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萌えよヘッドフォン [a p p l e]



30年振りにヘッドフォンを購入した。先代の「H・AIR」(Sony MDR-7)は軽量オープンエア型の上級機で、20年以上の長きに渡って愛用していた。55g(コードを除く)という軽さだが、WALKMAN用のポータブル・タイプというわけではなく、据え置きアンプやCDプレイヤーに繋げて聴く。3mのコードと標準プラグ仕様の室内用ヘッドフォンである。ところが数年前、ノートブック(iBook)の下に挟まっていたコードを力任せに引き抜いた時に左チャンネルが断線してしまった。完全に断線したわけではなく、コードの状態によって聴こえたり聴こえなくなったり‥‥リスニング中にストレスが溜まるので、予備のヘッドフォン(Sony MDR-11D)で代用することに。コード長1.5m+ミニプラグを3mの延長コード(ミニジャック→標準プラグ)に繋げて使用する。アウトドア用ヘッドフォン「Eggo」は密閉型なのに周囲の音も聴こえるという折り畳み式小型タイプで、コンパクトな反面、イヤーパッドの側圧が強くて長時間装着していると両耳が痛くなる。

頭の中で鳴っているような密閉型の音像定位も苦手だったので、新しいヘッドフォンを買おうかな?‥‥と考えていた矢先、床に落とした時のショックで2本ある折り畳み式ヘッドバンドの一方の可動部分が割れてしまった(そのまま装着出来ないこともないけれど、折れた部分が頭皮に当たって痛い)。さて、どの機種を購入しようかと思案していて、ヘッドフォンを買い替えるのは実に30年振りだということに気づいた。左のハウジング外部に「Sony Rec. Please!」というロゴのあるスペシャル・モデルの「MDR-11D」は懸賞に応募して当たった賞品だったのだ。オーディオ・マニアでもヘッドフォンおたくでもない、単に洋楽好きの音楽リスナーなので、ン十万円以上する高級ヘッドフォンを買うつもりは毛頭ないし、それに見合った海外ブランドの最高級アンプやCDプレイヤーなどのHiFiステレオ・コンポも所持していない。現在稼働しているCDプレイヤーは国産の中級機(Sony CDP-XA5ES)である。アンプを通さずに直接PHONES端子にヘッドフォンを挿しています。

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ヘッドフォンを購入する前に条件を列挙してみた。1. 密閉型ではなくオープンエア型。2. 軽くて小さなポータブル・タイプ。3. 中庸な国産メーカーではなくて、個性的な海外ブランド。4. 予算は1〜2万円程度‥‥。アウトドアでヘッドフォンを使用しようとは思わないので、音漏れは全く考慮しない。外部の音(ノイズ)を遮断する密閉型が好きになれないだけである。耳の内部に装着するインナーフォンや耳栓タイプのカナルフォンにも異和感や異物感がある。よく街中でヘッドフォンをしている人がいるけれど、オープンエアは兎も角、密閉型は耳の聴こえない状態で往来を歩いているに等しく、実に危険極まりない。自分の身の安全よりも周囲の人たちの迷惑防止を優先する日本人のメンタリティは本末転倒のような気もする。圧縮デジタル・ファイルをダウンロードした携帯用音楽プレーヤーに、高級ヘッドフォンを繋いで聴くという矛盾もある。バスや電車という動く密室の中で密閉型ヘッドフォンを着けて音楽を聴く2重の密室性にも閉塞感と疎外感が漂う。それでも慌ただしくケータイを弄っている乗客たちよりは随分マシだと思うけれど。

せっかく買うのならば毛色の変わったヘッドフォンで音楽を聴きたいと思い、海外製品を物色していて、ULTRASONEというドイツのヘッドフォン専業メーカーを見つけた。S-Logic(Natural Surround Sound)、ULE(Ultra Low Emission)という2つの独自技術を装備したヘッドフォン。最上級モデルのEditionシリーズは高嶺の花で手が届かないが、Zinoという軽量、ポータブル、セミオープンエア型があった。これこそが購入前の条件に適った理想的なヘッドフォンではないか!‥‥と胸躍ってしまった。S-Logicとはドライヴァ・ユニットを中心から少し前に置くことで外耳に音を反射させ、あたかもスピーカーの前で聴いているかのような音像定位を再現する技術。頭の中ではなく、やや前方に定位して、左右に広がる音像に特徴がある。ULEは潜水艦が敵のレーダーに探知されないためのシールドとして使われていた「ミューメタル」でドライヴァを覆うことで、人体に有害とされる電磁波を最大98%低減する特許技術だという。携帯電話を耳に密着させて通話しないように指導しているのは電磁波の影響を配慮してのことだが、ULTRASONEのような安全対策を講じているケータイ&ヘッドフォン・メーカーは他に存在しない。

