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リップ・リグ+リパニック [m u s i c]



  • ザ・ポップ・グループの熱烈なフリー・ジャズ派、ブルース・スミスとギャレス・セイガーは、ローランド・カークの古いアルバムからバンド名を取って、リップ・リグ&パニックを結成。彼らはインタヴューに 「キャット」 「ディグ」 「アウト・ゼア」 といったビートニクの言い回しを散りばめた。その音楽は奇妙におどけて浮かれ騒ぎ、跳ね回る。リップ・リグ &パニックは基本的に、ザ・ポップ・グループからレゲエの影響と政治性を引いたものだった。「その通り、音楽 "だけ" だった」 」と、スミスは言う。「シンガーさえいなかった。セイガーとピアニストのマーク・スプリンガーがマイクに向かってちょっとさえずるぐらいで、後になってネナが参加するまで、ヴォーカルは全くいなかったんだ」 」。音楽紙に載った初期の記事で、セイガーは遠回しにかつての仲間であるマーク・スチュアートをくさしている。「今こそ、くよくよ嘆いてばかりの奴らに肘鉄をくわせる時だ。俺は、なんていうか、不満を言いつつ同時に "イエー" と言ってるようなキャッツが好きなのさ」 」
    サイモン・レイノルズ 『ポストパンク・ジェネレーション』


  • The Pop Group(1978-80)はストイックな求心力ゆえ、高速回転する独楽のように幾つかのパーツに空中分解した。Mark Stewart & Mafia、Pigbag、Maximum Joy‥‥その中でもGareth Sager(ギター、サックス、キーボード、ヴォーカル) とBruce Smith(ドラムス、パーカッション)が中心となって結成したRip Rig + Panic(1981-83)はThe Pop GroupのDNAを受け継ぐバンドだった。元メンバーの2人にMark Springer(ピアノ、サックス、ヴォーカル)、Sean Oliver(ベース)、Neneh Cherry(ヴォーカル)などが集結したRip Rig + Panic(1981-83)はThe Pop Groupのポスト・パンク、ダブ、ファンクを核にフリー・ジャズやワールド・ミュージックなどが混じり合った自由度の高い音楽を指向した。英Cherry Redからリイシューされたリマスター盤(CD)はオリジナル・アルバムに7インチ・シングルや12インチ・ヴァージョンなどをボーナス・トラックとして追加収録した「エクスパンド・エディション」になっている。

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  • ◎ God(Virgin 1981 / Cherry Red 2013)Rip Rig + Panic
  • 豹に襲われる狒狒の写真をカヴァに使ったという衝撃のデビュー・アルバム(1stシングルの〈Go, Go, Go! (This Is It)〉で、獣の咆哮が聴こえるのは偶然か?)。Neneh Cherryの溌溂としたヴォーカルが弾けるオープニング曲〈Constant Drudgery Is Harmful To Soul, Spirit & Health〉、Gareth Sagerの攻撃的なヴォイスとノイズ・ギターが炸裂する〈Knee Deep In Shit〉、David Wrightのサックスによる〈Try Box Out Of This Box〉 、Neneh Cherryがラップ調で歌う〈Those Eskimo Women Speak Frankly〉、Mark Springerの静謐なピアノ曲〈The Blue Blue Third〉、Ali Up(The Slits)嬢が絶叫する〈Shadows Only There Because Of The Sun〉など。ヴォーカル曲にインスト曲を挿みながらハイ・テンションでフリーキーな演奏が繰り広げられて行く。The Pop Groupとの相違点は女性ヴォーカルと全編に渡ってピアノが入っていることだろうか。デジタル・リマスター盤にはオリジナル・アルバム全15曲にボーナス・トラックとしてシングル曲や〈Bob Hope Takes Risks〉の12インチ・ヴァージョンなど6曲が追加収録されている。

  • ◎ I Am Cold(Virgin 1982 / Cherry Red 2013)Rip Rig + Panic
  • ピカソの「アルチュール・ランボーの肖像」(Portrait d’Arthur Rimbaud 1960)を借用したカヴァが意表を衝く2ndアルバム。基本的に1stアルバムを踏襲したものだが、継父Don Cherry(トランペット、ヴォーカル、メロディカ)が参加することでフリー・ジャズ〜インプロヴィゼーションのインスト・パートが増し、養女Neneh Cherryのヴォーカル曲との対比が鮮明になった。リマスター盤は1曲目にアルバム未収録のシングル曲〈You're My Kind Of Climate〉(カヴァにはコクトーの「オルフェ」が使われていた)を置くことで、オリジナル盤の取っつき難さを緩和しているように思われる。トランペットやクラリネット、サックスなどの金管楽器だけでなく、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという弦楽器もサウンドに奥行きを与えている。ボーナス・トラックは3曲(オープニング曲を入れると4曲)と少ないが、オリジナル・アルバム(14曲)だけでも1時間もあったので、3枚のリマスター盤の中では最長の収録時間(78:33)となった。〈You're My Kind Of Climate〉と〈Storm The Reality Asylum〉の12インチ・ヴァージョンは超強力で、自然に躰も動き出す。

