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理屈屋しゃっくり [p a l i n d r o m e]



  • 旅の最終目的地はトルコです。ここはそもそも同行させていただいた小説家がトルコの作家協会から招かれての旅だったので、普通の観光旅行ではなかなか行けないシリアとの国境近くの南東部(マルディンやシャンルウルファなど)を回ったり、一般家庭や慈善団体の訪問をしたりするなど盛りだくさんの内容でした。そういったものも楽しみましたが、もちろん私はトルコのどの地方でも猫ものを血眼になって探していました。トルコはイスラム教の始祖マホメットが猫好きだったことから、猫を大事にしています。イスタンブールの街は海が近いという事もあり、本当にそこらじゅう猫だらけで、岩合さんの「世界ネコ歩き」の撮影現場に紛れ込んでしまったかのようでした。とにかく猫たちが人懐っこい、そして美猫が多い。カメラを向けても逃げません。ここでは誰でも岩合さんになったような気分になれてしまうのです。
    大久保 京 「美猫で溢れかえるトルコ」


  • □「娑婆気た老け猿、放すな!」‥‥波留、叫ぶ竹林
    人里離れた山奥に棲むという謎の生命体。夜な夜な山間の集落に出没しては畑の作物を荒らし、農家に多大な損害を与えていた。「謎の生物現わる!」‥‥ニュースで報って現地調査に赴いた怪奇ハンターの新メンバー、南波留は村民の目撃証言などから、謎の生物が潜んでいるという竹林に最新の罠を仕掛けた。翌朝、波留が竹林に行くと檻の中に1匹の老猿が捕獲されていた。興味を持って一緒に見に来ていた村人たちから落胆の溜息が漏れる。ヒバゴンやツチノコなど、幻の珍獣を期待していたのに、ありふれた猿だったとは!‥‥きっとボケ猿が徘徊しているうちに、檻の中に閉じ込められてしまったのに違いない。憐れに思った1人の老人が檻の中で蹲っている猿を解放しようとした。その時、「放すな!」という絶叫が竹林に響いた。村人たちが驚いて一斉に波留を見つめる。「何の特徴もない老け猿のように見えるけれど、シャバケザルという凶悪な妖怪モンスターなのよ」‥‥波留が村人の見せたiPadには指名手配中のシャバケザルの画像が映っていた。

    □ プラトンが切ない恋、夏‥‥セカンド・ラブ?
    男女が惹かれ合うのは元々アンドロギュロス(両性具有)だった人間が神によって2体に切り離されてしまったから。それから男と女は互いに失われた半身を求めて生きることになった。古代ギリシャ時代のプラトンの仮説はシェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』 にも通底する永遠の命題だが、勾玉のような完全な円や珠のような球体になることが良いことなのかどうかは分からない。青年プラトンの初恋は言うまでもなく「プラトニック・ラブ」に終わった。肉体関係はなかったので、完全な円になれたかどうかは不明である。ある夏、プラトンは避暑休暇中にヴェニスで2度目の恋に落ちた。柑橘系の果実のように甘酸っぱくて苦い「一夏の体験」‥‥しかも恋愛相手は美少年だった。これは「プラトニック・ラブ」ではなく「パスカリック・ラブ」と呼ぶべきなのかしら?‥‥と朝丘結は読んでいた本を閉じて想うのだった。

    □ 苛つく姫撒く、泣く泣く豆挽く辛い
    あたしは老舗和菓子店の三代目女将。店では「キナコ姫」という渾名で呼ばれているの。純国産の特製黄な粉を使用したキナコ餅や吉備団子が超有名で、開店時から閉店まで行列が途切れることはない。もちろん弊店の和菓子に食品添加物や保存料は一切入っていないわよ。お店が大繁盛しているのは嬉しいけれど、従業員を1人も雇っていない家族経営は1日中忙しく過酷で、躰の安まる暇もない。その反動でストレスも大きくて、苛ついてキレると原料の大豆を大量に投げて床にバラ撒いちゃう。「鬼は外、福は内」って、大声で叫んじゃう。あたしの鬱憤晴らしは「毎日が節分」なのよ。機械挽きではなく、手挽きに拘るのが創業者の祖父〜先代の父から引き継いだ伝統なのだから嫌になるわ。どうして、あたしが夜な夜な豆を挽き続けなくちゃいけないのか文句の1つも言いたくなるのよ。今夜も閉店後の厨房からキナコ姫の恨み節と豆を挽く音が聞こえて来る。

