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妖精たちの帰還 [m u s i c]



  • ヴェローリアは、最初に「My Victoria, even I’ll adore you. My Victoria.」って節が浮かんでね。キンクスの曲にあったけど、僕はヴィクトリアについてよく知らないし、って思いながら考えついたところ、ヴェローリアって言葉が浮かんだんだ。で、ヴェローリアとはなんなのか考えた。女の子の名前っぽくもあるし、ベロアっていうのはビロードの一種でもある。それで、ベロアのような肌を持った女の子ってのはどうだって思ったんだ。とてもSFしてるよね。〔‥‥〕彼女はベロアに覆われていて、僕は彼女とタイムトラベルをして海や渚を渡る。つまり、ヴェローリアという名前を得たことから、僕は彼女のSF的なキャラクターをクリエイトしなければならなくなって、彼女と恋に落ちたり、時を旅したり‥‥。総ては僕がプレイしているゲームなんだ。これも、ピクシーズの現実逃避主義そのままだね。
    ブラック・フランシス 「クロスビート 1990年9月号」


  • ◎ Come On Pilgrim(4AD 1987)
  • 1986年、米マサチューセッツ・ボストンで結成されたPixiesは際物的で如何わしいイメージを纏っていた。8曲入りデビュー・ミニ・アルバムのカヴァ・アートは耽美的な英レーベルらしく、背中全体に毛の生えたスキンヘッド男のポートレイトで飾られていたし、下ネタや近親相姦を想わせる下世話な歌詞に満ちていたから。Black Francisの高音咆哮ヴォイスとリズム・ギター、Joey Santiagoの変態的なリード・ギター、Kim Dealのベースと可憐なコーラス、David Loveringのドラムスという編成の4人組はパンキッシュでありながらも、既成のロックから逸脱したウィアードな音楽を創り出す。北米の食用トナカイについて歌われる〈Caribou〉、享楽的なギター・リフが耳に衝く〈Vamos〉、スペイン語歌詞の〈Isla De Encanta〉、カリビアン風の〈I've Been Tired〉、アルバム・タイトルになった「Come on Pilgrim」という歌詞を含む〈Levitate Me〉‥‥。奇妙な妖精たちは本作で凡百のインディ・バンドと異なることを強烈にアピールしたのだ。

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  • ◎ Surfer Rosa(4AD 1988)
  • 上半身を露わにしたフラメンコ・ダンサーが仰け反って挑発的なポーズを取るデビュー・アルバムのカヴァには《Come On Pilgrim》と同じく、英国人写真家サイモン・ラーバレスティア(Simon Larbalestier)による額装されたポートレイトが使われている。踊子が「波乗り娘のローザ」なのかどうかは不明だが、Steve Albiniプロデュースによるデビュー・アルバムは「君は日本のファーストフード店で働いていた」(You were working Japanese fast food)と歌い出す〈Bone Machine〉から始まる。紅一点のKim Dealが歌う自作曲の〈Gigantic〉、スキューバ・ダイヴィング中の体験にインスパイアされたという〈Where Is My Mind?〉‥‥基本形はパンクだが、メロディアスに聴こえて来る。「ラウド・クワイエット」(loud-quiet)と称される動から静、静から動への起伏の変化はPixiesの音楽を特徴づけるものである。UK盤はCD化に際して《Come On Pilgrim》を後半に収録(カヴァ・アートはインナー・スリーヴに載っている)。新録された〈Vamos〉の前の短い会話が1曲としてカウントされているので、CDプレイヤ上では全22曲(54分02秒)と表示される。

  • ◎ Doolittle(4AD 1989)
  • Gil Nortonがプロデュースした2ndアルバムはタイトルとカヴァからヒュー・ロフティングの『ドリトル先生アフリカゆき』(The Story Of Doctor Dolittle 1920)を想い浮かべてしまうが、直接的な関連性は認められない。〈Debaser〉の中でルイス・ブニュエルの映画「アンダルシアの犬」(Un Chien Andalou 1929)に言及しているように、猿よりも犬、児童文学よりもシュルレアリスムが色濃く反映されている。女性トルソの上のスプーンと髪の毛、縄とバービー人形、心臓と蛇口、蟹と靴底、腰骨とハイヒール、手袋と鎖、鐘と歯など、サイモン・ラーバレスティアが撮ったインナー・スリーヴの写真も歌詞と関連づけられている。アルバム・カヴァの 「光輪サルと謎めいた数字(5、6、7)」も地球環境破壊や海洋汚染を憂いた〈Monkey Gone To Heaven〉の歌詞に依拠する。David LoveringがRingo Starrのように歌う〈La La Love You〉、Black FrancisとKim Dealが男女デュエットする〈Silver〉。過去2枚と同じく、アルバム・タイトルは〈Mr. Grieves〉の歌詞「Pray for a man in the middle / One that talks like Doolittle」から採られた。