  • ◎ Attitude(Virgin 1983 / Cherry Red 2013)Rip Rig + Panic
  • Gareth Sagerの父親がドイツ人の捕虜から貰った「メンデルスゾーン歌曲集」のロゴを模したという3rdアルバム。12インチ2枚組(1st、2nd)ではなく、通常のLPでリリースされたこともあってか、コンパクトで引き締まった曲が並ぶ。インスト曲やインプロヴィゼーシ ョンが減ってヴォーカル曲が増えたのも特徴的で、全12曲中8曲がヴォーカル入り。〈Keep The Sharks From Your Heart〉や〈Beat The Beast〉など6曲でNeneh Cherry、〈Do The Tightrope〉〈Viva X Dreams〉の2曲でAndrea Oliver(後者はGareth Sageとデュエット)が歌っている。ボーナス・トラックは〈Do The Tightrope〉の12インチ・ヴァージョンや〈Beat The Beast〉の別ヴァージョンなど8曲を追加収録。前者はSoul II Soulにも通じる洗練や優雅ささえ感じられる。パンク、ダブ、ファンク、フリー・ジャズ、ワールド・ミュージック‥‥80年代にRip Rig + Panicが切り拓いた「ブリストル・サウンド」は90年代のMassive Attackやトリップホップへと繋がって行く。ちなみに風変わりなバンド名はRoland Kirkのアルバム《Rip, Rig And Panic》(1965)から採ったという。

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    必ずしもリマスター盤(CD)が高音質とは限らない。初期にCD化されたアルバムの多くはダイナミック・レンジも狭く、冷たく硬い音質だったが、ただ音量や音圧を上げれば良いというわけではない。たとえばRip Rig + Panicにも参加していたAri Up率いるThe Slitsのリマスター盤《Cut》(Island 2009)は音圧が高すぎて、ヘッドフォンで聴いていると耳が疲れる。しかもライヴ音源やデモ・トラックなどの30曲と抱き合わせた「デラックス・エディション」のみのリイシューだった。水増しリイシュー盤(2CD)とは言いたくないけれど、分厚くなったデジパック仕様もパッケージ・デザインとして美しいとは言い難い。オリジナル・アナログ盤(1979)はパンクの性急さとレゲエ / ダブの虚無感と脱力感が混じり合ったフレキシブルなサウンドだったのに、なぜプローデューサのDennis Bovellがリマスターしなかったのだろうか。Rip Rig + Panicのオリジナル・アルバム(1st、2nd)は12インチ2枚組でリリースされただけあってリマスター盤も高音質。メンバーのインタヴューを掲載したブックレット(12頁)も充実している。

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    • 輸入盤CD(Cherry Red 2013)が安くて、お買い得です^^

    • 国内盤CD3タイトルが「第16回 2013年 紙ジャケ大賞グランプリ」を受賞しました

    • 引用者の判断で誤植(?)を修正しました(ポップ・グループ→ザ・ポップ・グループ、リップ・リグ&ザ・パニック→リップ・リグ&パニック)
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    God(Expanded Edition)

    God(Expanded Edition)

    • Artist: Rip Rig + Panic
    • Label Cherry Red
    • Date: 2013/05/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Constant Drudgery Is Harmful To Soul, Spirit & Health / Wilhelm Show Me The Diagram (Function Of The Orgasm) / Through Nomad Eyeballs / Change Your Life / Knee Deep In Shit / Totally Naked (Without Lock Or Key) / Try Box Out Of This Box / Need (De School Y...


    I Am Cold(Expanded Edition)

    I Am Cold(Expanded Edition)

    • Artist: Rip Rig + Panic
    • Label: Cherry Red
    • Date: 2013/05/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: You're My Kind Of Climate (7” Version) / Hunger (The Ocean Roars It Bites) / Epi Epi Arp Woosh! / Another Tampon Up The Arse Of Humanity / Misa Luba Lone Wolf / Storm The Reality Asylum / Here Gathers Nameless Energy (Volcanoes Covered By Snow) / A Dog's Se...


    Attitude(Expanded Edition)

    Attitude(Expanded Edition)

    • Artist: Rip Rig + Panic
    • Label: Cherry Red
    • Date: 2013/05/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Keep The Sharks From Your Heart / Sunken Love / Rip Open, But Oh So Long Thy Wounds Take To Heal / Do The Tightrope / Intimacy, Just Gently Shimmer / How That Spark Sets Me Aglow / Alchemy In This Cemetry / Beat The Beast / The Birth Pangs Of Sprin...


    Cut(Deluxe Edition)

    Cut(Deluxe Edition)

    • Artist: The Slits
    • Label: Island
    • Date: 2009/10/22
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Instant Hit / So Tough / Spend, Spend, Spend / Shoplifting / Fm / Newtown / Ping Pong Affair / Love Und Romance / Typical Girls / Adventures Close To Home / I Heard It Through The Grapevine / Liebe And Romanze (Slow Version) / Typical Girls (Brink Style Dub) / Love ...


    ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984

    ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984

    • 著者:サイモン・レイノルズ(Simon Reynolds)/ 野中 モモ・新井 崇嗣(訳)
    • 出版社:シンコーミュージック・エンタテイメント
    • 発売日:2010/06/01
    • メディア:単行本
    • 目次:パブリック・イメージは俺のもの / すべての外側で / 制御不能衝動 / コントート・ユアセルフ~芸術と反芸術の狭間で身をよじる / トライバル・リヴァイヴァル~黒人音楽へのアプローチ / 自主制作疾風怒濤 / 戦闘のエンターテインメント / アート・アタック~英米アート・スクール出身バンドの心意気 / 未来に生きる / 一歩踏み出せ / メスゼティックス~ごちゃ混ぜ知的理論派の周辺 / さかさま産業革命 / フリーク・シー...

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