    □ 伯楽酔っぱらいミス、木乃伊は強く落馬
    馬使いの達人でも二日酔いには勝てない。昨晩は呑みすぎたのか、頭痛はするし吐き気も催す。向かい酒と称して朝から飲み続けたのが禍いしたのかもしれない。上手の手から水が漏れ、弘法も筆の誤り、猿も木から落ちる‥‥伯楽は手綱捌きをミスって落馬してしまった。幸い腰を強打しただけで命には別状はなかったが、落ちた拍子に鞍に括りつけていた大事な荷物までもが落下したのだ。砂漠の下に埋まっていた「王家の墓」を暴いて盗掘した一体のミイラ‥‥もし少しでも損傷していたら大変なことになる。発掘品としての値打ちが下がってしまうから。伯楽は痛い腰を摩りながら荷物の紐を解いて中身を検めた。見たところ外見上は異状なさそうだ。それにしても、人間のミイラとしては異常に小さい。生後幼くして亡くなった高貴な子供か、大事に飼われていたネコのミイラなのかと、古代エジプト時代に想いを馳せて伯楽は両手を合わせた。

    □ 来た孫、寝そべり。尻・臍、猫またぎ
    昼食後,お昼寝中の幼児たち。フローリングの床の上に敷いたマットレスの上で気持ち良さそうに眠りこけている孫ほど可愛いものはないと、実家に帰省した母子を眺める祖父は目を細めていた。どこからか飼いネコのトラーが現われて孫に近づいて行く。ネコは騒がしく慌ただしい人間の子供が大嫌い。奇声を挙げて子供たちが駆け寄って来るのを見るや否や身を翻して一目散に逃げて行く。道端で寝そべって寛いでいた外ネコも遠くの方から祭り囃子の喧騒が微かに聞こえて来ただけで、徐ろに立ち上がって民家と民家の間の狭い露地の奥に姿を消した。祭り神輿や盆踊りや運動会などの年中行事は外ネコにとって、日々の平穏を乱す五月蝿いだけの厄介な存在である。でも子供たちが静かならば、ネコは逆に興味を示して自ら近寄って来るかもしれない。そして何事もなかったように、尻や臍を出して眠っている寝相の悪い幼児の上を跨いで去って行く。

    □ 熱気球追う雪キツネ
    北海道の大雪原‥‥雲1つない真っ青な大空に一体の熱気球が浮かんでいる。微風に揺られて、ゆっくりと東から西へと浮游して行く。真っ白い雪原で1匹のキタキツネが興味深そうに青空を見上げていた。雪キツネは母親を追う子供のように気球の後を追い駆けて、どこまでも尾いて行く‥‥。この回文は〈ヒツジも失費〉(回文かるた 2015)に収録した〈熱気球 雪キツネ〉の改良版である。「熱気球」と「キツネ」の関係性を妄想した愛読者のコメントに応えてみた。回文は長くなると具体的になり、長くなりすぎると逆に曖昧化して行く。〈熱気球、雪キツネ〉〈熱気球追う雪キツネ〉〈熱気球、親追う雪キツネ〉〈熱気球、オセアニア背負う雪キツネ〉‥‥関係性が増せば物語が生まれて分かりやすくなるけれど、逆に想像力(妄想力?)は失われてしまう。散文よりも詩や俳句の世界に近いかもしれない。どこまで長く作れば良いのかという判断が難しい。

    □ 理屈屋喋り、借り部屋しゃっくり
    不動産屋のRは敏腕の営業マンだった。理路整然とした口調で喋り出したら止まらない。間取り、窓向き、見晴し、交通の便など‥‥淀みなく流麗に語り、その話術で多くの顧客と賃貸契約を結んで来た。独身女性が見学に訪れた物件は築35年の中古マンションの一室。いつものペースでRは喋り続けて、女性からも好感触を得ていた。あと少しで仮契約に漕ぎ着けようとした時、突然女性がシャックリをし始めた。水を飲んでも、息を止めても依然としてシャックリは治る気配がない。今まで自信満々だったRの表情から笑みが消える。この部屋(2LDK)は曰くつきの事故物件だった。20年前、シャックリが止まらない奇病で死亡した女性の地縛霊に取り憑かれた「シャックリ地獄部屋」だったのだ。呪われた部屋に住んだ女性たちは原因不明のシャックリに悩まされて、全員が数カ月で転居して行った。霊能力者には天井の隅でシャックリをしている若い女性の霊が見えるという。