  • ◎ Bossanova(4AD 1990)
  • 赤い地球の(土星のような)輪の上に「PIXIES」の文字、右上にあるモグラの写真の左に「Bossanova」というタイトル‥‥3rdアルバムはカヴァからしてリスナーの意表を突く。ゴシック&デカダンな4ADらしくないヴィジュアル・カヴァ。インナー・スリーヴにはメンバー4人のポートレイトまで載っているのだ。The Surftonesのインスト・カヴァ〈Cecilia Ann〉、パンクでハードな〈Rock Music〉、米ジャズ・ピアニストMose Allisonのことを歌った〈Allison〉‥‥。〈Monkey Gone To Heaven〉でオゾン・ホールに言及していたPixiesは灼熱の地球から逃れて宇宙へ飛び立ってしまったのだろうか。サーフ・ロックやスペース・ロックの浮游感は宇宙遊泳を想わせるが、〈Down To The Well〉で地下へ落下する。Black Francisは垂直に引き裂かれているのかもしれない。本作から〈Velouria〉〈Dig For Fire〉という2曲のヒット曲が生まれた。前者のヒロイン、ヴェルヴェットのような肌を持つヴェローリア嬢はトマス・ピンチョンの『V.』(1963)に出て来たとしても不思議じゃない。例によってアルバム・タイトルは〈Hang Wire〉の一節から採られている。

  • ◎ Trompe Le Monde(4AD 1991)
  • 白い砂地に碧眼が埋められたシュールなカヴァの4thアルバム。Pixiesはインナー・スリーヴに描かれているロケットに乗って「ルドンの眼球」が棲息する未知の惑星に着いたのかもしれない。サビで3拍子になるタイトル曲〈Trompe Le Monde〉(歌詞ではなく曲名が初めてアルバム・タイトルになった!)、The Jesus & Mary Chainのカヴァ曲〈Head On〉、Black FrancisとJoey Santiagoが在籍していたマサチューセッツ大学アマースト校について歌った〈U-Mass〉、「ロズウェル事件」を題材にした〈Motorway To Roswell〉‥‥。Eric Drew Feldman(キーボード、シンセ)の参加によってサウンドは分厚くなり、初期のパンキッシュでヘヴィなギターが炸裂している。その反面、Kim Dealのヴォーカリストとしての存在は希薄化した。アルバム・タイトルは仏語「トロンプ・ルイユ」(Trompe-l'œil)のモジリである(国内盤の邦題は《世界を騙せ》だった)。本作を最後にPixiesは1993年に解散する。Black FrancisはFrank Blackと改名してソロ活動に、Kim Dealはサイド・プロジェクトだったThe Breedersに本腰を入れて行く。

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  • ◎ Indie Cindy(Pixiesmusic 2014)
  • 2004年にオリジナル・メンバーで再結成されたPixiesはライヴ活動を続けていた。しかし、2013年にKim Dealが離脱してしまう。23年振りにリリースされたニュー・アルバムは、その後、吹っ切れたように発表された3枚のEP(全12曲)をコンパイルしたものである。2nd以降のアルバムを手掛けたGil Nortonのプロデュースだが、Kim Dealの抜けたPixiesはKim GordonのいないSonic Youthみたいで釈然としない。MBV(My Bloody Valentine)の22年振りのアルバムが歓迎されたのはシューゲイズというジャンルが現在も息衝いているからで、オルタナ〜インディ・ロックが主流となってしまった今日、Pixiesの存在意義を見出すのは難しい。1986年、地元紙に「Peter, Paul and MaryとHüsker Düの好きな女性ベーシスト求む」という募集広告を載せたPixies、宇宙へ旅立った妖精たちは地球へ帰還したのだろうか。米ピッチフォークの評価(2.5/10)は低すぎるけれど、Pixiesの「バック・カタログ」を纏めてレヴューした気持ちは分からなくもない。

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    Come On Pilgrim

    Come On Pilgrim

    • Artist: Pixies
    • Label: 4AD
    • Date: 2003/05/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Caribou / Vamos / Isla de Encanta / Ed Is Dead / Holiday Song / Nimrod's Son / I've Been Tired / Levitate Me


    Surfer Rosa

    Surfer Rosa

    • Artist: Pixies
    • Label: 4AD
    • Date: 2003/05/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Bone Machine / Break My Body / Something Against You / Broken Face / Gigantic / River Euphrates / Where Is My Mind? / Cactus / Tony's Theme / Oh My Golly / Vamos / I'm Amazed / Brick Is Red


    Doolittle

    Doolittle

    • Artist: Pixies
    • Label: 4AD
    • Date: 2003/05/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Debaser / Tame / Wave Of Mutilation / I Bleed / Here Comes Your Man / Dead / Monkey Gone To Heaven / Mr. Grieves / Crackity Jones / La La Love You / No.13 Baby / There Goes My Gun / Hey / Silver / Gouge Away


    Bossanova

    Bossanova

    • Artist: Pixies
    • Label: 4AD/Elektra
    • Date: 2003/05/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Cecilia Ann / Rock Music / Velouria / Allison / Is She Weird / Ana / All Over The World / Dig For Fire / Down To The Well / Happening / Blown Away / Hang Wire / Stormy Weather / Havalina


    Trompe Le Monde

    Trompe Le Monde

    • Artist: Pixies
    • Label: 4AD
    • Date: 2003/05/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Trompe Le Monde / Planet Of Sound / Alec Eiffel / The Sad Punk / Head On / U Mass / Palace Of The Brine / Letter To Memphis / Bird Dream Of The Olympus Mons / Space (I Believe In) / Subbacultcha / Distance Equals Rate Times Time / Lovely Day / Motorway To Roswell /


    Indie Cindy

    Indie Cindy

    • Artist: Pixies
    • Label: Hostess Entertainment
    • Date: 2014/04/29
    • Media: Audio CD
    • Songs: What Goes Boom / Greens And Blues / Indie Cindy / Bagboy / Magdalena 318 / Silver Snail / Blue Eyed Hexe / Ring The Bell / Another Toe In The Ocean / Andro Queen / Snakes / Jaime Bravo

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