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ブルックリン最新出口 [m u s i c]



◎ Rhizomes(Sacred Bones 2010)Effi Briest
NYブルックリン出身の6人娘、Effi Briestのデビュー・アルバム。19世紀のドイツ人作家テオドール・フォンターネ(Theodor Fontane)の小説&ヒロイン名『エフィー・ブリースト』から採ったというバンド名や、ドゥルーズ&ガタリの提唱する哲学概念「リゾーム」というアルバム・タイトルが彼女たちの存在を際立たせる。いわゆるポスト・パンク系のサウンドで、The Slits、The Raincoats、Kleenex(LiLLiPUT)などの遺伝子も継承されている。緻密で繊細に構築されたサウンドがサイケデリックに捩れて行く展開はクールでカッコ良い。Kelsey BarrettのヴォイスはThe Sugarcubes時代のBjorkを彷佛させなくもない。〈Mirror Rim〉の歌詞は「Never odd or even / No it's opposition / Never even / Mirror Rim // Swap paws / Stack cats / Pull up if I pull up / Tie it // Noon / Laid on no dial // Mix a maxim / Mirror Rim ...」というように「回文」になっている。UK盤(Blast First (petite) )はジャケ違いです。

◎ TREATS(Mom+Pop 2010)Sleigh Bells
チアリーダー6人の顔をデジタル処理で匿名化したアルバム・カヴァが不気味なイメージを醸し出す。Derek MillerとAlexis Kraussの男女デュオ、Sleigh Bellsのデビュー・アルバムは爆音ブレイクビーツと可愛らしいヴォイスとのミスマッチな組み合わせが斬新で、チアリーディングが見た目のアクロバティックな流麗さに反し、ハードなパフォーマンスなのにも似て、激辛スウィーツのように激烈で凄まじい。M.I.A.のレーベル(N.E.E.T.)からのリリース、Derek E. Millerが最新3rdアルバム《MAYA》(XL 2010)の中で1曲共作しているなど、彼女との共通点も少なくない。破裂音をブレイクビーツとして使った〈Kids〉、Funkadelicの曲をサンプリングしているという〈Rill Rill〉、ハードコア・パンク〜ライオット・ガルーな〈Straight A's〉‥‥全11曲32分、NYブルックリンらしい刺戟的なサウンドが爆発している。

◎ FANG ISLAND(Sargent House 2010)Fang Island
先端に星型の付いた棒を左手に持った少女と尖塔の建つ城の張りぼてを被った謎の人物‥‥2人の間で花火状の光がスパークし、上部にはエクトプラズムみたいな白い雲が浮游している。城と姫をめぐるファンタジーを想わせるアルバム・カヴァから、NYブルックリン5人組Fang Islandの音楽をイメージ出来るリスナーは少ないかもしれない。ネオ・プログレ風のサウンドに祝祭的で高揚感溢れるコーラスが入って来るところはプログレ版アニコレを想わせなくもない。インディ・ロック=ノイジー‥‥という既成概念を打ち破る澄んだギターの音色、耐震柔構造のマス・ロックみたいな柔軟性もある。Pitchforkが「もし将来、アリーナ公演をするようになったら、招待状を送ってね」と評しているように、デビュー・アルバムからしてインディ・ロックの範疇から大きく逸脱している。2ndアルバムがメジャーからリリースされたとしても全然不思議じゃない。日本のプログレおたくはFang Islandを聴いたりするのかしら?

◎ ODD BLOOD(Secretly Canadian 2010)Yeasayer
赤いスカーフを巻いた女性のマグリット風コラージュ・カヴァのデビュー・アルバム《All Hour Cymbals》(We Are Free 2007)は焦点の定まらない摩訶不思議なアルバムだった。その反省からか、2ndアルバムはエレクトロよりにシフトすることで逆にバンドの個性が鮮明になった。エレクトロ・ポップな〈Madder Red〉、New Orderがソウルフルになったような〈O.N.E.〉‥‥。メンバーが1人抜けてトリオ編成になったことやレーベル移籍(Secretly Canadian / 4AD)したことも影響しているのだろうか。インディ・ロックというよりもダンス・ミュージックと呼んだ方が相応しいアルバムだが、サイケデリックな変則5拍子曲〈Strange Reunion〉などが紛れ込んでいるところにYeasayerの得体の知れない奥深さがある。2ndアルバムはシンセ・ポップに挑戦してましたということなのかもしれない。次回作ではコロッと別の音楽スタイルに変貌したりして‥‥。

