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私物目潰し [p a l i n d r o m e]



  • 神もマルクスもジョン・レノンも、みんな死んだ。とにかく我々は腹を減らせていて、その結果、悪に走ろうとしていた。空腹感が我々をして悪に走らせるのではなく、悪が空腹感をして我々に走らせたのである。なんだかよくわからないけど実存主義風だ。/「いや、俺はもう切れちゃうよ」と相棒は言った。簡潔に言えばそういうことになる。/ 無理もない、2人とももうまる2日水しか飲んでいなかった。一度だけひまわりの葉っぱを食べてみたが、また食べたいという気にはなれなかった。/ そんなわけで我々は包丁を持ってパン屋にでかけた。パン屋は商店街の中央にあって、両隣は布団屋と文房具屋だった。パン屋の親父は頭のはげた五十すぎの共産党員だった。店の中に日本共産党のポスターが何枚も貼ってある。/ 我々は手に包丁を持ち、商店街をゆっくりとした足取りでパン屋まで歩いた。『真昼の決闘』みたいな感じだった。ゲイリー・クーパーをやっつけにいくアウトローたち。歩くにつれてパンを焼く匂いがだんだん強くなっていった。そして匂いが強くなればなるほど、我々の悪への傾斜の度合いも深まっていった。パン屋を襲うことと共産党員を襲うことに我々は興奮し、そしてそれが同時に行なわれることに無法な感動を覚えていた。
    村上 春樹 「パン屋を襲う」


  • □ 西内まりや箸褒め梅干し、流行り街・宇治に
    福岡県出身の西内まりやちゃんは大の梅干し好き。バックの中に入れて持ち歩いているほどで、梅干しがなくなると直ぐに買い足して補充するという。「日の丸弁当」といえば赤貧洗うがごときビンボーの代名詞だったが、「長屋の花見」で卵焼きの代用品だった沢庵と同じく、今日では梅干しも高級食品と化している。手づかみで食べるのは行儀が悪いし、衛生上の良くないということで、ドラマの撮影で京都へ行った時に漆塗りの箸を一膳購入した。お気に入りのマイ箸で食べる梅干しの味は格別らしい。でも酸っぱいから口の中を中和する飲み物が欲しくなる‥‥というわけで、まりやのマイブームは緑茶、それも今流行りの宇治抹茶である。今度京都へ行ったら、宇治市まで足を伸ばして抹茶を買って来たい。梅干しの酸味を和らげるのは甘味ではなく、お茶の渋味だったのだ。深紅と薄緑のコントラストも美しい。そうなるとマイ箸だけでなく、マイ急須やマイ湯呑み、マイ箸置きも揃えたくなっちゃう。意外と古風なところのある「まりやまにあ」だった。

    □ ウソ悔やむ野ギツネが鐘撞き飲む薬草
    狼が来た。ゴジラ来襲。UFOと遭遇!‥‥などと幼い頃から嘘八百を並べ、数々の法螺を吹いて来て、森の動物から呆れられていた野ギツネは悔んでも悔み切れなかった。数年前、鎮守の森の稲荷神社の権現狐から厳しく叱咤されたことを契機に猛省して、心を入れ替えたつもりだったのに森の動物たちの誰からも信用されない「嘘つきキツネ」の烙印を押されたままだった。それでも野ギツネは改心したことを身を持って示そうと、毎晩火の見櫓の上で周囲に異変がないかどうか見張りを続けていた。ある夜、北の森から真っ赤な炎が上がった。「これは一大事!」‥‥無我夢中で鐘を撞き、警鐘を打ち鳴らす野ギツネ。しかし、また人騒がせな「嘘つきキツネ」の仕業に違いないと思い込んだ動物たちは完全無視して、鬱蒼とした森の中からはリスの子1匹姿を現わさなかった。痺れを切らした野ギツネは権現さまから戴いた特効薬、万が一窮地に陥った時に服用しなさいと手渡された薬草を口に含む。この秘薬が奇蹟を起こしてくれると信じて‥‥。

    □ しくしくライオン、懲りて離婚、老いらく忸怩
    野生動物のトップの座に君臨する「百獣の王」も端から見るほど楽じゃない。オス・ライオンには悲しい末路が待っているのだから。体力も気力も有り余る壮年期はリア充していたのかもしれないが、哺乳類に限らず生きものは年を重ねるに連れて次第に弱体化して行く運命に逆らえない。ある日、擡頭して来た若いオス・ライオンとの死闘に敗れて群れから追放されてしまう。メス・ライオンからも三行半を突きつけられてホームレスとなったオス・ライオンは孤独に苛まれる独居老人のように痛々しい。今では古傷やインポ、慢性的な腰痛や関節痛などで満身創痍。まさに老醜の極みじゃが、これでも若い頃はメスたちにモテモテで、結婚してからも独身時代と変わらず女遊びに耽っていたものよ。浮気がバレて女房に半殺しにされたこともあったよなあ。恐妻だけでなく、可愛い娘たちにも愛想を尽かされて離婚を余儀なくされたのじゃ‥‥と、過去の栄華を未練がましく回想する老ライオンは遠い目をしてサバンナの夕暮れを眺めていた。

