◎ TEEN DREAM*(Sub Pop)Beach House米ボルチモアで結成されたAlex ScallyとVictoria Legrandの男女デュオ。ウェブ画像では分かり難いけれど、アルバム・カヴァが縞馬模様になっているのは〈Zebra〉という曲が1曲目に入っているから。ドリーム・ポップの〈Silver Soul〉、そしてキラー・チューンの〈Norway〉に文字通り瞬殺される。演奏中にギターの弦を緩めたような不協和音の気味悪さとネオ・アコ風の夢見るようなメロディの混じり具合が絶妙で何度も繰り返して聴きたくなる。仏作曲家Michel Legrandの姪だというVictoria Legrandの歌は決して上手くはないけれど、琴線に触れて心の奥底に沁み入るものがある。全10曲のヴィデオを収録したDVD付き。〈Norway〉のPVはパペット風のヴィデオ(2種)で、YouTubeにある元祖ロスゴリ吸血少女映画
『Valerie and Her Week of Wonders』(
『闇のバイブル 聖少女の詩』)とライヴ映像をモンタージュした〈Norway〉は非公式なものでしょう。
◎ HAVE ONE ON ME*(Drag City)Joanna Newsom子鹿や孔雀、異国情緒あるテーブルやタペストリーなどの調度品に囲まれてソファに寝そべる女性‥‥Joanna Newsomの3rdアルバムは全18曲、124分という大作になった。全5曲、55分の2nd
《Ys》(2006)の拡大版と考えれば良いのだろうか、3枚のディスクと歌詞ブックレット(32頁)がボックスの中に収まっている。前作に引き続いて日本在住のJim O'Rourkeが6曲をミックス。ハープ、フルート、トランペット、トロンボーン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ダブルベース、ピアノ、ティンパニ、オーボエ、バスーン、バンジョー、コラなど‥‥生音に拘泥ったチェンバー・ミュージックだが、彼女のヴォイスが室内の空気を一変させてしまう。ハープやピアノ弾き語りのJoanna Newsomは本作でKate Bushの域に達している。何か動物の霊が憑いたような人間離れしたヴォイス‥‥たとえば〈In California〉の中の「郭公」(Cuckoo, cuckoo)みたいに。このような破格なアルバムが低価格でリリース出来るのもインディーズの強みだろう。
◎ MAFARO(Omni)Andre Abujamra2002年末にKarnakは突然活動休止を表明したが、その後も断続的にライヴ・パフォーマンスは続けているらしい。誰もがKarnakの存在を忘れかけていた頃に、Andre Abujamraの3ndアルバムがリリースされた。Antibalasみたいなアフロ・ファンクの〈Origem〉、ブッ飛んだ歌詞の〈Imaginacao〉、ラテンの〈Lexotan〉、レゲエ〜ダブの〈Tem Luz Na Cauda Da Flecha〉、ヒップホップ〜ファンクの〈Abuxiscuruma〉。Hugo Hori、Kuki Satolarski、James Muller(パーカッション)、Tiquinho(トロンボーン)‥‥Karnakのメンバーが好サポート。アフロとアラブが混在するサウンドはタイトで洗練されている。「変態ミクスチャー無国籍音楽」は抑制されているが、Karnakを聴いたことのないワールド・ミュージック愛好家には、それでも十分奇異な音楽に聴こえるでしょう。「mafaro」とはジンバブエの言語で「happiness」の意味。「このCDは我々の人生における幸福の受領(acceptance)を表わしています」という。英訳詞付きのブラジル盤。
◎ RHIZOMES(Sacred Bones)Effi BriestNYブルックリン出身の6人娘、Effi Briestのデビュー・アルバム。19世紀のドイツ人作家テオドール・フォンターネ(Theodor Fontane)の小説&ヒロイン名「エフィー・ブリースト」から採ったというバンド名や、ドゥルーズ&ガタリの提唱する哲学概念「リゾーム」というアルバム・タイトルが彼女たちの存在を際立たせる。いわゆるポスト・パンク系のサウンドで、The Slits、The Raincoats、Kleenex(LiLLiPUT)などの遺伝子も継承されている。緻密で繊細に構築されたサウンドがサイケデリックに捩れて行く展開はクールでカッコ良い。Kelsey BarrettのヴォイスはThe Sugarcubes時代のBjorkを彷佛させなくもない。〈Mirror Rim〉の歌詞は「Never odd or even / No it's opposition / Never even / Mirror Rim // Swap paws / Stack cats / Pull up if I pull up / Tie it // Noon / Laid on no dial // Mix a maxim / Mirror Rim」‥‥というように「回文」になっている(これだけでも彼女たちを応援する理由があるのだ)。UK盤
(Blast First (petite) )はジャケ違いです。
◎ CERULEAN(Anticon)BathsBathsは米カリフォルニア・ロス在住の宅録ミュージシャン、ウィル・ウィーゼンフェルド(Will Wiesenfeld)のソロ・プロジェクト。白地に水色の球体が描かれたデビュー・アルバム《空色》には驚かれる。心地良いグラウンドビート風トラックの上をシンセ、ギター、ピアノ、サンプリング、ノイズ、ヴォイス、コーラス‥‥などがアクロバティックに浮游するサウンドはアングラ・サーカス団の綱渡りや空中ブランコを観ているようで愉しい。蛇行回転する最新のジェットコースターに乗っているような酩酊感もある。ヴォーカル・サンプルがクールな〈Maximalist〉、子供たちの声と変態的なフレーズが気持ち良い〈Animals〉、狂ったようなファルセット・ヴォイスが切ない〈You're My Excuse To Travel〉。人懐っこくてノスタルジックな音楽、レトロ・フューチャーな夢幻世界‥‥Bathsを聴いた後ではFlying Lotusの