ULTRASONE Zino(2009)はポータブル・ヘッドフォンiCans(2005)に良く似ている。そのネーミングと白&銀の配色はiPodとのマッチングを意図したものだったが、1年後には黒を基調とする色変わりの3機種、Okta(シルヴァ)、Naos(ガンメタリック)、Aurum(ゴールド)も発表された(24金メッキのAurumはiCansよりも1万円も高い!)。そのNaosモデルを引き継いだのが同じガンメタ・カラーのZinoで、ドライヴァ口径が30mmから40mmへ一回り大きくなっている。ところが、Nuforceという米アンプ・メーカーからiCansと瓜二つのUF-30という姉妹機も発売されているのだ。UF-30はULTRASONE社製のドライヴァ・ユニットを使ったOEM機種で、赤・白・黒の3カラー・ヴァージョンがある。iPodなどの携帯音楽プレイヤー専用に作られたのがUF-30で、Zinoは据え置きのHiFiステレオにも使えるポータブル・タイプという位置づけなのだろう。両機ともハウジング部分が眼鏡のツルのように折り畳める構造で、Zinoには携帯用ケース、UF-30にはキャリング・ポーチが付属している。

ZinoとUF-30を試聴した感じではドライヴァ口径の大きいZinoの方が低音域でUF-30に勝る。軽いのでプラスチックのように見える塗装部分はアルミ製らしい。UF-30は見た目もカラフルで可愛いので女性リスナー層に好まれるかもしれない。ULTRASONEの上位機は流石に繊細な音だった(重くてデカい密閉型を使おうとは思わないけれど)。真横からだと数字の6や四分音符に見える形状は、左右対象でヘッドバンドが中心から垂直に伸びている両出しコードのヘッドフォンのように、装着時に左右を間違えることがない‥‥というわけで、Zinoを購入した。ハウジングの角度が調節出来ない、頭のサイズが大きい人には側圧が強いかも、ガンメタ部分に着いた指紋が目立つ、ヘッドパッドが交換出来ないなど‥‥気になるところも幾つかあるけれど、概ね気に入っている。ULTRASONEは一般のヘッドフォンとは音像定位が異なるので、必ず試聴した上で購入するかどうか検討しましょう。

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《Debut》(One Little Indian TPLP31CDL)はプロデューサのNellee Hooperが1曲につき500回以上も試聴を繰り返したというBjorkの初ソロ・アルバム。パーカッション、スティールパン、ベース、シタール、タブラ‥‥などが響き渡る〈Venus As A Boy〉は非西欧音楽的なサウンドが心地良い。右にパーカッションとスティールパン、左にシタールとタブラ(Talvin Singh)が広がり、中央にベース、Bjorkのヴォーカル、ストリングスが定位する。スティールパンの音色は明るく、彼女のエモーショナルな高音ヴォイスも伸びやか。レゲエ調のベース・ラインの低音も柔らかい。その反面、低・高音域に較べると中音域は少し薄い感じで、ボンベイ録音のストリングスも厚みと艶やかさに欠けるような気もする。左右に広がるS-Logicの音像定位は独特で、4:3のモニタ映像が16:9のハイヴィジョン・ワイド画面に切り替わったような爽快感と解放感に満ちている。

《Nevermind》(DGC 24425)は「シークレット・トラック」が入っているので、初回プレスUS盤ではないと思う。一世風靡したグランジ・ファッションの衣服が薄汚れていたり破れていたように、その音楽も故意に汚され傷つけられている。〈Come As You Are〉では左で鳴っているノイジーなハイハットとスティックの刻みも良く聴こえる。Kurt Cobainの掠れ気味のヴォイスは弱いけれど、間奏のギターは頭の周囲を楕円形の軌道を描いて回っているように感じられなくもない。Talking Headsの《Remain In Light》(Sire/Warner Bros./Rhino 8122 73300 2)はリマスターEU盤(2006)のため、BjorkやNirvanaのアルバムよりも出力レヴェルが大きいし、音圧も高い。〈Born Under Punches〉の鞭のように撓る左のチョッパー・ベース、モールス信号のような右の電子音、左右に広がるパーカッション(コラ)、ワンコードのリズム・ギター‥‥。間奏の調子っ外れなBrian Enoのヘタウマ・キーボードは指使いが辿れるほど鮮明だし、David Byrneの妖怪変化ヴォイスも際立つ。後奏では子ネコちゃんの甘え声みたいな音も左から聴こえる。

