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P A L I N D R O M E〔3 0 0〕 [p a l i n d r o m e]



  • みんながネットをやり始めるだろう、という大まかな方向性は明らかだったし、このビジネスに大きな資本が手を出すはずだとも思った。インターネットではプロバイダの接続でしか集金できないが、携帯端末ならばもっときめ細かく金が取れる。こういうものを企業家が見逃すはずがない。/ ところで、大衆はというと、とにかく「話が聞いてもらいたい」人ばかりである。もっといえば「相手にしてもらいたい」となる。掲示板では、書き込みができても、その反応はあまり表れない。誰もが勝手に自分の意見を書いているだけのことが多いからだ。そこで、ブログという日記書き込みシステムでは、コメントやトラックバックという余計な機能をつけた。そのうち、ブログに書くほどのコンテンツもないので、「つぶやき」だけになった。それさえもできないから、単にコピィするだけになる。/ ようするに、大勢の人たちは、その程度の発信しかしない。比率でいえば、90パーセントくらいの人は受信型人間であって、TVを見たり、音楽を聴いたり、本を読んだりということで満足ができる。ただ、ほんの少しつぶやいて、仲間がいることを確認できれば充分なのだ。
    森 博嗣 「つぶやきのクリーム」


  • ▢ 2時間ワイド、意外な展開、海岸で内科医とイワンが死に‥‥
    「土曜ワイド劇場」のパロディ回文。本家のTVドラマは冒頭の5分で殺人事件が起こる。犯人は配役を見れば一目瞭然だし、横目で流し見ていても途中からでもストーリの分かる作りになっているが、回文は迷宮探偵・綾取猫人と黒猫コロネが「2時間ワイド」に出演するという意外な展開!‥‥前代未聞のメタ・フィクションになっている。探偵と黒猫の名コンビがTVドラマに主演して探偵と黒猫役を演じるという2重構造。もちろん黒猫コロネは縫いぐるみでもCGでも着ぐるみ(ゆるキャラ)でもない。鎌倉の海岸で散歩中の探偵と黒猫に発見された首なし溺死体(内科医)と愛犬イワン(イタリアン・グレイハウンド)‥‥ペットの名前が「イワン」なのはイタリアのワンワンだからというのは少し苦しいかしら。謎の殺人事件が起こって、迷探偵と愛猫が登場する。解決編のないミステリ回文「綾取猫人と黒猫コロネの事件簿 4」です。

    ▢ 2人仲良し親しく5km。帰国した子女かなりタフ
    久々に再会した仲良し女子2人が空港から5kmの距離を一緒にジョギングするという趣向。「私」が帰国した親友を空港で出迎える1人称視点だが、たとえば彼女が自宅までの道程を「私」の運転するクルマに同乗するのでは面白くないし、回文の内容にもフィットしない。帰国した子女はタフなのだ。そもそも身も心も「強心臓」でなければ、NYで暮して行けないだろう。この回文の肝はランニング中に交わされる2人の気の置けない会話だったり、屈託のない笑顔だったりする。日本では帰国子女がイジメられるだけでなく、イジメが原因で自殺する生徒も後を絶たない。風を切って颯爽と走る彼女には「イジメ=自殺」という短絡的な行動や「自殺」ではなかったことにするとか、イジメの行為は確認出来なかったとか、イジメと「自殺」の因果関係は不明だとかいう隠蔽体質を吹き飛ばすパワーがある。「東京マラソン2011」に参加した彼女の次の目標は「NYCマラソン 2012」に出場することである。

    ▢ 素敵な萩尾望都さま、佐渡も沖は凪です
    萩尾望都(モーさま)のフルネーム回文は同時に佐藤史生(ド・サト)のニックネームも織り込んでいる。仲の良い少女マンガ家たちが多忙なスケジュールを調整して慰安旅行に出かけるという回文は2010年に亡くなった佐藤史生(享年57歳)と1980年に夭折した花郁悠紀子(享年26歳)を鎮魂する意味合いもある。台風一過で佐渡の海は静まったけれど、3・11以降の日本は国内外の荒波に揺さぶられている。山岸凉子との対談の中で萩尾望都は3・11の大地震で庭が波打ったと発言している。70年代の穏やかで清々しい回文に反して、21世紀の今日は「地殻変動」が起きている。一瞬で変わってしまった世界。後戻り出来ない社会。もし花郁悠紀子や佐藤史生が生きていたら、東日本大震災や原発事故を目の当たりにしていたら、どのような感慨を持っただろうか。萩尾望都の作品については〈トーマの深層〉〈ランプトンは語る〉〈望都と在りて〉、佐藤史生については〈1998年のコンピュータ・ゲーム〉〈死せる史生のための黒猫舞〉、花郁悠紀子については〈ポップトーンズ〉などを参照して下さい。