《Cosmogramma》(Warp)が上品なアート作品に見えてしまう。
◎ PRESENTE(Dubas)Delia FischerDelia Fischerの2ndアルバムはブラジル音楽とジャズの混じり合いが絶妙で、ヨーロッパの香りも漂う。激しいインスト曲を聴くとジャズ・ピアニストのような気もするが、清冽で脹よかな彼女のヴォイスに包まれる。ピアノ、チェロ、ヴィオラ、アコーディオン、ヴィブラフォンなど、生楽器主体のチェンバー・ポップで、プログラミングやスクラッチが隠し味になっている。スイミング・プールの水の撥ねる音をパーカッションにした〈Das Aguas〉という実験的な曲もある。ゲスト・ミュージシャンも多彩で、巨匠Hermeto Pascoalがメロディカを演奏する変則7拍子の〈Das Plantas〉、弦楽四重奏をバックにスウェーデンの歌手Lisa Nilssonとデュエットした〈Nascimento Da Venus / Venus Fodelse〉、Ana Caroinaにメイン・ヴォーカルを任せてバッキングに徹した〈Flor Da Noite〉、Egberto Gismontiの変則12弦アクースティック・ギターがJames Blackshawを想わせなくもない〈Presente〉など‥‥聴きどころも少なくない。
◎ MY FATHER WILL GUIDE ME UP A ROPE TO THE SKY(Young God)Swans米NYのポスト・パンク〜エクスペリメンタル・バンドの14年振りの復活アルバム。Micheal Gira(ギター、ヴォーカル)、Norman Westberg(ギター)、Christoph Hahn(ベース)、Phil Puleo、Thor Harris(ドラムス)、Chris Pravdica(ギター)という凶悪顔のメンバー6人に、Grasshopper(マンドリン)、Devendra Banhart(ヴォーカル)、Bill Rieflin(ドラムス、ピアノ、ギター、シンセ)などがゲスト参加している。重低音の音塊が一丸となって襲いかかる戦慄と覚醒を促す静寂。 Angels Of Lightの成果を継承した視覚的なサウンドは重戦車や爆撃機が交戦する「戦争映画」をワイドスクリーンの観ているような錯覚に陥る。ジャケ違いの
「Special Edition」(2CD)にはアルバムの生素材を解体〜再構築して、ストリングスやホーン、ギターを新たに加えた大長尺曲〈Look At Me Go〉(46分)が付いている。凡百のダブ・ヴァージョンやリミックスとは別次元のエクスペリメンタル〜アンビエントの一大絵巻に圧倒されます。
◎ FLORALIA(Suramusic)DuratierraDuratierraは紅一点のMicaela Vita(ヴォーカル)を擁する4人組。いわゆるアルゼンチン・フォルクローレの範疇には収まらない斬新さと実験性を兼ね備えている。彼女のエモーショナルなヴォイスに心を奪われる〈Aguita Demorada〉、コケティッシュな歌声が入り組んだリズムの中を駆け巡る〈Currunao / El Alcatraz〉、情感たっぷりに切々と歌う〈La Llorona / Lamento De Papel〉、プログレ風に展開する変則6拍子の〈Carta A Poste Restante〉‥‥。メキシコ、ウルグアイ、アルゼンチンなどのカヴァ曲が中心だが、複雑なリズムと凝ったアレンジにはプログレやジャズの要素も見え隠れする。南米で生まれた魅惑的で古くて新しい音楽。縦長デジパックに抽象イラスト(黒地に原色模様)というパッケージ・デザインがDuratierraの先進的な音楽を主張する。2つのメドレーを含めた全12曲。映像特典として〈Tonada De Luna Llena〉のPVが付いている。
◎ THE AGE OF ADZ*(Asthmatic Kitty)Sufjan Stevens全米50州シリーズはジョークだった!?‥‥5年振りのニュー・アルバムはエレクトロニカ色が濃い。馴れ親しんだ軽やかなバンジョーやヴィブラフォンの音色も殆ど聴こえないし、ギターもノイジーで歪んでいる。歌詞や楽器などの記載も一切省かれている。
《Michigan》 (2003)や
《Illinoise》(2005)に纏わる歴史を掘り起こし、現代と対比させる重層・横断的な世界を期待したリスナーは困惑するかもしれない。〈I Want To Be Well〉は変則7〜5拍子、ラストの〈Impossible Soul〉は25分に及ぶ組曲風の大作。スフィアン流に解釈されたエレクトロ・ソウル・ミュージックという側面もある。アルバム・カヴァとブックレット(12頁)は米黒人画家ロイヤル・ロバートソン
(Royal Robertson)のアートワークで彩られている。27人以上の若者たちを殺害した連続殺人魔と「僕は良く似ている」と歌った青年が特異な黒人画家と自己を合せ鏡のように重ねている。
