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ネコ・ログ #26 [c a t a l o g]

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  • トムはちょうど、かなり古い木の切り株の向こうがわに、頂上をむいて、ぺったりはりついていました。/ おばさんは、何秒か息をつめてから、いきなり、とびあがると、ぱっと手をのばし、何でもかまわずひっつかみました。/ 右手にひっつかんだのは、トムのしっぽでした。/ トムは、あばれました。ものすごい声をだしました。けれども、おばさんは、はなしません。はなすもんですか。/ おばさんは、両手で、しっぽをぎっちりつかまえ、ぬけてもかまわないと思って、ひっぱりました。そして、ひざの下に、トムの丸いからだを、しっかり押さえつけてから、あらためて、両手でにぎりしめました。/ トムはすきあらば、と、もがきましたが、おばさんの手は、もう鉄のわのように、トムの胴なかにはまってしまって、はなれませんでした。/ そして、髪はふりみだし、汗びっしょりになったおばさんは、それでも、めでたくトムを胸にだきしめて、1、2分ほどは動けないで、谷底のような鉱山町をふきぬける風に吹かれながら、目の下に見える、みどりの屋根の波をながめてすわってました。/「なんだろ、トムは。ばかトム‥‥。」と、おばさんは、くりかえしくりかえし、いっていました。
    石井 桃子 「山のトムさん」


  • ♯226│ソラン│飼い猫 ── 首輪の青いソランちゃん
    黒ネコのソランちゃんは「声」を憶えているのか、猫語で呼びかけると民家の立ち並ぶ狭い路に姿を現わす。家屋と家屋の間の文字通りのキャットウォーク‥‥躰を横にしないと通り抜けられない路地の裏にある古井戸の上で寛いでいることも少なくない。徐ろに立ち上がって目を瞠り、耳を澄ます。どこからかミャーミャーという甘い鳴き声が微かに聞こえて来るのだ。発信源はアパートの外階段を昇ったところにある角部屋の出窓で、子ネコが外に出たがって鳴いているのだった。窓には網が張られていて、声は通るけれど自由に出入り出来ない。若い女飼主は今しがた女友達と一緒に外出してしまった。ソランも独り置き去りにされてしまった子ネコのことが気になるらしい。一心不乱の毛繕いは遊ぶことに飽きたという意思表示なのかしら。キャットウォークを通り抜けて表通りに出ると、ブロック塀の上に垂直ジャンプ〜さらに軒の上に跳び乗ったまま降りて来る気配がない。

    ♯227│ヤナ│ノラ猫 ── 高感度番長襲名
    ネコ撮りカメラのミラーレス一眼(NEX-5N)は暗闇でもフラッシュなしで撮れることから「高感度番長」(ISO 25600)なる渾名がつけられた。別名「暗闇の帝王」ともネット上では呼ばれている。iPhotoの自動補正で明るく修整されているが、周囲が暗くても鮮明なネコ写真が撮れるのは驚きである。「闇夜のカラス」みたいなシチュエーションは兎も角(そもそも真っ暗闇では被写体の存在さえわからないではないか!)、過度の人工光に晒されている都会の夜の撮影では、フラッシュは不必要とさえ思ってしまう。ミラーレスを片手に携えて夜道を歩いていると、肉眼よりも液晶画面の方が鮮明だったりする。ヤナちゃんは「ネコ銀座」で有名な谷中ではなく、I袋駅前公園で撮ったものだが、アルちゃんと同じく余り見かけることのないネコだった。眉目麗しく毛並みも綺麗なので、近所の飼い猫ということも考えられる。

    ♯228│ニャゴ│ノラ猫 ── 猫町ニャーゴ
    空き地の隅で撮ったネコ写真だが、奥にある金網フェンスも背景の建物(左の民家と右後方のマンション?)も綺麗にボケている。ボケる背景とシャープな被写体。この地域一体を締めているボス・ネコ然とした精悍な面構えとの対比が面白い。少し離れたところで2〜3匹の子ネコたちも遊んでいたので、もしかしたら母ネコなのかもしれない。「あたしの可愛い子供たちを虐めたら承知しないよ!」‥‥と言わんばかりの必死の形相で睨んでいるのだろうか。尻尾を巻いて逃げ出さずに対決しようという闘争心が目から発散している。モーリーあざみ野の「ネコ町ナーゴ」は地中海に浮かぶ架空の島、ネコと人間たちが平和に共存する理想国だったが、現実世界の理想郷は一体どこにあるのかしら?‥‥危険極まりない「走る凶器」が停まっている駐車場などではなく、ただの空き地や公園、神社などが都会のネコたちのオアシスなのかもしれない。

