◎ Piano Monstre(V2 2010)Babet森の中のグランド・ピアノから立ち現われた半透明のモンスターを見上げる女性。Dionysosのヴォーカル、ヴァイオリン奏者Babet(Élisabeth Maistre)のアルバム・カヴァはファンタジー映画のサントラを想わせる。Dionysosも、そのフロントマンであるMathias Malzieuも日本では無名に近いから、女性ヴァイオニストの2ndアルバムと紹介されてもピンと来ないだろう。しかし、Mathias MalzieuがOlivia Ruizのパートナーであり、DionysosのアルバムをSteve AlbiniやJohn Parishがプロデュースしていると言えば、洋楽リスナーの食指も動くのではないかしら。
《ピアノ怪獣》はピアノやヴァイオリンが森のざわめきや木々の間を吹き抜ける風の音のように流れるポップ・ソング集。Babetは全14曲中6曲で男性とデュエットしている(Mathias Malzieuもトリオ・ヴォーカルとして参加)。Dionysosのように過激でエキセントリックなところは殆どない。Mathias Malzieuの小説『La mécanique du cœur』(2007)とDionysosの同名アルバムを原作とした
『時計じかけの心臓』が2012年にリュック・ベンソンの制作で映画化されるそうなので、日本公開(小説の翻訳出版)されれば彼らの知名度も少しは上がるかもしれない。
◎ Victory Garden(Paper Bag 2008)Laura Barrettカナディアン女性SSWのアルバムからはギター・サウンドが払拭されている。ギターの代わりにカリンバ(親指ピアノ)の軽やかで心地よい響きが耳を優しく愛撫する。Laura Barrettはカリンバだけででなく、ピアノ、パーカッション、シロフォン、グロッケンシュピールを演奏する。ヴィブラフォン、マリンバ、ヴァイオリン、テルミン、オーボエ、ヴィオラ、バンジョー、ボンゴ、トロンボーン、トランペット、クラリネット、フルート、チェロ、オートハープ‥‥などが奏でる優雅で気怠くもある室内楽的なサウンドはロックやポップスの範疇から懸け離れている。浮世離れしたJoanna Newsomの系譜に繋がるSSWだろうか。6拍子や変則リズム、転調など、曲作りも凝っている。同じカナダ生まれのBasia Bulatとデュエットした〈Ferryland〉はカリンバとオートハープの競演。テルミンが揺らめく幽玄なインスト〈A Certain Major Vinylsky〉やミュージカル風の〈The Sharper Side〉もある。シークレット・トラックの〈Victory Mashup〉では実験的なアプローチも垣間見られる。
◎ The Babies(Shrimper 2011)The BabiesCassie Ramone(Vivian Girls)とKevin Morby(Woods)の2人が結成した4人組のデビュー・アルバム。2008年、Cassieが当時住んでいたブルックリンの小さなアパートメントにKevinが引っ越して来たことからThe Babiesは始った。2009年、Justin Sullivan(ドラムス)を加えて3人組となり、Nathan Stark(ベース)が加入する。11曲、約29分という収録時間が表わしているように、贅肉を削ぎ落して凝縮するアティテュードは潔い。男女ツイン・ヴォーカルとギター、ベース、ドラムスという編成のローファイ・ロック(DIY)だが、単にノイジーで騒がしいだけではない。Cassieの少女っぽいヴォーカルが愉しい〈All Things Come To Pass〉やパンク・ナンバーの〈Personarity〉、ダウナーな6拍子のバラード〈Wild 1〉など、意外と変化に富む。〈Caroline〉のクリアで乾いたギター・トーンはTelevisionを彷彿させる。Vivian GirlsはKaty Goodman(ベース)が
La Sera名義のソロ・アルバムをリリ-スするなど、サイド・プロジェクトが活発化している。
◎ Hunting My Dress(Vanguard 2010)Jesca HoopオリジナルUK盤
(Last Laugh 2009)のカヴァは黒地に浮かび上がるJesca Hoopの横顔(紙ジャケを見開くと紫色のチューリップが敷き詰められたインナー・スリーヴのスリットに同じチューリップをプリントしたCDが挿まれている)だったが、US盤は湖面に上半身を没した倒立女性の写真(天地逆)に変更されている。アメリカン・ゴシック風のカヴァは兎も角、ジャケ違いという目新しさだけに惹かれて購入したわけではない。米盤には5曲入りCD(BONUS EP)が付いていたのだ。〈Enemy〉はデビュー・アルバム
《Kismet》(Red Ink 2007)、〈Intligentactile101〉はアクースティックEP(2008)、〈Silverscreen〉はデモ盤(2004)の収録曲、〈My Boo〉はシングル盤〈Hunting My Dress〉のB面曲、〈Wintersong〉はBlake Mills(Band Of Horses)とのコラボ・ソングという興味深い選曲になっている。ちなみに6曲入りミニ・アルバム
《Snowglobe》(Stage Three 2011)には〈Silverscreen〉のアクースティック・ヴァージョンや〈Dreams In The Hollow〉の仏語版(Rêves Dans Le Creux)まで入っている。
