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鉛の飛行船 II [m u s i c]



  • ロックンロールという音楽は、物神化した商品の力に恩恵を受けている。もちろん、レコーディングされたすべての音楽は消費者に呪文を投げかけるのだが、ロックは商品として誕生した初めての音楽ジャンルなのだ。アルビン・ザックは、ロックが「まず何よりもレコード音楽である」という点で、それ以前の音楽と異なることに注目した。ライヴ演奏よりも、むしろラジオでのオンエアや当時急成長していた45回転シングルの市場展開によって、ティーンエイジャーでも簡単に買えることようになったことが、ロックの尋常ならざる商業的成功を考えるときには重要になる。そのロックが悪魔の音楽になった理由は、白人の青年に黒人のビートを届け、反体制運動を誘発し、快楽に身を任せることを助長する音楽だと見なされたことによる。同時にロックは商品の形式、つまり「販売様式」とスピリチュアルな契約を結んでいた。若者の身体と精神にとって、45回転シングル盤はエロティックでエネルギーに満ちた魅力をもつものであり、快活に回転するそのさまは、どこかエルビスの腰の動きを彷彿させるものだったのである。
    エリック・デイヴィス 「フィジカル・グラフィティ」


  • Jimmy PageによるLed Zeppelin(Zep)の最新リマスター・シリーズ第2弾が2014年10月にリイシューされた。フォーマットは第1弾の3枚(1st~3rdアルバム)と同じく「スタンダード・エディション」(1CD、1LP)、「デラックス・エディション」(2CD、2LP)、「スーパー・デラックス・エディション・ボックス」(2CD+2LP)の5種類。「デラックス版」は「スタンダード版」を含む「上位互換」だと思い込んでいたが、デザイン上で大きな見落としがあった。「スタンダード」はオリジナルと同じように見開きカヴァを広げると1枚のイラストになっているのに、「デラックス」は裏面が表カヴァを反転させたデザインになっている。アルバムのアートワークを台無しにするだけでなく、裏カヴァのイラストがインナー・スリーヴにもブックレットにも載っていないのだ。1st~3rdアルバムも同じ仕様になっていたが、不覚にも気づかなかった。《Houses Of The Holy》のアナログ盤に付いていたバンド名とタイトルを記した白い帯はリイシューCDでも復刻されている。アートワークの一部ではなく、文字通り金髪少女の尻を隠すための「腰巻き」らしい。

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  • ◎ Led Zeppelin IV(Atlantic 1971)
  • 長い枯れ枝の束を背負い、腰を曲げて杖を突く白髭の老人の絵が額装されて花柄の壁紙の剥がれた壁に架かっている。風変わりなアルバム・カヴァは一続きになった裏面を広げることで、「だまし絵」的な驚きに変わる。遠景の高層ビル、近景の古びた集合住宅、そして前景の絵の架けられている壁が半壊した家屋の内部と分かる仕掛けで、集合住宅の外壁には「毎日、誰かが餓えで亡くなっています」(Someone dies from hunger everyday.)と読めるポスターが貼られている。4thアルバムはタイトルやバンド名は疎か、カタログ番号などの記号・数字も一切記されていない。見開きジャケットの内側にはバーリントン・コルビーによる「隠者」(タロットカード)のイラストが横向き(縦長)に描かれ、インナー・スリーヴの表と裏に〈Stairway To Heaven〉の歌詞と曲名、「4つのシンボル」などが記載されていた。メンバー4人を象徴したという印形(シジル)が公式タイトルなので、「4シンボルズ」とか「Led Zeppelin IV」という名称で呼ばれている。

    〈天国への階段〉が収録されていることもあって、Zepの最高傑作と評されているが、それ以外にも興味深い楽曲が並ぶ。怒濤の変拍曲というよりもギター・リフとドラム・ビートが乖離するポリリズムに近い〈Black Dog〉。変拍子の呪縛から解き放されたJohn Bonhamのドラミングが豪快な〈Rock And Roll〉。サンディ・デニー(Sandy Denny)をゲスト・ヴォーカルに迎えた英国トラッド・フォーク調の〈The Battle Of Evermore〉。ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)へのオマージュでもある〈Going To California〉。メンフィス・ミニー(Memphis Minnie)のブルーズ・ナンバーをZep流に再解釈した〈When The Levee Breaks〉の圧倒的なドラム・サウンドは英ハンプシャー東部のヘッドリィ・グランジ(1795年に救貧院として建てられた石造り3階建て家屋)の大きな吹き抜けのある階段下の石床で録音されたという。「デラックス・エディション」のDisc 2にはオリジナル・アルバムと同じ曲順で異ミックスや違ヴァージョン8曲が収録されているものの驚くような音源はない。オリジナル・カヴァ仕様の「スタンダード・エディション」を購入すべきかしら。

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  • ◎ Houses Of The Holy(Atlantic 1973)
  • 古代の遺跡を想わせる丘の頂上を目指して11人の子供たちが岩場を這い登って行く。ヒプノシス(Hipgnosis)が制作したアルバムの見開きカヴァはA・C・クラークのSF小説『幼年期の終わり』からイメージしたもので、北アイルランドの世界遺産「ジャイアンツ・コーズウェイ」で撮影されたという。ハンス・ベルメールの球体関節人形写真のように人工着色された金髪ヌードはエロティックで、少女の尻を白い「腰巻き」で覆わなければならなかったのも宜なるかな。インナーの見開きには古城跡の前で少女を両腕で頭上に掲げ、生贄を捧げようとしている男の後ろ姿が写っている。5枚目にして初めて「Houses Of The Holy」という文字タイトルの付いたアルバムなのに、カヴァにはタイトルもバンドの名前も一切記載されていなかった。《聖なる館》はブルーズの泥臭い荒野やトラッド・フォークの鬱蒼とした森から抜け出て、別世界へ旅立ったZepサウンドが堪能出来る。曲調もロックだけではなく、ファンクやレゲエ、アカペラ、ドゥーワップなど、洗練されてヴァラエティに富む。

