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水曜日のファナ(2 0 1 3) [r e w i n d]



  • ◎ M B V(MBV)My Bloody Valentine
  • 2013年2月の来日公演では聴衆に耳栓が配られたという元祖シューゲイザーによる22年振りの3rdアルバム。2012年5月にリイシューされたリマスター盤3種(1st、2nd、Ep's)が露払いになったのか、満を持しての新作である。デビューから四半世紀以上を経て古色蒼然どころか、「シューゲイザー」という1ジャンルを確立してしまったMBVのニュー・アルバムは良くも悪くも変わっていない。自主レーベルからのリリース、「YouTube公式チャンネル」で全曲試聴可という変化はあるけれど‥‥。当初は「オフィシャル・サイト」のみの限定販売(LP+CD+DLの3種)だったが、少し遅れてAamazonなどのネット通販や輸入CDショップ(リアル店舗)にも流通するようになった。見開きカード・スリーヴ(紙ジャケ仕様)、8頁ブックレット付きで、相変わらず歌詞は一切記載されていない。アナログ盤には同内容のCDが封入されているという。

    Kevin Shieldsがノイズの彼方から甘く囁く〈She Found Now〉、間奏で変拍子が一瞬入る〈Only Tomorrow〉、ビートレスの気怠い空間に揺蕩う〈Is This And Yes〉、ドリーミィなBilinda Butcherのヴォイスに魅了される〈If I Am〉、グラウンドビート風に揺れ動く〈New You〉、ドラムンベース風の〈In Another Way〉、ドカドカ喧しい6拍子のインスト曲〈Nothing Is〉‥‥一聴した時は平板で籠ったノイジーなサウンドにしか聴こえないけれど(マスタリングされていない?)、何回か繰り返し聴いていると次第に魅惑的なメロディが際立って来る。鬱蒼とした森の中で耳を澄ますと聞こえて来る野鳥の囀りや小動物たちの鳴き声のように。暴風雨の中から微かに聴こえる少女の歌声のように。森の中の精霊たちの囁き、海の中のセイレーンの誘惑‥‥それは夢の中の幻聴のように妖しく、甘美で麗しく、謎めいた予言や秘密のメッセージのようにも聴こえる。

  • ◎ SHAKING THE HABITUAL(Brille)The Knife
  • The Knifeはスウェーデン・ストックホルム出身の姉弟デュオ。濃いピンク地に緑色の文字とイラストという補色カヴァが誘蛾灯のよう妖しい光を放つ4thアルバムは12曲入りCDと13曲入り2CDの2種(ヴァイナル盤は3LP+2CD)がリリースされている。両者の違いは19分に及ぶ長尺ドローンの〈Old Dreams Waiting To Be Realized〉が収録されているか否かで、これを冗長に感じるかどうかで評価が別れるかもしれない。この種の男女デュオの例外に漏れず、女性をメイン・ヴォーカルに据えたシンセ・ポップだが、巷に溢れているドリーム・ポップとは乖離している。Karen Dreijer Andersonの押し殺したような呪術的ヴォイスはBjorkとKate Bushが地獄で合体して魔界転生した「魔女」のように思えなくもない。女シャーマンに導かれたリスナーは否応なくThe Knifeが創り出した不気味なダーク・ファンタジーの世界を彷徨うことになる。アルバム(2CD)にはコミックと歌詞を表裏に載せた特大ポスター2枚が付いている。

  • ◎ ENORMOUS DOOR(Ex)The Ex & Brass Unbound
  • エチオピアのサックス奏者Getatchew Mekuriaと共演したことで生じたフィードバック効果なのだろうか、それとも異種共闘音楽から生まれる化学反応なのか、The Exの共演アルバムには秀作が少なくない。結成30周年を区切りに引退したG.W. Sok(ヴォーカル)に代わって、Arnold de Boer(ヴォーカル、ギター)が加入した新生パンク〜エクスペリメンタル・バンドの新作はフリー・ジャズ界で知られるブラス奏者、Mats Gustafsson(サックス)、Ken Vandermark(サックス、クラリネット)、Wolter Wierbos(トロンボーン)、Roy Paci(トランペット)とのコラボ・アルバム。オリジナル4曲に加えて、Katherina(ドラムス)嬢が歌うエチオピアン・ガレージのカヴァ〈Belomi Benna〉、7"シングル曲の〈Our Leaky Home〉。《Catch My Shoe》(2010)に収録されていた〈Bicycle Illusion〉をブラス・ヴァージョンで新録、《Turn》(2004)の収録曲〈Theme From Konono〉の歌詞を変えてリメイクした〈Theme From Konono No.2〉も再演しているのだ。