    ▢ MacBook Pro、子猫寝転ぶ、靴拭く妻
    MacBook Pro(マックブックプロ)と子猫のコラボレーション。マック・ユーザの「亭主」はMBP(Early 2011)の購入を見送ったらしいが、作者(sknys)はMBP(Late 2011)を買った(詳細は〈2011年のMacBook Pro〉)。前モデルの性能(CPUのクロックとHDDの容量)を高めて価格を下げたサイレントアップデートだったが、CTOでカスタマイズ(USキーボードとSSDに換装)することで理想的なノートブックとなった。ちなみにMac OS Xは Lion(10.7.4)のままで、Mountain Lion(10.8.2)にはヴァージョンアップしていない。MBPが梱包されていた空箱は子猫が入り込むのにピッタリの大きさ。2011年の秋冬はロングブーツの出番がなかったけれど、今年(2012)は再び流行るかしらと呟く妻。恐らく夫は光学式ドライヴを省いてストレージをSSD化した薄型軽量・高解像度ディスプレイの新MacBook Pro Retinaを購入するかどうかで悩んでいるはずである。

    ▢ 湯も湧かぬ‥‥君が温泉女将、鬼怒川燃ゆ
    「土曜ワイド劇場」のパロディ回文第2弾。「温泉若おかみの殺人推理」シリーズの主演は東ちずる。「鬼怒川温泉殺人事件〜温泉ルポ男優の失踪と謎の焼死体?」のゲスト出演者は温水洋一(温水洋二)で、たまたま旅館に宿泊していた綾取猫人と黒猫コロネの名コンビ、迷宮探偵と美人女将の推理くらべが始まる。コロネちゃんは猫族には珍しい温泉(風呂)好きのネコなのだ。昨今の温泉ブームの陰には、ぬるい温泉を火力で沸かしているのではないとか、水道水に入浴剤を入れただけというニセ温泉疑惑もあった。循環濾過方式風呂や偽装温泉については〈伊豆、ヒンシュク沸く湯‥‥神秘水?〉、風呂好きの子猫については〈キティがスパ入浴。薬用ユニ・バス快適〉という回文を作ったこともある。「温泉・風呂」と「回文」は案外相性が良いのかもしれない。「なぞなぞ回文 #22」として出題したミステリ回文(綾取猫人と黒猫コロネの事件簿 6)。

    ▢ 花畑摘みで見つけた花は?
    僅か15文字の短回文。一見簡単そうに思えるけれど、短いオリジナル回文ほど難しいものはない。これくらい短い方が逆に想像力の翼が羽撃く。中学生時代、自習時間に校庭の畑の境にあるシロツメクサの群生地で花飾りを編んでいたという萩尾望都の文章は『銀の船と青い海』(河出書房新社 2010)から引用した。「花の首飾り」(1968)の歌詞はファンから一般公募作品だったはず。清純な乙女たちが花畑の中で花飾りを編むイメージは60年代後半の「フラワー・ムーヴメント」を思い出させる。今年(2012)8月に亡くなったスコット・マッケンジー(Scott McKenzie)の〈花のサンフランシスコ〉(San Francisco (Be Sure to Wear Flowers in Your Hair) 1967)の甘いメロディが脳裡に浮かぶ洋楽ファンもいるかもしれない。スミレ、ハス、アネモネ、オミナエシ、ミモザ、サフラン、ナズナ‥‥少女たちが摘んだ花の名前を織り込んだ回文も作ってみたが、上手く行かなかった。

    ▢ 何とラベルは「毒薬」と貼るベラドンナ
    艶かしい姿態が蠢くカット、男女の躰が絡み合う濡れ場シーン‥‥実写版映画よりもアニメの方がエロティックなのかもしれないと思うのは『哀しみのベラドンナ』(1973)や『ピンク・フロイド ザ・ウォール』(Pink Floyd - The Wall 1982)のアニメ・イメージが強烈に残っているからだろうか。イタリア語で「美しい女性」を意味する多年草の植物「ベラドンナ」(Atropa belladonna)という名前は「女性が瞳孔を散瞳にさせるための点眼薬として、この実のエキスを使用したことに由来する」という。つまり「ベラドンナ」を点眼すると瞳孔が開いて「デカ目」美人になるわけだ。古来から「大きな目」が美女の条件の1つだったことは興味深い。「ベラドンナ」はマドンナのオルター・エゴ(黒魔女?)。自分の下卑たパクリキャラで大ブレイクしたレディZAZAを葬ろうと画策した「ベラドンナ」が一服盛って毒殺するという復讐劇になっている。

    ▢ 立つぞ、女くノ一20歳。落ちた8位の苦難襲った
    2人の女優がクランクイン前のハーフ・マラソンで対決する回文。女刺客あずみ(上戸彩)と上野甲賀忍者衆くノ一こずえ(栗山千明)はライヴァル同士。トレーニング中から互いに熱い火花を飛ばし合っていた。主演の上戸彩ではなく、栗山千明の1人称視点にしたのは映画『あずみ 2』(2005)の公開当時、彼女が20歳(1985年生まれ)だったから。上戸彩は19歳(1985年生まれ)だった。回文ストーリを考える過程で符合する、この種の偶然性は面白い。ところで60年代は今からは想像出来ないくらい空前絶後の忍者ブームだった。山田風太郎「忍法帖シリーズ」『忍者武芸帳』(1959-62)、『伊賀の影丸』(1961-66)、『隠密剣士』(1962-65)‥‥小説、劇画、少年マンガ、TVドラマなどのメディアで百花繚乱。当時の子供たちの遊びは「忍者ごっこ」と決まっていた。忍び同士の戦いで、敵の胸に触れた忍者がくノ一だと知る白土三平の劇画にはリアリティがあった。