◎ EVERYTHING GOES WRONG(In The Red 2009)Vivian Girls
Vivian GirlsはNYブルックリンのガールズ・バンド。2ndアルバムはCassie Ramone(ギター)、Ali Koehler(ドラムス)、Kickball Katy(ベース)のトリオ編成で録音されている。基本的にはローファイ〜パンクだが、ノイジー・ギターの豪雨の中から可憐な女性ヴォイスが聴こえて来るサウンドはパンクよりもシューゲイザーに近い。ハードな演奏に拮抗した絶叫ヴォイスではないところに彼女たちの魅力がある。ガールズ版Dinosaur Jr.みたいな〈Walking Alone At Night〉、Free Kittenにも相通じる〈You're My Guy〉など‥‥全13曲36分を全力疾走で駆け抜ける(CD盤面にネコちゃんの写真をプリントしているところも心憎い)。現在のVivian GirlsはLAの男女デュオ、Best Coastに移籍したAli Koehlerに代わって、Fiona Campbell(Coasting)が新加入している。

◎ MIRROREDEP C / B EP(Warp 2009)Battles
EP2枚(2006)とデビュー・アルバム(2007)がセットになったWarp Records20周年記念盤(お徳用廉価盤)。EP盤ではミニマル〜テクノ風の純度の高い硬質なロックを追求していたBattlesは《Mirrored》で一気に変貌を遂げる。2枚のEPとアルバムの一番大きな違いはTyondai Braxton(ギター、キーボード)のヴォーカルが入ったことだと思う。硬質でストイックなインストに祝祭的で狂躁的なヴォイス(音声加工)が加わることで、まるで女アンドロイド(鋼鉄の処女?)が突如として奇抜なファッションや奔放なセックスに目覚めたような「変態ロック」に変身しているのだ。奇天烈さだけではなく、ユーモアさえ感じられる。2010年8月、2ndアルバムの完成を前にして、BattlesからTyondai Braxtonが脱退した。Ian Williams(ギター、キーボード)、John Stanier(ドラムス)、Dave Konopka(ベース、ギター)のトリオ編成となったNYブルックリンのBattlesは一体どこへ向かうのだろうか?

◎ CENTRAL MARKET(Warp 2009)Tyondai Braxton
Joni MitchellからPeter Gabrielまで、自作やカヴァ曲をオーケストラをバックにして歌うアルバムがリリースされているけれど、その一方で近年ストリングスを導入したポスト・クラシカルと呼ばれる音楽も流行っている。シンフォニー・ロックといってもプログレのような大仰なものではなく、コンパクトなチェンバー・ロックを想わせるものである。エレクトロニカから自然発生したのだろうか。Nico MuhlyやOwen Pallettは管弦楽のアレンジャーとして数多くのアルバムに参加している。BattlesのメンバーだったTyondai Braxtonはソロ・アルバムでオーケストラとエレクトロニクスの融合を試みている。アルバム・カヴァとインナー・スリーヴで中央市場の花屋さんに扮したTyondai Braxtonは、今まで誰も見たことのないようなカラフルで馥郁たる「花束」を届ける。現代音楽の崇高さやディズニー・アニメ映画のサントラみたいな躍動感もある。ストラヴィンスキーやラヴェルからの影響も強いというけれど‥‥。

◎ BITTE ORCA(Domino 2009)Dirty Projectors
Dave Longstrethのソロ・プロジェクトから始まり、6人組となった男女混成バンドの5thアルバム。Dirty Projectorsの奇妙な音楽を文章で解説するのは難しい。不協和音が混じったような女声コーラスに魅惑される〈Cannibal Resource〉、アフロっぽいギターの音色とリズムの揺らぎに眩惑される〈Temecula Sunrise〉、Amber Coffmanのヴォイスに魅了される〈Stillness Is The Move〉、メロディやリズムの複雑な構成に翻弄される〈Useful Chamber〉‥‥。明るく澄んだギターの人懐っこい音色が架空のアフリカ音楽へ聴き手を誘う。インディ・ロックの骨組みとアヴァン・ポップの肉体にワールド・ミュージックの血液を注入したような、今まで誰も聴いたことがないハイブリッド音楽。もしStereolabがNYブルックリンで結成されていたら、こんな音楽を演っていたかもしれない。〈Stillness Is The Move〉のアカペラ・ヴァージョンやリミックスなど5曲入りのEPが付いた限定2CD。

