◎ Ombres（Mercury 2009）Luciole仏ブルターニュ出身のLuciole（Lucille Gerard）は演劇の勉強をしながら、レンヌ市内のカフェでスラム・パフォーマンス（ポエトリー・リーディング）をしていた。Camilleのライヴに大きなショックを受けたLucilleは彼女と面会する。逆にLucilleのスラム・パフォーマンスに興味を持ったCamilleは彼女の後見人となることを約束したという。デビュー・アルバムは彼女の詩（歌詞）にDominique Dalcanが曲（音楽）を付けたもので、アルバム・タイトル曲〈Ombres〉のように歌っている曲もあるけれど、基本的にはLucioleの「朗読」が基盤となっている。日本では「詩の朗読」というと抑制された静謐なイメージを想い浮かべてしまうが、欧米のポエトリー・リーディングはエモーショナルで力強い。新進女優の１人芝居（モノローグ）を観劇しているような臨場感に包まれる。フレンチ・ポップスの範疇から逸脱している分だけ、音楽的な自由度が高いとも言える。ラップ〜ソウル風の〈Grain De Sably〉、無伴奏の〈Le Coeur En Miettes〉‥‥。ちなみに芸名のルシュオル（luciole）とは「蛍」のことである。
◎ Mambo Chambo（Discograph 2008）P18Tom Darnal（元Mano Negra）率いるエレクトロ・ラテン・ユニット、P18（パリ18区という意味）はアーバン・キューバン・ミュージックを追求しているが、「P18」のロゴ入りピタ短Ｔシャツを来たパンキッシュな女性をコラージュしたアルバム・カヴァから、その多彩な音楽性を想像するのは難しい。サルサ、レゲエ、アフロ、ファンク、ヒップホップ‥‥「An Urban Cuban & Electropica Musical Madness」を標榜するP18が目指しているのは上品なワールド・ミュージックではなく、雑食性ミクスチャー・ロックの新しい形態なのだろう（キューバ音楽とエレクトロニクスの融合を「エレクトロピカ」という造語で表わしている）。横に広がって繁茂する草の根のようなManu Chaoに対し、P18には硬質で太い幹のような構築性がある。ヴォーカル、キーボード、ギター、ベース、プログラミングに名を列ねる音楽監督、Thomas Darnalの手腕も光る。Mano NegraがManu Chaoのワンマン・バンドだったと思っていた人は驚くかもしれない。
◎ Dada Bandits（Fullsteam 2009）Rubikくり抜かれた顔から飛行機の翼を有する白鳥３羽と牝鹿２頭が飛び出すコラージュ・カヴァから容易に想像出来るように、フィンランド・ヘルシンキ出身の４人組の音楽は奇妙奇天烈を極めている。狂躁的なArcade Fire？‥‥誰もが想い浮かべるのはArcade Fireだろう。カナダ・モントリオールのインディ・バンドが人気・実力共に高い評価を得て世界を席巻すれば、彼らのフォロワーが各地から登場するのは当然の成り行きである。Arcade Fire風と形容される多くのバンドは亜流として消えて行く。でも、狂った〈Bohemian Rhapsody〉みたいな変則７拍子の〈Goji Berries〉を１度でも耳にすれば、Rubikが凡庸なフォロワーに留まらないことに同意するはずだ。インディ・ロック、エレクトロ・ポップ、プログレ、パンク、ノイズ‥‥などの音楽要素が複雑に絡み合って、シュルレアリスティックな構築物を形成している。まるでイヴ・タンギーのように。U2やArcade Fireと同じく、辺境の地のインディ・バンドが大ブレイクするかどうかは分からないけれど、可能性はゼロではない。
◎ Possibilidades（Label A 2010）Tita Lima「リミーニャの娘」の2ndアルバムは『可能性』というタイトル。全11曲中、共作６曲、カヴァ５曲という構成。いわゆるアシッド・ジャズ〜クラブ・ミュージック寄りの先進的サウンドで、Guillherme HeldとAlex Painterという２人のギタリストのインタールード（短いインスト曲）を挿むなど、エクスペリメンタルな要素もある。仏語詞で始まるジャズっぽいアレンジのアルバム・タイトル曲〈Possibilidades〉、７拍子（4＋3）がサビで８ビートに解消される英語詞曲〈Smile〉、エイズ・チャリティのコンピレーション・アルバム
《Red Hot＋Rio 2》（E One 2011）の中でもカヴァされている〈Um Girassol da Cor do Seu Cabelo〉‥‥。Guillherme Heldのギターが畝り、重低音のベースが響く〈Venden Do Saude E Fe〉や２本のスライド・ギターが浮游する〈Jardim〉（父親がベース奏者としてゲスト参加！）は文句なくカッコ良い。凝ったアレンジがヴォーカルの弱さを補っているとも言えるけれど、Tita Limaがサウンドの中に埋没しているわけではない。Liminhaがプロデュースしたら一体どうなったかしら？