    □ 利発サバ猫、良い子、根はサッパリ
    IQ160の天才仔猫ガミッチほどではないけれど、黒、灰、白色が綺麗なグラデーション模様を織りなす鯖猫サヴァは賢い雄ネコである。性格も素直で、青空に浮かぶ白い雲のように気持ち良い。毎日午後になると家から外へ出て、テリトリー内をパトロールする。花壇の赤い花の匂いを嗅いだり、緑の葉っぱを齧ってみたり、木肌や板塀で爪をバリバリと研いだり、空を飛ぶ小鳥を見上げたり、地面に寝転がってゴロニャンしたり、後脚を垂直に立てて一心不乱に毛繕いをしたり‥‥。サヴァが路地の先を注視していると、一呼吸置いて人や犬が姿を現わす。感度の良いネコの耳は人間には聴こえない音も感知出来るのだろう。目の前を通り過ぎる歩行者や散歩中の犬を注意深く見つめていたかと思うと、次の瞬間には興味をなくして何事もなかったように別の行動に移る。その自由気儘、天真爛漫さが羨ましい。縄張りを巡回した後、使われなくなった古井戸やエアコンの室外機の上など、お気に入りの場所へ辿り着くと寛ぎタイム。くるりと前肢を胸の内側に隠してリラックスするにゃん。

    □ 散文、漢文、地理、チンプンカンプンさ
    俺は高3の受験生。音楽や美術は得意だが、現国や古文は大の苦手科目。数学の成績も芳しくない。それなら芸術系の大学に進学すれは良いじゃないかと思うかもしれないけれど、好きなだけに自分の限界も分かっている。俺よりも才能に恵まれた高校生は大勢いるし、音楽や美術は趣味として愉しみたいと思っている。面白くもない小説やエッセイの一部を強制的に読まされて、その主旨を何文字以内で要約せよとか、棒線部分の文章の意味を選択肢の中から選んだり、著者の言わんとしていることを推察したりする現代国語の設問はバカバカしくて全く回答する気にもならない。出題文に対する批評ならば幾らでも長く書けるけれど、然して興味のないテーマや相容れない意見を無条件に受け入れるのは苦痛に近い。もっとも現国の試験問題に大江健三郎の「稀有の強度を持つ日本語で書かれた小説」「セヴンティーン」(1961)が出題文として採用されれば話は別だけれどね。縦に並んだ漢字列を下がったり上がったりして読解する漢文も珍紛漢紛だし、地名や場所を暗記するだけの地理も地図上の記号のような無味乾燥なものにしか見えない。

    □ 渋々爪弾く僕、暇つぶし節
    僕はギター1本を肩に担いで日本全国各地を旅歩く自称SSW(自作自演歌手)。秋の紅葉前線に沿って名所を巡る予定だったが、運悪く大型台風の日本列島縦断とシンクロしてしまった。外は強風と大雨の大嵐で、東北地方の安宿に丸2日も足止めされている。今は台風一過を黙って遣り過ごすしかない。気圧も下がり、湿度も高くなって来た。黴臭く辛気臭い室内では気分も次第に落ち込んで来る。ダウナーな気分で気乗りしないが、憂さ晴らしにギターの弾き語りで1曲歌ってみようか。こんな時に、いつも口を吐いて出てくるのは「木枯らしエレジー」だった(自作曲でないのが口惜しい?)。「待っても都電は来るもんか / 穴ぼこだらけのアスファルトに / なんでもないから、ならず者だってさ / 純情可憐なすれっからしだってさ」‥‥という歌詞が気に入っている。40年前のフォーク・ソング。当時既に荒川線以外の都電は全線廃止(1972)されていたので、待っていても都電は来ないのだ。

    □ 素肌で裸足の「きのこ女子」‥‥この木の下は出たはず
    今、キノコ・ブームが来ている。キノコ・グッズを蒐集したり、オリジナル・アクセサリー作りにハマる「きのこ女子」も繁殖中だとか。『少女系きのこ図鑑』(DU BOOKS 2012)や『きのこ文学大全』(平凡社 2008)など、キノコ本も続々と出版されている。『キノコの不思議』(光文社 1986)という手塚治虫などキノコ好きの著名人30名のエッセイを集めたアンソロジーもあったという。それから30年近くを経て「土中でひそかに増殖した菌糸が胞子をばらまくキノコを唐突に地上に出現させるように、ブームが立ち上がってきた」。兎の穴に落ちたアリスがキノコを食べると躰が小さくなったり大きくなったりしたように、キノコは幻覚作用のような不思議なパワーを秘めている。ある木の下に素肌を露わにした裸足の少女が現われるという。妖しく光るキノコの群生する森の中で1人遊ぶ美少女はキノコの妖精ではないかと噂されている。今日も妖精の姿を一目見ようと鬱蒼とした森の中へ入って行く「きのこ女子」が後を絶たない。