◎ SET 'EM WILD, Set 'EM FREE(Dead Oceans 2009)Akron/Family
Young Godから離れ、メンバーの1人抜けてトリオ編成となったAkron/Familyの4thアルバム。レーベル移籍とメンバー脱退の間に何かの関連性があるのかどうかは良く分からない。彼らの音楽は多様多彩で美しく、雑多なミクスチャー・ロックと呼ぶのが躊躇われる。アフロ、ファンク、フォーク、カントリー、プログレ、ノイズ、ハード・ロック、ジャズなど‥‥様々な音楽スタイルが実験室の釜の中で攪乱される。アルバムの1曲目、ハチロクから8ビート・ロックへ移行し、再びハチロクに戻る〈Everyone Is Guilty〉を聴くだけで、彼らの音楽性に脱帽するだろう。高テンションな緊張感と70年代風ロックの緩さも異和感なく共存している。たとえば、Sufjan Stevensはアメリカの地層を重層的に探索して、新しい地図の上に古い地図を重ねるように「現実」を露わにするけれど、Akron/Familyは過去や現在や地理的な時空間が捩じれたまま共時的に呈示する。不純物は下に沈澱して、上に行くほど透明度が増す。Akron/Familyを聴いていると、「吸血鬼の週末」は上澄み液だけを掬い取っているような気さえして来る。

◎ MERRIWEATHER POST PAVILION(Domino 2009)Animal Collective
アニコレこと、Animal Collectiveの8thアルバム。「Merriweather Post Pavilion」は米メリーランド州コロンビアにある野外コンサート会場(音響効果に優れているという)の名称だが、そこでライヴ録音されたわけではない。サイケデリックな「ウォール・オヴ・サウンド」。多幸感溢れる祝祭的なコーラス&ハーモニーの奔流に包まれる。音楽で作られたファンタスティックな桃源郷。《Sung Tongs》(Fat Cat 2004)や《Feels》(2005)の中に潜んでいた日常空間に空いた暗黒の裂け目、夜店の暗闇や神社境内の森にある異世界への入口は、魔法で跡形もなく綺麗に修繕・封印されている。Panda Bearのソロ・アルバム《Person Pitch》(Paw Tracks 2007)との違いは、リズム面での実験だろうか。葉っぱのカヴァ・アートは知覚心理学者・北岡明佳の「錯視作品」に基づいているという。タイトルとアートで聴き手を欺く「錯視アルバム」。英米の各音楽メディアで年間ベスト・アルバム第1位に輝く、2009年を代表するアルバムである。

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MUSIC MAGAZINE 2010年 9月号

MUSIC MAGAZINE 2010年 9月号

  • 特集:盛り上がるブルックリン・シーン
  • 執筆者:今野 雄二 / 岡村 詩野 / 安藤 優 / 村尾 泰郎 / 小山 守 / 保科 好宏 / 安田 謙一 / 山口 智男 / 油納 将志 / 渡辺 亨 / 金子 厚武 / 長谷川 町蔵
  • 出版社:ミュージックマガジン
  • 発売日:2010/08/20
  • メディア:雑誌


Rhizomes

Rhizomes

  • Artist: Effi Briest
  • Label: Blast First (petite)
  • Date: 2010/05/24
  • Media: Audio CD
  • Songs: Rhizomes / Long Shadow / Cousins / New Quicksand / X / Mirror Rim / Nights / Wodwoman / Shards


Treats

Treats

  • Artist: Sleigh Bells
  • Label: Mom & Pop
  • Date: 2010/07/02
  • Media: Audio CD
  • Songs: Tell 'Em / Kids / Riot Rhythm / Infinity Guitars / Run the Heart / Rachel / Rill Rill / Crown On the Ground / Straight A's / A/B Machines / Treats


Fang Island

Fang Island

  • Artist: Fang Island
  • Label: Sargent House
  • Date: 2010/04/01
  • Media: Audio CD
  • Songs: Dreams of Dreams / Careful Crossers / Daisy / Life Coach / Sideswiper / The Illinois / Treeton / Davey Crockett / Welcome Wagon / Dorian


Everything Goes Wrong

Everything Goes Wrong

  • Artist: Vivian Girls
  • Label: In The Red
  • Date: 2009/09/08
  • Media: Audio CD
  • Songs: Walking Alone At Night / I Have No Fun / Can't Get Over You / The Desert / Tension / Survival / The End / When I'm Gone / Out For The Sun / I'm Not Asleep / Double Vision / You're My Guy / Before ...


Set 'Em Wild, Set 'Em Free

Set 'Em Wild, Set 'Em Free

  • Artist: Akron/Family
  • Label: Dead Oceans
  • Date: 2009/05/05
  • Media: Audio CD
  • Songs: Everyone is Guilty / River / Creatures / The Alps & Their Orange Evergreen / Set 'Em Free / Gravelly Mountains of the Moon / Many Ghosts / MBF / They Will Appear / Sun Will Shine / Last Year

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