◎ Vers A Soi（Tacca 2007）Joraneカナダ・ケベック生まれのJoraneは女性チェロ奏者。Joanna Newsomのような素っ頓狂な声で歌うハープ奏者もデビューしているので驚かないけれど、歌うチェリストは珍しい。彼女の弾くチェロやギターにドラムス、コントラバス、フルート、キーボード、グロッケンシュピール（鉄琴）、ウーリッツァー（オルガン）などを配したアクースティックなサウンド。ケベック州が仏語圏ということもあって全曲フランス語で歌われる。高音と低音、女声ヴォイスとチェロのコントラストが不思議な音空間を創出している。Joraneのヴォーカルは繊細でエモーショナル、高音部ではKate Bushっぽくなる。ビートを強調した〈Le Fen〉やグランジ風の〈Elephant Blac〉などでは妖気が立ち籠める。下半身を泉に浸かって蓄音機のスピーカー（耳ラッパ？）を耳に当てて音を聴くアルバム・カヴァ（デジパック仕様）、半透明ペーパーを挿入した24頁ブックレット（歌詞カード）‥‥細部までデザインに拘泥った美しいアルバムである。
◎ Heaps Of Nothing（Siltbreeze 2010）Naked On The Vague赤と青の２色メガネで見ると「？」マークが立体的に浮き上がって来るのかもしれない不思議なアルバム・カヴァ‥‥オーストラリアの男女デュオがリズム隊（ドラムス＆ベース）を加え、４人編成となってリリースした2ndアルバム。良く言えば呪術的、ブッキラボーな念仏のように脱力したLucy嬢のヴォイスがキーボードやギター・ノイズの中から立ち現われる。内向的なシューゲイザーとは一線を劃す混沌としたサウンド、どこか懐かしいメロディが忘却の彼方に消え去った過去の記憶を喚び返す。まるで瓦礫の中に埋もれてしまった大切なものが発見されるように。高層ビルの建設現場からパンク〜ニューウェイヴの遺品が発掘されるように。Naked On The Vagueという風変わりなバンド名はTV On The Radioを連想させなくもないけれど、「TVOTR」と同じく頭文字で略すと「NOTV」となるところが面白い。オーストラリアのTV放送も地デジ化された年には一騒動あったのだろうか。
◎ MTV Unplugged（Norte 2008）Julieta VenegasDVDが音楽CDやヴィジュアル雑誌などのオマケ的なメディアになって久しい。初回限定盤やスペシャル・エディションで、PVやメイキング映像を収録したDVDをCDに同梱するようになった。ライヴ・アルバムも従来のように音楽CDと映像版DVDをバラ売りするよりも、CDと同梱した方が購入者にとっては嬉しい。もちろんCD、CD＋DVD、DVDという選択肢は残したままで自由に選べることが望ましい（最近はCD＋Blu-rayというセットもある）。メキシコの歌姫Julieta Venegasのライヴ・アルバムもCD、CD＋DVD、DVD、BD‥‥という理想的な形態でリリースされている（DVDはリージョン０、NTSC）。《MTVアンプラグド》に参加したミュージシャンは総勢20名以上‥‥その中にはMarisa Monte（ヴォーカル）やJaques Morelenbaum（チェロ）、Gustavo Santaolalla（バンジョー、ヴォーカル）、Mala Rodriguez（ラップ）、Juan Son（ヴォーカル）というゲスト陣だけでなく、Mariana Baraj（パーカッション、コーラス）やNatalia Lafourcade（ヴィブラフォン、バンジョー、５弦ギター、ミュージカル・ソー、カヴァキーニョ、グロッケンシュピール、キーボード、コーラス）の名前もあるのだ。
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〈さようなら WAVE〉の閲覧数が増えている。理由は兎も角、嬉しいなぁ‥‥と喜んだのも束の間、
「CDショップ ｢WAVE｣ 破産へ」というニュースが流れた。これがネタ元だったのね。六本木、渋谷、池袋WAVEという順に閉店。今年（2011）になってから、汐留店がタワレコに入れ替わった時に変だなぁと思ってWAVEのサイトを覗いてみたら、他店鋪も軒並みバタバタと閉店していた。音楽CDの売り上げが落ちて来ているとはいえ、まさか倒産（自己破産）とは！‥‥手書きポップを読んで試聴したり、国内盤と輸入盤の違いを見較べられるのはリアル店鋪ならではの愉しみ。Arcade Fireの3rdアルバム
《The Suburbs》（Merge 2011）のデラックス・エディション（CD＋DVD＋80頁ブックレット）も店頭でパッケージを手に取ってみないと、国内、US、EU輸入盤の違いは良く分からない。街角からCDショップが消えてなくなれば、ネット通販ではなくダウンロードの方が主流となるはず。その時、「音楽」を商品として買う（聴く）という行為について再び考えることになるだろう。