    □ 狩る鷹は寝ぼけ眼、ネコ怠け、「骨は語る」か?
    女性法人類学者テンペランス・ブレナンと相棒のFBI捜査官シーリー・ブース(後に彼女の伴侶となる)が怪事件を解決する海外TVドラマ・シリーズ「BONES」。遺体の骨から得た科学的な証拠で真実や真犯人を突き止める。テンペランスの親友アンジェラ・モンテネグロや自称「ラボの王」ジャック・ホッジンズ、所長のカミール・サローヤン、心理分析官のランス・スイーツ、準レギュラーの実習生など、個性的な登場人物たちの相関ストーリも事件と並行して進展する。動物版の新シリーズ「骨は語る」は猫のテンペランス・ブレニャンと鷹のシーリー・フォークスの名コンビが活躍するはずだった。しかし、獲物を狙う猛禽類の鋭い目は寝ぼけ眼、法猫類学者の牝ネコも気怠そうに寝そべって、全く覇気が感じられない。この現状で難事件が解決するのだろうか?‥‥と不安を口に出すスタッフも少なくない。エルミタージュ美術館には約100匹もの「4本足の警備員」たちが働いているというけれど、ジェファソニャン研究所にも数多くの動物たちが勤務しているのだ。

    □ 疎い馬鹿、和女子。洋・漢・母語、猫本買うよ‥‥「書肆 吾輩堂」
    森ガール、テツ女、カープ女子‥‥昨今のブームの主役は女たちが担っているらしい。しかし、何にでも「女」を付ければ良いってもんじゃない。世の女性たちがオヤジ化しただけではないかとも思うけれど、気になるのは韓流や英王室の人気などを除いてドメスティックな対象に留まっていることである。インターネットで国内(日本語)しか検索しない、iPhoneでJ-POPしか聴かない若者たち‥‥という閉鎖的なイメージが見えて来る。SNSでは世界中の人々と交流可能なのに、狭苦しい日本村の中だけで繋がってリア充している。「書肆 吾輩堂」は2013年2月22日「猫の日」にオープンした日本初の猫本専門ネット書店。日本国内だけでなく、古今東西、和・漢・洋の猫本や猫雑貨などを広く取り扱っている。日本女子には和ネコだけでなく、ジェニーやトマシーナ、オネイロポンプ、ガミッチ、ピート、デューイ、ミツなどの洋ネコたちにも接して欲しいと思う。

    □ 絵馬、消え薮?‥‥深夜に走るジバニャン、渋谷駅前
    表参道の裏手に小さな猫神社がある。神社には都内だけではなく、日本各地から疾走した飼いネコ探しや厄除、無病息災、怪我からの回復、死亡したネコの供養など、様々な願いごとを記した絵馬が奉納されていた。その絵馬が一夜にして消え失せるという怪事件が発生したのだから一大事。猫神主から依頼を承けた探偵ジバニャンが事件の調査に乗り出した。1カ月間、ジバニャンは朝から晩まで渋谷界隈を歩き回って飼いネコやノラネコから情報を集めたが、盗難事件に繋がる有力な手懸かりは何1つ得られなかった。「絵馬消失事件」は迷宮入りの藪の中なのかと落ち込んで半ば諦めかけていた時に渋谷地区元締めの長老ネコが名案を出してくれた。「渋谷のことならば、ハチ公に訊くのが一番じゃ」‥‥渋谷駅前の忠犬ハチ公像は絶好の待ち合わせ場所になっていて、昼間は数多くの待ち人たちで混雑している。会いに行くならば人混みの絶えた終電後に限るにゃん。その夜、ジバニャンは探偵事務所のある原宿から渋谷駅前を目指して疾走した。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

    • 「BONES -骨は語る-」はDlife(ディーライフ)で無料放送中。再放送もあるにゃん

    • ジバニャン回文は「スニンクスなぞなぞ回文 #39」の解答です^^

     スニンクスなぞなぞ回文 #40

     魔窟、ラリったり◯△▢▽◎る◎▽▢△◯りたつリラックマ

     回文作成:sknys

     ヒント:伝説のボクサーが魔界転生?


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    書肆 吾輩堂

    書肆 吾輩堂

    • 店主:大久保 京
    • 所在地:福岡県福岡市城南区飯倉1-4-21
    • 開店日:2013/02/22
    • メディア:ネットショップ(猫本専門書店)
    • 吾輩堂が案内する猫本ワールド:『牝猫』『ノラや』『スイッチョねこ』『日本の名随筆3 猫』『さすらいのジェニー』『猫百話』『ニュースになったネコ』『85枚の猫』『藤田嗣治画文集 猫の本』『熊谷守一の猫』『作家の猫』『猫をさがして パリ20区芸術散歩』『金井美恵子エッセイ・コレクション2 猫、...』

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    コメント 2

    ぶーけ

    お写真の猫さんはトップの猫さんですね。
    すごくカッコいいですね、この猫さん。^^
    バロンに似てるな、と思いました。

    by ぶーけ (2015-03-17 09:46) 

    sknys

    バナー写真は桜の季節に撮ったので、口にピンクの花びらを咥えています^^
    ナナちゃんと呼ばれているから、牝ネコなのかもしれません。
    「猫のニャン返し」?
    by sknys (2015-03-18 00:46) 

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