    □ 食いニヤリとキャンディーズのスー、移転、焼き鳥屋に行く
    キャンディーズのスー(田中好子)ちゃんは肉食系女子だった?‥‥東スポの紙面に若かりし頃のスーちゃんの秘蔵写真が載った。ラン(伊藤蘭)、スー、ミキ(藤村美樹)の3人娘がブレイクしたのはセンター・ポジションをスーからランに入れ替えてからのことだった。それ以降、〈年下の男の子〉〈ハートのエースが出てこない〉〈春一番〉〈やさしい悪魔〉〈暑中お見舞い申し上げます〉〈微笑がえし〉‥‥と、ヒット曲を連発するようになる。地元の商店街にあった焼き鳥屋が少し離れた場所に移転して新規オープンした。お店の常連客だったスーちゃんは当時多忙を極める身でありながら、新装開店日に駆けつけた。混雑した店内で愉しそうに焼き鳥を頬張るスーちゃん。写真には串を片手に持ってニッコリと微笑む姿が写っている。キャンディーズが名実共に国民的アイドルの座に駆け上がった頃の懐かしいスナップ・ショットである。

    □ 品増しニセ車海老は冷え丸く背に縞なし
    安価なバナメイエビを芝エビや車海老、長ネギを九条葱などと表示してメニューに記載していた関西有名ホテルの食材偽装事件。ホテル側は作為的な「偽装表示」ではなく単なる「誤表示」だと主張したのだが、その後同じような食品・食材偽装表示が全国各地のホテルやデパートに波及して、芋蔓式にというか、雨後の筍のように大量発覚することになった。調理前のエビならば姿形から違いは一目瞭然だが、整形加工してしまえば分かりっこないし、バカ舌の客には味の違いも分かるはずがないと舐めていたのか、その経済効率だけを優先させる経営体質はエゲツない(まあ、値段がバカ高いだけのホテルで食事をしようなどとは思わないけどね)。偽エビという濡れ衣を着せられて大量動員させられたバナメイエビたちの肩身も狭かったのではないかと道場を禁じ得ないし、意を決して内部告発した従業員の心中も察するに余りある。「エビのチリソース」の中の君たちは一体何エビなの?

    □ 留守、危険パン屋、血、間合いが近い。あまちゃん反撃する
    あまちゃん(能年玲奈)が地元商店街のパン屋さんでアルバイトすることになった。個人営業のパン屋としては珍しく夜遅くまで開店していることもあり、クラブ活動を終えて帰宅する学生や残業帰りのサラリーマンにはコンビニとは一味も二味も違う焼きたてのパンが食べられるとあって人気があった。ある夜、客足も途絶えた閉店間際の店内に2人組の男たちが入って来た。スキー・マスクを被り、手に包丁を握りしめた強盗、TVドラマや映画の中に登場するような典型的なギャング。ところが強盗の強奪しようとしたのは金銭ではなく30個の特製メロンパンだった。その意外な要求には1人で店番をしていたあまちゃんも「じぇじぇじぇ」と驚きの声を上げた。お金ならば兎も角、オラたちが丹精込めて焼いたメロンパンを奪おうとは笑止千万、徹底抗戦を決めた彼女は怯むことなく強盗たちとの間合いを詰める。あまちゃんの手に包丁が当たって指先から真っ赤な血が滴り落ちる。予期せぬ流血に驚いたのは強盗の方だった。次の刹那、あまちゃん怒りの回し蹴りが炸裂した。ダイエットを兼ねて習っていたキック・ボクシングが、こんなところで役立つなんて!‥‥じぇじぇじぇ。

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    まりやまにあ

    まりやまにあ

    • 著者:西内 まりや
    • 出版社:集英社
    • 発売日:2013/03/23
    • メディア:単行本(ソフトカバー)
    • 目次:すっぴんまりや in Hawaii / Private Style 100!! / Skin Care & Make-up / まりやの基本ヘアアレ / まりやBODYができるまで / Q & A 100!!!! / 1993→2013 まりやの歴史 / 西内まりおくんSpecial / Seventeen連載編「まりやまにあ」いっき見せ / Long interview


    パン屋を襲う

    パン屋を襲う

    • 著者:村上 春樹
    • イラストレーション:カット・メンシック(Kat Menschik)
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2013/02/28
    • メディア:単行本
    • 目次:パン屋を襲う / 再びパン屋を襲う / あとがき

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