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Ombres
- Artist: Luciole
- Label: Mercury Import
- Date: 2009/02/10
- Media: Audio CD
- Songs: Une Rencontre / Grain De Sable / Ombre / J'Toublierai / Encore Et Encore / Viens Sourire Sur Ma Bouche / Le Coeur En Miettes / Perpendiculaire / Ma Vie Sans Moi / Je Suis / Est Ce Que J'Ai Reve ?
Mambo Chambo
- Artist: P18
- Label: Discograph
- Date: 2008/09/29
- Media: Audio CD
- Songs: Emi Alado / El Bombo / Oh Mama / Pas De Panique / Linda Mulata / Bacalao Con Pan / Viva P18 / La Mangosta / La Columbia / La Bomba / Son De La Loma / Sandunguera Mama / On Y Va / Kid Chocolate
Dada Bandits
- Artist: Rubik
- Label: Fullsteam Records
- Date: 2009/09/15
- Media: Audio CD
- Songs: Goji Berries / Radiants / No Escape / Wasteland / You Jackal!! / Fire Age / Indiana / Richard Branson's Crash Landing / Karhu Junassa / Follow Us To The Edge Of The Desert / Altitudes
Possibilidades
- Artist: Tita Lima
- Label: Label A
- Date: 2010/03/11
- Media: Audio CD
- Songs: Possibilidades / Mundo Pequeno / Smile / Ciranda / Held's Trip Interlúdio / Só O Começo / Vendendo Saúde E Fé / Um Girassol Da Cor Do Seu Cabelo / Interlúdio / Jardim / Maria, Tô Pra Voltar
Vers A Soi
- Artist: Jorane
- Label: Tacca Canada
- Date: 2007/11/06
- Media: Audio CD
- Songs: Le Venin / Sauve-Moi / Parade / Rose Velours / Feu / Repos / Arriver A / Lumiere / Elephant Blanc / Le Secret / Hors D'Haleine
Heaps Of Nothing
- Artist: Naked On The Vague
- Label: Siltbreeze Records
- Date: 2010/04/27
- Media: Audio CD
- Songs: Mysterious Oven / Wrong Room / Treading Water / Sacred Youth / These Days / The Joke / Black Lettuce / Blank Minds
MTV Unplugged
- Artist: Julieta Venegas
- Label: Sony U.S. Latin
- Date: 2008/10/14
- Media: Audio CD（CD＋DVD）
- Songs: Limon Y Sal / Seria Feliz / El Presente / Algo Esta Cambiando / Eres Para Mi / Esta Vez / Algun Dia / Mirame Bien / Lento / De Mis Pasos / Andar Conmigo / Ilusion / Como Se / Mira La Vida / Me Voy
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