◎ THE FOOL*(Rough Trade)Warpaint2004年のヴァレンタイン・デイにLAで結成されたという女性4人組のデビュー・アルバム。Effi Briestのような直情的なポスト・パンクではなく、Tricky〜Portisheadを想わせるダークでダウナーな通奏低音にロリータ・ヴォイスが浮游するダウンビート〜トリップホップ系の衣裳を纏っているところがユニーク。Andrew Weatherallが2曲ミックスしていることからも、並のロック・バンドではないことが良く分かる。くぐもったベース、エコーの淵から響いて来るドラムス。Emily Kokalの甘く気怠いヴォイスはBjorkに似ていなくもないし、Theresa Waymanの歪まないギターにもニュー・ウェイヴの尻尾が見え隠れする。化粧を落とした彼女たちの素顔は純朴な「ロック娘」なのかもしれないが‥‥。国内盤に追加収録された〈Ashes To Ashes〉のカヴァ(トリップホップからドラムンベース化して最後に女の子らしい笑い声が入っている)もクールでカッコ良い。
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最後の1枚が決まらないまま年を越えてしまった。最終候補に残ったアルバムはAmazigh、Owen Pallett、Laura Marling、Flying Lotus、Perfume Genius、Zola Jesus、Olof Arnalds、The Ex、Emeralds、M.I.A.、Laurie Anderson、Ariel Pink's Haunted Graffiti、Killing Joke、Deerhunter、Kenye Westなど‥‥。未聴のアルバムもあって、年末〜年始に心千々に乱れました。新年に聴いたアルバムを2010年ベスト・アルバムに選出するというのも変なので、未聴アルバムはバッサリ斬って捨て、2010年に愛聴したアルバムの中から選ぶことにした(新年恒例の
「某クリアランス・セール」中に風邪で体調を崩したことも、1年後に報らされたブロガーの訃報で精神的に落ち込んだことも影響している)。「BEST 10」から零れ落ちてしまったアルバムはサイドバーの
「FAVORITE - ALBUMS」や記事の中で、今後ゆっくり紹介して行きたいと思います。
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rewind 2010 / 09 / 08 / 07 / 06 / 05 / 04 / 03 / 02 / 01 / 00 / 1999 / 98 / 97 / 96 / 95 / 94 / 93 / 92 / 91 / sknynx / 308
The Age Of Adz
- Artist: Sufjan Stevens
- Label: Asthmatic Kitty
- Date: 2010/10/12
- Media: Audio CD
- Songs: Futile Devices / Too Much / Age of Adz / I Walked / Now That I'm Older / Get Real Get Right / Bad Communication / Vesuvius / All for Myself / I Want To Be Well / Impossible Soul
WIRE 2010 Rewind
1. Actress - Splazsh
2. Oneohtrix Point Never - Returnal
3. Swans - My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky
4. Joanna Newsom - Have One On Me
5. Catherine Christer Hennix - The Electric Harpsichord
6. Rangers - Suburban Tours
7. Ariel Pink's Haunted Graffiti - Before Today
8. John Tilbury & Sebastian Lexer - Last Daylight
9. Keith Fullerton Whitman - Disengenuity/Disengenuousness
10. Kevin Drumm - Necro Accoustic
(http://www.thewire.co.uk/articles/5672/)
32位にPhewの《Five Finger Discount》が入っている^^
by sknys (2011-01-29 12:21)
Pitchfork The Top 10 Albums of 2010
1. Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy
2. LCD Soundsystem - This Is Happening
3. Deerhunter - Halcyon Digest
4. Big Boi - Sir Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty
5. Beach House - Teen Dream
6. Vampire Weekend - Contra
7. Joanna Newsom - Have One on Me
8. James Blake - The Bells Sketch / CMYK / Klavierwerke
9. Ariel Pink's Haunted Graffiti - Before Today
10. Titus Andronicus - The Monitor
(http://pitchfork.com/features/staff-lists/7893-the-top-50-albums-of-2010/5/)
Joanna NewsomとAriel Pink'sがWIREと重複している^^
by sknys (2011-01-29 12:29)