  • ◎ SILENCE YOURSELF*(Matador)Savages
  • 漆黒に浮かび上がる4人の女性のポートレイト・カヴァ、黒地に白抜き文字の9つ折り歌詞カード‥‥ロンドンで結成されたポスト・パンク・バンドのデビュー・アルバムはモノクロの意匠を纏っている。冷凍保存されていたJoy Divisionの遺伝子を組み換えて(性転換させて?)30数年後に甦ったかのような硬質で禁欲的なサウンドに鳥肌が立つ。黒く渦巻く内省的な情念が閃いて爆発するのだ。ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』(1954)から採ったというバンド名「蛮族」(savages)にも驚かされるが、ジョン・カサヴェテスの映画の中の台詞をサンプリングした〈Shut Up〉に始まり、短いインスト〈Dead Nature〉を挿み、クラリネットの鳴り響くバラード〈Marshal Dear〉で終わる全11曲38分はダイヤモンドのように超強度で隙がない。Jehnny Beth(フランス人)のスタイリッシュなヴォーカル、Gemma Thompsonの空間を引き裂くノイズ・ギターもクールでカッコ良い。

  • ◎ THE WEIGHING OF THE HEART*(Second Language 2013)Colleen
  • パリ生まれ、スペイン在住の女性アーティストColeen(Cécile Schott)の4thアルバム。歌詞カード(8頁)を中綴じした見開きブックレット・シリーズの1冊としてリリースされた(縦長の紙ジャケ仕様)。ギター、ヴィオラ・ダ・ガンバ、オルガン、ピアノ、クラリネット、トイ・ガムランなどが優しく奏でられる音数の少ないアクースティック・サウンドだが、最新のエレクトロニカ風に響く。《心の計量》と題されたアルバムの最大の変化は本人自らが歌っていることかもしれない。全11曲中、8曲で可憐なヴォイスを披露する。砂漠の小舟、夜空の大熊座、岸辺の貝殻、弓と矢、雨雲、睡る小鳥、風、夢見る猫、草原、月光、大鴉、犬頭狒々(dog-headed ape)などが描かれた心象風景としての半抽象画‥‥その澄み切った音響空間は電子楽器(エレクトロニクス)を使わないJulianna BarwickやGrouperなどを想わせる。

  • ◎ MAJOR ARCANA(Carpark)Speedy Ortiz
  • 米マサチューセッツ・ノーサンプトンで結成された4人組のデビュー・アルバム。最初は紅一点のSadie Dupuis(ヴォーカル、ギター)のソロ・プロジェクトだったが、マサチューセッツ大学アマースト校でMFA(美術学修士号)を履修中にMike Falcone(ドラムス)、Darl Ferm(ベース)、Matt Robidoux(ギター)が加入してバンド編成になったという。PixiesやHoleを想わせるグランジ風のインディ・ロックはノイジーでヘヴィだが(曲によってはピアノやウーリッツアーも入る)、いわゆる絶叫パンク・スタイルではないSadie嬢の可憐なヴォーカルのせいか、意外とポップに聴こえる。ノイズとポップの共存、静から動への緩急のつけ方はPixiesやNirvanaの遺伝子を継承している。それだけにバンドが一丸となって突進する時の破壊力は凄まじい。〈No Below〉の後半で炸裂するギター・ソロには痺れるし、2〜3分台の曲が続いた後で爆発するラストの7分にも及ぶ〈MKVI〉のインプロヴィゼーションにSpeedy Ortizの真骨頂が垣間見れる。