◎ Carnaval So Ano Que Vem(Som Livre 2007)Orquestra ImperialMPB新世代トリオや音楽プロデューサのBerna Ceppasが中心となって結成された「宮廷楽団」は総勢19名の大所帯バンド。Thalma de FreitasやRodrigo Amaranteなどヴォーカリストだけでも男女合せて7人もいる。しかし、多くのミュージシャンたちが参加している割にはTimbaladaの大迫力やFunk Como Le Gustaの高テンションに欠ける。サンバ、ボサノヴァ、トロピカリア‥‥どこか南国情緒が漂うリラックスした趣きなのだ。観光客を脱力・弛緩させるリゾート音楽のようにも聴こえる。Kassin(ベース)とDomenico(ドラムス)の2人は裏方に回り、Moreno Velosoが父親譲りの優しく柔らかなヴォイスを2曲披露する。ファッション・デザイナーという肩書きを持つNina Beckerも2曲歌っているが、ラストの〈Supermercado Do Amor〉だけは躁的な変態趣味が全開で、眠気を誘う気怠い午後の憩いから目が覚める。国内盤
《カルナヴァル・ソ・アノ・キ・ヴェン》(2008)はブラジル盤(全11曲)に4曲追加、ライヴやインタヴューの特典映像も収録されているそうです。
◎ AM(Pazta 2008)Pablo Pazネット上で売られているアルバム(楽曲)だけが「音楽」じゃない。iTunesやAmazonで買えない音楽も世界には無数に存在する。ブエノスアイレスのマルチ奏者のアルバムもネット通販や有料配信サイトのカタログには見当たらない(かと言って、フリー・ダウンロード音楽でもない)。Pablo Pazのオカリナ、ギター、大太鼓(bombo leguero)、カシオトーン、太鼓(tambor)、コントラバス、バラフォン、サクソフォン、タンバリン、スペース・エコー、イーボウ(e-bow)‥‥などの楽器やエフェクターに最小限のミュージシャンが客演する。Alejandro Franov(ゴング、ウドゥ、ハイハット、アコーディオン)やEzequiel Borra(ドラム・タム)の名前を挙げれば察しがつくように、エレクトロニカ〜アルゼンチン音響派のアルバムということになるだろう。上記の2人が参加した〈Levantate〉と男女4人のアカペラ〈Es Candombe〉以外はインストだが、南米やアフリカの民族楽器とエレクトロニクスの混じり具合が新鮮で清々しい。
◎ Wunderland(Ata Tak 2005)PyrolatorPyrolatorことKurt Dahlke(DAF、Der Plan)の3rdアルバム(1984)に4曲を追加収録したリイシュー盤(全16曲)だが、リマスターされたのかどうかは定かでない。当時のアナログ・シンセ(Korg MS20)やデジタル・シンセ(DX-7)、エミュレータ(Emulator 1)を駆使した「ピロレータの不思議の国」で、いわゆるピコピコ・テクノとNYの動物園で録音したという野鳥の鳴き声や子供たちの歓声など生音の組み合わせがユニークで全く古さを感じさせない。Martin Dennyの曲をサンプリングしたというエキゾ趣味もある。ワンダーランドの動物たちを描いたミラン・カンク
(Milan Kunc)のイラスト・カヴァ‥‥バフォメット(?)、ニワトリ、イヌ、ワニ、ブタ、キツネなどの顔を被ったアヒル、カタツムリ、ヘビ、白い四つ脚動物たち(胴体しか見えないので種類を特定出来ない)を眺めているだけでも愉しくなる(黒ミサを司る悪魔の被りものをしてチェロを弾く動物の正体はシロクマかしら?)。アヒルちゃんが犬ではなく、ネコを被っていたら
「猫ジャケ」だったのに‥‥。
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新春恒例のクリアランスセールに行って来た。2011年は最悪のコンディションだったので、今回は体調に万全を期して臨むことにした。「強欲」は躰にも精神にも良くない。腹八分で止めておくのが賢い買い物。黄色いカゴの中に分捕った大量のCDやDVDを臆面もなく品定めしている薄汚い業者風の男たちの姿は見たくない。今年は遅れて会場に到着したためか、「WORLD」コーナーに目ぼしいブツは殆ど残っていなかった(タワレコ渋谷の入荷状況を鑑みると、最初からなかった可能性も高い)。年末のミニワゴン・セールで数枚をゲットしていたせいか、大船に乗った気楽な気分で膨大な「ROCK」コーナーを渉猟する。年末セールで購入済のアルバムも何点かあった。しかし、公称3万枚という「量」の割には「質」が伴わない。同じアルバムが何十枚も重複しているのだ。「WORLD」と「ROCK」から計10枚を厳選。これという掘り出し物はなかったけれど、まぁ、可愛い猫ちゃん
(ネコード)を2匹捕獲出来たので良しとしよう。
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clearance sale 1 / 2 / 3 / 4 / sknynx / 372
Piano Monstre
- Artist: Babet
- Label: Polydor Import
- Date: 2010/10/19
- Media: Audio CD
