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ラヴ・セクシー(1 9 8 8) [r e w i n d]



  • ◎ LE MYSTERE DES VOIX BULGARES(4AD 1986)
  • 「ワールド・ミュージック」という言葉からはブルガリアン・ヴォイスやパキスタン・カッワーリーなどの音楽が思い浮かぶ。どちらもライヴ(来日公演)で魅了されたことも大きいけれど、なぜか中東や東欧のイメージが強い。レゲエやジュジュなど、カリブ海やアフリカの音楽は70〜80年代に体験していたので、逆にミステリアスな音楽に惹かれたのかもしれない。耽美的な英インディ・レーベルを主宰するIvo WattsがPeter Murphy(Bauhaus)から入手した《Le Mystere Des Voix Bulgares》のテープは度重なるダビングによって音質が劣化していたらしい。しかし、高音質とは言い難いノイズのあるサウンドがヴェールに包まれた彼女たちの神秘姓を高めていた。ほぼアカペラで歌われる女声コーラスの不協和音や高周波ヴォイスが脳内を刺戟するのか、涙が止まらない。コーラスが途切れる無音時間が怖しい。このまま、いつまでもブルガリアン・ヴォイスの鬱蒼とした森の中を彷徨っていたいと思う。ワールド・ミュージックを標榜する「Real World」ではなく、4ADからのリリースだったことも感慨深い。

  • ◎ NAKED(EMI)Talking Heads
  • Talking Headsのラスト・アルバムはマンボ風の〈Blind〉で幕を開け、サルサ調の〈Mr. Jones〉へと続く。ホーンを導入したラテン〜アフロ・ミュージック色の濃いサウンドに意表を衝かれたファンも少なくなかったはず。Steve Lillywhiteとの共同プロデュース、パリ録音‥‥David Byrneが指向するワールド・ミュージックと3人のメンバーとの音楽性の齟齬や軋轢、乖離が生まれたのも頷ける。Johnny Marr、Brice Wassy、Mori Kante‥‥など、ゲスト・ミュージシャンも多彩で華やかだが、後半へ行くに連れてジャングルの奥地に迷い込んだ探険隊のように、泥濘に脚を捕られ、蔦や蔓に腕を絡まれて次第に泥臭くヘヴィになって行く。お気楽な観光旅行から前人未踏の冒険譚への暗転、トロピカルな青空も翳り爽やかな空気も澱む‥‥その後のソロ・アルバムのリリースや新レーベル「Luaka Bop」設立を想えば、David Byrneの方向性は揺るぎない確固たるものだが、Talking Headsとしては密林の中で道に迷ってしまったような印象が残る。3年後の1991年、彼らは公式に解散を表明することになる。

  • ◎ WHAT UP, DOG?(Fontana)Was (Not Was)
  • Was義兄弟の3rdアルバムのカヴァにはタイトルに引っかけた狂暴そうな犬を散歩に連れて歩く人物が描かれている。猛犬のイラストに反するかのように、初期のアナーキーなアヴァギャン度は控え目でオーソドックスなソウル・ナンバーが収録されている。それでも〈Out Come The Freaks〉の再演や大ヒットした〈Walk The Dinosaur〉(散歩に連れて歩くのは犬ではなく恐竜なの?)のクレイジーさには血沸き肉躍るし、〈What Up, Dog?〉や〈Dad I'm In Jail〉のジョークも笑える。ジャズ・ヴォーカルのMel Tormeなど大物ゲストを招いてリスナーを驚かせるWas (Not Was)‥‥今回は〈Wedding Vows In Vegas〉をFrank Sinatra Jr.が歌う。ライヴ仕立ての〈Can't Turn You Loose〉はOtis Reddingのカヴァ。《Are You Okay?》(1990)の後、義兄弟の仲が疎遠になって解散状態?‥‥Don Wasはプロデューサの道を歩む。彼のプロジェクトOrquestra Wasの《Forever's A Long, Long Time》(1977)を経て、Was (Not Was) は《Boo!》(Rykodisc 2008)で復活することになる。

  • ◎ CHALK MARK IN A RAIN STORM(Geffen)Joni Mitchell
  • Manu Katche(ドラムス)、Laury Klein(ベース)、Micheal Landau(ギター)というバンド編成によるアルバム。〈My Secret Place〉でデュエットするPeter Gabrielを筆頭に、Benjamin Orr、Don Henry、Billy Idol、Tom Petty、Willy Nelson‥‥という豪華絢爛たるゲスト・ヴォーカル(コーラス)が目立つけれど、同時にJoni Mitchellの個性も際立っている。彼女のヴォイスと変則チューニング・ギター、6拍子や3拍子のリズム変化、執拗に繰り返されるループ風のコーラスも効果的。サウンド面に気を取られていると不意打ちを喰らう。「Hiroshima cannot be pardoned!」という歌詞が強烈な〈The Tea Leaf Prophecy〉、「I'm a just a chalk mark in a rainstorm」というアルバム・タイトルに採られた一節を含む〈The Beat Of Black Wings〉‥‥。ゲフィン時代のJoni Mitchellはユニークな(売れない!)アルバムをリリースし続けたNeil Youngと同じく余り顧みられないが、「暴風雨の中のチョーク・マーク」のように容易く洗い流されたりはしない。

