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ミレーヌの誘惑 [m u s i c]



  • 明礬の湿布を当てがい、かわるがわる冷水欲と温水浴をさせて体型を修正しながら、彼女は朝からそれらを型取っていた。彼女はそれらを齧っていやがらせ、機械的に服従させた。そのために短い針金の骨組みをつくり、それをペンチで曲げた。アラビヤゴムを一面にひいておいて、小さい包帯を巻きつけた。ミイラ、フィレンツェの子供の円い額に入った肖像だ。/ 彼女は短縮掻爬を試みた。/ 魔法に頼った。/ 整形外科医的決定論に陥った。/ コブラ──ああ神様──もちろん、レコードだよ、ソニイ・ロリンズ──絶対にすばらしいものになるためでなかったら、どうしてあなたは私を生んだの。──彼女は裸で、扇風機とカルダーのモビールのあいだで、アルパカの毛皮をまとって呻いていた。私の足を見てくすぐろうと猫が跳び上がっても男たちが逃げてしまうのなら、叙情的人形劇の女王で仕掛玩具の一番のコレクションをもっていても何になるのかしら。/ 彼女は「プール」から一呑み飲んだ──それは夫人が、夏の厳しさを埋め合わせるために、木苺の氷シロップにして飲ませてくれる壷だ──、ガラス繊維のもつれた糸を伸ばし、いうことを聞かない連中をミリメートル単位の定規で測り、もう一度「なぜ神様」を攻撃するのだった、云々。
    セベロ・サルドゥイ 『コブラ』


  • 《Les Mots》(Polydor 2001)はMylene Farmerの初ベスト・アルバムで、ほぼ発表順にシングル曲が並ぶ。アルバム・タイトル曲など新曲4曲を含む全30曲を2CDに収録(140分)。著作権の問題で漏れた数曲を埋め合わせるかのようにシングル盤のB面なども入っている。デビュー・アルバム《Cendres De Lune》(1986)から5th《Innamoramento》(1999)まで5枚のオリジナル・アルバムから各4〜5曲がシングル・カットされていることも分かる。セブラ模様のマットレスの上で真紅のクッションを枕にして寝そべるMylene Farmerはピンクの花柄ネグリジェに白パールのストッキングを履き、右脚を高く上げて笑みを浮かべている。Ellen Von Unwerthの撮った挑発的なカヴァ写真は「高級娼婦」を想わせなくもない(無邪気なMylene Farmerの姿は枯葉や雪が舞う大きなベッドの上で戯れる〈Appelle Mon Numero〉のPVに通じるものがある)。全曲リマスター化されているけれど、初期のヒット曲〈Plus Grandir〉(1985)と〈Libertine〉(1986)の2曲は新ミックスである。

    まだ舌っ足らずさの残るデビュー・シングル〈Maman A Tort〉(1984)、ライヴの定番にもなっている代表曲の1つ〈San Constrefacon〉(1987)、サビの高音ヴォイスに魅了される〈San Logique〉(1988)‥‥。いわゆるエレクトロ・ポップなのだが、軽快で享楽的なユーロ・ビートとは一線を劃す。低音重視のダークで陰鬱な色彩に覆われたサウンドはMylene Farmerの可憐で儚げな高音ヴォイスをを際立たせるためなのかもしれない。この暗鬱な黒雲を多少なりとも払拭したのが4thアルバム《Anamorphosee》(1995)だった。後半(CD2)の2曲目からの〈California〉〈XXL〉〈L'Instant X〉〈Comme J'Ai Mal〉〈Rever〉の存在感は圧倒的である。Mylene Farmerは塔の中に幽閉された憂鬱な姫君から頽廃的な美の女王へと変身を遂げようとしているかのように見える。Sealとデュエットしたバラード〈Les Mots〉、アニメ映画の挿入歌〈L'Histoire D'Une Fee, C'Est...〉など新曲も入った「ミレーヌ姫入門盤」。2枚組アルバムの他、1枚(全15曲)に編集されたユーロ盤や豪華トール・ボックス(3CD+DVD)もリリースされています。

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    《Remixes》(Polydor 2003)はシンプルなタイトルが示している通りのリミックス・アルバム。《Dance Remixies》(1993)が作曲・プロデュースを担うLaurent Boutonnatの自家製リミックス(2CD 15曲)だったのに対して、続編(1CD 11曲)はドイツ、フランス、イギリス、オランダ、アメリカ、ベルギーの欧米ミュージシャンやDJに「外注」した本来の意味でのリミック集になっている。「MYLENE FARMER」のロゴが異なることからも企画ものというイメージが色濃い。テクノ風のダンス・ナンバーに改変されているが、新たなインストを追加したDavid Snellの〈L'Ame-Stram-Gram〉は面白いし、Junkie XLによるアシッド・ジャズっぽいアレンジの〈XXL〉も聴かせる。リミックスは原曲のイメージ残しつつ、換骨奪胎して別の曲生まれ変わらせられるかどうかリミキサーの手腕が問われる。〈Libertine〉と〈Optimistique-Moi〉(1999)の2曲を除き、Laurent Boutonnatのオリジナル曲。後者は数少ないMylene Farmerの作詞・自作曲である(この曲が収録された《Innamoramento》には彼女の自作曲が5曲も収録されている)。