- Songs: Piano monstre / Les amouratiques / La couleur de la nuit / Je pense a nous / Ciel de soie / La chambre des toujours / Le miroir / Mexico / Laika / London inedite / Le bel ete / es yeux dans ce bar / Underwater song
Victory Garden
- Artist: Laura Barrett
- Label: Paper Bag
- Date: 2009/02/24
- Media: Audio CD
- Songs: Wood Between Worlds / Consumption / Spoiler Alert / Chidiya / Bluebird / A Certain Major Vinylsky / Ferryland / The Sharper Side / Space Seed: The Musical / Escape to the Sun Dome / Rien à Déclarer / To the Stars!
The Babies
- Artist: The Babies
- Label: Shrimper Records
- Date: 2011/02/15
- Media: Audio CD
- Songs: Run Me Over / Sunset / All Things Come to Pass / Voice Like Thunder / Meet Me in the City / Personality / Breakin' the Law / Sick Kid / Wild 1 / Wild 2 / Caroline
Hunting My Dress
- Artist: Jesca Hoop
- Label: Vanguard Records
- Date: 2010/07/27
- Media: Audio CD(2CD)
- Songs: Whispering Light / The Kingdom / Feast of the Heart / Angel Mom / Four Dreams / Murder of Birds / Bed Across the Sea / Tulip / Hunting My Dress // Enemy / Inteligentactile 101 / Silverscreen / My Boo / Wintersong
Metamorfoz
- Artist: Tarkan
- Label: Platinum
- Date: 2009/02/10
- Media: Audio CD
- Songs: Vay Anam Vay / Dilli Düdük / Arada Bir / Istanbul Agliyor / Hop Hop / Dedikodu / Bam Teli / Gün Gib / Çat Kapi / Pare Pare
Carnaval So Ano Que Vem
- Artist: Orquestra Imperial
- Label: Som Livre
- Date: 2007/08/13
- Media: Audio CD
- Songs: O Mar E O Ar / Noa Foi Em Vao / Erecao / Jardim De Alah / Rue De Mes Souvenirs / Yarusha Djaruba / Era Bom / Salamaleque / Ela Rebola / De Um Amor Em Paz / Supermercado Do Amor
AM
- Artist: Pablo Paz
- Label:Pazta
- Date: 2008/08/05
- Media: Audio CD
- Songs: Arco / El Tema Del Mundial / Presente / Leveantate / Lo Que Pasa / Es Candombe / Tema Delta / Arco Tostado / Casi Otono / Tolba / Mu / Se Levanto Y Ando / Desconfigurando
Wunderland
- Artist: Pyrolator
- Label: Ata Tak
- Date: 2005/03/29
- Media: Audio CD
- Songs: Im Zoo / Grosse Welt, Kleine Welt / Der Geruch Der Stadt / Rush Hour In Singapore / Die Haengebrueckenbauer / Hals Dream / Am Morgen & Ein Spaziergang / Ein Herrenzimmer In Schottland / Blick Durch Eine Zeitlupe / Atlantisches Intermezzo / Gespraech Mit Der ...Erde / Passage To Melilla / Augenblick / Programm / Pisang / Abschied Von Einer Schoenen Zeit
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