  • ◎ LOVESEXY(Paisley Park)Prince
  • P殿下の《Lovesexy》は全9曲45分のアルバムだが、CDをプレイヤーに入れると全1曲としか表示されない。「Songs are in a continuous sequence」という注意書きがCD盤面やスリーヴにあるように、各曲の頭出しが出来ない仕様になっていたのだ。小さくて扱い易い新光学メディアに対するアンチテーゼ?‥‥CDプレイヤーによっては手動でカスタム・インデックスを付けられる機種もあるが、ここは殿下の意向を尊重して1曲目から順に聴いて行くべきなのだろう(iTunesやAmazonでも全1曲扱いなのかしら?)。1980年代の殿下は才気漲り、冴まくっていた。時代の最先端どころか1〜2年先の未来を疾走していて、最新アルバムはリリース後、1〜2年経ってから真価を発揮することも稀ではなかった。Jean Baptiste Mondinoが撮った殿下のフル・ヌード・カヴァ(少女マンガのヒロインみたいに百合の花を背負っている)。〈"Eye" No〉("Eye" が眼になっている)、〈When 2R In Love〉〈I Wish U Heaven〉というように、元祖絵文字や当て字を使った曲タイトルや歌詞のデザインやロゴなども含めて、お洒落でカッコ良かった。

  • ◎ LIFE'S TOO GOOD(Elektra)The Sugarcubes
  • アイスランド産の「角砂糖」はBjorkが在籍していたことでも知られるパンク〜ニューウェイヴ・バンド。デビュー・アルバムのUS盤はUK盤(One Little Indian)にアイスランド語ヴァージョンやリミックス6曲を追加収録している。Einar Orn(トランペット)とBjork (キーボード)の男女ヴォーカルを擁する5人組だが、彼らの魅力がパンキッシュでエモーショナルなBjorkのヴォイスにあることは言うまでもない。〈Birthday〉〈Coldsweat〉〈Deus〉‥‥など、キャッチーで小気味良いヒット曲が並ぶ。ソロになってからのBjorkはロック・バンド編成の音楽を演らなくなってしまったので、この時代のストレートに感情が爆発するヴォーカル・スタイルは逆に貴重かもしれない。簡略化されたヌードの男女が踊るアルバム・カヴァには奇妙なところがある。なぜ男の股間に2本のペニスがあるのか?‥‥インナー・スリーヴ(歌詞カード)に描かれているメドゥーサの髪のように頭から6本のペニスが生えたヌード女も妖怪じみている。

  • ◎ SUBSTANCE(Factory)Joy Division
  • CD全盛時代になってもFactoryレーベルの情報量は相変わらず少ない。Peter Savilleのアート・ディレクションも清冽でシンプルなデザインに徹している(灰地に緑色のU字路みたいなロゴが「Substance」の頭文字「S」だと分かる人は少数派だろう)。New Orderの前身、Ian Curtis(ヴォーカル)の自殺によって解散を余儀なくされたJoy Divisionのシングル集(1977ー1980)はアナログ盤に7曲をプラスした全17曲‥‥1時間以上に渡って、お経のようなヴォーカルを堪能出来る。パンキッシュな〈Warsaw〉、暗黒のダブ空間でギターが官能的に蠢く〈Autosuggestion〉、不吉な呪文のように1度聴いたら耳に憑いて一生忘れられない念仏ヴォイスの〈She's Lost Control〉、代表曲の〈Love Will Tear Us Apart〉‥‥。初期衝動は紛れもなくパンクなのだが、ゴシック趣味や耽美的な内向性、エレクトロニクス、インプロヴィゼーション、エクスペリメンタルなどの要素が硬質な多面体を形成する。もう1つのオルタナティヴ‥‥後にポスト・パンクやポスト・ロックと呼ばれる音楽の萌芽がある。彼らが後進のバンドやミュージシャンに与えた影響は量り知れない。

  • ◎ GREEN(Warner Bros.)R.E.M.
  • 2011年9月に突然解散を発表したR.E.M.のメジャー移籍後初のアルバム。『グリーン』というタイトルに相反する枯れ葉色のアルバム・カヴァに辛辣なメッセージが隠されている。Scott Littとの共同プロデュースで、インディ時代と何ら変わるところがない。R.E.M.には幾つかの転機があった。インディ・レーベル(IRS)からメジャー進出、Bill Berryの離脱(1997)、Michael Stipeのスキンヘッド化‥‥最後の変貌は兎も角、ドラマーが抜けてトリオ編成になってからは、世間の人気や名声とは逆に音楽性も含めて彼らへの個人的な興味は薄れて行った。《Green》はサウンドもクリアになって、Michael Stipeの英語も聴き取り易くなっているが(インナー・スリーヴには〈World Leader Pretend〉の歌詞だけが記載されている)、R.E.M.のミステリアスなヴェールを剥ぎ、魅力を削ぐほどではない。しかしゼロ年代以降、Michael Stipeの内省的な歌詞を生かすための装置としてのR.E.M.はシンプルで明解すぎたのかもしれない。今日のインディ・ロックはエレクトロニカやヒップホップなども含めて、気味悪いくらい変態的に捩じれているのだから。