    Mylene Farmerはスタジオ・アルバムの発表後に大規模なライヴ・ツアーを毎回敢行している。《Avant Que L'Ombre A Bercy》(Polydor 2006)は6thアルバム《Avant Que L'Ombre》(2005)リリース後のライブ盤(2CD)で、ニュー・アルバムからの新曲が全21曲中の8曲を占める。オープニングの〈Introduction〉から引き継がれる〈Peut-Etre Toi〉、続く〈XXL〉では観客とコーラス部分を大合唱。〈Dan Les Rues De Londres〉〈California〉‥‥というように、新曲と定番曲を交互に配した選曲・構成になっている。後半(CD2)はバラードの〈Rever〉で、しっとりと静かに始まる。一転してダンサブルな〈Desenchantee〉、1枚ずつ衣服を脱いで行くストリップティーズのPVに悩殺された男性ファンも少なくない〈L'Amour N'Est Rien〉、低音ラップと高音ヴォイスの落差に眩惑される〈Je T'Aime Melancolie〉、子供たちのコーラス・リフレインで盛り上がるロック・ナンバー〈Fuck Them All〉‥‥。

    ブックレット(16頁)のライヴ写真を見る限りでは、Mylene Farmerの衣裳もセクシーでゴージャス。《Point De Suture》(2008)の後にも《N°5 On Tour》(2009)というライヴ盤もリリースしているけれど未聴なのは、サウンド面だけからでは彼女の魅力が充分に伝わらない隔靴掻痒感に嘖まれるから。映像版ライヴ・ヴィデオ(DVD、Blu-ray)がバラ売りされているのが恨めしい(Manu Chaoのライヴ・アルバムのように、2CD+DVDのセットで再発してくれないかしら?)。ライヴ会場では、ここでしか買えない「お宝ミレーヌ・グッズ」が限定販売されているという。7thアルバムに収録されている〈Sextonik〉は《N°5 On Tour》のライヴでは披露されなかったけれど、黒い棺桶型(縦長六角形)のケースに「SeXtonik」と刻印されたヴァイブレータ(限定1000本、100ユーロ)が売られていたらしい。「大人の玩具」を買ったのは淫乱女、それとも変態男?‥‥ミレーヌ姫のブラック・ユーモアも、ここに極まれり!

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    7thアルバム《Point De Suture》(Polydor 2008)のタイトルは何と『縫い目』‥‥鉗子やピンセットや注射器などに囲まれた手術台の上で縫合された「ミレーヌ人形」が《Avant Que L'Ombre》(2005)のミレーヌ姫と同じようなポーズで横たわっている。手術台の上の「ミレーヌ人形」は痛々しいけれど、彼女の音楽までがゴスロリ化してしまったわけではない(「ミレーヌ人形」は人形作家の三浦悦子、カヴァとインナー・スリーヴの写真は谷敦志によるもの)。クラブ・ミュージック寄りの〈Degeneration〉、レゲエ調のキラー・チューン〈Appelle Mon Numero〉、エレクトロ・ダンス・ナンバーの〈Je M'Enuie〉、〈XXL〉を想わせる豪快なロックの〈Paradis Inanime〉、Mobyと英・仏語でデュエットした〈Looking For My Name〉、際どい歌詞の〈Sextonik〉、低音ヴォイスでラップする〈C'Est Dans L'Air〉など‥‥いつもと変わらないミレーヌ姫がいる。

    2ndアルバム《Ainsi Soit Je...》(1988)のカヴァは腹話術の人形(少年)との2ショットだったし、3rd《L'Autre...》(1991)では背中に黒鴉を乗せていたし‥‥彼女の本質は何も変わっていないのではないかという気もする。明るい陽射しが消えて分厚い暗雲が立ち籠めたような暗鬱で内向的なサウンドに浮世離れした可憐なヴォイスが羽撃く(故lapisさんも某大洋レコードの主人も、そこが良いんじゃないかと力説するのだが)。彼女のデビュー前に周囲の男性たちが次々と死んだという噂もあるらしい。《Point De Suture》はコレクターズ・ボックス、デジパック仕様、スーパー・ジェルケース盤の3種類あって、デジパックにはオリジナル・アルバムと〈Degeneration〉のPV(プロモーション・ヴィデオ)が、豪華ボックスにはアルバムとCDシングルと「手術用縫合キット」が入っているという。一体何をチクチク縫えは良いのかしら?