    ♯229│アル│ノラ猫 ── 別名「暗闇の帝王」
    ヤナちゃんと同じシチュエーション(同時刻・同場所)で撮った1枚。顔の真ん中のマズル部分と胸、前肢が白いヤナに対して、アルちゃんは首(胸の上部)に白いネッカチーフを巻き、白ソックスを履いている。夜のネコは黒目が丸く大きくなるので、可愛さが200%アップ。沿線に沿った細長い形状のI袋駅前公園は裏手を痴漢発生率No.1という悪名高い埼京線が通っている。車道を隔てた通りにはコンビニや個室ヴィデオ店などが建ち並ぶ人通りの多い場所だが、トイレやベンチの設置された公園は人とネコとの憩い場だった。しかし、前にも書いたように公園は改装工事中で、地下駐輪場や水天宮神社などの一部を除いて白っぽいフェンスで覆われている。埼京線の車窓(新宿・渋谷方面行き列車)から塀の中の様子を垣間見れるが、その遅々として捗らない進行状況を目にする限り、果たして年内(2012)に完成するのだろうかという疑念が湧く。

    ♯230│マジ│地域猫 ── 魔法不思議猫?
    細長く尖った耳がウサギを想わせなくもないマジちゃんはS井開運稲荷に暮らしている。左頬が痩けたような左右非対称ネコの後を追い駆け、穴の中に落ちて不思議の国へ‥‥というアリスのようなファンタジックな展開にはならないけれど、どこかマジカルでミステリアスなツアーを期待させる不思議なネコである。iPhotoの「Straighten」で傾きを補正。左に写っている水色の物体はポリバケツです‥‥。閑話休題。米アニメの「トムとジェリー」や石井桃子の「山のトムさん」(1957)のように、英語では牡ネコのことをトム(tom)、あるいはトムキャット(tomcat)と呼ぶが、Panda Bearのアルバム・タイトルにもなっているトムボーイ(tomboy)は「お転婆娘」という意味に変わる。トムもボーイも「男」の属性なのに、2つ合わさると「女」に逆転してしまうところが可笑しい。男勝りの女を表わす「おとこおんな」という日本語に近いニュアンスだろうか。

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  • ある夜、S神井川に架かった橋の上に赤い消防車が停まっていた。火事なのかと思って周囲を見回したが、火災の気配は全くない。2人の消防隊員が橋の上からロープを降ろし、懐中電灯で川面を照らしている。火事場の野次馬たちは燃え盛る建物ではなく、橋の下を見ているではないか。何と川に落ちたネコを救出しているところだったのだ。ネコ1匹を救い出すのに消防車が出動するとは!‥‥幸い水嵩は少ないのでネコが流されたり溺れる心配はないようだ。しかし、ロープの先に結びつけた檻(網?)の中に入ろうとしない。1人の隊員が川底に降りて捕獲しようとするが、バシャバシャと水音を上げて必死に逃げる‥‥漸く捕獲した網袋の中のネコをロープで橋の上に引き上げると、ギャラリーから拍手が起こった。水に濡れて横たわったネコは捕まって観念したのか、ショックの余り身動き1つしない。俎板の鯉ならぬ、橋板の猫。警官に保護されて、夜のネコ救出作戦は無事終了した。

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    ♯231│ロン│ノラ猫 ── ふわふわロン毛にゃんこ
    大沢たかおが医学の歴史を調べたり、和久井映見が司書をしているTVドラマなどのロケ地にもなった「某区中央図書館」。赤レンガ図書館に隣接する防衛省駐屯地の黒い鉄柵の向こう側に長毛種のネコがいた。広大な敷地が陸上自衛隊に守られた安全地帯だと心得ているらしく、なかなか図書館裏手の遊歩道に降りて来ない。敷地内の木に登ったり、地上に降りた鳩や雀を狙ったりして気ままに過しているけれど、気が向くと図書館裏のベンチの上で寛いだり、植え込みの中に隠れて毛繕いをしていたりもする。この日は図書館の方へ降りて来る気配がないので、仕方なくカメラを鉄柵の中に入れて撮ってみた(右手前に写っているのが黒い鉄柵)。人懐っこくチャーミングな性格。ふわふわしたロン毛の肌触りが心地良い。近くの稲荷公園周辺には4匹のネコもいるという。図書館を訪れた際にはネコたちにも会ってあげてね。ロンちゃんは和久井映見よりも武井咲に似ているって?