  • ◎ DERIVA(Kristoff Silva)Kristoff Silva
  • 《Em Pe No Porto》(Jardim Producoes 2009)から深化したアルバム。Kristoff Silvaのヴォーカルとギターに、Rafael Martini(ピアノ、ローズ)、Antonio Loureiro (ドラムス、ヴィブラフォン、パーカッション)、Alexandre Andres(フルート)という編成で、トランペット、サックス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴットの入ったチェンバー・ポップもあるが、他のミナス勢とは印象が異なる。変則ビートがドラムンベースへ雪崩れ込む〈Palavrorio〉、LenineやPrinceを想わせるファンクの〈Automotivo〉、エレクトロニカ風の〈Avida〉‥‥。共同プロデューサのPedro DuraesやKristoff Silvaがプログラミングやサンプラーを使用しているだけでなく、未来志向というか、プログレッシヴなサウンドを目指すという気概が感じられるから。ラストのアルバム・タイトル曲〈Deriva〉は胸に沁み入る。ロシア人の海中写真家アレクサンダー・セミョーノフ(Alexander Semenov)の作品をモチーフにしたアルバム・カヴァには前作の「フェイス・コラージュ」の痕跡(唇やイラストの一部)が残っている。

  • ◎ LOUD CITY SONG*(Domino)Julia Holter
  • Julia Holterがベッドルームから抜け出して都会の雑踏へ歩み出た3rdアルバム。現代ではなく過去へタイムスリップ。彼女の幻視する時代はコレットの小説「ジジ」(Gigi 1944)やミュージカル映画『恋の手ほどき』(1958)に描かれた19世紀末パリのレストラン「マキシム」の情景(ゴシップ・イラスト週刊誌「ジル・ブラース」も登場!)だったり、ホーン(管楽器・警笛)に囲繞された閉所恐怖症的な世界だったり、渓谷の樹々と会話する「緑の荒野」だったりする。外界とのセンシティヴな交感は《Ekstasis》(Rvng 2012)にも引用されたヴァージニア・ウルフ的である。 Barbara Lewisの〈Hello Stranger〉(1963)のカヴァを含む全9曲(〈Maxim's〉は2ヴァージョン収録)はCole Mardsen Greif(Ariel Pink)との共同プロデュース。Julia Holterのキーボードにベース、パーカッション、トロンボーン、サクソフォン、ヴァイオリン、チェロが鳴り響くサウンドはノスタルジックでファンタジック。彼女の高音ヴォイスも時間遡行して若返ったように聴こえる。英WIREの年間ベスト・アルバム(2013 REWIND)で第1位に選出された。

  • ◎ R PLUS SEVEN*(Warp)Oneohtrix Point Never
  • Oneohtrix Point NeverはNYブルックリンを拠点に活動するダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin)のソロ・プロジェクト。《Replica》(Software Recording Co. 2011)の髑髏カヴァ‥‥手鏡に映った吸血鬼の真の姿は鬼面人を驚かす(リスナーを限定する)類いのものだったが、悪趣味なヴァージル・フィンレイ(Virgil Finlay)のモノクロ・イラストから一変して、スイスのアニメ作家ジョルジュ・シュヴィツゲベル(Georges Schwizgebel)の映像作品から採った4thアルバムのカヴァは万人受けしそうな空気感に満ちている。パイプ・オルガンの荘厳な響きから始まり、加工されたヴォイス、シンセ・ノイズ、琴、獣の唸り声(?)、クワイア、小鳥の囀りなど‥‥様々な音源をサンプリング〜コラージュして、アンビエント、ドローン、エレクトロニカ、エクスペリメンタルとも言い難いIDM(Intelligent Dance Music)を創り出す。雑多なコラージュや静謐なアブストラクトというよりも、あるべき場所に精確に配置されたカンディンスキーの半抽象画を鑑賞しているような驚きと愉しさがある。