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ネット上のレヴューを読んでみると、Zinoに関しては毀誉褒貶の落差が甚だしい。頭の前方で聴こえる音像定位が心地良いという人や位相が変で気持ち悪くなったという人など、千差万別‥‥。オーディオ評論ほどリスナーの耳によって評価が左右されるジャンルはない。左右の視力が異なるように左右の聴力も同じではないし、外耳や内耳の形状も人それぞれで違う。S-Logicは外耳にリフレクションさせてから鼓膜へ伝える方式なので、人によって音の違いも大きいのだろうか。そもそもAとBの2人が見ている「赤色」を同じ色だと証明するのが難しいように、同じ音源でもリスナーによって意見が分かれる。数値やグラフで表示される以外の客観的な音というものは存在しないのかもしれない。レヴューの中で気になったオーディオ用語が1つあった。「エージング」(aging)‥‥奇妙なことに『HEADPHONE BOOK 2010』(音楽出版社 2010)には一言も触れられていないが、『新・萌えるヘッドホン読本』には次のように書かれている。

《ヘッドホンなど音響機器の中で駆動する箇所を持つものは、購入より1ヵ月くらいは本来の音ではなく、きつい音、硬い音がしてしまうものです。そのため、“ならし運転(=エージング)” 期間を作っておくことが重要です。装着せずに丸1日音楽を流しっぱなしにする、エージングソフトを利用するといった方法があります》(岩井喬)。たとえば新車をユーザに手渡す前にディーラーが「ならし運転」するように、ヘッドフォンにも試運転の時間が必要だということらしい。しかし、その一方でエージングは存在しないと言い切る人もいる。室内に設置したばかりの大画面TVが大きく感じられても、1週間くらい経つと逆に小さく見える‥‥これをエージングとは呼ばないだろう。ヘッドフォンの音が変化したのか、それともリスナーの耳がヘッドフォンに慣れただけなのか?‥‥その判断は難しい。エージングの期間は20〜200時間と人によって幅が広い。Zinoを20時間以上使用しているが、今のところ劇的な音の変化は感じられない(UF-30は約40時間後に最高の音になるという)。エージングで中音域も鳴るようになると良いのですが。

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『新・萌えるヘッドホン読本』(白夜書房 2008)はヘッドフォン・レヴューの本だが、見開き右頁に批評文、左頁にヘッドフォンを装着した美少女イラストという、製品写真を一切使わないコンセプトがユニークだった。「新」というのはオリジナル版『萌えるヘッドホン読本』(2007)が自費出版の同人誌として頒布された経緯による。37名のイラストレータが描いたヘッドフォン娘たちは、ロリ顔+巨乳という美少女アニメ風のキャラも少なくないのだが、メカニカルでマニアックなヘッドフォンを身に纏うことでリアル感が増す。彼女たちはサイバーちっくなイメージの照り返しもあって実に魅力的に映るのだ。試聴曲にはアニメ系の主題歌やサントラも多いけれど、ロックからはTotoやBon Jovi、XTCなども選曲されている。クラシック、ジャズ、ロック、ポップス、アニソンなど23曲を著者1人の耳で聴いてレヴューしているところも理に適っている。試聴ヘッドフォンはVictor、Sony、audio-technicaなどの国内メーカーから、Bose、AKG、Sennheiserなど海外ブランドまで21社41機種(+ヘッドフォンアンプ6機種)。もちろんUltrasoneも4機種紹介されています。