    ♯232│レナ│飼い猫 ── 屋根の上に天敵が‥‥
    三毛猫は概して大人しい性格なのか、レナちゃんも内気でネコ・ハウスの中から出て来ようとしない。引きこもり状態になってしまったのは内向的な性質や冬の寒さのためだけというわけではないらしい。なぜならば白黒柄の悪ネコがレナ嬢を執拗に虐めるのだから。彼女の目線の先に天敵がいる。いかにも悪そうな面構え。可愛い女子児童を苛める悪ガキ大将みたいな白黒ネコが隣家の屋根の上から睨んでいるのだ。強面なのに人間に対しては用心深く、すぐ逃げてしまう。飼主も白黒ネコを叱ってやったというけれど、レナちゃんは戦々恐々の日々を送っているのかもしれない。ストレスの溜まる人間社会と同じく、ネコ同士の関係も大変だなぁ。イジメで不登校になったり、引きこもりになったりする生徒はいるけれど、自殺するネコがいないのは救いである。

    ♯233│セン│飼い猫 ── ネコは何でも知っている
    動物の形をした陶器製の蚊取り線香というか、丸い縫いぐるみのようなネコちゃん。白っぽい顔にエメラルド・グリーンの目が映える。アパートの建つ横道に屯しているところを目撃してから数カ月‥‥車道とテニスコートの間の植え込みに隠れているところを撮った。目の前を歩いている人間の視線は繁みの中に隠れているネコの姿を捉えることが出来ない。しかし、ネコたちは見えない場所から人間たちの行動を注意深く見張っている。ネコ撮り写真術の基本はネコの目線に合わせること。上から目線はネコに威圧感や恐怖感を与えるだけでなく、すぐに逃げられてしまう。「もし差し支えなければ、写真を撮らせて下さい」‥‥という身も心も低姿勢で臨むこと。おネコさまの機嫌を損ねないように細心の注意を払うこと。地面スレスレのロー・アングルの視点から世界を眺めれば新たな発見もあるかもしれない。夜空に煌めく星が何でも知っているように、ネコは何でも知っている?

    ♯234│ポニャ│ノラ猫 ── 猫もポロックじゃない。
    背景に溶け込むネコの色合い。S神井川緑地も落葉や枯葉色に染まる冬の夕暮れ時。まるでカメレオンや自然に擬態する昆虫のように姿を隠すポニャちゃん。「キャット・アート」の歴史。ニャネッサンス、バロック、新古典主義〈ニャオクラシック〉、ロマン主義、写実主義。印象派から抽象絵画への道は背景に溶けた被写体(ネコ)から生じたのかもしれない。ネコ美術評論家のウィスカー・キティーフィールドはジャクソン・ポニャックの〈No.9〉(1949)を「床に置いた大きなキャンバスの上をまるで熱いトタン屋根の上の猫のように、ピョンピョン飛び跳ねながら、ポニャックはさまざまな色のペンキをたらしていき、満足ゆくまで続けたと言われている。こうしてポニャックの抽象画家としての揺るぎない地位が確保されたのであった」と評している。もちろん、僕も猫もポロックじゃない。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第26集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、♯ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ230匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第26集の常連ネコはソランとレナちゃん。「山のトムさん」(1957)は戦後、北国の山間で開墾生活を始めたトシちゃんのお母さんと友達のハナおばさんの家へネズミ退治のために貰われて来た子ネコ、トムの物語。雑誌記者時代、知人の子供たちに「プー」を英語から日本語に訳しながら読み聞かせたという逸話もある石井桃子の体験に基づく話で、作者自身が「ハナおばさん」として登場する。改訂版(福音館書店 1968)の「あとがき」に「トムを哀惜する気もちで、心臓は重たくなったと思えたほどでした」と書いている。

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナルの横縦比は3:2ですが、サムネイルは4:3にリサイズしています

    • 〈魔女たちの饗宴〉から「RSS feed」が表示されない状態になっていた。「Q&A」には「記事に使用できない文字が含まれていることが原因の可能性があります」とある。記事内の怪しい文字列を削除することで復旧したが、該当文字は特定出来ない。「記事に使用できない文字」とは具体的に、どのような文字を指すのかしら?
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    山のトムさん

    山のトムさん ほか一篇

    • 著者:石井 桃子
    • 出版社:福音館書店
    • 発売日:2011/05/15
    • メディア:文庫
    • 目次:山のトムさん / トムをほめる歌 / トムの教育 / ネズミ / 子ネコ / 友だち / トムの記録 / トムのあだ名 / トムの病気 / トムの「おすわり」/ トムの冒険 / トムのおむかえ / トムのご出勤 / トム、町へいく / 山のクリスマス / あとがき / パチンコ玉のテボちゃん

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