  • ◎ WHAT'S BOOTSY DOIN'?(Columbia)Bootsy Collins
  • ☆型サングラスとベースがトレード・マーク。Bootsyの6年振りのアルバムはサイバー・ファンク?‥‥Bernie Worrell、Fred Wesley、Gary "Mudd Bone" Cooper、George ClintonなどP-FUNK軍団の他、多数のミュージシャンが参加してマッド・パーティを繰り広げる。変幻自在の極太7色ベースにジミヘンみたいに艶っぽいヴォイス。狂おしくもバカバカしいファンク大会‥‥〈1st One 2 The Egg Wins (Human Race)〉はウディ・アレンの映画にもあったような運動会。射精された精子が卵子を目指すサヴァイヴァル・レース。タイトル通り「一番先に卵に着いたヤツが勝ち」というわけ。「人生のレース」や男女の恋愛ゲームもオタマジャクシたちの競泳のように単純明解だと良いのにね。〈*-Ing The 'Luv Gun'〉にもセックスの匂いがする。2011年、Bootsyは9年振りのニュー・アルバム《Tha Funk Capital Of The World》(Mascot)をリリースして健在ぶりをアピールしている。

  • ◎ WATERMARK(Wea)Enya
  • Moya Brennan(Clannad)の妹と紹介するのが憚れるほど有名になってしまったEnyaのデビュー・アルバム。ヴォーカル・トラックを幾重にも重ねて多重録音された幻想的なサウンドは名パティシエの作る分厚いミルフィーユやバームクーヘンのように口の中で甘く溶ける。マドレーヌを食べると子供時代の失われた記憶が蘇って来るように。賛美歌のように荘厳に響く〈On Your Shore〉、アイリッシュ風のメロディが胸に沁み入る〈Exile〉‥‥。大ヒットした〈Orinoco Flow〉で心躍り、〈Evening Falls〉で涙したリスナーも少なくないでしょう。アルバムや曲タイトルを見れば分かるように、このアルバムのテーマは水や川や海を巡る果てしない「心の旅路」。23年前、渋谷WAVEで肖像画風のアルバム・カヴァに惹かれて購入した時には彼女の知名度は無きに等しかったが、今日の日本では知らない人がいないくらいセレブリティな存在になっている(たとえばクドカン脚本のTVドラマにも「エンヤ」が登場するのだ)。

                      *
    • 輸入盤のリリース〜入手順

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです
                       *


    Lovesexy

    Lovesexy

    • Artist: Prince
    • Label: Warner Bros / Wea
    • Date: 1994/10/19
    • Media: Audio CD
    • Songs: "Eye" No / Alphabet St. / Glam Slam / Anna Stesia / Dance On / Lovesexy / When 2R In Love / I Wish U Heaven / Positivity


    Le Mystere Des Voix Bulgares 1NakedWhat Up Dog

    Chalk Mark in a Rain StormLife's Too GoodSubstance

    GreenWhat's Bootsy Doin'Watermark

    タグ:Prince rewind Music
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    コメント 4

    miron

    sknysさん、お久しぶりです。
    Lovesexyは、色んな意味で楽しませてもらったアルバムでした。
    サイケデリックでもなく、ホワイトでもなく、ブラックアルバムとも違うLovesexyのパステルカラーな色合いが好きでした。
    sknysさんの文章を読んでいたら、また聴き返したくたりました。
    by miron (2011-10-02 08:42) 

    sknys

    mironさん、コメントありがとう。
    殿下が古びないのは流行に左右されない、カテゴライズ出来ない音楽だから。
    「プリンス」というワン&オンリーのジャンルだと思います。
    このアルバムは乙女チック(死語?)ですね。
    今どきの女子高生が視聴したら、「カワイイ!」と思うかも^^;
    by sknys (2011-10-03 12:02) 

    ぶーけ

    デジタル時代になって、いろいろ変わりましたよね。アーティストにとっては不本意なこともあるのかも。P殿下の反撃はさすが~、って感じです。^^
    by ぶーけ (2011-10-09 12:29) 

    sknys

    ぶーけさん、コメントありがとう。
    《Lovesexy》はiTunesやAmazonでもバラ売りしてませんね。
    Bjorkの最新作は音楽だけでなく、アプリ(ゲーム)も有料配信するとか‥‥
    アーティストも色々と考えているようです^^;
    by sknys (2011-10-09 13:50) 

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