ULTRASONEの情報をネットで集めていて一番笑ったのは、某巨大掲示板のスレで「ゾネホン」(旧輸入代理店時代は「ウルトラゾーネ」という名称だったことに由来する)を「シャブホン」と呼んでいたこと。「ゾネホン」に1度ハマると中毒性が高くて止められないという隠語なのだが、覚醒剤所持で捕まった元アイドル歌手が、はっちゃけDJプレイで使用していたヘッドフォンが「ゾネホン」(DJ1 PRO)だったことを揶揄している。「ゾネホン」も変なところで有名になっちゃいましたね。ちなみにAKG Kシリーズのフラッグシップ・モデル「K701」(オープンエア型ヘッドフォン)は、TVアニメ『けいおん!』(TBS 2009)の主要キャラの1人、秋山澪ちゃんが使用していたことから「澪ホン」と呼ばれているらしい。女子高生の小遣いで簡単に買える値段ではないのですが、アニメおたくの男どもがオーディオ・ショップに殺到して、瞬く間に品切れ状態になったとか‥‥萌えよヘッドフォン!

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ULTRASONE Zino

ULTRASONE Zino

  • 型式:セミオープン型ダイナミックヘッドフォン
  • メーカー:ULTRASONE
  • 再生周波数帯域 : 25 ~ 25,000 Hz
  • ドライバー:40 mmゴールドプレイテッド
  • インピーダンス : 35 ohm
  • 重量:84 g(コード含まず)


新・萌えるヘッドホン読本

新・萌えるヘッドホン読本

  • 著者:岩井 喬
  • 出版社:白夜書房
  • 発売日:2008/06/25
  • メディア:単行本(ソフトカバー)
  • 紹介機種:Victor HP-RX500 / Panasonic RP-HTX7 / GRADO iGRADO / KENWOOD KH-C711 / KOSS PORTAPRO / SONY MDR-EX70SL / audio-tecnica ATH-EM700 / BOSE Bose in-ear headphone / Victor HP-M1000 / FOSTEX T50RP / ULTRASON...


HEADPHONE BOOK 2010

HEADPHONE BOOK 2010

  • 編集:CDジャーナルムック編集部
  • 出版社:音楽出版社
  • 発売日:2009/12/10
  • メディア:ムック
  • 目次:ヘッドフォン&イヤフォン 2009年モデル徹底ガイド111 / 人気モデルのライバル対決!19 / ドイツ3大ブランドのハイエンドモデル(ゼンハイザーHD800 / ウルトラゾーンedition8 / ベイヤーダイナミックT1)/ 名機の生まれる現場 / MY HEADPHONE LIFE /

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コメント 3

ツムジ

こんにちわ。

ぼくもゾネを使ってます。「ゾーン」が正しいのかな?
何年か前の高くてプラスチッキー、でかくて最高にかっこ悪いやつです。学研の「科学と学習」の付録についてきそうな安っぽいデザインで自分でも付けていてあきれます。
でかすぎて荷物に思う時はゼンハイザーにしたりしています。こっちも外見はプラスチック。知人が言うには、内部の「金属」が高いので、ヘッドフォンの音質は値段に比例する、というようなことを言っていました。

買う時にいろいろ比べてオープンエアの方が気持ちいいのはわかりましたが、ぼくは電車で使うので密閉型にしました。電車には時々しか乗りませんが、音の漏れのなさそうなイヤホン型の人たちの音漏れがひどいので耳をふさぐために使っています。次は音質よりもボーズのノイズを消すタイプにしようと思います。
by ツムジ (2010-10-21 13:07) 

sknys

ツムジさん、コメントありがとう。
ゾネホン・ユーザだったとは驚きです。
購入前にアドヴァイスしてもらえば良かった。
「ウルトラゾーン」よりも「ウルトラゾーネ」の方がカッコ良いですね。
ゾネ友の輪を広げよう^^;

前方定位の「S-Logic」だけでなく、
クリンゴン艦の遮蔽装置みたいな「ULE」が気に入りました。
Zinoのハウジングはアルミ製ですが、ヘッドバンドはプラスチックです。

某アップルストアのiPod touchに挿してあるヘッドフォンを装着すると、
一瞬にして周囲の雑音が消え、静寂に包まれた。
ボーズのノイズキャンセリング効果って、凄い!
これも軍事技術なのかしら?
私語が耳障りな場所とか、音楽を聴く以外にも活用出来そうです^^
by sknys (2010-10-21 22:21) 

ヘタリア 画像

もう見ました、面白いですね
by ヘタリア 画像 (2010-11-09 18:12) 

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