    緩急自在に旋回するオープニングの〈The Song Remains The Same〉、オープン・チューニング・ギターの音色が清冽な〈The Rain Song〉、アクースティック・ギター弾き語りからハード・ロックに転じる〈Over The Hills And Far Away〉、Zep流に解釈したサビなし変拍ファンクの〈The Crunge〉、強靭なギター・リフとスライド・ギターが織り重なった〈Dancing Days〉、「ジャマイカ」と聞こえる空耳タイトルのレゲエ・ナンバー〈D'yer Mak'er〉、深海の底から湧き上がって来るようなシンセ・ピアノの調べが神秘的に響く〈No Quarter〉、ギクシャクした変拍子(4/4+7/8)がアカペラを経てドゥーワップで解放される〈The Ocean〉。《Led Zeppelin IV》の「デラックス・エディション」と同じく、Disc 2に収録されたインストやラフ・ミックスの7曲に驚くような音源はなかった。完成間近の余り代わり映えのしないミックス集ではなく、外部ミュージシャンに丸投げした「リミックス・アルバム」を付けた方が面白かったのではないかとさえ思う。

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    《聖なる館》(国内盤LP)は「4シンボルズ」よりも個人的に愛着のあるアルバムだが、惜しむらくは画竜点睛を欠くことが1つだけある。何とアルバム・タイトル曲が収録されていないのだ。もちろん《Revolver》や《Abbey Road》のように元々アルバム・タイトル曲が存在しないことも少なくなかったし、曲名がアルバム・タイトルにならない方がスマートでスタイリッシュだった。デジタル時代の今日では考え難いけれど、アナログ盤(LP)には40分前後という時間的な制約があって、音質面を考慮すると収録予定の曲がアルバムに入らないこともあった(Little Featの《The Last Record Album》のように裏面に歌詞まで載っていた曲が先送りになった事例もある)。A・B面に分かれていることや、1曲の演奏時間が長くなったことも足枷になっていたのかもしれない。Zepの〈聖なる館〉も収録時間オーヴァで外された可能性が高い。もし最新リマスター盤に〈Houses Of The Holy〉が追加収録されれば完璧だったし、2枚組の《Physical Graffiti》(1975)もCD1枚に収まるので一挙両得(?)ではないかと、秋の夜長にZepのアルバムを聴きながら夢想するのだった。

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    • 国内盤より千円以上安い輸入盤CD(Atlantic 2014)がお買い得にゃん^^

    • 《Physical Graffiti》の「デラックス・エディション」は3枚組になるのかしら?

    • 「デラックス・エディション」のアルバム・カヴァは反転した裏面の画像です
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    Led Zeppelin IV(DELUXE EDITION 2CD)

    Led Zeppelin IV(DELUXE EDITION 2CD)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2014/10/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: Black Dog / Rock And Roll / The Battle Of Evermore / Stairway To Heaven / Misty Mountain Hop / Four Sticks / Going To California / When The Levee Breaks // Black Dog (Basic Track With Guitar Overdubs) / Rock And Roll (Alternate Mix) / The Battle Of Evermore ...


    Houses Of the Holy(DELUXE EDITION 2CD)

    Houses Of The Holy(DELUXE EDITION 2CD)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2014/10/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: The Song Remains The Same / The Rain Song / Over The Hills And Far Away / The Crunge / Dancing Days / D'yer Mak'er / No Quarter / The Ocean // The Song Remains The Same (Guitar Overdub Reference Mix) / The Rain Song (Mix Minus Piano) / Over The Hills An...


    レッド・ツェッペリンIV(ロックの名盤!)

    レッド・ツェッペリンIV(ロックの名盤!)

    • 著者:エリック・デイヴィス(Erik Davis)/ 石崎 一樹 (訳)
    • 出版社:水声社
    • 発売日:2012/12/27
    • メディア:単行本(ソフトカバー)
    • 目次:丘のむこうに / フィジカル・グラフィティ / 汝を音楽に従わせしめよ / ガッタ・ロール / かの天空のただなかで / 彷徨と驚倒 / 山々は崩れ海に沈んでも 最終楽章 / 註 / レッド・ツェッペリン ディスコグラフィ / 解説(石崎 一樹)/ 訳者あとがき(石崎 一樹)


    レッド・ツェッペリン オーラル・ヒストリー

    レッド・ツェッペリン オーラル・ヒストリー

    • 著者:バーニー・ホスキンス(Barney Hopkyns)/ 五十嵐 哲(訳)
    • 出版社:シンコーミュージック
    • 発売日:2013/03/30
    • メディア:単行本
    • 目次:イン・スルー・ジ・アウト・ドア(出口用の扉から入る)"世界最大の正体不明バンド" / 登場人物紹介 / 心揺さぶられて / 眩い世界へ / イライラが募る時期 / 消耗して / 謝辞 / 訳者あとがき / 著者インタヴュー&出典 / 索引

    タグ:Music Zep Remaster
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