    ▢ 北は廃炉のくすみ見て、ミミズク鈍い羽撃き
    3・11以降、東日本大震災〜福島原発事故に纏わる回文を幾つか作った。杜撰な安全対策が招いた放射能汚染に対して、怒りを込めて作った回文と言った方が精確かもしれない。同時に何故か「フクロウ」に取り憑かれて、絶妙のタイミングで出版されたデズモンド・モリスの『フクロウ』(白水社 2011)だけでなく、アラン・ガーナーの『ふくろう模様の皿』(評論社 1972)まで再読してしまった。作中の会話の中に出て来る「時計じかけのオレンジ」(a clockwork orange)という言葉はロンドン下町の古いスラングで、スタンリー・キューブリックが映画化した小説『時計じかけのオレンジ』(1962)を指すとは限らないらしいが、利発なグウィン少年がアンソニー・バージェスの小説を読んでいたという可能性も否定出来ない。いずれにしても、アラン・ガーナーは原作を読んでいるはずである。〈イケフクロウからかう六父兄〉というフクロウ回文もあるけれど、このミミズク回文の方が気に入っています。

    ▢ 未遂で事故死?‥‥奇面館。猫と5年間メキシコ・シティ住み
    ミステリ回文「綾取猫人と黒猫コロネの事件簿 10」は綾辻行人の「館」シリーズ第9作『奇面館の殺人』(講談社 2012)のパロディ仕立てになっている。中村清司の設計した屋敷で起こる殺人事件の謎をミステリ作家・鹿谷門実が解く「本家」に対して、パロディ・シリーズは綾取猫人が迷推理を披露するけれど、謎は決して解かれることはない(ただ相棒の黒猫コロネがニャンと鳴いて犯人を言い当てるだけである)。奇面館主人・影山逸史に招待された6人の客人たち。その中には黒猫コロネを抱く綾取猫人の姿もあった。主人や秘書、新人メイドの新月瞳子だけでなく、招待客全員が仮面を被っているという異常な会合。「4月の吹雪」で外界から閉ざされた館(1993年という設定なので、誰もスマートフォンやウルトラブックは携帯していない)。〈奇面の間〉で発見された縊死体は自殺未遂でも事故死でもなかった?‥‥鍵がかけられて脱げない仮面を被った6人の招待客の中に殺人犯がいる。ネコ回文になっているところも高評価(★★★★★)にゃのだ。

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    祝300回文記念。100回文の中からベスト10を自選・自作解説する〈PALINDROME 100〉の第3弾です。「PALINDROME #201〜300」の5つ星(★★★★★)の中から10篇を厳選しました。セレブ(フルネーム)回文が外れたのは完成度を度外視して無理矢理に作っているから。「なぞなぞ回文」が3つも選出されたのはクイズということもあり、気合いを入れて作っているからでしょうか。怪事件と迷推理はあるけれど、解決編のない「綾取猫人と黒猫コロネの事件簿」シリーズも3つ入っています。〈2時間ワイド〉と〈温泉若女将〉は「土曜ワイド劇場」のパロディ。改めて言うまでもなく、『奇面館の殺人』のパロディになっている〈未遂で事故死?‥‥〉は「猫」と迷宮探偵のハイブリット回文。ネコ回文にも力を入れていますが、コンスタントに作り続けるのは難しいですね。〈子猫寝転ぶ〉は大好きなネコとアップル(MacBook Pro)のコラボ回文‥‥合わせ技で1本みたいな?

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

    • 回文をクリックするとオリジナル・ストーリが読めます^^
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    つぶやきのクリーム(The cream of the notes)

    つぶやきのクリーム(The cream of the notes)

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2011/09/16
    • メディア:単行本(ソフトカバー)
    • 目次:何から手をつけたら良いのかわからない状態とは、なんでも良いから手をつけた方が良い状態である。/ 自慢する年寄りは、悲観する年寄りよりは長生きしてもらいたい。/ 天気予報は当たらないというが、これよりも当たる予報ってあるか?/ 愛国心のような集団性を持つことが、人間の社会の基本だろうか。しかし、その基本が争いを個人から集団へと...大きくする。/ 人の弱みにつけ込む最たるものとは、神である。


    奇面館の殺人

    奇面館の殺人

    • 著者:綾辻 行人
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2012/01/06
    • メディア:新書(ノベルズ)
    • 目次:プロローグ / 四月の吹雪 / 六人の招待客 / 未来の仮面 / 奇面の集い / 二重身の刻 / 眠りの罠 / 惨劇 / 閉ざされた仮面 / 同一性の問題 / 二重身の影 / 謎の交点 / 奇面館の秘密 / 暴かれる仮面 / エピローグ / あとがき

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