴ演奏スタイルでの録音/ 4トラックレコーディング時代 1〜アレンジの幅が広がりサウンドに深み / 4トラックレコーディング時代 2〜バンドの枠を超えた録音の始まり / 4トラックレコーディング時代 3 〜ロックを芸術の域に高める/ 8トラックレコーディング時代へ〜サウンドと作品の多様化 / 8トラックレコーディング時代〜原点回帰...と円熟のサウンド)/ 録音技術の変化と楽曲解析方法

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