  • ◎ WED 21*(Clammed Discs)Juana Molina
  • アルゼンチン音響派歌姫の6thアルバムはセルフ・プロデュース。ギターだけでなく、全ての楽器を彼女1人で演奏しているという。パーカッシヴなギターが撥ねる7拍子の〈Eras〉、アナログ・シンセが変態的にブヒョブヒョと鳴る〈Lo Decidi Yo〉、間奏でサックスが荒れ狂う6拍子の〈Las Edades〉‥‥。白昼夢の中を彷徨っているような超現実的な陶酔感に包まれるが、ビートの強調された曲には高揚感もある。多重録音されたヴォイスと反復するループの交錯‥‥聴き込むほどに浮遊するヴォーカルと摩訶不思議なサウンドに幻惑されて身も心も蕩けてしまいそう。「青いリボン状の衣裳を纏った女」(Juana Molina)の顔はのっぺらぼうで、目・鼻・口が「へのへのもへじ」のようにアルバム・タイトル文字「W・E・D・21」に置き換えられている。英ドミノ(Domino)からベルギーのクラムド・ディスク(Clammed Discs)にレーベルを移籍しても、素顔を隠したアルバム・カヴァ「ヘン顔の女たち」は踏襲されている。

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    Alexandre Andres、Yo La Tengo、Foxygen、Grouper、Iceage、Nick Cave & The Bad Seeds、Joana Queiroz Quarteto、Hookworms、Waxahatchee、Rachid Taha、Jessica Pratt、Aoife O'Donovan、Baths、Julianna Barwick、The Julie Ruin、Fuzz、Volcano Chior、Mazzy Star、Laurel Halo、Wazzabi‥‥などが候補だが、まだ聴き切れていないアルバムも残っている。国内外音楽メディアの年間ベスト・アルバムを眺めていて感じたのは英米追従が良いとは思わないが、「日本の洋楽」も空洞化しているのではないかということ。MBVの国内盤がリリースされなかったのは象徴的な出来事だった。インディーズからメジャーへ移籍というサクセス・ストーリが崩れ去って久しい。インディ・レーベルをコントロール出来なくなったメジャー・レコード会社はビッグ・ネームの新作や評価の定まった旧譜を手を替え品を替えて出すしか能がない(逆に弱小インディ・レーベルから国内盤や流通盤が出たりする)。その結果、邦楽(J-POP)しか聴かない、国内盤しか買わないというガラパゴス化した音楽リスナーの棲息する国(というか島?)になってしまった。

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    Wed 21

    Wed 21

    • Artist: Juana Molina
    • Label: Crammed Disc Us
    • Date: 2013/10/29
    • Media: Audio CD
    • Songs: Eras / Wed 21 / Ferocísimo / Lo Decidí Yo / Sin Guía, No / Ay, No Se Ofendan / Bicho Auto / El Oso De La Guarda / Las Edades / La Rata / Final Feliz


    MBVShaking The Habitual: Deluxe 2CDEnormous Door

    Silence YourselfWeighing Of The HeartMajor Arcana

    DerivaLoud City SongR Plus Seven

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    sknys

    ALTERNATIVE WAVERS 2013 BEST ALBUMS
    1. My Bloody Valentine - M B V
    2. Veronica Falls - Waiting For Something To Happen
    3. Haim - Days Are Gone
    4. Fuzz - Fuzz
    5. Sigur Ros - Kveikur
    6. The Knife - Shaking The Habitual
    7. The Pastels - Slow Summits
    8. Factory Floor - Factory Floor
    9. Sean Nicholas Savage - Other Life
    10. Prefab Sprout - Crimson / Red
    http://blog-ia-rock.diskunion.net/Entry/524/
    by sknys (2014-01-11 19:46) 

    sknys

    LINUS' BEST 10 DISCS OF 2013
    1. Oneohtrix Point Never - R Plus Seven
    2. Baths - Obsidian
    3. DJ Koze - Amygdala
    4. Volcano Choir - Repave
    5. Holden - The Inheritors
    6. Tim Hecker - Virgins
    7. Superchunk - I Hate Music
    8. Moshimoss - Endless Endings
    9. Gold Panda - Half Of Where You Live
    10. The Haxan Cloak - Excavation
    http://www.linusrecords.jp/user_data/best20_2013.php
    by sknys (2014-01-13 01:16) 

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