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    ミレーヌ姫の8thアルバム《Bleu Noir》(Polydor 2010)は鏡に映ったMylene Farmerのピンボケ写真からして、今までのアーティスティックなカヴァとは何かが違うという予感が疼く。旧来の彼女のファンならば一見して分かることだが、「MYLENE FARMER」という特徴的なロゴ(字体)が異なっているのだ。手術の縫合痕(縫い目)も痛々しい「ミレーヌ人形」のカヴァが物議を醸した《Point De Suture》でも変わることのなかったロゴ・デザインが《N°5 On Tour》では変更されている。そのアルバム・カヴァの変調が示唆するかのように、長年に渡って作曲とプロデュースを全面的に担って来たLaurent Boutonnatの名前が一切ない。この劇的な変化は一体何を意味しているのだろうか。2人の破局、それとも病気療養中?‥‥長年のパートナー抜きにニュー・アルバムを制作しようとすると、歌詞は書けても作曲の不得手なMyleneは誰か他のミュージシャンや作曲家に依頼するしかない。

    《Bleu Noir》はMoby、RedOne、Darius Kleelerが個別に楽曲提供、プロデュースすることになった(内訳はMoby7曲、RedOne2曲、Darius Kleeler3曲)。作曲家を変えたことでサウンドも一新されたというわけではなく、良くも悪くも今までの路線を踏襲したエレクトロ・ポップになっている。強いて言えば、アルバム後半のDarius Kleelerによる3曲‥‥英語詞の〈Light Me Up〉、アラビッック風の〈Leila〉、ノイジーな〈Diabolique Mon Ange〉はダークな色彩と相俟って聴きごたえがある。ベッドの上で横たわったり、黒い下着姿でポーズを決めたり、海辺や森を散策するインナー・スリーヴのスナップ・ショットは悪くないだけに、凡庸な楽曲と中途半端なサウンドになってしまったところが歯痒い。今後も、この路線で行くのか、それとも一種の企画物で次作からはLaurent Boutonnatが完全復帰するのかどうかは全く不明である。後者であって欲しいのですが‥‥。

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    Les Mots

    Les Mots

    • Artist: Mylene Farmer
    • Label: Polydor Import
    • Date: 2002/03/12
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Maman A Tort / Plus Grandir / Libertine / Tristana / Sans Contrefaçon / Ainsi Sois-Je / Pourvu Qu'Elles Soient Douces / Sans Logique / A Quoi Je Sers / La Veuve Noire / Désenchantée / Regrets / Je Taime Melanchloie / Beyond My Control / Que Mon Coeur Lache / ...


    RemixeS

    RemixeS

    • Artist: Mylene Farmer
    • Label: Polydor Import
    • Date: 2003/12/01
    • Media: Audio CD
    • Songs: Sans Contrefaçon / L'Instant X / L'Ame-Stram-Gram / C'Est Une Belle Journée / XXL / Je T'Aime Mélancolie / Pourvu Qu'Elles Soient Douces / California / Libertine / Optimistique-Moi / Dsenchante


    Avant Que L'Ombre A Bercy

    Avant Que L'Ombre A Bercy

    • Artist: Mylene Farmer
    • Label: Polydor Import
    • Date: 2006/12/12
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Introduction / Peut-Etre Toi / XXL / Dans Les Rues De Londres / California / Porno-graphique / Sans Contrefaçon / Q.I / C'Est Une Belle Journée / Ange, Parle-Moi / Redonne-Moi / Rêver / L'Autre / Désenchantée / Acheter / Nobody Knows / Je T'Aime Mélancolie / L'Am...


    Point De Suture

    Point De Suture

    • Artist: Mylene Farmer
    • Label: Polydor Import
    • Date: 2008/08/12
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dégénération / Appelle Mon Numéro / Je M'Ennuie / Paradis Inanimé / Looking For My Name / Point De Suture / Réveiller Le Monde / Sextonik / C'Est Dans L'Air / Si J'Avais Au Moins...


    Bleu Noir

    Bleu Noir

    • Artist: Mylene Farmer
    • Label: Polydor Import
    • Date: 2010/12/14
    • Media: Audio CD
    • Songs: Oui Mais... Non / Moi Je Veux / Bleu Noir / N'Aie Plus D'Amertume / Toi L'Amour / Lonely Lisa / M'Effondre / Light Me Up / Leila / Diabolique Mon Ange / Inseparables / Inséparables




    タグ:mylene french Music
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